祇園精舎・平家物語

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
祗園精舎の鐘の音には、諸行無常の響きがある。
・祇園精舎(ぎおんしょうじゃ) … 名詞
祇園精舎 … インドにあった寺院で釈迦が説法を行った場所
・の … 格助詞
・鐘 … 名詞
・の … 格助詞
・声 … 名詞
・諸行無常(しょぎょうむじょう) … 名詞
諸行無常 … 世の中のあらゆる事物が絶えず変化し続けること
・の … 格助詞
・響き … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形

沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
娑羅双樹の花の色は、盛者必衰の道理を表している。
・沙羅双樹(さらそうじゅ) … 名詞
・の … 格助詞
・花 … 名詞
・の … 格助詞
・色 … 名詞
沙羅双樹の花の色 … 釈迦入滅の時、黄色から白に変わったといわれる
・盛者必衰(じょうしゃひっすい) … 名詞
・の … 格助詞
・理(ことわり) … 名詞
盛者必衰の理 … 勢いの盛んな者も必ず衰える時があるという道理
・を … 格助詞
・あらはす … サ行四段活用の動詞「あらはす」の終止形

おごれる人も久しからず。
権勢を誇っている人も長くは続かない。
・おごれ … ラ行四段活用の動詞「おごる」の命令形
○おごる … 権勢を誇って勝手な振る舞いをする
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・人 … 名詞
・も … 係助詞
・久しから … シク活用の形容詞「久し」の未然形
○久し … 長い時間がたつ
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

ただ春の夜の夢のごとし。
まるで春の夜の夢のようである。
・ただ … 副詞
ただ … もっぱら
・春 … 名詞
・の … 格助詞
・夜(よ) … 名詞
・の … 格助詞
・夢 … 名詞
・の … 格助詞
・ごとし … 比況の助動詞「ごとし」の終止形

猛き者もつひには滅びぬ。
勇猛な者も最後には滅びてしまう。
・猛(たけ)き … ク活用の形容詞「猛し」の連体形
・者 … 名詞
・も … 係助詞
・つひに … 副詞
・は … 係助詞
・滅び … バ行上二段活用の動詞「滅ぶ」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

ひとへに風の前の塵に同じ。
まったく風の前の塵と同じである。
・ひとへに … 副詞
○ひとへに … まったく
・風 … 名詞
・の … 格助詞
・前 … 名詞
・の … 格助詞
・塵(ちり) … 名詞
・に … 格助詞
・同じ … シク活用の形容詞「同じ」の終止形

遠く異朝をとぶらへば、
遠く外国に探し求めてみると、
・遠く … ク活用の形容詞「遠し」の連用形
・異朝 … 名詞
○異朝 … 外国の王朝
・を … 格助詞
・とぶらへ … ハ行四段活用の動詞「とぶらふ」の已然形
とぶらふ … 探し求める
・ば … 接続助詞

秦の趙高、漢の王莽、梁の朱异、唐の禄山、
秦の趙高、漢の王莽、梁の朱异、唐の禄山、
・秦(しん) … 名詞
・の … 格助詞
・趙高(ちょうこう) … 名詞
・漢 … 名詞
・の … 格助詞
・王莽(おうもう) … 名詞
・梁(りょう) … 名詞
・の … 格助詞
・朱异(しゅい) … 名詞
・唐 … 名詞
・の … 格助詞
・禄山(ろくさん) … 名詞

これらはみな、旧主先皇の政にも従はず、
これらの人々は皆、もとの主君や先代の皇帝の政治にも従わず、
・これら … 代名詞
・は … 係助詞
・みな … 副詞
・旧主 … 名詞
・先皇(せんこう) … 名詞
・の … 格助詞
・政(まつりごと) … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・従は … ハ行四段活用の動詞「従ふ」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形

楽しみをきはめ、諌めをも思ひ入れず、
楽しみの限りを尽くし、人の忠告も深く心にとどめず、
・楽しみ … 名詞
・を … 格助詞
・きはめ … マ行下二段活用の動詞「きはむ」の連用形
・諌(いさ)め … 名詞
・を … 格助詞
・も … 係助詞
・思ひ入れ … ラ行下二段活用の動詞「思ひ入る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形

