昔、惟喬親王と申す親王おはしましけり。
昔、惟喬親王と申し上げる親王がいらっしゃいました。
・昔 … 名詞
・惟喬親王(これたかのみこ) … 名詞
・と … 格助詞
・申す … サ行四段活用の動詞「申す」の連体形
○申す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から惟喬親王への敬意
・親王 … 名詞
・おはしまし … サ行四段活用の動詞「おはします」の連用形
○おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から惟喬親王への敬意
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
山崎のあなたに、水無瀬といふ所に宮ありけり。
山崎の向こうの方に、水無瀬という所に離宮があった。
・山崎(やまざき) … 名詞
・の … 格助詞
・あなた … 名詞
○あなた … 向こうの方
・に … 格助詞
・水無瀬(みなせ) … 名詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・所 … 名詞
・に … 格助詞
・宮 … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
年ごとの桜の花盛りには、その宮へなむおはしましける。
毎年の桜の花盛りには、その離宮においでになりました。
・年ごと … 名詞
・の … 格助詞
・桜 … 名詞
・の … 格助詞
・花盛り … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・宮 … 名詞
・へ … 格助詞
・なむ … 係助詞・強調
・おはしまし … サ行四段活用の動詞「おはします」の連用形
○おはします … 「行く」の尊敬語 ⇒ 筆者から惟喬親王への敬意
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)
その時、右馬頭なりける人を、常に率ておはしましけり。
そのときには、右の馬頭であった人を、いつも連れておいでになりました。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・時 … 名詞
・右馬頭(みぎのうまのかみ) … 名詞
○右馬頭 … 右馬寮の長官
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・人 … 名詞
・を … 格助詞
・常に … 副詞
・率(い) … ワ行上一段活用の動詞「率る」の連用形
○率る … 引き連れる
・て … 接続助詞
・おはしまし … サ行四段活用の動詞「おはします」の連用形
○おはします … 「行く」の尊敬語 ⇒ 筆者から惟喬親王への敬意
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
時世経て久しくなりにければ、その人の名忘れにけり。
時代が経過して長くたってしまったので、その人の名前を忘れてしまった。
・時世(ときよ) … 名詞
○時世 … 時代
・経 … ハ行下二段活用の動詞「経」の連用形
・て … 接続助詞
・久しく … シク活用の形容詞「久し」の連用形
○久し … (時間が)長い
・なり … ラ行四段活用の動詞「なり」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・名 … 名詞
・忘れ … ラ行下二段活用の動詞「忘る」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
狩りはねむごろにもせで、
鷹狩りは熱心にもしないで、
・狩り … 名詞
・は … 係助詞
・ねむごろに … ナリ活用の形容動詞「ねむごろなり」の連用形
○ねむごろなり … 熱心である
・も … 係助詞
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・で … 接続助詞
酒をのみ飲みつつ、やまと歌にかかれりけり。
酒ばかりを飲みながら、和歌に熱中していた。
・酒 … 名詞
・を … 格助詞
・のみ … 副助詞
・飲み … マ行四段活用の動詞「飲む」の連用形
・つつ … 接続助詞
・やまと歌 … 名詞
○やまと歌 … 和歌
・に … 格助詞
・かかれ … ラ行四段活用の動詞「かかる」の命令形
○かかる … 熱中する
・り … 存続の助動詞「り」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
今狩りする交野の渚の家、その院の桜、ことにおもしろし。
今狩りをしている交野の渚の家、その院の桜が、格別に美しい。
・今 … 名詞
・狩り … 名詞
・する … サ行変格活用の動詞「す」の連体形
・交野(かたの) … 名詞
・の … 格助詞
・渚 … 名詞
・の … 格助詞
・家 … 名詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・院 … 名詞
・の … 格助詞
・桜 … 名詞
・ことに … 副詞
○ことに … 格別に
・おもしろし … ク活用の形容詞「おもしろし」の終止形
○おもしろし … すばらしい
その木のもとに下りゐて、枝を折りてかざしに挿して、
その木の下に下りて腰をおろして、枝を折って髪飾りに挿して、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・木 … 名詞
・の … 格助詞
