よろづのことは、月見るにこそ慰むものなれ。
すべてのことは、月を眺めることによって、気持ちが晴れるものだ。
・よろづ … 名詞
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・は … 係助詞
・月 … 名詞
・見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・に … 格助詞
・こそ … 係助詞・強意
・慰む … マ行四段活用の動詞「慰む」の連体形
・もの … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形(結び)
ある人の、「月ばかりおもしろきものはあらじ。」と言ひしに、
ある人が、「月ほど趣のあるものはないだろう。」と言ったところ、
・ある … 連体詞
・人 … 名詞・の … 格助詞
・月 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・おもしろき … ク活用の形容詞「おもしろし」の連体形
○おもしろし … 趣がある
・もの … 名詞
・は … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・じ … 打消推量の助動詞「じ」の終止形
・と … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・に … 接続助詞
また一人、「露こそあはれなれ。」と争ひしこそ、をかしけれ。
別の一人が、「露のほうが情趣が深い。」と論争したのは、実に、おもしろい。
・また … 接続詞
・一人 … 名詞
・露 … 名詞
・こそ … 係助詞・強意
・あはれなれ … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の已然形(結び)
○あはれなり … 情趣が深い
・と … 格助詞
・争ひ … ハ行四段活用の動詞「争ふ」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・こそ … 係助詞・強意
・をかしけれ … シク活用の形容詞「をかし」の已然形(結び)
○をかし … おもしろい
折にふれば、何かはあはれならざらん。
時季に適合すれば、何だって情趣の深くないものがあるだろうか。
・折 … 名詞
○折 … 時季
・に … 格助詞
・ふれ … ラ行下二段活用の動詞「ふる」の未然形
○ふる … 出会う
・ば … 接続助詞
・何 … 代名詞
・かは … 係助詞・反語
・あはれなら … ナリ活用の形動容詞「あはれなり」の未然形
・ざら … 打消の助動詞「ず」の未然形
・ん … 推量の助動詞「ん」の連体形(結び)
月花はさらなり、風のみこそ人に心はつくめれ。
月や花はいうまでもないが、まさに風こそ、人に感興を起こさせるようだ。
・月 … 名詞
・花 … 名詞
・は … 係助詞
・さらなり … ナリ活用の形動容詞「さらなり」の終止形
○さらなり … いうまでもない
・風 … 名詞
・のみ … 副助詞
・こそ … 係助詞・強意
・人 … 名詞
・に … 格助詞
・心 … 名詞
○心 … 情趣を解する心
・は … 係助詞
・つく … カ行下二段活用の動詞「つく」の終止形
○つく … 付着させる
・めれ … 推定の助動詞「めり」の已然形(結び)
岩に砕けて清く流るる水のけしきこそ、時をも分かずめでたけれ。
岩に砕けて清らかに流れる水の様子こそ、時季の区別なくすばらしい。
・岩 … 名詞
・に … 格助詞
・砕け … カ行下二段活用の動詞「砕く」の連用形
・て … 接続助詞
・清く … ク活用の形容詞「清し」の連用形
○清し … 清らかで美しい
・流るる … ラ行下二段活用の動詞「流る」の連体形
・水 … 名詞
・の … 格助詞
・けしき … 名詞
○けしき … 様子
・こそ … 係助詞・強意
・時 … 名詞
・を … 格助詞
・も … 係助詞
・分か … カ行四段活用の動詞「分く」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・めでたけれ … ク活用の形容詞「めでたし」の已然形(結び)
○めでたし … すばらしい
「沅・湘日夜東に流れ去る。
「沅水や湘水は昼も夜も東の方に流れ去って行く。
・沅(げん) … 名詞
・湘(しよう) … 名詞
・日夜 … 名詞
・東(ひんがし) … 名詞
・に … 格助詞
・流れ去る … ラ行四段活用の動詞「流れ去る」の終止形
愁人のために住まること少時もせず。」と
愁いに沈む自分のために、ほんのしばらくの間もとどまってくれない。」と
・愁人(しゆうじん) … 名詞
○愁人 … 愁いに沈む人
・の … 格助詞
・ため … 名詞
・に … 格助詞
・住(とど)まる … ラ行四段活用の動詞「住まる」の連体形
・こと … 名詞
・少時(しばらく) … 副詞
・も … 係助詞
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・と … 格助詞
いへる詩を見侍りしこそ、あはれなりしか。
言っている詩を見ましたが、実にしみじみと感慨深かった。
・いへ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の命令形
・る … 完了の助動詞「り」の連体形
・詩 … 名詞
・を … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・侍り … ラ行変格活用の丁寧の補助動詞「侍り」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・こそ … 係助詞・強意
・あはれなり … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形
・しか … 過去の助動詞「き」の已然形(結び)
嵆康も「山沢に遊びて、魚鳥を見れば心楽しぶ。」と言へり。
嵆康も「山や水辺に遊んで、魚や鳥を見ると楽しい気持ちになる。」と言っている。
・嵆康(けいこう) … 名詞
・も … 係助詞
・山沢(さんたく) … 名詞
・に … 格助詞
・遊び … バ行四段活用の動詞「遊ぶ」の連用形
・て … 接続助詞
・魚鳥 … 名詞
・を … 格助詞
・見れ … マ行上一段活用の動詞「見る」の已然形
・ば … 接続助詞
・心 … 名詞
・楽しぶ … バ行四段活用の動詞「楽しぶ」の終止形
・と … 格助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の命令形
・り … 完了の助動詞「り」の終止形
人遠く、水・草清き所にさまよひありきたるばかり、心慰むことはあらじ。
人里を離れて、水や草の清らかな所をぶらぶら歩き回ることほど、心が晴れることはないだろう。
・人 … 名詞
・遠く … ク活用の形容詞「遠し」の連用形
・水 … 名詞
・草 … 名詞
・清き … ク活用の形容詞「清し」の連体形
・所 … 名詞
・に … 格助詞
・さまよひ … ハ行四段活用の動詞「さまよふ」の連用形
○さまよふ … ぶらつく
・ありき … カ行四段活用の動詞「ありく」の連用形
○ありく … あちこちと動き回る
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・ばかり … 副助詞
・心 … 名詞
・慰む … マ行四段活用の動詞「慰む」の連体形
○心慰む … 心が晴れる
・こと … 名詞
・は … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・じ … 打消推量の助動詞「じ」の終止形