かぐや姫の昇天3

天人の中に持たせたる箱あり。
天人の中に持たせている箱がある。
・天人 … 名詞
・の … 格助詞
・中 … 名詞
・に … 格助詞
・持た … タ行四段活用の動詞「持つ」の未然形
・せ … 使役の助動詞「す」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・箱 … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形

天の羽衣入れり。
天の羽衣が入っている。
・天(あま)の羽衣(ほごろも) … 名詞
・入れ … ラ行四段活用の動詞「入る」の命令形
・り … 存続の助動詞「り」の終止形

またあるは、不死の薬入れり。
もう一つの箱には、不死の薬が入っている。
・また … 副詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・は … 係助詞
・不死 … 名詞
・の … 格助詞
・薬 … 名詞
・入れ … ラ行四段活用の動詞「入る」の命令形
・り … 存続の助動詞「り」の終止形

一人の天人言ふ、「壺なる御薬奉れ。
一人の天人が言うには、「壺にあるお薬を召し上がれ。
・一人 … 名詞
・の … 格助詞
・天人 … 名詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・壺(つぼ) … 名詞
・なる … 存在の助動詞「なり」の連体形
・御薬(おおんくすり) … 名詞
・奉れ … ラ行四段活用の動詞「奉る」の命令形
奉る … 「飲む」の尊敬語 ⇒ 天人からかぐや姫への敬意

きたなき所のもの聞こしめしたれば、御心地悪しからむものぞ。」とて、
けがれた所の物を召し上がったので、ご気分が悪いことでしょうよ。」と言って、
・きたなき … ク活用の形容詞「きたなし」の連体形
・所 … 名詞
・の … 格助詞
・もの … 名詞
・聞こしめし … サ行四段活用の動詞「聞こしめす」の連用形
聞こしめす … 「食ふ」の尊敬語 ⇒ 天人からかぐや姫への敬意
・たれ … 完了の助動詞「たり」の已然形
・ば … 接続助詞
・御心地 … 名詞
・悪(あ)しから … シク活用の形容詞「悪し」の未然形
悪し … (体調が)すぐれない
・む … 推量の助動詞「む」の連体形
・もの … 名詞
・ぞ … 終助詞
・とて … 格助詞

持て寄りたれば、いささかなめ給ひて、少し形見とて、
持って近寄ってきたので、ちょっとおなめになって、少し形見として、
・持て寄り … ラ行四段活用の動詞「持て寄る」の連用形
・たれ … 完了の助動詞「たり」の已然形
・ば … 接続助詞
・いささか … 副詞
・なめ … マ行下二段活用の動詞「なむ」の連用形
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者からかぐや姫への敬意
・て … 接続助詞
・少し … 副詞
・形見 … 名詞
・とて … 格助詞

脱ぎ置く衣に包まむとすれば、ある天人包ませず。
脱いで置いていく着物に包もうとすると、そこにいる天人が包ませない。
・脱ぎ置く … カ行四段活用の動詞「脱ぎ置く」の連体形
・衣(きぬ) … 名詞
・に … 格助詞
・包ま … マ行四段活用の動詞「包む」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・すれ … サ行変格活用の動詞「す」の已然形
・ば … 接続助詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・天人 … 名詞
・包ま … マ行四段活用の動詞「包む」の未然形
・せ … 使役の助動詞「す」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

御衣を取り出でて着せむとす。
天の羽衣を取り出して着せようとする。
・御衣(みぞ) … 名詞
・を … 格助詞
・取り出で … ダ行下二段活用の動詞「取り出づ」の連用形
・て … 接続助詞
・着せ … サ行下二段活用の動詞「着す」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・す … サ行変格活用の動詞「す」の終止形

その時に、かぐや姫、「しばし待て。」と言ふ。
その時に、かぐや姫が、「しばらく待て。」と言う。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・時 … 名詞
・に … 格助詞
・かぐや姫 … 名詞
・しばし … 副詞
・待て … タ行四段活用の動詞「待つ」の命令形
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形

「衣着せつる人は、心異になるなりといふ。
「天の羽衣を着せた人は、心が変わるのだという。
・衣 … 名詞
・着せ … サ行下二段活用の動詞「着す」の連用形
・つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
・人 … 名詞
・は … 係助詞
・心 … 名詞
・異(こと)に … ナリ活用の形容動詞「異なり」の連用形
・なる … ラ行四段活用の動詞「なる」の連体形
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の終止形

