安倍晴明・今昔物語集 現代語訳・品詞分解

また、此の晴明、広沢の寛朝僧正と申しける人の御房に参りて、
また、この晴明が、広沢の寛朝僧正と申していた人の御寺に参って、
・また … 接続詞
・此(こ) … 代名詞
・の … 格助詞
・晴明(せいめい) … 名詞
・広沢 … 名詞
・の … 格助詞
・寛朝僧正(かんちようそうじよう) … 名詞
・と … 格助詞
・申し … サ行四段活用の動詞「申す」の連用形
申す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 作者から寛朝僧正への敬意
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・御房(ごぼう) … 名詞
・に … 格助詞
・参り … ラ行四段活用の動詞「参る」の連用形
参る … 「行く」の謙譲語 ⇒ 作者から寛朝僧正への敬意
・て … 接続助詞

物申し承りける間、若き君達、僧ども有りて、晴明に物語などして云はく、
お話しをうかがっていた時、若い君達や僧たちがいて、晴明に雑談などして言うには、
・物申し … サ行四段活用の動詞「物申す」の連用形
物申す … 「物言ふ」の謙譲語 ⇒ 作者から寛朝僧正への敬意
・承(うけたまわ)り … ラ行四段活用の動詞「承る」の連用形
承る … 「聞く」の謙譲語 ⇒ 作者から寛朝僧正への敬意
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・間 … 名詞
・若き … ク活用の形容詞「若し」の連体形
・君達(きんだち) … 名詞
・僧ども … 名詞、「ども」は接尾語
・有り … ラ行変格活用の動詞「有り」の連用形
・て … 接続助詞
・晴明 … 名詞
・に … 格助詞
・物語 … 名詞
・など … 副助詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・云(い)は … ハ行四段活用の動詞「云ふ」の未然形
・く … 接尾語(準体助詞)

「そこの識神を使ひたまふなるは。忽ちに人をば殺したまふらむや。」と。
「あなたは識神を使われるそうですねえ。一瞬にして人を殺されるのでしょうか。」と。
・そこ … 代名詞
〇そこ … あなた
・の … 格助詞
・識神(しきじん) … 名詞
〇識神 … 陰陽師が使う下級の精霊や鬼神
・を … 格助詞
・使ひ … ハ行四段活用の動詞「使ふ」の連用形
・たまふ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の終止形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 君達・僧どもから晴明への敬意
・なる … 伝聞の助動詞「なり」の連体形
・は … 終助詞・詠嘆
・忽(たちま)ちに … 副詞
・人 … 名詞
・を … 格助詞
・ば … 接続助詞
・殺し … サ行四段活用の動詞「殺す」の連用形
・たまふ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の終止形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 君達・僧どもから晴明への敬意
・らむ … 現在推量の助動詞「らむ」の終止形
・や … 係助詞
・と … 格助詞

晴明、「道の大事を此く現にも問ひたまふかな。」と云ひて、
晴明は、「陰陽道の秘事をこうも遠慮なくお尋ねなさることよ。」と言って、
・晴明 … 名詞
・道 … 名詞
・の … 格助詞
・大事 … 名詞
・を … 格助詞
・此(か)く … 副詞
・現(あらわ)に … ナリ活用の形容動詞「現なり」の連用形
現なり … 無遠慮である
・も … 係助詞
・問ひ … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の連用形
・たまふ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の連体形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 晴明から君達・僧どもへの敬意
・かな … 終助詞・詠嘆
・と … 格助詞
・云ひ … ハ行四段活用の動詞「云ふ」の連用形
・て … 接続助詞

「安くはえ殺さじ、少し力だに入れて候へば、必ず殺してむ。
「簡単には殺せないでしょう。少し力を入れさえすれば、必ず殺すでしょう。
・安く … ク活用の形容詞「安し」の連用形
・は … 係助詞
・え … 副詞
え(~打消) … ~できない(不可能)
・殺さ … サ行四段活用の動詞「殺す」の未然形
・じ … 打消推量の助動詞「じ」の終止形
・少し … 副詞
・力 … 名詞
・だに … 副助詞
・入れ … ラ行下二段活用の動詞「入る」の連用形
・て … 接続助詞
・候(そうら)へ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の已然形
候ふ … 丁寧の補助動詞 ⇒ 晴明から君達・僧どもへの敬意
・ば … 接続助詞
・必ず … 副詞
・殺し … サ行四段活用の動詞「殺す」の連用形
・て … 強意の助動詞「つ」の未然形
・む … 推量の助動詞「む」の終止形

