あだし野の露消ゆるときなく・徒然草

あだし野の露消ゆるときなく、鳥部山の煙立ち去らでのみ、
あだし野の露が消える時がなく、鳥部山の煙が立ち去らないで、
・あだし野 … 名詞
・の … 格助詞
・露 … 名詞
・消ゆる … ヤ行下二段活用の動詞「消ゆ」の連体形
・とき … 名詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・鳥部山(とりべやま) … 名詞
・の … 格助詞
・煙(けぶり) … 名詞
・立ち去ら … ラ行四段活用の動詞「立ち去る」の未然形
・で … 接続助詞
・のみ … 副助詞

住み果つるならひならば、いかにもののあはれもなからん。
いつまで住み続ける習いであるならば、どんなにものの情趣もないだろう。
・住み果つる … タ行下二段活用の動詞「住み果つ」の連体形
○住み果つ … この世の最後まで住み続ける
・ならひ … 名詞
・なら … 断定の助動詞「なり」の未然形
・ば … 接続助詞
・いかに … 副詞
・もののあはれ … 名詞
もののあはれ … しみじみとした情趣
・も … 係助詞
・なから … ク活用の形容詞「なし」の未然形
・ん … 推量の助動詞「ん」の連体形

世は定めなきこそ、いみじけれ。
この世は無常だから、すばらしいのだ。
・世 … 名詞
・は … 係助詞
・定めなき … ク活用の形容詞「定めなし」の連体形
○定めなし … 無常である
・こそ … 係助詞・強調
・いみじけれ … シク活用の形容詞「いみじ」の已然形(結び)
いみじ … すばらしい

命あるものを見るに、人ばかり久しきはなし。
命のあるものを見ると、人ほど長寿のものはない。
・命 … 名詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・もの … 名詞
・を … 格助詞
・見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・に … 接続助詞
・人 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・久しき … シク活用の形容詞「久し」の連体形
・は … 係助詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形

かげろふの夕べを待ち、夏の蝉の春秋を知らぬもあるぞかし。
かげろうが夕方を待たず、夏の蝉が春秋を知らないこともあるのだよ。
・かげろふ … 名詞
・の … 格助詞
・夕べ … 名詞
・を … 格助詞
・待ち … タ行四段活用の動詞「待つ」の連用形
・夏 … 名詞
・の … 格助詞
・蝉(せみ) … 名詞
・の … 格助詞
・春秋(はるあき) … 名詞
・を … 格助詞
・知ら … ラ行四段活用の動詞「知る」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・も … 係助詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・ぞ … 係助詞
・かし … 終助詞

つくづくと一年を暮らすほどだにも、こよなうのどけしや。
しみじみと一年を暮らす間でさえも、格別にのんびりしたものなのだ。
・つくづくと … 副詞
○つくづくと … しみじみと
・一年(ひととせ) … 名詞
・を … 格助詞
・暮らす … サ行四段活用の動詞「暮らす」の連体形
・ほど … 名詞
・だに … 副助詞
・も … 係助詞
・こよなう … ク活用の形容詞「こよなし」の連用形(音便)
こよなし … 格別である
・のどけし … ク活用の形容詞「のどけし」の終止形
○のどけし … 穏やかである
・や … 間投助詞

飽かず、惜しと思はば、
満足しないで、惜しいと思うならば、
・飽か … カ行四段活用の動詞「飽く」の未然形
○飽く … 満足する
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・惜し … シク活用の形容詞「惜し」の終止形
・と … 格助詞
・思は … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の未然形
・ば … 接続助詞

千年を過ぐすとも、一夜の夢の心地こそせめ。
千年を過ごしても、一夜の夢の気持ちがするだろう。
・千年(ちとせ) … 名詞
・を … 格助詞
・過ぐす … サ行四段活用の動詞「過ぐす」の終止形
・とも … 接続助詞
・一夜(ひとよ) … 名詞
・の … 格助詞
・夢 … 名詞
・の … 格助詞
・心地 … 名詞
・こそ … 係助詞・強調
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・め … 推量の助動詞「む」の已然形(結び)

