丹波に出雲といふ所あり・徒然草

丹波に出雲といふ所あり。
丹波の国に出雲という所がある。
・丹波(たんば) … 名詞
・に … 格助詞
・出雲(いずも) … 名詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・所 … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形

大社を移して、めでたく造れり。
出雲大社の神霊を迎えて、立派に造ってある。
・大社(おおやしろ) … 名詞
・を … 格助詞
・移し … サ行四段活用の動詞「移す」の連用形
移す … 神霊を迎える
・て … 接続助詞
・めでたく … ク活用の形容詞「めでたし」の連用形
めでたし … 立派である
・造れ … ラ行四段活用の動詞「造る」の命令形
・り … 存続の助動詞「り」の終止形

しだのなにがしとかやしる所なれば、秋のころ、
しだの誰それとかが領有する所なので、秋の頃、
・しだのなにがし … 名詞
・と … 格助詞
・か … 係助詞
・や … 間投助詞
・しる … ラ行四段活用の動詞「しる」の連体形
しる … 領有する
・所 … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞
・秋 … 名詞
・の … 格助詞
・ころ … 名詞

聖海上人、そのほかも、人あまた誘ひて、
聖海上人やその他も、人を大勢誘って、
・聖海上人(しようかいしようにん) … 名詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・ほか … 名詞
・も … 係助詞
・人 … 名詞
・あまた … 副詞
・誘ひ … ハ行四段活用の動詞「誘ふ」の連用形
・て … 接続助詞

「いざ、給へ、出雲拝みに。かいもちひ召させん。」とて、
「さあ、おいで、出雲神社参拝に。掻餅をごちそうします。」と言って、
・いざ … 感動詞
・給(たま)へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の命令形
・出雲 … 名詞
・拝み … マ行四段活用の動詞「拝む」の連用形
・に … 格助詞
・かいもちひ … 名詞
○かいもちひ … ぼたもち
・召さ … サ行四段活用の動詞「召す」の未然形
召す … お食べになる
・せ … ;使役の助動詞「す」の未然形
・ん … 意志の助動詞「ん」の終止形
・とて … 格助詞

具しもて行きたるに、おのおの拝みて、ゆゆしく信おこしたり。
連れて行ったところ、それぞれ拝んで、ひどく信仰心を起こした。
・具(ぐ)し … サ行変格活用の動詞「具す」の連用形
・もて … 連語、「以って」が変形したもの
・行き … カ行四段活用の動詞「行く」の連用形
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・に … 接続助詞
・おのおの … 副詞
・拝み … マ行四段活用の動詞「拝む」の連用形
・て … 接続助詞
・ゆゆしく … シク活用の形容詞「ゆゆし」の連用形
ゆゆし … はなはだしい
・信 … 名詞
・おこし … サ行四段活用の動詞「おこす」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の終止形

御前なる獅子・狛犬、背きて、後ろさまに立ちたりければ、
社殿の御前にある獅子・狛犬が、背を向け合って、後ろ向きに立っていたので、
・御前(おまえ) … 名詞
・なる … 存在の助動詞「なり」の連体形
・獅子(しし) … 名詞
・狛犬(こまいぬ) … 名詞
・背(そむ)き … カ行四段活用の動詞「背く」の連用形
背く … 背を向け合う
・て … 接続助詞
・後ろさま … 名詞
・に … 格助詞
・立ち … タ行四段活用の動詞「立つ」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

上人いみじく感じて、「あなめでたや。この獅子の立ちやう、
上人はとても感動して、「ああすばらしいなあ。この獅子の立ち方は、
・上人 … 名詞
・いみじく … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形
・感じ … サ行変格活用の動詞「感ず」の連用形
・て … 接続助詞
・あな … 感動詞
・めでた … ク活用の形容詞「めでたし」の語幹
めでたし … すばらしい
・や … 間投助詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・獅子 … 名詞
・の … 格助詞
・立ちやう … 名詞
○立ち … タ行四段活用の動詞「立つ」の連用形
○やう … 接尾語

いとめづらし。深きゆゑあらん。」と涙ぐみて、
たいへん珍しい。深いわけがあるのだろう。」と涙ぐんで、
・いと … 副詞
・めづらし … シク活用の形容詞「めづらし」の終止形
・深き … ク活用の形容詞「深し」の連体形
・ゆゑ … 名詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ん … 推量の助動詞「ん」の終止形
・と … 格助詞
・涙ぐみ … マ行四段活用の動詞「涙ぐむ」の連用形
・て … 接続助詞

「いかに、殿ばら、殊勝のことは御覧じとがめずや。
「これこれ、皆様、ありがたいことがお目に留まりませんか。
・いかに … 感動詞・呼びかけ
いかに … これこれ
・殿ばら … 名詞
○殿ばら … 皆様方
・殊勝(しゆしよう) … ナリ活用の形容動詞「殊勝なり」の語幹
○殊勝なり … 神秘的である
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・は … 係助詞
・御覧じとがめ … マ行下二段活用の動詞「御覧じとがむ」の未然形
○御覧じとがむ … 「見とがむ」の尊敬語
○見とがむ … 見て怪しいと思う
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・や … 係助詞

