袴垂、保昌に合ふ事・宇治拾遺物語

昔、袴垂とて、いみじき盗人の大将軍ありけり。
昔、袴垂といって、並外れた盗賊の首領がいた。
・昔 … 名詞
・袴垂(はかまだれ) … 名詞
・とて … 格助詞
・いみじき … シク活用の形容詞「いみじ」の連体形
いみじ … 並みの程度ではない
・盗人 … 名詞
・の … 格助詞
・大将軍(たいしようぐん) … 名詞
○大将軍 … 首領
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

十月ばかりに衣の用なりければ、衣少しまうけんとて、
十月頃に、着物が入り用だったので着物を少し調達しようと思って、
・十月(かんなづき) … 名詞
・ばかり … 副助詞
・に … 格助詞
・衣(きぬ) … 名詞
○衣 … 着物
・の … 格助詞
・用 … 名詞
○用 … 必要
・なり … 断定の助動詞「なり」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
・衣 … 名詞
・少し … 副詞
・まうけ … カ行下二段活用の動詞「まうく」の未然形
まうく … 準備する
・ん … 意志の助動詞「ん」の終止形
・とて … 格助詞

さるべき所々うかがひ歩きけるに、夜中ばかりに、
適当な場所をあちこち様子をさぐり歩いていると、夜中くらいに、
・さるべき … 連体詞
さるべき … 適当な
・所々 … 名詞
・うかがひ歩き … カ行四段活用の動詞「うかがひ歩く」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・に … 接続助詞
・夜中 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・に … 格助詞

人みな静まり果ててのち、月の朧なるに、
人がみな寝静まってしまった後、月がぼんやりかすんでいる中を、
・人 … 名詞
・みな … 副詞
・静まり果て … タ行下二段活用の動詞「静まり果つ」の連用形
・て … 接続助詞
・のち … 名詞
・月 … 名詞
・の … 格助詞
・朧(おぼろ)なる … ナリ活用の形容動詞「朧なり」の連体形
○朧なり … ぼんやりとかすんでいる
・に … 接続助詞

衣あまた着たりける主の、指貫の稜挟みて、
着物をたくさん着ている人が、指貫の脇の開いたところを帯に挟んで、
・衣 … 名詞
・あまた … 副詞
○あまた … たくさん
・着 … カ行上一段活用の動詞「着る」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・主(ぬし) … 名詞
○主 … お人
・の … 格助詞
・指貫(さしぬき) … 名詞
○指貫 … 袴の一種
・の … 格助詞
・稜(そば) … 名詞
○稜 … 袴の脇の開いている部分
・挟み … マ行四段活用の動詞「挟む」の連用形
・て … 接続助詞

絹の狩衣めきたる着て、ただ一人、笛吹きて、
絹の狩衣のようなものを着て、ただ一人、笛を吹いて、
・絹 … 名詞
・の … 格助詞
・狩衣(かりぎぬ)めき … カ行四段活用の動詞「狩衣めく」の連用形
○~めく … ~のようである
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・着 … カ行上一段活用の動詞「着る」の連用形
・て … 接続助詞
・ただ … 副詞
・一人 … 名詞
・笛 … 名詞
・吹き … カ行四段活用の動詞「吹く」の連用形
・て … 接続助詞

行きもやらず練り行けば、「あはれ、これこそ、
進むともなくゆっくり歩いて行くので、「ああ、これこそ、
・行き … カ行四段活用の動詞「行く」の連用形
・も … 係助詞
・やら … ラ行四段活用の補助動詞「やる」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
○~やらず … 動作が進まない意を表す
・練り行け … カ行四段活用の動詞「練り行く」の已然形
○練る … ゆるやかに進む
・ば … 接続助詞
・あはれ … 感動詞
○あはれ … ああ(深く感動したときの声)
・これ … 代名詞
・こそ … 係助詞

我に衣得させんとて出でたる人なめり。」と思ひて、
自分に着物を与えようとして出てきた人だろう。」と思って、
・我 … 代名詞
・に … 格助詞
・衣 … 名詞
・得 … ア行下二段活用の動詞「得(う)」の未然形
・させ … 使役の助動詞「さす」の未然形
・ん … 意志の助動詞「ん」の終止形
・とて … 格助詞
・出で … ダ行下二段活用の動詞「出づ」の連用形
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・人 … 名詞
○なめり … なるめり ⇒ なんめり ⇒ なめり
・な … 断定の助動詞「なり」の連体形
・めり … 推定の助動詞「めり」の終止形
・と … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・て … 接続助詞