虫などをば、塵ばかりの事せむに、必ず殺しつべきに、生くやうを知らねば、
虫などは、わずかなことをすれば、必ず殺せるでしょうが、生かす方法を知らないので、
・虫 … 名詞
・など … 副助詞
・を … 格助詞
・ば … 係助詞
・塵(ちり) … 名詞
〇塵 … ほんの少しのこと
・ばかり … 副助詞
・の … 格助詞
・事 … 名詞
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・む … 仮定の助動詞「む」の未然形
・に … 接続助詞
・必ず … 副詞
・殺し … サ行四段活用の動詞「殺す」の連用形
・つ … 強意の助動詞「つ」の終止形
・べき … 可能の助動詞「べし」の連体形
・に … 接続助詞
・生くる … カ行上二段活用の動詞「生く」の連体形
〇生く … 生きさせる
・やう … 名詞
・を … 格助詞
・知ら … ラ行四段活用の動詞「知る」の未然形
・ね … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ば … 接続助詞

罪を得ぬべければ、由無きなり。」など云ふ程に、
きっと罪を作るでしょうから、無益です。」などと言っているうちに、
・罪 … 名詞
・を … 格助詞
・得(え) … ア行下二段活用の動詞「得(う)」の連用形
・ぬ … 強意の助動詞「ぬ」の終止形
・べけれ … 推量の助動詞「べし」の已然形
・ば … 接続助詞
・由(よし) … 名詞
・無き … ク活用の形容詞「無し」の連体形
由無し … 利益がない
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
・など … 副助詞
・云ふ … ハ行四段活用の動詞「云ふ」の連体形
・程 … 名詞
・に … 格助詞

庭より蝦蟆の五つ六つばかり踊りつつ、池の辺ざまに行きけるを、
庭から蛙が五、六匹ほど飛び跳ねながら、池のほとりの方向に行ったのを、
・庭 … 名詞
・より … 格助詞
・蝦蟆(かえる) … 名詞
・の … 格助詞
・五つ六つ … 名詞
・ばかり … 副助詞
・踊り … ラ行四段活用の動詞「踊る」の連用形
・つつ … 接続助詞
・池 … 名詞
・の … 格助詞
・辺(ほとり)ざま … 名詞、「ざま」は接尾語
〇~ざま … ~の方向
・に … 格助詞
・行き … カ行四段活用の動詞「行く」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・を … 格助詞

君達、「然は彼一つ殺したまへ。試みむ。」と云ひければ、
貴公子達が、「では、あれを一匹殺してください。試してみよう。」と言ったので、
・君達 … 名詞
・然(さ)は … 接続詞
〇然は … それでは
・彼 … 名詞
・一つ … 名詞
・殺し … サ行四段活用の動詞「殺す」の連用形
・たまへ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の命令形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 君達から晴明への敬意
・試み … マ行上一段活用の動詞「試みる」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・云ひ … ハ行四段活用の動詞「云ふ」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

晴明、「罪作りたまふ君かな。
晴明は、「罪を作りなさる方ですねえ。
・晴明 … 名詞
・罪 … 名詞
・作り … ラ行四段活用の動詞「作る」の連用形
・たまふ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の連用形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 晴明から君達への敬意
・君 … 名詞
・かな … 終助詞・詠嘆

然るにても、『試みたまはむ。』と有れば。」とて、
それにしても、『お試しなさろう。』とおっしゃるので。」と言って、
・然(さ)るにても … 接続詞
〇然るにても … それにしても
・試み … マ行上一段活用の動詞「試みる」の連用形
・たまは … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の未然形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 晴明から君達への敬意
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・有れ … ラ行変格活用の動詞「有り」の已然形
・ば … 接続助詞
・とて … 格助詞

草の葉を摘み切りて、物を読むやうにして、蝦蟆の方へ投げ遣りたりければ、
草の葉を摘み取って、何かを唱えるみたいにして、蛙の方向に投げやったところ、
・草 … 名詞
・の … 格助詞
・葉 … 名詞
・を … 格助詞
・摘み切り … ラ行四段活用の動詞「摘み切る」の連用形
・て … 接続助詞
・物 … 名詞
・を … 格助詞
・読む … マ行四段活用の動詞「読む」の連用形
・やうに … 比況の助動詞「やうなり」の連用形
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・蝦蟆 … 名詞
・の … 格助詞
・方 … 名詞
・へ … 格助詞
・投げ遣(や)り … ラ行四段活用の動詞「投げ遣る」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