・もと … 名詞
・に … 格助詞
・下りゐ … ワ行上一段活用の動詞「下りゐる」の連用形
○ゐる … 座る
・て … 接続助詞
・枝 … 名詞
・を … 格助詞
・折り … ラ行四段活用の動詞「折る」の連用形
・て … 接続助詞
・かざし … 名詞
○かざし … 髪飾り
・に … 格助詞
・挿し … サ行四段活用の動詞「挿す」の連用形
・て … 接続助詞
上中下、みな歌詠みけり。
身分の高位、中位、低位の者、みなが歌を詠んだ。
・上 … 名詞
・中 … 名詞
・下 … 名詞
○上中下(かみなかしも) … 身分の高位、中位、低位の者
・みな … 名詞
・歌 … 名詞
・詠み … マ行四段活用の動詞「詠む」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
馬頭なりける人の詠める、
馬頭であった人が詠んだ、
・馬頭 … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・詠め … マ行四段活用の動詞「詠む」の命令形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
世の中にたえて桜のなかりせば
この世の中にまったく桜がなかったならば、
・世の中 … 名詞
・に … 格助詞
・たえて …
○たえて(~打消) … まったく(~ない)
・桜 … 名詞
・の … 格助詞
・なかり … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・せ … 過去の助動詞「き」の未然形
・ば … 接続助詞
○せば~まし … 現実と反対の事の仮想
春の心はのどけからまし
春の人の心はのどかだっただろうに。
・春 … 名詞
・の … 格助詞
・心 … 名詞
・は … 係助詞
・のどけから … ク活用の形容詞「のどけし」の未然形
○のどけし … おだやかである
・まし … 反実仮想の助動詞「まし」の終止形
となむ詠みたりける。また人の歌、
と詠んだのだった。もう一人の人の歌、
・と … 格助詞
・なむ … 係助詞・強調
・詠み … マ行四段活用の動詞「詠む」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)
・また人 … 名詞
○また人 … もう一人の人
・の … 格助詞
・歌 … 名詞
散ればこそいとど桜はめでたけれ
散るからこそますます桜はすばらしいのだ。
・散れ … ラ行四段活用の動詞「散る」の已然形
・ば … 接続助詞
・こそ … 係助詞・強調
・いとど … 副詞
○いとど … ますます
・桜 … 名詞
・は … 係助詞
・めでたけれ … ク活用の形容詞「めでたし」の已然形(結び)
○めでたし … すばらしい
憂き世に何か久しかるべき
この無常の世に何が長くとどまっているだろうか。
・憂き世 … 名詞
○憂き世 … 無常の現世
・に … 格助詞
・何 … 代名詞
・か … 係助詞・反語
・久しかる … ク活用の形容詞「久し」の連体形
・べき … 推量の助動詞「べし」の連体形(結び)
とて、その木のもとは立ちて帰るに、日暮れになりぬ。
と詠んで、その木の下から立ち上がって帰るうちに、日暮れになった。
・とて … 格助詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・木 … 名詞
・の … 格助詞
・もと … 名詞
・は … 副詞
・立ち … タ行四段活用の動詞「立つ」の連用形
・て … 接続助詞
・帰る … ラ行四段活用の動詞「帰る」の連体形
・に … 格助詞
・日暮れ …
・に …
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
御供なる人、酒を持たせて野より出で来たり。
お供の人が、酒を持たせて野の方から現れた。
・御供(おおんとも) … 名詞
・なる … 断定の助動詞「なり」の連体形
・人 … 名詞
・酒 … 名詞
・を … 格助詞
・持た … タ行四段活用の動詞「持つ」の未然形
・せ … 使役の助動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・野 … 名詞
・より … 格助詞
・出(い)で来 … カ行変格活用の動詞「出で来」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の終止形
この酒を飲みてむとて、よき所を求め行くに、
この酒を飲んでしまおうと言って、適当な場所を探して行くと、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・酒 … 名詞
・を … 格助詞
・飲み … マ行四段活用の動詞「飲む」の連用形
・て … 強意の助動詞「つ」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・とて … 格助詞
・よき … ク活用の形容詞「よし」の連体形
○よし … 適当である
・所 … 名詞
・を … 格助詞
・求め行く … カ行四段活用の動詞「求め行く」の連体形
・に … 接続助詞
天の川といふ所に至りぬ。
天の川という所に行き着いた。
・天(あま)の川(がわ) … 名詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・所 … 名詞
・に … 格助詞
・至り … ラ行四段活用の動詞「至る」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