走りかかりて衣を剥がんと思ふに、
走って襲いかかって着物を剥ぎ取ろうと思ったが、
・走りかかり … ラ行四段活用の動詞「走りかかる」の連用形
・て … 接続助詞
・衣 … 名詞
・を … 格助詞
・剥(は)が … ガ行四段活用の動詞「剥ぐ」の未然形
○剥ぐ … 剥ぎ取る
・ん … 意志の助動詞「ん」の終止形
・と … 格助詞
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・に … 接続助詞

あやしくものの恐ろしくおぼえければ、
不思議なことに何となく恐ろしく思われたので、
・あやしく … シク活用の形容詞「あやし」の連用形
あやし … 不思議である
・もの … 名詞
もの … 何か
・の … 格助詞
・恐ろしく … シク活用の形容詞「恐ろし」の連用形
・おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連用形
おぼゆ … 思われる
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

添いて二、三町ばかり行けども、
ぴったり付いて二、三町ほど行ったが、
・添ひ … ハ行四段活用の動詞「添ふ」の連用形
添ふ … 付き添う
・て … 接続助詞
・二、三町 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・行け … カ行四段活用の動詞「行く」の已然形
・ども … 接続助詞

我に人こそつきたれと思ひたるけしきもなし。
自分を誰かがつけていると思っている様子さえもない。
・我 … 代名詞
・に … 格助詞
・人 … 名詞
・こそ … 係助詞・強調
・つき … カ行四段活用の動詞「つく」の連用形
・たれ … 存続の助動詞「たり」の已然形(結び)
・と … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・けしき … 名詞
けしき … 様子
・も … 係助詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形

いよいよ笛を吹きて行けば、試みんと思ひて、
ますます笛を吹いて行くので、ためしに襲ってみようと思って、
・いよいよ … 副詞
○いよいよ … ますます
・笛 … 名詞
・を … 格助詞
・吹き … カ行四段活用の動詞「吹く」の連用形
・て … 接続助詞
・行け … カ行四段活用の動詞「行く」の已然形
・ば … 接続助詞
・試み … マ行上一段活用の動詞「試みる」の未然形
・ん … 意志の助動詞「ん」の終止形
・と … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・て … 接続助詞

足を高くして走り寄りたるに、笛を吹きながら見返りたるけしき、
足音を高くして走り寄ったが、笛を吹きながら振り返った様子は、
・足 … 名詞
・を … 格助詞
・高く … ク活用の形容詞「高し」の連用形
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・走り寄り … ラ行四段活用の動詞「走り寄る」の連用形
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・に … 接続助詞
・笛 … 名詞
・を … 格助詞
・吹き … カ行四段活用の動詞「吹く」の連用形
・ながら … 接続助詞
・見返り … ラ行四段活用の動詞「見返る」の連用形
○見返る … 振り向いて見る
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・けしき … 名詞

取りかかるべくも覚えざりければ、走り退きぬ。
襲いかかれそうにも思われなかったので、走って逃げた。
・取りかかる … ラ行四段活用の動詞「取りかかる」の終止形
○取りかかる … 立ち向かってゆく
・べく … 可能の助動詞「べし」の連用形
・も … 係助詞
・おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の未然形
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
・走り退(の)き … カ行四段活用の動詞「走り退く」の連用形
○退く … 後方へさがる
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

かやうにあまたたび、とざまかうざまにするに、
このように何度も、あれやこれやとやってみるが、
・かやうに … ナリ活用の形容動詞「かやうなり」の連用形
・あまたたび … 副詞
○あまたたび … たびたび
・と … 副詞
・ざま … 名詞
・かう … 副詞
・ざま … 名詞
○とざまかうざま … ああしたりこうしたり
・に … 格助詞
・する … サ行変格活用の動詞「す」の連体形
・に … 接続助詞

つゆばかりも騒ぎたるけしきなし。
ほんの少しも動揺している気配がない。
・つゆ … 副詞
つゆ(~打消) … 少しも(~ない)
・ばかり … 副助詞
・も … 係助詞
・騒ぎ … ガ行四段活用の動詞「騒ぐ」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・けしき … 名詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形

希有の人かなと思ひて十余町ばかり具して行く。
珍しい人だなあと思って、十町余りほどぴったり付いて行く。
・希有(けう) … 名詞
希有 … めったにないこと
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・かな … 終助詞
・と … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・十余町(じゆうよちよう) … 名詞
・ばかり … 副助詞
・具(ぐ)し … サ行変格活用の動詞「具す」の連用形
具す … つき従う
・て … 接続助詞
・行く … カ行四段活用の動詞「行く」の終止形

さりとてあらんやはと思ひて、
そうかといってこのままでいられようか、いられないと思って、
・さりとて … 接続詞
○さりとて … そうかといって
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
あり … そのままの状態でいる
・ん … 意志の助動詞「ん」の終止形
・やは … 係助詞・反語
・と … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・て … 接続助詞

