成方といふ笛吹き・十訓抄

成方といふ笛吹きありけり。
成方という笛吹きがいた。
・成方 … 名詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・笛吹き … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

御堂入道殿より大丸といふ笛を賜はりて、吹きけり。
御堂入道殿から大丸という笛をいただいて、吹いていた。
・御堂入道殿 … 名詞
・より … 格助詞
・大丸 … 名詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・笛 … 名詞
・を … 格助詞
・賜はり … ラ行四段活用の動詞「賜はる」の連用形
賜はる … 「もらふ」の謙譲語 ⇒ 作者から入道殿への敬意
・て … 接続助詞
・吹き … カ行四段活用の動詞「吹く」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

めでたき物なれば、伏見修理大夫俊綱の朝臣欲しがりて、
すばらしい物なので、伏見の修理大夫の俊綱朝臣が欲しがって、
・めでたき … ク活用の形容詞「めでたし」の連体形
めでたし … すばらしい
・物 … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞
・伏見修理大夫俊綱朝臣 … 名詞
・欲しがり … ラ行四段活用の動詞「欲しがる」の連用形
・て … 接続助詞

「千石に買はむ。」とありけるを、売らざりければ、
「千石の米で買おう。」と言ってきたが、売らなかったので、
・千石 … 名詞
○千石 … 米千石の値段
・に … 格助詞
・買は … ハ行四段活用の動詞「買ふ」の未然形
・ん … 意志の助動詞「ん」の終止形
・と … 格助詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・を … 接続助詞
・売ら … ラ行四段活用の動詞「売る」の未然形
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

たばかりて、使ひをやりて、
謀略をめぐらし、使いの者を派遣して、
たばかる … 謀略をめぐらす
・たばかり … ラ行四段活用の動詞「たばかる」の連用形
・て … 接続助詞
・使ひ … 名詞
・を … 格助詞
・やり … ラ行四段活用の動詞「やる」の連用形
・て … 接続助詞

「売るべきのよし言ひけり。」と
「(成方が)売りたいという趣旨のことを言った。」と
・売る … ラ行四段活用の動詞「売る」の終止形
・べき … 意志の助動詞「べし」の連体形
・の … 格助詞
・よし … 名詞
よし … 趣旨
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
・と … 格助詞

虚言を言ひつけて、成方を召して、
うそを言うように(使いの者に)言いつけて、成方をお呼び寄せになって、
・虚言 … 名詞
・を … 格助詞
・言ひつけ … カ行下二段活用の動詞「言ひつく」の連用形
・て … 接続助詞
・成方 … 名詞
・を … 格助詞
・召し … サ行四段活用の動詞「召す」の連用形
召す … お呼び寄せになる(尊敬語) ⇒ 作者から俊綱への敬意
・て … 接続助詞

「笛得させむと言ひける、本意なり。」と喜びて、
「笛を譲ろうと言ったのは、本望である。」と喜んで、
・笛 … 名詞
・得 … ア行下二段活用の動詞「得(う)」の未然形
・させ … 使役の助動詞「べし」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・本意 … 名詞
本意 … 本来の希望
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
・と … 格助詞
・喜び … バ行四段活用の動詞「喜ぶ」の連用形
・て … 接続助詞

「価は請ふによるべし。」とて、
「値段は望むとおりにしよう。」と言って、
・価 … 名詞
・は … 係助詞
・請ふ … ハ行四段活用の動詞「乞ふ」の連体形
○請ふ … 願い求める
・に … 格助詞
・よる … ラ行四段活用の動詞「よる」の終止形
○よる … 基づく
・べし … 意志の助動詞「べし」の終止形
・とて … 格助詞

「ただ買ひに買はむ。」と言ひければ、
「すぐに買おう、買おう。」と言ったので、
・ただ … 副詞
ただ … すぐ
・買ひ … ハ行四段活用の動詞「買ふ」の連用形
・に … 格助詞
・買は … ハ行四段活用の動詞「買ふ」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

成方、色を失ひて、「さること申さず。」と言ふ。
成方は、青ざめて、「そのようなことは申しません。」と言う。
・成方 … 名詞
・色 … 名詞
・を … 格助詞
・失ひ … ハ行四段活用の動詞「失ふ」の連用形
○色を失ふ … 青ざめる
・て … 接続助詞
・さる … 連体詞
・こと … 名詞
・申さ … サ行四段活用の動詞「申す」の未然形
申す … 「言ふ」の丁寧語 ⇒ 成方から俊綱への敬意
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形
「色を失ひて」とは、誰の、どのような様子をいったものか。 ⇒ 成方の、俊綱の意外な言葉に驚いて青ざめている様子。