天下の乱れんことを悟らずして、
天下が乱れるであろうことも真に理解しないで、
・天下 … 名詞
・の … 格助詞
・乱れ … ラ行下二段活用の動詞「乱る」の未然形
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・悟ら … ラ行四段活用の動詞「悟る」の未然形
○悟ら … 物事を真に理解する
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・して … 接続助詞

民間の愁ふるところを知らざつしかば、
世間の人々が嘆き悲しんでいることを知らなかったので、
・民間 … 名詞
○民間 … 世間の人々
・の … 格助詞
・愁(うれ)ふる … ハ行下二段活用の動詞「愁ふ」の連体形
愁ふ … 嘆き悲しむ
・ところ … 名詞
・を … 格助詞
・知ら … ラ行四段活用の動詞「知る」の未然形
・ざつ … 打消の助動詞「ず」の連用形(音便)
・しか … 過去の助動詞「き」の已然形
・ば … 接続助詞

久しからずして、亡じにし者どもなり。
長く続かないで、滅亡してしまった者たちである。
・久しから … シク活用の形容詞「久し」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・して … 接続助詞
・亡(ぼう)じ … サ行変格活用の動詞「亡ず」の連用形
○亡ず … ほろびる
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・者ども … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

近く本朝をうかがふに、
近く我が国を調べると、
・近く … ク活用の形容詞「近し」の連用形
・本朝 … 名詞
・を … 格助詞
・うかがふ … ハ行四段活用の動詞「うかがふ」の連体形
・に … 接続助詞

承平の将門、天慶の純友、康和の義親、平治の信頼、
承平の将門、天慶の純友、康和の義親、平治の信頼、
・承平(しょうへい) … 名詞
・の … 格助詞
・将門(まさかど) … 名詞
・天慶(てんぎょう) … 名詞
・の … 格助詞
・純友(すみとも) … 名詞
・康和(こうわ) … 名詞
・の … 格助詞
・義親(ぎしん) … 名詞
・平治(へいじ) … 名詞
・の … 格助詞
・信頼(しんらい) … 名詞

おごれる心も猛きことも、みなとりどりにこそありしかども、
思い上がった心も勇猛なことも、皆それぞれ異なっていたが、
・おごれ … ラ行四段活用の動詞「おごる」の命令形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・心 … 名詞
・も … 係助詞
・猛き … ク活用の形容詞「猛し」の連体形
・こと … 名詞
・も … 係助詞
・みな … 副詞
・とりどりに … ナリ活用の形容動詞「とりどりなり」の連用形
○とりどりなり … それぞれに異なっているさま
・こそ … 係助詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・しか … 過去の助動詞「き」の已然形
・ども … 接続助詞

ま近くは、六波羅の入道前太政大臣平朝臣清盛公と申しし人のありさま、
最近では、六波羅の入道で前の太政大臣平朝臣清盛公と申し上げた人の様子は、
・ま近く … 名詞
・は … 係助詞
・六波羅(ろくはら) … 名詞
・の … 格助詞
・入道(にゅうどう) … 名詞
○入道 … 仏道に入った位階三位以上の者
・前太政大臣(さきのだいじょうだいじん) … 名詞
・平朝臣清盛公(たいらのあっそんきよもりこう) … 名詞
・と … 格助詞
・申し … サ行四段活用の動詞「申す」の連用形
申す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から清盛への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・ありさま … 名詞

伝へ承るこそ、心もことばも及ばれね。
伝え聞き申し上げるにつけても、想像することも表現することもできない。
・伝へ承る … ラ行四段活用の動詞「伝へ承る」の連体形
伝へ承る … 「伝へ聞く」の謙譲語 ⇒ 筆者から清盛への敬意
・こそ … 係助詞
・心 … 名詞
・も … 係助詞
・ことば … 名詞
・も … 係助詞
・及ば … バ行四段活用の動詞「及ぶ」の未然形
・れ … 可能の助動詞「る」の未然形
・ね … 打消の助動詞「ず」の已然形

その先祖を尋ぬれば、
その先祖を調べてみると、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・先祖 … 名詞
・を … 格助詞
・尋ぬれ … ナ行下二段活用の動詞「尋ぬ」の已然形
・ば … 接続助詞

