小判は寝姿の夢「黒染あたりにゐる」・世間胸算用 現代語訳・品詞分解

墨染あたりにゐる人置きの嚊が、六十あまりの婆さまを連れ立ち来て、
黒染町の付近に住む人置きの嚊が、六十あまりの婆さまと一緒にやって来て、
・墨染(すみぞめ) … 名詞
・あたり … 名詞
・に … 格助詞
・ゐる … ワ行上一段活用の動詞「ゐる」の連体形
ゐる … 住む
・人置き … 名詞
・の … 格助詞
・嚊(かか) … 名詞
・が … 格助詞
・六十あまり … 名詞
・の … 格助詞
・婆(ばば)さま … 名詞
〇さま … 接尾語(尊敬の意を表す)
・を … 格助詞
・連れ立ち … タ行四段活用の動詞「連れ立つ」の連用形
〇連れ立つ … 一緒に行く
・来 … カ行変格活用の動詞「来(く)」の連用形
・て … 接続助詞

「昨日も申すとほり、こなたは乳ぶくろもよいによつて、がらりに八十五匁、
「昨日も申したように、あなたは乳の出もよいので、給金の全額を前渡しで八十五匁、
・昨日 … 名詞
・も … 係助詞
・申す … サ行四段活用の動詞「申す」の連体形
・とほり … 名詞
・こなた … 代名詞
・は … 係助詞
・乳(ち)ぶくろ … 名詞
・も … 係助詞
・よい … ク活用の形容詞「よし」の連体形、イ音便
〇乳ぶくろもよい … 乳の出もよい
・に … 格助詞
・よつ … ラ行四段活用の動詞「よる」の連用形、促音便
・て … 接続助詞
・がらりに … 副詞
〇がらりに … 給金の全額を前渡しで
・八十五匁(もんめ) … 名詞

四度の御仕着せまで、かたじけないことと思はしやれ。
四季ごとに支給される衣類まで(くださる)、ありがたいことと思いなされ。
・四度 … 名詞
・の … 格助詞
・御仕着(おしき)せ … 名詞
〇四度の御仕着せ … 四季ごとに支給される衣類
・まで … 副助詞
・かたじけない … ク活用の形容詞「かたじけなし」の連体形、イ音便
〇かたじけなし … ありがたい
・こと … 名詞
・と … 格助詞
・思は … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・しやれ … (軽い)尊敬の助動詞「しやる」の命令形 ⇒ 人置きの嚊から女房への敬意

雲つくやうな飯炊きが、布まで織りまして、半季が三十二匁、
雲を衝くような(大女の)飯炊きが、布まで織りまして、半年ぎめの奉公が三十二匁、
・雲 … 名詞
・つく … カ行四段活用の動詞「つく」の連体形
〇雲つく … 身長が非常に高いことのたとえ
・やうな … 比況の助動詞「やうなり」の連体形
・飯炊き … 名詞
・が … 格助詞
・布 … 名詞
・まで … 副助詞
・織り … ラ行四段活用の動詞「織る」の連用形
・まし … 丁寧の助動詞「ます」の連用形
・て … 接続助詞
・半季 … 名詞
〇半季 … 半年ぎめの奉公
・が … 格助詞
・三十二匁 … 名詞

何ごとも乳の蔭ぢやと思はしやれ。
何ごとも(出のよい)乳のおかげだと思いなされ。
・何ごと … 名詞
・も … 係助詞
・乳 … 名詞
・の … 格助詞
・蔭(かげ) … 名詞
・ぢや … 断定の助動詞「ぢや」の終止形
・と … 格助詞
・思は … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の未然形
・しやれ … (軽い)尊敬の助動詞「しやる」の命令形 ⇒ 人置きの嚊から女房への敬意