この使ひを召し迎へて尋ねらるるに、
この使いの者をお呼び寄せ招き入れになってお尋ねになると、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・使ひ … 名詞
・を … 格助詞
・召し迎へ … ハ行下二段活用の動詞「召し迎ふ」の連用形
召し迎ふ … お呼び寄せ招き入れる(尊敬語) ⇒ 作者から俊綱への敬意
・て … 接続助詞
・尋ね … ナ行下二段活用の動詞「尋ぬ」の未然形
・らるる … 尊敬の助動詞「らる」の連体形 ⇒ 作者から俊綱への敬意
・に … 接続助詞

「まさしく申し候ふ。」と言ふほどに、俊綱大きに怒りて、
「たしかに申しました。」と言うので、俊綱はひどく怒って、
・まさしく … シク活用の形容詞「まさし」の連用形
○まさし … 確実である
・申し … サ行四段活用の動詞「申す」の連用形
申す … 「言ふ」の丁寧語 ⇒ 使いの者から俊綱への敬意
・候ふ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の終止形
候ふ … 丁寧の補助動詞 ⇒ 使いの者から俊綱への敬意
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・ほどに … 接続助詞
・俊綱 … 名詞
・大きに … ナリ活用の形容動詞「大きなり」の連用形
○大きなり … はなはだしい
・怒り … ラ行四段活用の動詞「怒る」の連用形
・て … 接続助詞

「人を欺きすかすは、その咎軽からぬ事なり。」とて、
「人を欺きだますのは、その罪は軽くないことだ。」と言って、
・人 … 名詞
・を … 格助詞
・欺き … カ行四段活用の動詞「欺く」の連用形
・すかす … サ行四段活用の動詞「すかす」の連体形
○すかす … だます
・は … 係助詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・咎 … 名詞
○咎 … 犯罪
・軽から … ク活用の形容詞「軽し」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・こと … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
・とて … 格助詞

雑色所へ下して、木馬に乗せむとする間、
雑色の詰め所に行かせて、木馬に乗せようとするので、
・雑色所 … 名詞
○雑色 … 雑役係の役人
・へ … 格助詞
・下し … サ行四段活用の動詞「下す」の連用形
下す … 高い所から低い所に移す
・て … 接続助詞
・木馬 … 名詞
○木馬 … 拷問の道具
・に … 格助詞
・乗せ … サ行下二段活用の動詞「乗す」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・する … サ行変格活用の動詞「す」の連体形
・間 … 名詞
○~間 … ~ので

成方言はく、「身の暇を賜はりて、この笛を
成方が言うことには、「自分に時間をいただいて、この笛を
・成方 … 名詞
・いはく … 連語
・身 … 名詞
・の … 格助詞
・暇 … 名詞
・を … 格助詞
・賜はり … ラ行四段活用の動詞「賜はる」の連用形
賜はる … 「もらふ」の謙譲語 ⇒ 成方から俊綱への敬意
・て … 接続助詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・笛 … 名詞
・を … 格助詞

持ちて参るべし。」と言ひければ、人を付けて遣はす。
持って参ります。」と言ったので、人を付き添わせてお遣りになる。
・持ち … タ行四段活用の動詞「持つ」の連用形
・て … 接続助詞
・参る … ラ行四段活用の動詞「参る」の終止形
参る … 「来」の謙譲語 ⇒ 成方から俊綱への敬意
・べし … 意志の助動詞「べし」の終止形
・と … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
・人 … 名詞
・を … 格助詞
・付け … カ行下二段活用の動詞「付く」の連用形
付く … つき従わせる
・て … 接続助詞
・遣はす … サ行四段活用の動詞「遣はす」の終止形
遣はす … 「遣(や)る」の尊敬語 ⇒ 作者から俊綱への敬意

帰り来て、腰より笛を抜き出でて言ふやう、
帰ってきて、腰から笛を抜き出して言うには、
・帰り来 … カ行変格活用の動詞「帰り来」の連用形
・て … 接続助詞
・腰 … 名詞
・より … 格助詞
・笛 … 名詞
・を … 格助詞
・抜き出で … ダ行四段活用の動詞「抜き出づ」の連用形
・て … 接続助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・やう … 名詞

「この故にこそ、かかる目は見れ。情けなき笛なり。」とて、
「これのせいで、このような目にあうのだ。薄情な笛だ。」と言って、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・故 … 名詞
・に … 格助詞
・こそ … 係助詞
・かかる … ラ行変格活用の動詞「かかり」の連体形
・目 … 名詞
・は … 係助詞
・見れ … マ行上一段活用の動詞「見る」の已然形
・情けなき … ク活用の形容詞「情けなし」の連体形
○情けなし … 薄情である
・笛 … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
・とて … 格助詞

