よろづのことは頼むべからず・徒然草

よろづのことは頼むべからず。
すべてのことは頼みにすることができない。
・よろづ … 名詞
○よろづ … すべて
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・は … 係助詞
・頼む … マ行四段活用の動詞「頼む」の終止形
頼む … 頼みにする
・べから … 可能の助動詞「べし」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

おろかなる人は、深くものを頼むゆゑに、
思慮の足りない人は、深くものを頼みにするから、
・おろかなる … ナリ活用の形容動詞「おろかなり」の連体形
おろかなり … 知恵が足りない
・人 … 名詞
・は … 係助詞
・深く … ク活用の形容詞「深し」の連用形
・もの … 名詞
・を … 格助詞
・頼む … マ行四段活用の動詞「頼む」の連体形
・ゆゑ … 名詞
・に … 格助詞

恨み、怒ることあり。
恨んだり怒ったりすることがある。
・恨み … マ行上二段活用の動詞「恨む」の連用形
・怒る … ラ行四段活用の動詞「怒る」の連体形
・こと … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形

勢ありとて頼むべからず。こはき者まづ滅ぶ。
権勢があるからといって頼みにはできない。強力な者が先に滅びる。
・勢ひ … 名詞
○勢ひ … 権勢
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形
・とて … 格助詞
・頼む … マ行四段活用の動詞「頼む」の終止形
・べから … 可能の助動詞「べし」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・こはき … ク活用の形容詞「こはし」の連体形
○こはし … (力や勢いが)強い
・者 … 名詞
・まづ … 副詞
・滅ぶ … バ行上二段活用の動詞「滅ぶ」の終止形

財多しとて頼むべからず。時の間に失ひやすし。
財産が多いからといって頼みにはできない。わずかの間に失いやすい。
・財(たから) … 名詞
・多し … ク活用の形容詞「多し」の終止形
・とて … 格助詞
・頼む … マ行四段活用の動詞「頼む」の終止形
・べから … 可能の助動詞「べし」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・時 … 名詞
・の … 格助詞
・間 … 名詞
○時の間(ま) … ほんのわずかな間
・に … 格助詞
・失ひ … ハ行四段活用の動詞「失ふ」の連用形
・やすし … ク活用の形容詞「やすし」の終止形

才ありとて頼むべからず。孔子も時に合はず。
学問があるからといって頼みにはできない。孔子も好い時機にめぐりあわなかった。
・才(ざえ) … 名詞
○才 … 学問
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形
・とて … 格助詞
・頼む … マ行四段活用の動詞「頼む」の終止形
・べから … 可能の助動詞「べし」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・孔子 … 名詞
・も … 係助詞
・時 … 名詞
・に … 格助詞
・合は … ハ行四段活用の動詞「合ふ」の未然形
○時に合ふ … 好い時機にめぐりあう
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

徳ありとて頼むべからず。顔回も不幸なりき。
人徳があるからといって頼みにはできない。顔回も不幸だった。
・徳 … 名詞
○徳 … 人徳
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形
・とて … 格助詞
・頼む … マ行四段活用の動詞「頼む」の終止形
・べから … 可能の助動詞「べし」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・顔回(がんかい) … 名詞
・も … 係助詞
・不幸 … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の連用形
・き … 過去の助動詞「き」の終止形

君の寵をも頼むべからず。誅を受くること速やかなり。
主君の寵愛も頼みにはできない。たちまち罪を負って殺されることがある。
・君 … 名詞
・の … 格助詞
・寵(ちよう) … 名詞
○寵 … 寵愛
・を … 格助詞
・も … 係助詞
・頼む … マ行四段活用の動詞「頼む」の終止形
・べから … 可能の助動詞「べし」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・誅(ちゆう) … 名詞
○誅 … 罪をとがめて殺すこと
・を … 格助詞
・受くる … カ行下二段活用の動詞「受く」の連体形
・こと … 名詞
・速やかなり … ナリ活用の形容動詞「速やかなり」の終止形

奴従へりとて頼むべからず。背き、走ることあり。
召使いが従っているからといって頼みにはできない。背いて逃げることがある。
・奴(やつこ) … 名詞
○奴 … 召使い
・従へ … ハ行四段活用の動詞「従ふ」の命令形
・り … 存続の助動詞「り」の終止形
・とて … 格助詞
・頼む … マ行四段活用の動詞「頼む」の終止形
・べから … 可能の助動詞「べし」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・背(そむ)き … カ行四段活用の動詞「背く」の連用形
・走る … ラ行四段活用の動詞「走る」の連体形
・こと … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形

人の志をも頼むべからず。必ず変ず。
人の好意も頼みにはできない。必ず変わる。
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・志 … 名詞
○志 … 好意
・を … 格助詞
・も … 係助詞
・頼む … マ行四段活用の動詞「頼む」の終止形
・べから … 可能の助動詞「べし」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・必ず … 副詞
・変ず … サ行変格活用の動詞「変ず」の終止形

約をも頼むべからず。信あること少なし。
約束も頼みにはできない。信義のあることは少ない。
・約 … 名詞
・を … 格助詞
・も … 係助詞
・頼む … マ行四段活用の動詞「頼む」の終止形
・べから … 可能の助動詞「べし」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・信 … 名詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・こと … 名詞
・少なし … ク活用の形容詞「少なし」の終止形