また、こなたがいやなれば、京町の上にも見立てておきました。
また、あなたがいやならば、(代わりを)京町の北にも見立てておきました。
・また … 接続詞
・こなた … 代名詞
・が … 格助詞
・いやなれ … ナリ活用の形容動詞「いやなり」の已然形
・ば … 接続助詞
・京町(きようまち) … 名詞
・の … 格助詞
・上(かみ) … 名詞
〇京町の上 … 京町の北
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・見立て … タ行下二段活用の動詞「見立つ」の連用形
・て … 接続助詞
・おき … カ行四段活用の動詞「おく」の連用形
・まし … 丁寧の助動詞「ます」の連用形 ⇒ 人置きの嚊から女房への敬意
・た … 完了の助動詞「た」の終止形

今日のことなれば、
今日中に決めなければならないことだから、
・今日 … 名詞
・の … 格助詞
・こと … 名詞
〇今日のこと … 今日中に決めなければならないこと
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞

またといふことはならぬ。」と言ふ。
また(後で返事)というわけにはいかない。」と言う。
・また … 副詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・こと … 名詞
・は … 係助詞
・なら … ラ行四段活用の動詞「なる」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形

内儀機嫌よく、「何をいたしますも、身を助かるためでござります。
女房は機嫌よく、「何をいたしますのも、この身を助かるためでございます。
・内儀 … 名詞
・機嫌 … 名詞
・よく … ク活用の形容詞「よし」の連用形
・何 … 代名詞
・を … 格助詞
・いたし … サ行四段活用の動詞「いたす」の連用形
・ます … 丁寧の助動詞「ます」の連体形 ⇒ 女房から人置きの嚊への敬意
・も … 係助詞
・身 … 名詞
・を … 格助詞
・助かる … ラ行四段活用の動詞「助かる」の連体形
〇助かる … 困難な状況から抜け出す
・ため … 名詞
・で … 断定の助動詞「だ」の連用形
・ござり … ラ行四段活用の動詞「ござる」の連用形
ござる … 「あり」の丁寧語 ⇒ 女房から人置きの嚊への敬意
・ます … 丁寧の助動詞「ます」の終止形 ⇒ 女房から人置きの嚊への敬意

大事の若子さまを預かりましても、何とござりましよ。
大切な良家の男児をお預かりしても、私でうまく務まるでしょうか。
・大事 … 名詞
・の … 格助詞
・若子(わこ)さま … 名詞
〇さま … 接尾語(尊敬の意を表す)
〇若子さま … 良家の男児
・を … 格助詞
・預かり … ラ行四段活用の動詞「預かる」の連用形
・まし … 丁寧の助動詞「ます」の連用形 ⇒ 女房から人置きの嚊への敬意
・て … 接続助詞
・も … 係助詞
・何と … 副詞
・ござり … ラ行四段活用の動詞「ござる」の連用形
ござる … 「あり」の丁寧語 ⇒ 女房から人置きの嚊への敬意
・ましよ … 丁寧の助動詞「ます」の未然形 ⇒ 女房から人置きの嚊への敬意
〇何とござりましよ … 私でうまく務まるでしょうか

私はなるほど御奉公の望み。」と言へば、
私はできるだけ御奉公したいと望みます。」と言うと、
・私 … 代名詞
・は … 係助詞
・なるほど … 副詞
〇なるほど … できるだけ
・御奉公 … 名詞
・の … 格助詞
・望み … 名詞
・と … 格助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・ば … 接続助詞

男にはものを言はず、「少しも早くあなたへ。」と、隣の硯借つて来て、
亭主にはものも言わず、「少しでも早く先さまへ。」と、隣家の硯を借りてきて、
・男 … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・もの … 名詞
・を … 格助詞
・言は … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・少しも … 副詞
・早く … ク活用の形容詞「早し」の連用形
・あなた … 代名詞
〇あなた … あちらさま(尊敬の意を含んだ他称)
・へ … 格助詞
・と … 格助詞
・隣 … 名詞
・の … 格助詞
・硯(すずり) … 名詞
・借つ … ラ行四段活用の動詞「借る」の連用形、促音便
・て … 接続助詞
・来 … カ行変格活用の動詞「来(く)」の連用形
・て … 接続助詞