軒のもとに下りて、石を取りて灰のごとくに打ち砕きつ。
軒下に下りて、石を取って灰のように打ち砕いてしまった。
・軒 … 名詞
・の … 格助詞
・もと … 名詞
○もと … 下の方
・に … 格助詞
・下り … ラ行上二段活用の動詞「下る」の連用形
・て … 接続助詞
・石 … 名詞
・を … 格助詞
・取り … ラ行四段活用の動詞「取る」の連用形
・て … 接続助詞
・灰 … 名詞
・の … 格助詞
・ごとくに … 比況の助動詞「ごとくなり」の連用形
・打ち砕き … カ行四段活用の動詞「打ち砕く」の連用形
・つ … 完了の助動詞「つ」の終止形

大夫、笛を取らむと思ふ心の深さにこそ
大夫は、笛を取り上げようと思う気持ちが強かったから
・大夫 … 名詞
・笛 … 名詞
・を … 格助詞
・取ら … ラ行四段活用の動詞「取る」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・心 … 名詞
・の … 格助詞
・深さ … 名詞
・に … 格助詞
・こそ … 係助詞

さまざま構へけれ、今はいふかひなければ、
いろいろ策略をめぐらしたが、今では、どうしようもないので、
・さまざま … 名詞
・構へ … ハ行下二段活用の動詞「構ふ」の連用形
○構ふ … 策略をめぐらす
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・今 … 名詞
・は … 係助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・かひ … 名詞
・なけれ … ク活用の形容詞「なし」の已然形
○いふかひなし … どうすることもできない
・ば … 接続助詞

戒むるに及ばずして追ひ放ちにけり。
処罰する必要もなくなって放免してしまった。
・戒むる … マ行下二段活用の動詞「戒む」の連体形
○戒む … とがめる
・に … 格助詞
・及ば … バ行四段活用の動詞「及ぶ」の未然形
○及ぶ … 必要がある
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・して … 接続助詞
・追ひ放ち … タ行四段活用の動詞「追ひ放つ」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
「追ひ放ちにけり。」とあるが、誰が、誰を、なぜそうしたのか。 ⇒ 俊綱が、成方を、成方から笛を取り上げることが不可能になり、成方を処罰する必要がなくなったので放免した。

後に聞けば、あらぬ笛を大丸とて打ち砕きて、
あとで聞くと、まったく別の笛を大丸として打ち砕いて、
・後 … 名詞
・に … 格助詞
・聞け … カ行四段活用の動詞「聞く」の已然形
・ば … 接続助詞
・あらぬ … 連体詞
あらぬ … まったく別の
・笛 … 名詞
・を … 格助詞
・大丸 … 名詞
・とて … 格助詞
・打ち砕き … カ行四段活用の動詞「打ち砕く」の連用形
・て … 接続助詞

もとの大丸はささいなく吹き行きければ、
もともとの大丸はたいしたこともなく吹き歩いていたので、
・もと … 名詞
○もと … 以前からあるもの、もともと
・の … 格助詞
・大丸 … 名詞
・は … 係助詞
・ささいなく … ク活用の形容詞「ささいなし」の連用形
○ささいなし … たいしたこともない
・吹き行き … カ行四段活用の動詞「吹き行く」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

大夫のをこにてやみにけり。
大夫の愚かな行為ということで終わってしまった。
・大夫 … 名詞
・の … 格助詞
・をこ … 名詞
○をこ … 愚かで、ばかげていること
・て … 接続助詞
・やみ … マ行四段活用の動詞「やむ」の連用形
○やむ … 終わる
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

初めはゆゆしくはやりごちたりけれど、つひに出だし抜かれにけり。
初めはひどく勢い込んでいたが、最後には、だし抜かれてしまった。
・初め … 名詞
・は … 係助詞
・ゆゆしく … シク活用の形容詞「ゆゆし」の連用形
ゆゆし … はなはだしい
・はやりごち … タ行四段活用の動詞「はやりごつ」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ど … 接続助詞
・つひに … 副詞
○つひに … 最後に
・出だし抜か … カ行四段活用の動詞「出だし抜く」の未然形
○出だし抜く … 出し抜く
・れ … 受身の助動詞「る」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

昔、趙の文王、和氏が璧、宝とせり。秦の昭王、
昔、趙の文王は、和氏の璧を宝物にしていた。秦の昭王が、
・昔 … 名詞
・趙 … 名詞
・の … 格助詞
・文王 … 名詞
・和氏が璧 … 名詞
・宝 … 名詞
・と … 格助詞
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・り … 完了の助動詞「り」の終止形
・秦 … 名詞
・の … 格助詞
・昭王 … 名詞

いかでこの玉を得てしがなと思ひて、使ひを遣はして、
何とかしてこの宝玉を手に入れたいものだと思って、使者を派遣して、
・いかで … 副詞
いかで … どうにかして
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・玉 … 名詞
・を … 格助詞
・得 … ア行下二段活用の動詞「得」の連用形
・てしがな … 終助詞
○~てしがな … ~たいものだ
・と … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・使ひ … 名詞
・を … 格助詞
・遣はし … サ行四段活用の動詞「遣はす」の連用形
遣はす … 「遣(や)る」の尊敬語 ⇒ 作者から昭王への敬意
・て … 接続助詞