親王に馬頭、大御酒参る。
親王に馬頭が、お酒を差し上げる。
・親王 … 名詞
・に … 格助詞
・馬頭 … 名詞
・大御酒(おおみき) … 名詞
○大御酒 … 神や天皇等に献上する酒
・参る … ラ行四段活用の動詞「参る」の終止形
○参る … 「与ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から惟喬親王への敬意
親王ののたまひける、
親王がおっしゃった、
・親王 … 名詞
・の … 格助詞
・のたまひ … ハ行四段活用の動詞「のたまふ」の連用形
○のたまふ … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から惟喬親王への敬意
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
「交野を狩りて天の川のほとりに至るを題にて、
「交野を狩りして天の川の近くに行き着くということを題にして、
・交野 … 名詞
・を … 格助詞
・狩り … ラ行四段活用の動詞「狩る」の連用形
・て … 接続助詞
・天の川 … 名詞
・の … 格助詞
・ほとり … 名詞
・に … 格助詞
・至る … ラ行四段活用の動詞「至る」の連体形
・を … 格助詞
・題 … 名詞
・にて … 格助詞
歌詠みて杯はさせ。」とのたまうければ、
歌を詠んで酒杯を勧めなさい。」とおっしゃったので、
・歌 … 名詞
・詠み … マ行四段活用の動詞「詠む」の連用形
・て … 接続助詞
・杯 … 名詞
・は … 係助詞
・させ … サ行四段活用の動詞「さす」の命令形
○さす … 人に向かって差し出す
・と … 格助詞
・のたまう … ハ行四段活用の動詞「のたまふ」の連用形(音便)
○のたまふ … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から惟喬親王への敬意
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
かの馬頭詠みて奉りける、
例の馬頭が詠んで差し上げた、
・か … 代名詞
・の … 格助詞
・馬頭 … 名詞
・詠み … マ行四段活用の動詞「詠む」の連用形
・て … 接続助詞
・奉り … ラ行四段活用の動詞「奉る」の連用形
○奉る … 「与ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から惟喬親王への敬意
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
狩り暮らしたなばたつめに宿からむ
一日中狩りをして織女星に宿を借りよう。
・狩り暮らし … サ行四段活用の動詞「狩り暮らす」の連用形
○暮らす … 日暮れまで時を過ごす
・たなばたつめ … 名詞
・に … 格助詞
・宿 … 名詞
・から … ラ行四段活用の動詞「かる」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
天の川原に我は来にけり
天の川の川原に私は来てしまった。
・天の川原 … 名詞
・に … 格助詞
・我 … 代名詞
・は … 係助詞
・来 … カ行変格活用の動詞「来」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
親王、歌をかへすがへす誦じ給うて、返しえし給はず。
親王は、歌を繰り返し繰り返し朗詠なさって、返歌なさることができない。
・親王 … 名詞
・歌 … 名詞
・を … 格助詞
・かへすがへす … 副詞
・誦(ず)じ … サ行変格活用の動詞「誦ず」の連用形
○誦ず … 声を出して詠む
・給(たま)う … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形(音便)
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から惟喬親王への敬意
・て … 接続助詞
・返し … 名詞
・え … 副詞
○え(~打消) … ~できない
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・給は … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の未然形
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から惟喬親王への敬意
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
紀有常、御供につかうまつれり。
紀有常が、お供としてお仕え申し上げていた。
・紀有常(きのありつね) … 名詞
・御供 … 名詞
・に … 格助詞
・仕うまつれ … ラ行四段活用の動詞「仕うまつる」の命令形
○仕うまつる … 「仕ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から惟喬親王への敬意
・り … 完了の助動詞「り」の終止形
それが返し、
紀有常の返歌、
・それ … 代名詞
・が … 格助詞
・返し … 代名詞
一年にひとたび来ます君待てば
織女星は一年に一度だけおいでになる彦星を待っているのだから
・一年(ひととせ) … 代名詞
・に … 格助詞
・ひとたび … 代名詞
・来 … カ行変格活用の動詞「来」の連用形
・ます … サ行四段活用の動詞「ます」の連体形