一年の手形を極め、残らず銀渡して、かの嚊手ばしかく、
一年契約の証文を作成し、残らず給金を渡して、その嚊は手早く、
・一年 … 名詞
・の … 格助詞
・手形 … 名詞
・を … 格助詞
・極め … 行下二段活用の動詞「極む」の連用形
〇一年の手形を極め … 一年契約の証文を作成し
・残ら … ラ行四段活用の動詞「残る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・銀 … 名詞
・渡し … サ行四段活用の動詞「渡す」の連用形
・て … 接続助詞
・か … 代名詞
・の … 格助詞
・嚊 … 名詞
・手ばしかく … ク活用の形容詞「手ばしかし」の連用形
〇手ばしかし … 手早いさま

「後といふも同じこと、これは世界がこのとほりの御定め。」と、
「後というのも同じこと、これは世間でこのように相場が定まっている。」と、
・後 … 名詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・も … 係助詞
・同じ … シク活用の形容詞「同じ」の連体形
・こと … 名詞
・これ … 代名詞
・は … 係助詞
・世界 … 名詞
〇世界 … 世間
・が … 格助詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・とほり … 名詞
・の … 格助詞
・御定め … 名詞
〇このとほりの御定め … 仲介の手数料の相場が給金の一割と定まっていること
・と … 格助詞

「八十五匁数三十七」と書き付けのあるうち、
「八十五匁数三十七」と書き付けのある(銀包みの)中から、
・八十五匁 … 名詞
・数 … 名詞
・三十七 … 名詞
・と … 格助詞
・書き付け … 名詞
・の … 格助詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・うち … 名詞

八匁五分、厘と取りて、
八匁五分を、きちんと受け取って、
・八匁五分(ごふん) … 名詞
・厘(りん)と … 副詞
〇厘と … きちんと
・取り … ラ行四段活用の動詞「取る」の連用形
・て … 接続助詞

「さあ、お乳母どの、身ごしらへまでないこと。」と連れ行く時、
「さあ、お乳母どの、身支度するまでもないこと。」と連れて行く時、
・さあ … 感動詞
・お乳母どの … 名詞
・身ごしらへ … 名詞
〇身ごしらへ … 身支度
・まで … 副助詞
・ない … ク活用の形容詞「なし」の連体形、イ音便
・こと … 名詞
・と … 格助詞
・連れ行く … カ行四段活用の動詞「連れ行く」の連体形
・時 … 名詞

男も涙、女は赤面して、「おまん、さらばよ。
男も涙、女は(泣きはらし)赤面して、「おまん、さようなら。
・男 … 名詞
・も … 係助詞
・涙 … 名詞
・女 … 名詞
・は … 係助詞
・赤面し … サ行変格活用の動詞「赤面す」の連用形
・て … 接続助詞
・おまん … 名詞
・さらば … 感動詞
・よ … 間投助詞

母は旦那さまへ行きて、正月に来て会ふぞよ。」と言ひ捨てて、
母さんは旦那さまの所へ行って、正月には帰って来て会うからね。」と言い捨てて、
・母(かか) … 名詞
・は … 係助詞
・旦那さま … 名詞
・へ … 格助詞
・行き … カ行四段活用の動詞「行く」の連用形
・て … 接続助詞
・正月 … 名詞
・に … 格助詞
・来 … カ行変格活用の動詞「来(く)」の連用形
・て … 接続助詞
・会ふ … ハ行四段活用の動詞「会ふ」の終止形
・ぞ … 終助詞
・よ … 間投助詞
・と … 格助詞
・言ひ捨て … タ行下二段活用の動詞「言ひ捨つ」の連用形
・て … 接続助詞