もの一言言ひ置くべきことありけり。」と言ひて、文書く。
一言言い残しておくべきことがあるのですよ。」と言って、手紙を書く。
・もの … 名詞
・一言(ひとこと) … 名詞
・言ひ置く … カ行四段活用の動詞「言ひ置く」の終止形
・べき … 当然の助動詞「べし」の連体形
・こと … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・けり … 詠嘆の助動詞「けり」の終止形
・と … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・文 … 名詞
・書く … カ行四段活用の動詞「書く」の終止形

天人、「遅し。」と心もとながり給ふ。
天人は、「遅い。」とじれったがりなさる。
・天人 … 名詞
・遅し … ク活用の形容詞「遅し」の終止形
・と … 格助詞
・心もとながり … ラ行四段活用の動詞「心もとながる」の連用形
○心もとながる … 待ち遠しく思う
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の終止形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から天人への敬意

かぐや姫、「もの知らぬこと、なのたまひそ。」とて、
かぐや姫は、「わからないことを、おっしゃいますな。」と言って、
・かぐや姫 … 名詞
・もの … 名詞
・知ら … ラ行四段活用の動詞「知る」の未然
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・こと … 名詞
・な … 副詞
○な~そ … ~してくれるな
・のたまひ … ハ行四段活用の動詞「のたまふ」の連用形
のたまふ … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ かぐや姫から天人への敬意
・そ … 終助詞
・とて … 格助詞

いみじく静かに、朝廷に御文奉り給ふ。
とても静かに、帝にお手紙を差し上げなさる。
・いみじく … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形
・静かに … ナリ活用の形容動詞「静かなり」の連用形
・朝廷(おほやけ) … 名詞
・に … 格助詞
・御文 … 名詞
・奉り … ラ行四段活用の動詞「奉る」の連用形
奉る … 「与ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から帝への敬意
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の終止形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者からかぐや姫への敬意

あわてぬさまなり。
落ち着いた様子である。
・あわて … タ行下二段活用の動詞「あわつ」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・さま … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

「かくあまたの人を給ひてとどめさせ給へど、
「こんなに大勢の人を遣わされてお引きとめなさいますが、
・かく … 副詞
・あまた … 副詞
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・を … 格助詞
・賜ひ … ハ行四段活用の動詞「賜ふ」の連用形
賜ふ … 「与ふ」の尊敬語 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・て … 接続助詞
・とどめ … マ行下二段活用の動詞「とどむ」の連用形
させ … 尊敬の助動詞「さす」の連用形 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・給へ … ハ行四段活用の尊敬の補助動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・ど … 接続助詞

許さぬ迎へまうで来て、
許さない迎えがやって参って、
・許さ … サ行四段活用の動詞「許す」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・迎へ … 名詞
・まうで来 … カ行変格活用の動詞「まうで来」の連用形
まうで来 … 「来」の謙譲語 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・て … 接続助詞

取り率てまかりぬれば、口惜しく悲しきこと。
私を召し連れて参りますので、残念で悲しいことです。
・取り率(い) … 上一段活用の動詞「取り率る」の連用形
・て … 接続助詞
・まかり … ラ行四段活用の動詞「まかる」の連用形
まかる … 「行く」の謙譲語 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・ぬれ … 完了の助動詞「ぬ」の已然形
・ば … 接続助詞
・口惜しく … シク活用の形容詞「口惜し」の連用形
口惜し … 残念である
・悲しき … シク活用の形容詞「悲し」の連体形
・こと … 名詞

宮仕へ仕うまつらずなりぬるも、
宮仕えをいたさぬままになったのも、
・宮仕へ … 名詞
・仕うまつら … ラ行四段活用の動詞「仕うまつる」の未然形
仕うまつる … 「す」の謙譲語 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・ぬる … 完了の助動詞「ぬ」の連体形
・も … 係助詞

かくわづらはしき身にて侍れば。
このように複雑な身の上でございますので。
・かく … 副詞
・わづらはしき … シク活用の形容詞「わづらはし」の連体形
○わづらはし … 複雑である
・身 … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
・侍れ … ラ行変格活用の動詞「侍り」の已然形
侍り … 「あり」の丁寧語 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・ば … 接続助詞

心得ず思しめされつらめども、
納得できないとお思いになられているでしょうが、
・心得 … ア行下二段活用の動詞「心得」の未然形
○心得 … 理解できる
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・思(おぼ)しめさ … サ行四段活用の動詞「思しめす」の未然形
思しめす … 「思ふ」の尊敬語 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
 … 尊敬の助動詞「る」の連用形 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・つ … 強意の助動詞「つ」の終止形
・らめ … 現在推量の助動詞「らむ」の已然形
・ども … 接続助詞