むげなり。」と言へば、おのおのあやしみて、
ひどいことです。」と言うので、それぞれ不思議がって、
・むげなり … ナリ活用の形容動詞「むげなり」の終止形
むげなり … あまりにもひどい
・と … 格助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・ば … 接続助詞
・おのおの … 副詞
・あやしみ … マ行四段活用の動詞「あやしむ」の連用形
・て … 接続助詞

「まことに他に異なりけり。都のつとに語らん。」など言ふに、
「ほんとに他と違っているなあ。都へのみやげ話として語ろう。」などと言うと、
・まことに … 副詞
・他 … 名詞
・に … 格助詞
・異なり … ナリ活用の形容動詞「異なり」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
・都 … 名詞
・の … 格助詞
・つと … 名詞
○つと … みやげ
・に … 格助詞
・語ら … ラ行四段活用の動詞「語る」の未然形
・ん … 意志の助動詞「ん」の終止形
・など … 副助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・に … 接続助詞

上人なほゆかしがりて、
上人はいっそう知りたがって、
・上人 … 名詞
・なほ … 副詞
・ゆかしがり … ラ行四段活用の動詞「ゆかしがる」の連用形
○ゆかしがる … 知りたがる
・て … 接続助詞

おとなしくもの知りぬべき顔したる神官を呼びて、
年配で物事をよく知っていそうな顔をしている神官を呼んで、
・おとなしく … シク活用の形容詞「おとなし」の連用形
おとなし … 年配で思慮分別がある
・もの … 名詞
・知り … ラ行四段活用の動詞「知る」の連用形
・ぬ … 強意の助動詞「ぬ」の終止形
・べき … 推量の助動詞「べし」の連体形
・顔 … 名詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・神官(しんかん) … 名詞
・を … 格助詞
・呼び … バ行四段活用の動詞「呼ぶ」の連用形
・て … 接続助詞

「この御社の獅子の立てられやう、定めて習ひあることに侍らん。
「この御社の獅子の立てられ方は、きっと格別な由緒のあることでございましょう。
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・御社(みやしろ) … 名詞
・の … 格助詞
・獅子 … 名詞
・の … 格助詞
・立てられやう … 名詞
○立て … タ行下二段活用の動詞「立つ」の未然形
○られ … 受身の助動詞「らる」の連用形(尊敬の助動詞とする説もある)
○やう … 接尾語
・定めて … 副詞
○定めて … きっと
・習(なら)ひ … 名詞
○習ひensp;… 格別な由緒
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・こと … 名詞
・に … ;断定の助動詞「なり」の連用形
・侍(はべ)ら … ラ行変格活用の動詞「侍り」の未然形
侍り … 「あり」の丁寧語
・ん … 推量の助動詞「ん」の終止形

ちと承らばや。」と言はれければ、
少しお聞きしたいものです。」とおっしゃったところ、
・ちと … 副詞
・承(うけたまわ)ら … ラ行四段活用の動詞「承る」の未然形
承る … 「聞く」の謙譲語
・ばや … 終助詞
ばや … 〜できたらなあ(願望)
・と … 格助詞
・言は … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の未然形
・れ … 尊敬の助動詞「る」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

「そのことに候ふ。さがなき童べどものつかまつりける、
「そのことでございます。いたずら好きな子供たちがいたしました、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・候(そうろ)ふ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の終止形
候ふ … 丁寧の補助動詞
・さがなき … ク活用の形容詞「さがなし」の連体形
さがなし … いたずら好きである
・童(わらわ)べども … 名詞
・の … 格助詞
・つかまつり … ラ行四段活用の動詞「つかまつる」の連用形
つかまつる … 「行ふ」の丁寧語
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

奇怪に候ふことなり。」とて、さし寄りて、
けしからぬことでございます。」と言って、近寄って、
・奇怪に … ナリ活用の形容動詞「奇怪なり」の連用形
○奇怪なり … けしからぬことだ
・候ふ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の連体形
・こと … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
・とて … 格助詞
・さし寄り … ラ行四段活用の動詞「さし寄る」の連用形
○さし寄る … 近寄る
・て … 接続助詞

据ゑ直して往にければ、上人の感涙いたづらになりにけり。
据え直して立ち去ったので、上人の感動の涙は無駄になってしまった。
・据ゑ直し … 
・て … 接続助詞
・往(い)に … ナ行変格活用の動詞「往ぬ」の連用形
○往ぬ … 立ち去る
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
・上人 … 名詞
・の … 格助詞
・感涙 … 名詞
・いたづらに … ナリ活用の形容動詞「いたづらなり」の連用形
いたづらなり … 役に立たない
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

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