「十五城を分かちて、玉に換ヘむ。」と聞こゆ。
「十五の町を分け与えるので、宝玉と交換しよう。」と申し上げた。
・十五城 … 名詞
○城 … 城壁を巡らした町
・を … 格助詞
・分かち … タ行四段活用の動詞「分かつ」の連用形
・て … 接続助詞
・玉 … 名詞
・に … 格助詞
・換ヘ … ハ行下二段活用の動詞「換ふ」の未然形
・む … 勧誘の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・聞こゆ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の終止形
聞こゆ … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 作者から文王への敬意

趙王、大きに歎きおどろきて、
趙王は、たいそう歎き驚いて、
・趙王 … 名詞
・大きに … ナリ活用の形容動詞「大きなり」の連用形
・歎き … カ行四段活用の動詞「嘆く」の連用形
・おどろき … カ行四段活用の動詞「おどろく」の連用形
・て … 接続助詞

藺相如を使ひとして、玉を持たせて秦にやる。
藺相如を使者として、宝玉を持たせて秦に派遣する。
・藺相如 … 名詞
・を … 格助詞
・使ひ … 名詞
・と … 格助詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・玉 … 名詞
・を … 格助詞
・持た … タ行四段活用の動詞「持つ」の未然形
・せ … 使役の助動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・秦 … 名詞
・に … 格助詞
・やる … ラ行四段活用の動詞「やる」の終止形

昭王、うち取りて、返さむともせざりければ、
昭王は、(宝玉を)取り上げて、返そうともしなかったので、
・昭王 … 名詞
・うち取り … ラ行四段活用の動詞「うち取る」の連用形
○取る … 取り上げる
・て … 接続助詞
・返さ … サ行四段活用の動詞「返す」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・も … 係助詞
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

はかりごとを巡らして、「潔斎の人にあらざれば、
策略をめぐらせて、「心身のけがれを取り去った人でなければ、
・はかりごと … 名詞
・を … 格助詞
・巡らし … サ行四段活用の動詞「巡らす」の連用形
・て … 接続助詞
・潔斎 … 名詞
○潔斎 … 心身のけがれを取り去ること
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ざれ … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ば … 接続助詞

この玉を取ることなし。」と言ひて、
この宝玉を手に持つことは許されません。」と言って、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・玉 … 名詞
・を … 格助詞
・取る … ラ行四段活用の動詞「取る」の連体形
○取る … 手に持つ
・こと … 名詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形
・と … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・て … 接続助詞

玉を請ひ取りて後、にはかに怒れる色をなして、
宝玉を願い求めて受け取った後で、突然、怒っている表情をして、
・玉 … 名詞
・を … 格助詞
・請ひ取り … ラ行四段活用の動詞「請ひ取る」の連用形
○請ふ … 願い求める
・て … 接続助詞
・後 … 名詞
・にはかに … ナリ活用の形容動詞「にはかなり」の連用形
・怒れ … ラ行四段活用の動詞「怒る」の命令形
・る … 完了の助動詞「り」の連体形
・色 … 名詞
○色 … 表情
・を … 格助詞
・なし … サ行四段活用の動詞「なす」の連用形
・て … 接続助詞

柱をにらみて、玉を打ち割らむとす。
柱をにらんで、宝玉をぶつけて割ろうとする。
・柱 … 名詞
・を … 格助詞
・にらみ … マ行四段活用の動詞「にらむ」の連用形
・て … 接続助詞
・玉 … 名詞
・を … 格助詞
・打ち割ら … ラ行四段活用の動詞「打ち割る」の未然形
○打つ … ぶつける
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・す … サ行変格活用の動詞「す」の終止形

時に秦王、許して返してけり。
その時秦王は、許可して帰国させてしまった。
・時 … 名詞
・に … 格助詞
・秦王 … 名詞
・許し … サ行四段活用の動詞「許す」の連用形
○許す … 許可する
・て … 接続助詞
・返し … サ行四段活用の動詞「返す」の連用形
・て … 完了の助動詞「つ」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

玉をこそ砕かねど、成方が風情、あひ似たり。
宝玉を砕かなかったが、成方の有様は、類似している。
・玉 … 名詞
・を … 格助詞
・こそ … 係助詞
・砕か … カ行四段活用の動詞「砕く」の未然形
・ね … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ど … 接続助詞
・成方 … 名詞
・が … 格助詞
・風情 … 名詞
・あひ似 … ナ行上一段活用の動詞「あひ似る」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の終止形

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