心強く承らずなりにしこと、なめげなる者に
強情にお受けしないままになりましたことを、無礼な者だと
・心強く … ク活用の形容詞「心強し」の連用形
・承ら … ラ行四段活用の動詞「承る」の未然形
承る … 「受く」の謙譲語 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・こと … 名詞
・なめげなる … ナリ活用の形容動詞「なめげなり」の連体形
○なめげなり … 無礼である
・者 … 名詞
・に … 格助詞

思しめしとどめられぬるなむ、心にとまり侍りぬる。」とて、
お心にとどめられてしまいましたことが、心残りでございます。」と書いて、
・思しめしとどめ … マ行下二段活用の動詞「思しめしとどむ」の未然形
思しめしとどむ … 「思ひとどむ」の尊敬語 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
られ … 尊敬の助動詞「らる」の連用形 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・ぬる … 完了の助動詞「ぬ」の連体形
・なむ … 係助詞・強調
・心 … 名詞
・に … 格助詞
・とまり … ラ行四段活用の動詞「とまる」の連用形
・侍り … ラ行変格活用の動詞「侍り」の連用形
侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・ぬる … 完了の助動詞「ぬ」の連体形(結び)
・とて … 格助詞

今はとて天の羽衣着る折ぞ
もう最後だと思って天の羽衣を着るときになって、
・今 … 名詞
・は … 係助詞
・とて … 格助詞
・天の羽衣 … 名詞
・着る … カ行上一段活用の動詞「着る」の連体形
・折 … 名詞
・ぞ … 係助詞・強調

君をあはれと思ひ出でける
あなた様のことをしみじみ思い出すことです。
・君 … 代名詞
・を … 格助詞
・あはれ … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の語幹
・と … 格助詞
・思ひ出で … ダ行下二段活用の動詞「思ひ出づ」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)

とて、壺の薬添へて、頭中将呼び寄せて、奉らす。
と詠んで、壺の薬を添えて、頭中将を呼び寄せて、献上させる。
・とて … 格助詞
・壺 … 名詞
・の … 格助詞
・薬 … 名詞
・添へ … ハ行下二段活用の動詞「添ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・頭中将(とうのちゆうじよう) … 名詞
・呼び寄せ … サ行下二段活用の動詞「呼び寄す」の連用形
・て … 接続助詞
・奉ら … ラ行四段活用の動詞「奉る」の未然形
奉る … 「与ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から帝への敬意
・す … 使役の助動詞「す」の終止形

中将に、天人取りて伝ふ。
中将に、天人が取って渡す。
・中将 … 名詞
・に … 格助詞
・天人 … 名詞
・取り … ラ行四段活用の動詞「取る」の連用形
・て … 接続助詞
・伝ふ … ハ行下二段活用の動詞「伝ふ」の終止形
○伝ふ … 渡す

中将取りつれば、ふと天の羽衣うち着せ奉りつれば、
中将が受け取ったので、さっと天の羽衣をお着せ申し上げたところ、
・中将 … 名詞
・取り … ラ行四段活用の動詞「取る」の連用形
・つれ … 完了の助動詞「つ」の已然形
・ば … 接続助詞
・ふと … 副詞
・天の羽衣 … 名詞
・うち着せ … サ行下二段活用の動詞「うち着す」の連用形
・奉り … ラ行四段活用の謙譲の補助動詞「奉る」の連用形
奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 筆者からかぐや姫への敬意
・つれ … 完了の助動詞「つ」の已然形
・ば … 接続助詞

翁を、いとほし、かなしと思しつることも失うせぬ。
翁を、気の毒だ、ふびんだとお思いになっていたことも消え失せた。
・翁 … 名詞
・を … 格助詞
・いとほし … シク活用の形容詞「いとほし」の終止形
いとほし … 見ていてつらい
・かなし … シク活用の形容詞「かなし」の終止形
かなし … かわいそうである
・と … 格助詞
・思し … サ行四段活用の動詞「思す」の連用形
思す … 「思ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者からかぐや姫への敬意
・つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
・こと … 名詞
・も … 係助詞
・失(う)せ … サ行下二段活用の動詞「失す」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

この衣着つる人は、もの思ひなくなりにければ、
この天の羽衣を着た人は、悩むことがなくなってしまったので、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・衣 … 名詞
・着 … カ行上一段活用の動詞「着る」の連用形
・つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
・人 … 名詞
・は … 係助詞
・もの思ひ … 名詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

車に乗りて、百人ばかり天人具して、昇りぬ。
車に乗って、百人ほどの天人を引き連れて、天に昇った。
・車 … 名詞
・に … 格助詞
・乗り … ラ行四段活用の動詞「乗る」の連用形
・て … 接続助詞
・百人 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・天人 … 名詞
・具し … サ行変格活用の動詞「具す」の連用形
・て … 接続助詞
・昇り … ラ行四段活用の動詞「昇る」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

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