刀を抜きて走りかかりたるときに、
刀を抜いて走って襲いかかったときに、
・刀 … 名詞
・を … 格助詞
・抜き … カ行四段活用の動詞「抜く」の連用形
・て … 接続助詞
・走りかかり … ラ行四段活用の動詞「走りかかる」の連用形
○かかる … 襲いかかる
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・とき … 名詞
・に … 格助詞

そのたび、笛を吹きやみて、たち返りて、
そのとき、笛を吹くのをやめて、振り返って、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・たび … 名詞
・笛 … 名詞
・を … 格助詞
・吹きやみ … マ行四段活用の動詞「吹きやむ」の連用形
・て … 接続助詞
・たち返り … ラ行四段活用の動詞「たち返る」の連用形
○たち … 接頭語・強意
○返る … 振り返る
・て … 接続助詞

「こは何者ぞ。」と問ふに、心も失せて、
「お前は何者だ。」と尋ねると、平常心がなくなり、
・こ … 代名詞
○こ … 近くにいる人物を指す
・は … 係助詞
・何者 … 名詞
・ぞ … 終助詞
・と … 格助詞
・問ふ … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の連体形
・に … 接続助詞
・心 … 名詞
 … 平常心
・も … 係助詞
・失(う)せ … サ行下二段活用の動詞「失す」の連用形
○失す … 消える
・て … 接続助詞

我にもあらで、ついゐられぬ。
我を忘れた状態になって、思わず膝をつき座ってしまった。
・我 … 代名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・も … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・で … 接続助詞
○我にもあらで … 我を忘れた状態になって
・ついゐ … ワ行上一段活用の動詞「ついゐる」の未然形
○ついゐる … 膝をついて座る
・られ … 自発の助動詞「らる」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

また「いかなる者ぞ。」と問へば、
また「どういう者だ。」と尋ねるので、
・また … 副詞
・いかなる … ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連体形
・者 … 名詞
・ぞ … 終助詞
・と … 格助詞
・問へ … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の已然形
・ば … 接続助詞

今は逃ぐともよも逃がさじとおぼえければ、
今となっては逃げても決して逃がさないだろうと思われたので、
・今 … 名詞
・は … 係助詞
○今は … 今となっては
・逃ぐ … ガ行下二段活用の動詞「逃ぐ」の終止形
・とも … 接続助詞
・よも … 副詞
○よも~じ … 決して~ないだろう
・逃がさ … サ行四段活用の動詞「逃がす」の未然形
・じ … 打消推量の助動詞「じ」の終止形
・と … 格助詞
・おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

「引剥ぎに候ふ。」と言へば、
「追い剥ぎでございます。」と言うと、
・引剥(ひは)ぎ … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・候(さぶら)ふ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の終止形
候ふ … 丁寧の補助動詞 ⇒ 袴垂から保昌への敬意
・と … 格助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・ば … 接続助詞

「何者ぞ。」と問へば、
「何という者だ。」と尋ねるので、
・何者 … 名詞
・ぞ … 終助詞
・と … 格助詞
・問へ … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の已然形
・ば … 接続助詞

「字、袴垂となん、いはれ候ふ。」と答ふれば、
「呼び名は、袴垂と、言われております。」と答えると、
・字(あざな) … 名詞
・袴垂 … 名詞
・と … 格助詞
・なん … 係助詞・強調
・いは … ハ行四段活用の動詞「いふ」の未然形
・れ … 受身の助動詞「る」の連用形
・候ふ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の連体形(結び)
候ふ … 丁寧の補助動詞 ⇒ 袴垂から保昌への敬意
・と … 格助詞
・答ふれ … ハ行下二段活用の動詞「答ふ」の已然形
・ば … 接続助詞

「さいふ者ありと聞くぞ。
「そういう者がいると聞くぞ。
・さ … 副詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・者 … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形
・と … 格助詞
・聞く … カ行四段活用の動詞「聞く」の連体形
・ぞ … 終助詞

危ふげに希有のやつかな。」と言ひて、
物騒で、とんでもないやつだなあ。」と言って、
・危ふげに … ナリ活用の形容動詞「危ふげなり」の連用形
・希有 … 名詞
・の … 格助詞
・やつ … 名詞
・かな … 終助詞
・と … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・て … 接続助詞

「ともにまうで来。」とばかり言ひかけて、
「一緒について参れ。」とだけ言葉をかけて、
・とも … 名詞
・に … 格助詞
・まうで来(こ) … カ行変格活用の動詞「まうで来(く)」の命令形
まうで来 … 「来」の謙譲語 ⇒ 保昌から保昌への敬意
・と … 格助詞
・ばかり … 副助詞
・言ひかけ … カ行下二段活用の動詞「言ひかく」の連用形
・て … 接続助詞