桓武天皇第五の皇子、一品式部卿葛原親王、
桓武天皇の第五の皇子、一品式部卿葛原親王、
・桓武(かんむ)天皇 … 名詞
・第五 … 名詞
・の … 格助詞
・皇子 … 名詞
・一品式部卿葛原親王(いっぽんしきぶきょうかずらはらのしんのう) … 名詞
○一品 … 親王の位階の最高位

九代の後胤、讃岐守正盛が孫、刑部卿忠盛朝臣の嫡男なり。
その九代目の子孫、讃岐守正盛の孫、刑部卿忠盛朝臣の長男である。
・九代 … 名詞
・の … 格助詞
・後胤(こういん) … 名詞
○後胤 … 子孫
・讃岐守正盛(さぬきのかみまさもり) … 名詞
・が … 格助詞
・孫(そん) … 名詞
・刑部卿忠盛朝臣(ぎょうぶきょうただもりのあっそん) … 名詞
・の … 格助詞
・嫡男 … 名詞
○嫡男 … 家を継ぐ男子
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

かの親王の御子、高視の王、無官無位にして失せたまひぬ。
その親王の御子、高視王は、官職も位階もなく、お亡くなりになられた。
・か … 代名詞
・の … 格助詞
・親王 … 名詞
・の … 格助詞
・御子(みこ) … 名詞
・高視(たかみ)の王 … 名詞
・無官 … 名詞
○無官 … 官職がないこと
・無位 … 名詞
○無位 … 官職の位階がないこと
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・して … 接続助詞
・失せ … サ行下二段活用の動詞「失す」の連用形
・たまひ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の連用形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から高視の王への敬意
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

その御子、高望の王の時、初めて平の姓を賜つて、
その御子、高望王の時、初めて平の姓をいただいて、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・御子(おんこ) … 名詞
・高望(たかもち)の王 … 名詞
・の … 格助詞
・時 … 名詞
・初めて … 副詞
・平 … 名詞
・の … 格助詞
・姓(しょう) … 名詞
・を … 格助詞
・賜(たまわ)つ … ラ行四段活用の動詞「賜る」の連用形(音便)
賜る … 「もらふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から帝への敬意
・て … 接続助詞

上総介になりたまひしより、たちまちに王氏を出でて人臣に連なる。
上総国の次官におなりになって、すぐに皇族の籍を離れて臣下の列に加わる。
・上総介(かずさのすけ) … 名詞
○上総介 … 上総国の国司の次官
・に … 格助詞
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・たまひ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の連用形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から高望の王への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・より … 格助詞
・たちまちに … 副詞
○たちまちに … すぐに
・王氏 … 名詞
○王氏 … 皇族
・を … 格助詞
・出で … ダ行下二段活用の動詞「出づ」の連用形
・て … 接続助詞
・人臣 … 名詞
○人臣 … 臣下
・に … 格助詞
・連なる … ラ行四段活用の動詞「連なる」の終止形

その子鎮守府の将軍義茂、のちには国香と改む。
その子、鎮守府の将軍義茂は、のちには国香と名を改める。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・子 … 名詞
・鎮守府(ちんじゅふ) … 名詞
・の … 格助詞
・将軍 … 名詞
・義茂(よしもち) … 名詞
・のち … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・国香(くにか) … 名詞
・と … 格助詞
・改む … マ行下二段活用の動詞「改む」の終止形

国香より正盛に至るまで六代は、諸国の受領たりしかども、
国香より正盛に至るまでの六代は、諸国の国守であったが、
・国香 … 名詞
・より … 格助詞
・正盛 … 名詞
・に … 格助詞
・至る … ラ行四段活用の動詞「至る」の連体形
・まで … 副助詞
・六代 … 名詞
・は … 係助詞
・諸国 … 名詞
・の … 格助詞
・受領(ずりょう) … 名詞
○受領 … 国司の長官
・たり … 断定の助動詞「たり」の連用形
・しか … 過去の助動詞「き」の已然形
・ども … 接続助詞

殿上の仙籍をばいまだ許されず。
殿上の間に出仕することをまだ許されなかった。
・殿上(てんじょう) … 名詞
・の … 格助詞
・仙籍(せんせき) … 名詞
○仙籍 … 殿上人の資格
・を … 格助詞
・ば … 係助詞
・いまだ … 副詞
・許さ … サ行四段活用の動詞「許す」の未然形
・れ … 受身の助動詞「る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

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