何やら両隣へ頼みて、また泣きける。人置きは心強く、
何やら両隣に頼んで、また泣いたのだ。人置きの嚊は気強く、
・何 … 代名詞
・やら … 副助詞
・両隣 … 名詞
・へ … 格助詞
・頼み … マ行四段活用の動詞「頼む」の連用形
・て … 接続助詞
・また … 副詞
・泣き … カ行四段活用の動詞「泣く」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

「親はなけれど子は育つ。打ち殺しても、死なぬものは死にませぬぞ。
「親はなくても子は育つ。打ち殺しても、死なないものは死にませんよ。
・人置き … 名詞
・は … 係助詞
・心強く … ク活用の形容詞「心強し」の連用形
・親 … 名詞
・は … 係助詞
・なけれ … ク活用の形容詞「なし」の已然形
・ど … 接続助詞
・子 … 名詞
・は … 係助詞
・育つ … タ行四段活用の動詞「育つ」の終止形
・打ち殺し … サ行四段活用の動詞「打ち殺す」の連用形
・て … 接続助詞
・も … 係助詞
・死な … ナ行変格活用の動詞「死ぬ」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・もの … 名詞
・は … 係助詞
・死に … ナ行変格活用の動詞「死ぬ」の連用形
・ませ … 丁寧の助動詞「ます」の未然形 ⇒ 人置きの嚊から女房への敬意
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・ぞ … 終助詞

御亭さま、さらば。」とばかりに出て行く。
亭主さま、さようなら。」とだけ言って出て行く。
・御亭(ごてい)さま … 名詞
〇さま … 接尾語(相手を見下す気持ちを添える)
・さらば … 感動詞
・と … 格助詞
・ばかり … 副助詞
・に … 格助詞
〇ばかりに … ただ〜だけで
・出 … ダ行下一段活用の動詞「出る」の連用形
・て … 接続助詞
・行く … カ行四段活用の動詞「行く」の終止形

この上さま世を観じ、「わが孫の不憫なも、
雇い主の婆さまは浮世を見通し、「私の孫もかわいそうなのだが、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・上(かみ)さま … 名詞
〇さま … 接尾語(尊敬の意を表す)
〇上さま … 年長者
・世 … 名詞
・を … 格助詞
・観じ … サ行変格活用の動詞「観ず」の連用形
〇観ず … 心を静めて深くありのままを見通す
・わ … 代名詞
・が … 格助詞
・孫 … 名詞
・の … 格助詞
・不憫(ふびん)な … ナリ活用の形容動詞「不憫なり」の連体形
不憫なり … かわいそうである
・も … 係助詞

人の子の乳離れしは、かはゆや。」と見返り給へば、
人の子が乳離れしたのは、たいそう気の毒なことよ。」と振り向いてご覧になると、
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・子 … 名詞
・の … 格助詞
・乳離(ちばな)れ … ラ行下二段活用の動詞「乳離る」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・は … 係助詞
・かはゆ … ク活用の形容詞「かはゆし」の語幹
〇かはゆし … (見ていられないほど)かわいそうである
・や … 間投助詞
・と … 格助詞
・見返り … ラ行四段活用の動詞「見返る」の連用形
〇見返る … 振り向いて見る
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から上さまへの敬意
・ば … 接続助詞

「それは銀が敵、あの娘は死に次第。」と、
(人置きの嚊は)「それは金銭が敵だから、あの娘は死んだらそれまでのこと。」と、
・それ … 代名詞
・は … 係助詞
・銀 … 名詞
・が … 格助詞
・敵 … 名詞
〇銀が敵(かたき) … 金銭のために人々が悩み苦しみ争うこと
・あ … 代名詞
・の … 格助詞
・娘 … 名詞
・は … 係助詞
・死に次第(しだい) … 名詞
〇死に … ナ行変格活用の動詞「死ぬ」の連用形
〇次第 … 接尾語
〇次第 … 事の成り行きまかせ
・と … 格助詞

