なほ行き行きて、武蔵の国と下総の国との中に、
さらにどんどん行って、武蔵の国と下総の国との間に、
・なほ … 副詞
・行き … カ行四段活用の動詞「行く」の連用形
・行き … カ行四段活用の動詞「行く」の連用形
・て … 接続助詞
・武蔵の国 … 名詞
・と … 格助詞
・下総の国 … 名詞
・と … 格助詞
・の … 格助詞
・中 … 名詞
・に … 格助詞
いと大きなる川あり。それをすみだ川といふ。
たいへん大きな川がある。それをすみだ川という。
・いと … 副詞
・大きなる … ナリ活用の形容動詞「大きなり」の連体形
・川 … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形
・それ … 代名詞
・を … 格助詞
・すみだ川 … 名詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の終止形
その川のほとりに群れゐて、思ひやれば、
その川のほとりに集まり座って、思いをはせると、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・川 … 名詞
・の … 格助詞
・ほとり … 名詞
・に … 格助詞
・群れゐ … ワ行上一段活用の動詞「群れゐる」の連用形
・て … 接続助詞
・思ひやれ … ラ行四段活用の動詞「思ひやる」の已然形
・ば … 接続助詞
限りなく遠くも来にけるかなとわび合へるに、渡し守、
はるばると遠くにやって来たものだなあと心細く感じ合っていると、渡し守が、
・限りなく … ク活用の形容詞「限りなし」の連用形
・遠く … ク活用の形容詞「遠し」の連用形
・も … 係助詞
・来 … カ行変格活用の動詞「来」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・かな … 終助詞
・と … 格助詞
・わび合へ … ハ行四段活用の動詞「わび合ふ」の命令形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・に … 接続助詞
・渡し守 … 名詞
「はや舟に乗れ。日も暮れぬ。」と言ふに、乗りて渡らむとするに、
「はやく舟に乗れ。日も暮れてしまう。」と言うので、乗って渡ろうとするが、
・はや … 副詞
・舟 … 名詞
・に … 格助詞
・乗れ … ラ行四段活用の動詞「乗る」の命令形
・日 … 名詞
・も … 係助詞
・暮れ … ラ行下二段活用の動詞「暮る」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・に … 接続助詞
・乗り … ラ行四段活用の動詞「乗る」の連用形
・て … 接続助詞
・渡ら … ラ行四段活用の動詞「渡る」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・する … サ行変格活用の動詞「す」の連体形
・に … 接続助詞
みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。
一行の人は皆なんとなく悲しくなって、京に思う人がいないわけではない。
・みな人 … 名詞
・ものわびしく … シク活用の形容詞「ものわびし」の連用形
・て … 接続助詞
・京 … 名詞
・に … 格助詞
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・人 … 名詞
・なき … ク活用の形容詞「なし」の連体形
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・しも … 副助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
さる折しも、白き鳥の嘴と脚と赤き、
ちょうどそんな折、白い鳥でくちばしと脚とが赤い、
・さる … 連体詞
・折 … 名詞
・しも … 副助詞
・白き … ク活用の形容詞「白し」の連体形
・鳥 … 名詞
・の … 格助詞
・嘴 … 名詞
・と … 格助詞
・脚 … 名詞
・と … 格助詞
・赤き … ク活用の形容詞「赤し」の連体形
鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ、魚を食ふ。
鴫の大きさくらいの鳥が、水の上で遊びながら魚を食べている。
・鴫 … 名詞
・の … 格助詞
・大きさ … 名詞
・なる … 断定の助動詞「なり」の連体形
・水 … 名詞
・の … 格助詞
・上 … 名詞
・に … 格助詞
・遊び … バ行四段活用の動詞「遊ぶ」の連用形
・つつ … 接続助詞
・魚 … 名詞
・を … 格助詞
・食ふ … ハ行四段活用の動詞「食ふ」の終止形
京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。
京では見かけない鳥なので、一行の人は誰も見知らない。
・京 … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・鳥 … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞
・みな人 … 名詞
・見知ら … ラ行四段活用の動詞「見知る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
渡し守に問ひければ、「これなむ都鳥。」と言ふを聞きて、
渡し守に尋ねたところ、「これが都鳥だ。」と言うのを聞いて、
・渡し守 … 名詞
・に … 格助詞
・問ひ … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
・これ … 代名詞
・なむ … 係助詞
・都鳥 … 名詞
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・を … 格助詞
・聞き … カ行四段活用の動詞「聞く」の連用形
・て … 接続助詞
名にし負はばいざこと問はむ都鳥
都という名前を持っているのならば、さあ尋ねてみよう、都鳥よ、
・名 … 名詞
・に … 格助詞
・し … 副助詞
・負は … ハ行四段活用の動詞「負ふ」の未然形
・ば … 接続助詞
・いざ … 感動詞
・こと問は … ハ行四段活用の動詞「こと問ふ」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・都鳥 … 名詞
わが思ふ人はありやなしやと
私がいとしく思っている人は無事でいるのかどうかと。
・わ … 代名詞
・が … 格助詞
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・人 … 名詞
・は … 係助詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形
・や … 係助詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形
・や … 係助詞
・と … 格助詞
と詠めりければ、舟こぞりて泣きにけり。
と詠んだので、舟の中の人はみんな泣いてしまった。
・と … 格助詞
・詠め … マ行四段活用の動詞「詠む」の命令形
・り … 完了の助動詞「り」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
・舟 … 名詞
・こぞり … ラ行四段活用の動詞「こぞる」の連用形
・て … 接続助詞
・泣き … カ行四段活用の動詞「泣く」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形