高名の木登り・徒然草

高名の木登りといひしをのこ、人を掟てて、
木登りの名人といっていた男が、人を指図して、
・高名(こうみよう) … 名詞
・の … 格助詞
・木登り … 名詞
・と … 格助詞
・いひ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・をのこ … 名詞
・人 … 名詞
・を … 格助詞
・掟(おき)て … タ行下二段活用の動詞「掟つ」の連用形
掟つ … 指図する
・て … 接続助詞

高き木に登せて梢を切らせしに、
高い木に登らせて枝を切らせたときに、
・高き … ク活用の形容詞「高し」の連体形
・木 … 名詞
・に … 格助詞
・登せ … サ行下二段活用の動詞「登す」の連用形
・て … 接続助詞
・梢(こずえ) … 名詞
・を … 格助詞
・切ら … ラ行四段活用の動詞「切る」の未然形
・せ … 使役の助動詞「す」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・に … 格助詞

いと危ふく見えしほどは言ふこともなくて、
たいそう危険に感じられた間は何も言うことがなくて、
・いと … 副詞
・危ふく … ク活用の形容詞「危ふし」の連用形
・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・ほど … 名詞
・は … 係助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・こと … 名詞
・も … 係助詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・て … 接続助詞

降るるときに、軒たけばかりになりて、
降りる時に、家の軒の高さくらいになって、
・降るる … ラ行上二段活用の動詞「降る」の連体形
・とき … 名詞
・に … 格助詞
・軒(のき)たけ … 名詞
・ばかり … 副助詞
・に … 格助詞
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・て … 接続助詞

「過ちすな。心して降りよ。」と言葉をかけはべりしを、
「失敗するな。注意して降りろ。」と言葉をかけましたので、
・過(あやま)ち … 名詞
・す … サ行変格活用の動詞「す」の終止形
・な … 終助詞
・心し … サ行変格活用の動詞「心す」の連用形
○心す … 注意する
・て … 接続助詞
・降りよ … ラ行上二段活用の動詞「降る」の命令形
・と … 格助詞
・言葉 … 名詞
・を … 格助詞
・かけ … カ行下二段活用の動詞「かく」の連用形
・はべり … ラ行変格活用の動詞「はべり」の連用形
はべり … 丁寧の補助動詞 ⇒ 筆者から読者への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・を … 接続助詞

「かばかりになりては、飛び降るとも降りなん。
「これくらいになったら、飛び降りるとしても、きっと降りるだろう。
・か … 副詞
・ばかり … 副助詞
・に … 格助詞
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・て … 接続助詞
・は … 係助詞
・飛び降る … ラ行上二段活用の動詞「飛び降る」の連体形
・とも … 接続助詞
・降り … ラ行上二段活用の動詞「降る」の連用形
・な … 強意の助動詞「ぬ」の未然形
・ん … 推量の助動詞「ん」の終止形

いかにかく言ふぞ。」と申しはべりしかば、
どうしてこのように言うのか。」と申しましたところ、
・いかに … 副詞
いかに … どうして
・かく … 副詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・ぞ … 終助詞
・と … 格助詞
・申し … サ行四段活用の動詞「申す」の連用形
申す … 「言ふ」の丁寧語 ⇒ 筆者から読者への敬意
・はべり … ラ行変格活用の動詞「はべり」の連用形
はべり … 丁寧の補助動詞 ⇒ 筆者から読者への敬意
・しか … 過去の助動詞「き」の已然形
・ば … 接続助詞

「そのことに候ふ。目くるめき、枝危ふきほどは、
「そのことでございます。目がくるくる回り、枝があやうい間は、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・候(そうろ)ふ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の終止形
候ふ … 丁寧の補助動詞 ⇒ 高名の木登りから筆者への敬意
・目 … 名詞
・くるめき … カ行四段活用の動詞「くるめく」の連用形
○くるめく … くるくる回る
・枝 … 名詞
・危ふき … ク活用の形容詞「危ふし」の連体形
・ほど … 名詞
・は … 係助詞

己が恐れはべれば申さず。
本人が恐れておりますから何も申しません。
・己 … 代名詞
・が … 格助詞
・恐れ … ラ行下二段活用の動詞「恐る」の連用形
・はべれ … ラ行変格活用の動詞「はべり」の已然形
はべり … 丁寧の補助動詞 ⇒ 高名の木登りから筆者への敬意
・ば … 接続助詞
・申さ … サ行四段活用の動詞「申す」の未然形
申す … 「言ふ」の丁寧語 ⇒ 高名の木登りから筆者への敬意
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

過ちは、やすき所になりて、必ずつかまつることに候ふ。」と言ふ。
失敗は、安心な所になって、きっといたすものでございます。」と言う。
・過ち … 名詞
・は … 係助詞
・やすき … ク活用の形容詞「やすし」の連体形
○やすし … 容易である
・所 … 名詞
・に … 格助詞
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・て … 接続助詞
・必ず … 副詞
・つかまつる … ラ行四段活用の動詞「つかまつる」の連体形
つかまつる … 「す」の丁寧語 ⇒ 高名の木登りから筆者への敬意
・こと … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・候ふ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の終止形
候ふ … 丁寧の補助動詞 ⇒ 高名の木登りから筆者への敬意
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形

あやしき下臈なれども、聖人の戒めにかなへり。
卑しく身分の低い者ではあるけれども、聖人の教えに合致している。
・あやしき … シク活用の形容詞「あやし」の連体形
あやし … 身分が卑しい
・下臈(げろう) … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ども … 接続助詞
・聖人(せいじん) … 名詞
・の … 格助詞
・戒(いまし)め … 名詞
・に … 格助詞
・かなへ … ハ行四段活用の動詞「かなふ」の命令形
○かなふ … 適合する
・り … 存続の助動詞「り」の終止形

鞠も、難きところを蹴いだして後、
蹴鞠も、難しい所を蹴って抜け出した後、
・鞠(まり) … 名詞
・も … 係助詞
・難き … ク活用の形容詞「難し」の連体形
・ところ … 名詞
・を … 格助詞
・蹴(け)いだし … サ行四段活用の動詞「蹴いだす」の連用形
・て … 接続助詞
・後(のち) … 名詞

やすく思へば、必ず落つとはべるやらん。
もう安心だと思うと、必ず落ちるとかいうことです。
・やすく … ク活用の形容詞「やすし」の連用形
・思へ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の已然形
・ば … 接続助詞
・必ず … 副詞
・落つ … タ行上二段活用の動詞「落つ」の終止形
・と … 格助詞
・はべる … ラ行変格活用の動詞「はべり」の連体形
はべり … 「言ふ」の丁寧語 ⇒ 筆者から読者への敬意
・やらん ⇒ にやあらん
○に … 断定の助動詞「なり」の連用形
○や … 係助詞
○あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
○ん … 推量の助動詞「ん」の終止形

error: Content is protected !!