その母親が聞くもかまはず、連れ行きける。
その母親が聞くのもかまわず、(母親を)連れて行った。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・母親 … 名詞
・が … 格助詞
・聞く … カ行四段活用の動詞「聞く」の連体形
・も … 係助詞
・かまは … ハ行四段活用の動詞「かまふ」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・連れ行き … カ行四段活用の動詞「連れ行く」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

ほどなう大晦日の暮れ方に、この男無常起こり、
間もなく大晦日の暮れ方になり、この男に世の中をはかなく思う気持ちが起こり、
・ほどなう … 活用の形容詞「ほどなし」の連用形、ウ音便
〇ほどなし … 間がない
・大晦日 … 名詞
・の … 格助詞
・暮れ方 … 名詞
・に … 格助詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・男 … 名詞
・無常 … 名詞
〇無常 … 世の中をはかなく思う気持ち
・起こり … ラ行四段活用の動詞「起こる」の連用形

我大分の譲り物を取りながら、胸算用の悪しきゆゑ、
私が多額の親の遺産を受け取りながら、金勘定の心づもりが悪かったため、
・我 … 代名詞
・大分(だいぶん) … 名詞
・の … 格助詞
・譲り物 … 名詞
〇譲り物 … 親の遺産
・を … 格助詞
・取り … ラ行四段活用の動詞「取る」の連用形
・ながら … 接続助詞
・胸算用 … 名詞
〇胸算用 … 心の中で金銭の計算をすること
・の … 格助詞
・悪(あ)しき … シク活用の形容詞「悪し」の連体形
・ゆゑ … 名詞

江戸を立ちのき、伏見の里に住みけるも、女房どもが情けゆゑぞかし。
江戸を立ち退き、伏見の里に住むようになったのも、女房の縁によってのことだよ。
・江戸 … 名詞
・を … 格助詞
・立ち退(の)き … カ行四段活用の動詞「立ち退く」の連用形
・伏見(ふしみ) … 名詞
・の … 格助詞
・里 … 名詞
・に … 格助詞
・住み … マ行四段活用の動詞「住む」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・も … 係助詞
・女房ども … 名詞
〇ども … 接尾語(親近感を添える)
・が … 格助詞
・情け … 名詞
〇情け … 男女間の愛情
・ゆゑ … 名詞
・ぞ … 終助詞
・かし … 終助詞

大福ばかり祝うてなりとも、あらたまの春に二人会ふこそ楽しみなれ。
大福茶だけで祝うのであっても、正月に(夫婦)二人会うことこそが楽しみだ。
・大福(おおぶく) … 名詞
・ばかり … 副助詞
・祝う … ハ行四段活用の動詞「祝ふ」の連用形、ウ音便
・て … 接続助詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
・とも … 接続助詞
・あらたまの … 「春」にかかる枕詞
・春 … 名詞
〇春 … 正月
・に … 格助詞
・二人 … 名詞
・会ふ … ハ行四段活用の動詞「会ふ」の連体形
・こそ … 係助詞・強意
・楽しみ … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形(結び)

心ざしのあはれや、羹箸二膳買ひ置きしが、棚の端に見えけるを取りて、
(女房の)心根の感心なことよ、雑煮箸を二膳買っておいたのが、棚の端に見えたのを取って、
・心ざし … 名詞
〇心ざし … 心根
・の … 格助詞
・あはれ … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の語幹
あはれなり … 感心である
・や … 間投助詞
・羹箸(かんばし) … 名詞
・二膳 … 名詞
・買ひ置き … カ行四段活用の動詞「買ひ置く」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・が … 格助詞
・棚 … 名詞
・の … 格助詞
・端 … 名詞
・に … 格助詞
・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・を … 格助詞
・取り … ラ行四段活用の動詞「取る」の連用形
・て … 接続助詞