○ます … 尊敬の補助動詞 ⇒ 紀有常から彦星への敬意
・君 … 名詞
・待て … タ行四段活用の動詞「待つ」の已然形
・ば … 接続助詞
宿かす人もあらじとぞ思ふ
宿を貸す人もいないだろう思います。
・宿 … 代名詞
・かす … サ行四段活用の動詞「かす」の連体形
・人 … 代名詞
・も … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・じ … 打消推量の助動詞「じ」の終止形
・と … 格助詞
・ぞ … 係助詞・強調
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形(結び)
帰りて宮に入らせ給ひぬ。
帰って離宮にお入りになった。
・帰り … ラ行四段活用の動詞「帰る」の連用形
・て … 接続助詞
・宮 … 名詞
・に … 格助詞
・入ら … ラ行四段活用の動詞「入る」の未然形
・せ … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 筆者から惟喬親王への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から惟喬親王への敬意
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
夜更くるまで酒飲み、物語して、
夜が更けるまで酒を飲み、雑談をして、
・夜 … 名詞
・更くる … カ行下二段活用の動詞「更く」の連体形
・まで … 副助詞
・酒 … 名詞
・飲み … マ行四段活用の動詞「飲む」の連用形
・物語 … 名詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
あるじの親王、酔ひて入り給ひなむとす。
主人の親王が、酔って寝所にお入りになろうとする。
・あるじ … 名詞
・の … 格助詞
・親王 … 名詞
・酔(え)ひ … ハ行四段活用の動詞「酔ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・入り … ラ行四段活用の動詞「入る」の連用形
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から惟喬親王への敬意
・な … 強意の助動詞「ぬ」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・す … サ行変格活用の動詞「す」の終止形
十一日の月も隠れなむとすれば、
十一日の月も隠れようとしているので、
・十一日 … 名詞
・の … 格助詞
・月 … 名詞
・も … 係助詞
・隠れ … ラ行下二段活用の動詞「隠る」の連用形
・な … 強意の助動詞「ぬ」の未然形
・む … 推量の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・すれ … サ行変格活用の動詞「す」の已然形
・ば … 接続助詞
かの馬頭の詠める、
例の馬頭が詠んだ、
・か … 代名詞
・の … 格助詞
・馬頭 … 名詞
・の … 格助詞
・詠め … マ行四段活用の動詞「詠む」の命令形
・る … 完了の助動詞「り」の連体形
飽かなくにまだきも月の隠るるか
まだ満足していないのに早くも月が隠れてしまうことよ。
・飽か … カ行四段活用の動詞「飽く」の未然形
○飽く … 満足する
・な … 打消の助動詞「ず」の未然形
・く … 接尾語
・に … 格助詞
・まだき … 副詞
○まだき … 早くも
・も … 係助詞
・月 … 名詞
・の … 格助詞
・隠るる … ラ行下二段活用の動詞「隠る」の連体形
・か … 終助詞・詠嘆
山の端逃げて入れずもあらなむ
山の端が逃げて月を入れないでいてほしい。
・山 … 名詞
・の … 格助詞
・端(は) … 名詞
・逃げ … ガ行下二段活用の動詞「逃ぐ」の連用形
・て … 接続助詞
・入れ … ラ行下二段活用の動詞「入る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・も … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・なむ … 終助詞・願望
親王に代はり奉りて、紀有常、
親王に代わり申し上げて、紀有常が、
・親王 … 名詞
・に … 格助詞
・代はり … ラ行四段活用の動詞「代はる」の連用形
・奉り … ラ行四段活用の動詞「奉る」の連用形
○奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 筆者から惟喬親王への敬意
・て … 接続助詞
・紀有常 … 名詞
おしなべて峰も平らになりななむ
一様にどの山の峰も平らになってほしい。
・おしなべて … 副詞
○おしなべて … 一様に
・峰 … 名詞
・も … 係助詞
・平らに … ナリ活用の形容動詞「平らなり」の連用形
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・な … 強意の助動詞「ぬ」の未然形
・なむ … 終助詞・願望
山の端なくは月も入らじを
山の端がなければ月も入らないだろうにね。
・山 … 名詞
・の … 格助詞
・端 … 名詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の未然形
・は … 接続助詞
・月 … 名詞
・も … 係助詞
・入ら … ラ行四段活用の動詞「入る」の未然形
・じ … 打消推量の助動詞「じ」の終止形
・を … 間投助詞・強調