其の草の葉蝦蟆の上に懸かると見ける程に、蝦蟆は真平にひしげて死にたりける。
その草の葉が蛙の上にかかるのを見ていると、蛙はぺしゃんこにつぶれて死んだのだ。
・其 … 代名詞
・の … 格助詞
・草 … 名詞
・の … 格助詞
・葉 … 名詞
・蝦蟆 … 名詞
・の … 格助詞
・上 … 名詞
・に … 格助詞
・懸かる … ラ行四段活用の動詞「懸かる」の連体形
・と … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・程 … 名詞
・に … 格助詞
〇~程に … ~と
・蝦蟆 … 名詞
・は … 係助詞
・真平(まひら)に … ナリ活用の形容動詞「真平なり」の連用形
・ひしげ … ガ行下二段活用の動詞「ひしぐ」の連用形
〇ひしぐ … 押しつぶされる
・て … 接続助詞
・死に … ナ行変格活用の動詞「死ぬ」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・ける … 詠嘆の助動詞「けり」の連体形

僧ども此を見て、色を失ひてなむ恐ぢ怖れける。
僧たちはこれを見て、顔色をなくして怖がり恐れた。
・僧ども … 名詞
・此(これ) … 代名詞
・を … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・て … 接続助詞
・色 … 名詞
・を … 格助詞
・失ひ … ハ行四段活用の動詞「失ふ」の連用形
〇色を失う … 真っ青になる
・て … 接続助詞
・なむ … 係助詞
・恐(お)ぢ … ダ行上二段活用の動詞「恐づ」の連用形
・怖(おそ)れ … ラ行下二段活用の動詞「怖る」の連用形
〇恐ぢ怖る … 怖がり恐れる
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

此の晴明は、家の内に人無き時は識神を使ひけるにや有りけむ、
この晴明は、家の中に人がいない時には識神を使っていたのだろうか、
・此 … 代名詞
・の … 格助詞
・晴明 … 名詞
・は … 係助詞
・家 … 名詞
・の … 格助詞
・内 … 名詞
・に … 格助詞
・人 … 名詞
・無き … ク活用の形容詞「無し」の連体形
・時 … 名詞
・は … 係助詞
・識神 … 名詞
・を … 格助詞
・使ひ … ハ行四段活用の動詞「使ふ」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・や … 係助詞・疑問
・有り … ラ行変格活用の動詞「有り」の連用形
・けむ … 過去推量の助動詞「けむ」の連体形(結び)

人も無きに蔀上げ下ろす事なむ有りける。
人もいないのに蔀を上げたり下ろしたりすることがあった。
・人 … 名詞
・も … 係助詞
・無き … ク活用の形容詞「無し」の連体形
・に … 接続助詞
・蔀(しとみ) … 名詞
・上げ … ガ行下二段活用の動詞「上ぐ」の連用形
・下ろす … サ行四段活用の動詞「下ろす」の連体形
・事 … 名詞
・なむ … 係助詞・強調
・有り … ラ行変格活用の動詞「有り」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)

また、門を差す人も無かりけるに、差されなむどなむ有りける。
また、門を閉ざす人もいないのに、閉ざされてしまうようなこともあった。
・また … 接続詞
・門(かど) … 名詞
・を … 格助詞
・差す … サ行四段活用の動詞「差す」の連体形
〇門を差す … 門に鍵をかける
・人 … 名詞
・も … 係助詞
・無かり … ク活用の形容詞「無し」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・に … 接続助詞
・差さ … サ行四段活用の動詞「差す」の未然形
・れ … 受身の助動詞「る」の連用形
・なむど … 副助詞
・なむ … 係助詞・強調
・有り … ラ行変格活用の動詞「有り」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)

此やうに稀有の事ども多かり、となむ語り伝ふる。
このように不思議に思われる事々が多かった、と語り伝えている。
・此(か)やうに … ナリ活用の形容動詞「此やうなり」の連用形
・稀有(けう) … 名詞
・の … 格助詞
・事ども … 名詞、「ども」は接尾語
稀有の事 … 不思議なこと
・多かり … ク活用の形容詞「多し」の連用形
・と … 格助詞
・なむ … 係助詞・強調
・語り伝ふる … ハ行下二段活用の動詞「語り伝ふ」の連体形(結び)

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