「一膳はいらぬ正月よ。」とへし折りて、鍋の下へぞ焚きける。
「一膳はいらない正月よ。」とへし折って、鍋の下で燃やしたのだった。
・一膳 … 名詞
・は … 係助詞
・いら … ラ行四段活用の動詞「いる」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・正月 … 名詞
・よ … 間投助詞
・と … 格助詞
・へし折り … ラ行四段活用の動詞「へし折る」の連用形
・て … 接続助詞
・鍋 … 名詞
・の … 格助詞
・下 … 名詞
・へ … 格助詞
・ぞ … 係助詞・強意
・焚き … カ行四段活用の動詞「焚く」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)

夜更けて、この子泣きやまねば、隣の嚊たち訪とひ寄りて、
夜が更けて、この子が泣きやまないので、隣の主婦たちが訪ねて来て、
・夜 … 名詞
・更け … カ行下二段活用の動詞「更く」の連用形
・て … 接続助詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・子 … 名詞
・泣きやま … マ行四段活用の動詞「泣きやむ」の未然形
・ね … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ば … 接続助詞
・隣 … 名詞
・の … 格助詞
・嚊 … 名詞
〇嚊 … 他家の主婦
・たち … 接尾語(複数の意を表す)
・訪(と)ひ寄り … ラ行四段活用の動詞「訪ひ寄る」の連用形
・て … 接続助詞

摺り粉に地黄煎入れて炊き返し、竹の管にて飲ますことを教へ、
米の粉に地黄煎を入れて炊き返し、竹の管で飲ませることを教え、
・摺(す)り粉(こ) … 名詞
〇摺り粉 … 米の粉
・に … 格助詞
・地黄煎(じおうせん) … 名詞
・入れ … ラ行下二段活用の動詞「入る」の連用形
・て … 接続助詞
・炊(た)き返し … サ行四段活用の動詞「炊き返す」の連用形
・竹 … 名詞
・の … 格助詞
・管(くだ) … 名詞
・にて … 格助詞
・飲ます … サ行段活用の動詞「飲ます」の連体形
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・教へ … ハ行下二段活用の動詞「教ふ」の連用形

「はや一日の間に、思ひなしか、おとがひが痩せた。」と言ふ。
「早くも一日のうちに、気のせいか、あごが痩せた。」と言う。
・はや … 副詞
〇はや … 早くも
・一日 … 名詞
・の … 格助詞
・間 … 名詞
・に … 格助詞
・思ひなし … 名詞
〇思ひなし … 気のせい
・か … 係助詞
・おとがひ … 名詞
〇おとがひ … あご
・が … 格助詞
・痩せ … サ行下二段活用の動詞「痩す」の連用形
・た … 完了の助動詞「た」の終止形
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形

この男、「さても是非なし。」と
この男は、「ほんとにまあ仕方がない。」と
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・男 … 名詞
・さても … 感動詞
〇さても … ほんとにまあ
・是非なし … ク活用の形容詞「是非なし」の終止形
〇是非なし … 仕方がない
・と … 格助詞

心腹立つて、手に持つたる火箸を庭へ投げける。
自分で自分に腹が立って、手に持っていた火箸を土間へ投げつけた。
・心腹(こころばら) … 名詞
・立つ … タ行四段活用の動詞「立つ」の連用形
・て … 接続助詞
〇心腹立つて … 自分で自分に腹が立って
・手 … 名詞
・に … 格助詞
・持つ … タ行四段活用の動詞「持つ」の連用形、促音便
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・火箸 … 名詞
・を … 格助詞
・庭 … 名詞
〇庭 … 土間
・へ … 格助詞
・投げ … ガ行下二段活用の動詞「投ぐ」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

「お亭さまはいとしや、お内儀さまは果報。
「ご亭主さまは気の毒なことよ、お内儀さまは幸運。
・お亭さま … 名詞
〇お … 接頭語(尊敬の意を表す)
〇さま … 接尾語(尊敬の意を表す)
・は … 係助詞
・いとし … シク活用の形容詞「いとし」の終止形
〇いとし … 気の毒である
・や … 間投助詞
・お内儀さま … 名詞
〇お … 接頭語(尊敬の意を表す)
〇さま … 接尾語(尊敬の意を表す)
・は … 係助詞
・果報 … 名詞
〇果報 … 幸運

