村上の先帝の御時に・枕草子

村上の先帝の御時に、
前の村上天皇の御代に、
・村上の先帝(せんだい) … 名詞
○先帝 … 先代の天皇
・の … 格助詞
・御時 … 名詞
・に … 格助詞

雪のいみじう降りたりけるを、様器に盛らせ給ひて、
雪がたいそう降ったことがあった、それを白色の陶器にお盛りになって、
・雪 … 名詞
・の … 格助詞
・いみじう … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形(音便)
・降り … ラ行四段活用の動詞「降る」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・を … 格助詞
・様器(ようき) … 名詞
○様器 … 白色の陶製の器
・に … 格助詞
・盛ら … ラ行四段活用の動詞「盛る」の未然形
 … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 筆者から村上天皇への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から村上天皇への敬意
・て … 接続助詞

梅の花をさして、月いと明かきに、「これに歌よめ、
梅の花をさして、月がとても明かるい時に、「これについて歌を詠め、
・梅 … 名詞
・の … 格助詞
・花 … 名詞
・を … 格助詞
・さし … サ行四段活用の動詞「さす」の連用形
・て … 接続助詞
・月 … 名詞
・いと … 副詞
・明かき … ク活用の形容詞「明かし」の連体形
・に … 格助詞
・これ … 代名詞
・に … 格助詞
・歌 … 名詞
・よめ … マ行四段活用の動詞「よむ」の命令形

いかが言ふべき。」と兵衞の藏人に給はせたりければ、
どのように詠むのがよいか。」と兵衛の蔵人にお与えなさったところ、
・いかが … 副詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形
・べき … 適当の助動詞「べし」の連体形
・と … 格助詞
・兵衛(ひようえ)の蔵人 … 名詞
・に … 格助詞
・給はせ … サ行下二段活用の動詞「給はす」の連用形
給はす … 「与ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から村上天皇への敬意
・たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

「雪・月・花の時」と奏したりけるをこそ、いみじうめでさせ給ひけれ。
「雪・月・花の時」と申し上げたのを、たいそうご賞賛になった。
・雪 … 名詞
・月 … 名詞
・花 … 名詞
・の … 格助詞
・時 … 名詞
・と … 格助詞
・奏(そう)し … サ行変格活用の動詞「奏す」の連用形
奏す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から村上天皇への敬意
・たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・を … 格助詞
・こそ … 係助詞・強調
・いみじう … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形(音便)
・めで … ダ行下二段活用の動詞「めづ」の連用形
めづ … すばらしさに感心してほめる
・させ … 尊敬の助動詞「さす」の連用形
させ … 尊敬の助動詞「さす」の連用形 ⇒ 筆者から村上天皇への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の尊敬の補助動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から村上天皇への敬意
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形(結び)

「歌などよむは世の常なり。
「歌などを詠むのは平凡なことだ。
・歌 … 名詞
・など … 副助詞
・よむ … マ行四段活用の動詞「よむ」の連体形
・は … 係助詞
・世の常 … 名詞
○世の常 … 普通
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

かく、折に合ひたることなむ、言ひがたき。」とぞ仰せられける。
このように、場面に合ったことは、なかなか言えない。」とおっしゃった。
・かく … 副詞
・折 … 名詞
・に … 格助詞
・合ひ … ハ行四段活用の動詞「合ふ」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・こと … 名詞
・なむ … 係助詞・強調
・言ひがたき … ク活用の形容詞「言ひがたし」の連体形(結び)
・と … 格助詞
・ぞ … 係助詞・強調
・仰せ … サ行下二段活用の動詞「仰す」の未然形
仰す … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から村上天皇への敬意
られ … 尊敬の助動詞「らる」の連用形 ⇒ 筆者から村上天皇への敬意
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)

同じ人を御供にて、殿上に人候はざりけるほど、
同じ人をお供にして、殿上の間に誰もお仕え申し上げていなかった時、
・同じ … シク活用の形容詞「同じ」の連体形
・人 … 名詞
・を … 格助詞
・御供 … 名詞
・にて … 格助詞
・殿上 … 名詞
・に … 格助詞
・人 … 名詞
・候(さぶら)は … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の未然形
候ふ … 「仕ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から村上天皇への敬意
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・ほど … 名詞

たたずませ給ひけるに、火櫃にけぶりの立ちければ、
じっとお立ちになっていたところ、火鉢に煙が立ちのぼっていたので、
・たたずま … マ行四段活用の動詞「たたずむ」の未然形
○たたずむ … しばらく立ち止まる
 … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 筆者から村上天皇への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から村上天皇への敬意
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・に … 格助詞
・火櫃(ひびつ) … 名詞
○火櫃 … 長方形の火鉢
・に … 格助詞
・けぶり … 名詞
・の … 格助詞
・立ち … タ行四段活用の動詞「立つ」の連用形
立つ … 下の方から立ちのぼる
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

「かれは何ぞと見よ。」と仰せられければ、見て帰り参りて、
「あれは何であるか見てこい。」とおっしゃったので、見て帰ってきて、
・かれ … 代名詞
・は … 係助詞
・何 … 代名詞
・ぞ … 終助詞・疑問
・と … 格助詞
・見よ … マ行上一段活用の動詞「見る」の命令形
・と … 格助詞
・仰(おお)せ … サ行下二段活用の動詞「仰す」の未然形
仰す … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から村上天皇への敬意
られ … 尊敬の助動詞「らる」の連用形 ⇒ 筆者から村上天皇への敬意
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・て … 接続助詞
・帰り … 参りラ行四段活用の動詞「帰り参る」の連用形
・て … 接続助詞

  わたつ海のおきにこがるる物見れば
  海の沖に漕がれているものを見ると
  ・わたつ海 … 名詞
  ○わたつ海 … 海
  ・の … 格助詞
  ・おき … 名詞
  ・に … 格助詞
  ・こが … ガ行四段活用の動詞「こぐ」の未然形
  ・るる … 受身の助動詞「る」の連体形
  ・物 … 名詞
  ・見れ … マ行上一段活用の動詞「見る」の已然形
  ・ば … 接続助詞

  あまの釣りしてかへるなりけり
  海人が釣りをして帰るのでした、蛙が焼けていました。
  ・あま … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・釣り … 名詞
  ・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
  ・て … 接続助詞
  ・かへる … ラ行四段活用の動詞「かへる」の連体形
  ・なり … 断定の助動詞「なり」の連用形
  ・けり … 詠嘆の助動詞「けり」の終止形

と奏しけるこそをかしけれ。
と申し上げたのはおもしろかった。
・と … 格助詞
・奏し … サ行変格活用の動詞「奏す」の連用形
奏す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から村上天皇への敬意
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・こそ … 係助詞・強調
・をかしけれ … シク活用の形容詞「をかし」の已然形(結び)
をかし … おもしろい

蛙の飛び入りて焼くるなりけり。
蛙が火鉢に飛び込んで焼けていたのだった。
・蛙(かえる) … 名詞
・の … 格助詞
・飛び入り … ラ行四段活用の動詞「飛び入る」の連用形
・て … 接続助詞
・焼くる … カ行下二段活用の動詞「焼く」の連体形
・なり … 断定の助動詞「なり」の連用形
・けり … 詠嘆の助動詞「けり」の終止形

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