身をも人をも頼まざれば、是なるときは喜び、
自分も他人も頼みにしなければ、うまくいったときは喜び、
・身 … 名詞
・を … 格助詞
・も … 係助詞
・人 … 名詞
・を … 格助詞
・も … 係助詞
・頼ま … マ行四段活用の動詞「頼む」の未然形
・ざれ … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ば … 接続助詞
・是(ぜ) … 名詞
・なる … 断定の助動詞「なり」の連体形
・とき … 名詞
○是なるとき … うまくいったとき
・は … 係助詞
・喜び … バ行四段活用の動詞「喜ぶ」の連用形

非なるときは恨みず。
うまくいかないときは恨むことがない。
・非 … 名詞
・なる … 断定の助動詞「なり」の連体形
・とき … 名詞
・は … 係助詞
・恨み … マ行上二段活用の動詞「恨む」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

左右広ければさはらず。
左右が広ければ妨げにならない。
・左右(さう) … 名詞
・広けれ … ク活用の形容詞「広し」の已然形
・ば … 接続助詞
・さはら … ラ行四段活用の動詞「さはる」の未然形
○さはる … 自由な行動の妨げになる
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

前後遠ければ塞がらず。
前後が遠く離れていれば先がつかえない。
・前後 … 名詞
・遠けれ … ク活用の形容詞「遠し」の已然形
・ば … 接続助詞
・塞(ふさ)がら … ラ行四段活用の動詞「塞がる」の未然形
○塞がる … つまる
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

せばきときはひしげ砕く。
狭い時はつぶれ砕ける。
・せばき … ク活用の形容詞「せばし」の連体形
・とき … 名詞
・は … 係助詞
・ひしげ … ガ行下二段活用の動詞「ひしぐ」の連用形
・砕(くだ)く … カ行下二段活用の動詞「砕く」の終止形
○ひしげ砕く … つぶれ砕ける

心を用ゐること少しきにしてきびしきときは、ものに逆ひ、争ひて破る。
心を働かせることが少なくて厳格なときは、人に逆らい、争って傷つく。
・心 … 名詞
・を … 格助詞
・用ゐる … ワ行上一段活用の動詞「用ゐる」の連体形
○用ゐる … 働かせる
・こと … 名詞
・少しきに … ナリ活用の形容動詞「少しきなり」の連用形
・して … 接続助詞
・きびしき … シク活用の形容詞「きびし」の連体形
○きびし … 厳格である
・とき … 名詞
・は … 係助詞
・もの … 名詞
○もの … 人
・に … 格助詞
・逆(さか)ひ … ハ行四段活用の動詞「逆ふ」の連用形
・争ひ … ハ行四段活用の動詞「争ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・破る … ラ行下二段活用の動詞「破る」の終止形
○破る … 傷つく

ゆるくしてやはらかなるときは、一毛も損ぜず。
ゆったりとして柔軟なときは、いささかも傷つくことがない。
・ゆるく … ク活用の形容詞「ゆるし」の連用形
○ゆるし … ゆるやかである
・して … 接続助詞
・やはらかなる … ナリ活用の形容動詞「やはらかなり」の連体形
○やはらかなり … 柔軟なさま
・とき … 名詞
・は … 係助詞
・一毛(いちもう) … 名詞
・も … 係助詞
○一毛も … ほんのわずかも
・損ぜ … サ行変格活用の動詞「損ず」の未然形
○損ず … 傷つく
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

人は天地の霊なり。
人は天地の間で最も霊妙なものである。
・人 … 名詞
・は … 係助詞
・天地 … 名詞
・の … 格助詞
・霊 … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

天地は限るところなし。
天地は限定されることがない。
・天地 … 名詞
・は … 係助詞
・限る … ラ行四段活用の動詞「限る」の連体形
○限る … 限定される
・ところ … 名詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形

人の性なんぞことならん。
人の本性もどうしてこれと異なるだろうか。
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・性(しよう) … 名詞
○性 … 本来の性質
・なんぞ … 副詞
・ことなら … ナリ活用の形容動詞「ことなり」の未然形
・ん … 推量の助動詞「ん」の連体形

寛大にしてきはまらざるときは、
心がゆったりとして極限に達していないときは、
・寛大に … ナリ活用の形容動詞「寛大なり」の連用形
○寛大なり … 心が広くゆったりしている
・して … 接続助詞
・きはまら … ラ行四段活用の動詞「きはまる」の未然形
○きはまる … 極限に達する
・ざる … 打消の助動詞「ず」の連体形
・とき … 名詞
・は … 係助詞

喜怒これにさはらずして、もののためにわづらはず。
喜びも怒りも本性の妨げにならず、物事に思い悩むことはない。
・喜怒 … 名詞
・これ … 代名詞
・に … 格助詞
・さはら … ラ行四段活用の動詞「さはる」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・して … 接続助詞
・もの … 名詞
・の … 格助詞
・ため … 名詞
・に … 格助詞
・わづらは … ハ行四段活用の動詞「わづらふ」の未然形
わづらふ … 思い悩む
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

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