先の旦那どのが、きれいなる女房を使ふことが好きぢや。
先方の旦那どのが、きれいな女性を使うことが好きじゃ。
・先 … 名詞
・の … 格助詞
・旦那どの … 名詞
〇どの … 接尾語(尊敬の意を表す)
・が … 格助詞
・きれいなる … ナリ活用の形容動詞「きれいなり」の連体形
・女房 … 名詞
〇女房 … 女性
・を … 格助詞
・使ふ … ハ行四段活用の動詞「使ふ」の連体形
・こと … 名詞
・が … 格助詞
・好き … 名詞
・ぢや … 断定の助動詞「ぢや」の終止形

ことに、この中お果てなされた奥さまに似たところがある。
ことに、この間お亡くなりになった(先方の)奥さまに似たところがある。
・ことに … 副詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・中(じゆう) … 名詞
・お果て … タ行下二段活用の動詞「お果つ」の連用形
〇お … 接頭語(尊敬の意を表す)
・なされ … ラ行下二段活用の動詞「なさる」の連用形
なさる … 尊敬の補助動詞 ⇒ 隣の嚊たちから奥さまへの敬意
・た … 完了の助動詞「た」の連体形
・奥さま … 名詞
〇さま … 接尾語(尊敬の意を表す)
・に … 格助詞
・似 … ナ行上一段活用の動詞「似る」の連用形
・た … 存続の助動詞「た」の連体形
・ところ … 名詞
・が … 格助詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形

ほんに、後ろ付きのしをらしきところがそのまま。」と言へば、
ほんとうに、後ろ姿のしおらしいところがそのまま。」と言うと、
・ほんに … 副詞
〇ほんに … ほんとうに
・後ろ付き … 名詞
〇後ろ付き … 後ろ姿
・の … 格助詞
・しをらしき … シク活用の形容詞「しをらし」の連体形
・ところ … 名詞
・が … 格助詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・まま … 名詞
・と … 格助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・ば … 接続助詞

この男聞きもあへず、「最前の銀はそのままあり。
この男は聞き終わらないで、「さっきの金銭はそっくりそのままある。
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・男 … 名詞
・聞き … カ行四段活用の動詞「聞く」の連用形
・も … 係助詞
・あへ … ハ行下二段活用の動詞「あふ」の已然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
〇聞きもあへず … 聞き終わらないで
・最前 … 名詞
・の … 格助詞
・銀 … 名詞
・は … 係助詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・まま … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形

それを聞いてからは、たとへ命が果て次第。」と駆け出し行きて、
それを聞いた以上は、たとえ命が果ててもかまわない。」と駆け出して行って、
・それ … 代名詞
・を … 格助詞
・聞い … カ行四段活用の動詞「聞く」の連用形、イ音便
・て … 接続助詞
・から … 接続助詞
・は … 係助詞
〇からは … 以上は
・たとへ … 副詞
・命 … 名詞
・が … 格助詞
・果て次第 … 名詞
〇果て … タ行下二段活用の動詞「果つ」の連用形
〇次第 … 接尾語
・と … 格助詞
・駆け出し … サ行四段活用の動詞「駆け出す」の連用形
・行き … カ行四段活用の動詞「行く」の連用形
・て … 接続助詞

女房取り返して、涙で年を取りける。
女房を取り返して、涙ながらに新年を迎えた。
・女房 … 名詞
・取り返し … サ行四段活用の動詞「取り返す」の連用形
・て … 接続助詞
・涙 … 名詞
・で … 格助詞
・年 … 名詞
・を … 格助詞
・取り … ラ行四段活用の動詞「取る」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

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