また同じやうに笛吹きて行く。この人のけしき、
また同じように笛を吹いて行く。この人の様子では、
・また … 副詞
・同じ … 活用の形容詞「同じ」の連体形
・やうに … 比況の助動詞「やうなり」の連用形
・笛 … 名詞
・吹き … カ行四段活用の動詞「吹く」の連用形
・て … 接続助詞
・行く … カ行四段活用の動詞「行く」の終止形
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・けしき … 名詞

今は逃ぐともよも逃がさじとおぼえければ、
今となっては逃げても決して逃がさないだろうと思われたので、
・今 … 名詞
・は … 係助詞
・逃ぐ … ガ行下二段活用の動詞「逃ぐ」の終止形
・とも … 接続助詞
・よも … 副詞
・逃がさ … サ行四段活用の動詞「逃がす」の未然形
・じ … 打消推量の助動詞「じ」の終止形
・と … 格助詞
・おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

鬼に神取られたるやうにて、
鬼に魂を取られたかのようになって、
・鬼 … 名詞
・に … 格助詞
・神(しん) … 名詞
○神 … 精神
・取ら … ラ行四段活用の動詞「取る」の未然形
・れ … 受身の助動詞「る」の連用形
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・やうに … 比況の助動詞「やうなり」の連用形
・て … 接続助詞

ともに行くほどに、家に行き着きぬ。
いっしょに行くうちに、家に到着した。
・とも … 名詞
・に … 格助詞
・行く … カ行四段活用の動詞「行く」の連体形
・ほど … 名詞
・に … 格助詞
・家 … 名詞
・に … 格助詞
・行き着き … カ行四段活用の動詞「行き着く」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

いづこぞと思へば、摂津前司保昌といふ人なりけり。
どこだろうかと思うと、摂津の前司保昌という人だった。
・いづこ … 代名詞
・ぞ … 終助詞
・と … 格助詞
・思へ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の已然形
・ば … 接続助詞
・摂津前司保昌(せつつのぜんじやすまさ) … 名詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・人 … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

「家の内に呼び入れて、綿厚き衣一つを給はりて、
「家の中に呼び入れて、綿の厚い着物を一枚お与えになって、
・家 … 名詞
・の … 格助詞
・うち … 名詞
・に … 格助詞
・呼び入れ … ラ行下二段活用の動詞「呼び入る」の連用形
・て … 接続助詞
・綿 … 名詞
・厚き … ク活用の形容詞「厚し」の連体形
・衣 … 名詞
・一つ … 名詞
・を … 格助詞
・給(たま)はり … ラ行四段活用の動詞「給はる」の連用形
給はる … 「与ふ」の尊敬語 ⇒ 袴垂から保昌への敬意
・て … 接続助詞

『衣の用あらんときは参りて申せ。心も知らざらん人に
『着物が必要なときは参って申し上げろ。心もわからないような人に
・衣 … 名詞
・の … 格助詞
・用 … 名詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・とき … 名詞
・は … 係助詞
・参り … ラ行四段活用の動詞「参る」の連用形
参る … 「来」の謙譲語 ⇒ 保昌から保昌への敬意
・て … 接続助詞
・申せ … サ行四段活用の動詞「申す」の命令形
申す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 保昌から保昌への敬意
・心 … 名詞
・も … 係助詞
・知ら … ラ行四段活用の動詞「知る」の未然形
・ざら … 打消の助動詞「ず」の未然形
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・人 … 名詞
・に … 格助詞

取りかかりて、汝あやまちすな。』とありしこそ、
襲いかかって、おまえ失敗するな。』とおっしゃったのが、
・取りかかり … ラ行四段活用の動詞「取りかかる」の連用形
・て … 接続助詞
・汝(なんじ) … 代名詞
・あやまち … 名詞
・す … サ行変格活用の動詞「す」の終止形
・な … 終助詞・禁止
・と … 格助詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・こそ … 係助詞・強調

あさましく、むくつけく、恐ろしかりしか。
思いがけず、不気味で、恐ろしかった。
・あさましく … シク活用の形容詞「あさまし」の連用形
あさまし … 意外である
・むくつけく … ク活用の形容詞「むくつけし」の連用形
○むくつけし … 気味が悪い
・恐ろしかり … シク活用の形容詞「恐ろし」の連用形
・しか … 過去の助動詞「き」の已然形(結び)

いみじかりし人のありさまなり。」と、
すばらしい人の御様子であった。」と、
・いみじかり … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・ありさま … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
・と … 格助詞

捕らへられてのち、語りける。
捕らえられたのちに、語ったということだ。
・捕らへ … ハ行下二段活用の動詞「捕らふ」の未然形
・られ … 受身の助動詞「らる」の連用形
・て … 接続助詞
・のち … 名詞
・語り … ラ行四段活用の動詞「語る」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

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