住み果てぬ世に、醜き姿を待ちえて何かはせん。
いつまでも住み通すことのない世で、醜い姿を待ち迎えて何になるだろうか。
・住み果て … タ行下二段活用の動詞「住み果つ」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・世 … 名詞
・に … 格助詞
・みにくき … ク活用の形容詞「みにくし」の連体形
・姿 … 名詞
・を … 格助詞
・待ちえ … ア行下二段活用の動詞「待ちう」の連用形
○待ちう … 待ち迎える
・て … 接続助詞
・何 … 代名詞
・かは … 係助詞・反語
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・ん … 推量の助動詞「ん」の連体形(結び)
○何かはせん … 何になろうか、何にもならない

命長ければ辱多し。
命が長いと恥も多い。
・命 … 名詞
・長けれ … ク活用の形容詞「長し」の已然形
・ば … 接続助詞
・辱(はじ) … 名詞
・多し … ク活用の形容詞「多し」の終止形

長くとも四十に足らぬほどにて死なんこそ、めやすかるべけれ。
長くても四十に足りないくらいで死ぬのが、見苦しくないだろう。
・長く … ク活用の形容詞「長し」の連用形
・とも … 接続助詞
・四十(よそじ) … 名詞
・に … 格助詞
・足ら … ラ行四段活用の動詞「足る」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・ほど … 名詞
・にて … 格助詞
・死な … ナ行変格活用の動詞「死ぬ」の未然形
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・こそ … 係助詞・強調
・めやすかる … ク活用の形容詞「めやすし」の連体形
めやすし … 見苦しくない
・べけれ … 推量の助動詞「べし」の已然形(結び)

そのほど過ぎぬれば、かたちを恥づる心もなく、
そのころを過ぎてしまうと、顔かたちを恥じる心もなく、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・ほど … 名詞
・過ぎ … ガ行上二段活用の動詞「過ぐ」の連用形
・ぬれ … 完了の助動詞「ぬ」の已然形
・ば … 接続助詞
・かたち … 名詞
○かたち … 顔かたち
・を … 格助詞
・恥づる … ダ行上二段活用の動詞「恥づ」の連体形
・心 … 名詞
・も … 係助詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形

人に出でまじらはんことを思ひ、夕べの陽に子孫を愛して、
人の中に出て交際しようと思い、夕日のような余命短い身で子や孫を愛して、
・人 … 名詞
・に … 格助詞
・出で交じらは … ハ行四段活用の動詞「出で交じらふ」の未然形
○出で交じらふ … 世に出て交際する
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・夕べ … 名詞
・の … 格助詞
・陽(ひ) … 名詞
・に … 格助詞
・子孫 … 名詞
・を … 格助詞
・愛し … サ行変格活用の動詞「愛す」の連用形
・て … 接続助詞

さかゆく末を見んまでの命をあらまし、ひたすら世をむさぼる心のみ深く、
栄えてゆく将来を見るまでの命を期待し、いちずに世俗の名利を求める心だけが深く、
・さかゆく … カ行四段活用の動詞「さかゆく」の連体形
○さかゆく … 繁栄してゆく
・末 … 名詞
・を … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の未然形
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・まで … 副助詞
・の … 格助詞
・命 … 名詞
・を … 格助詞
・あらまし … サ行四段活用の動詞「あらます」の連用形
○あらます … 期待する
・ひたすら … 副詞
・世 … 名詞
・を … 格助詞
・むさぼる … ラ行四段活用の動詞「むさぼる」の連体形
○むさぼる … 意地きたなく欲しがる
・心 … 名詞
・のみ … 副助詞
・深く … ク活用の形容詞「深し」の連用形

もののあはれも知らずなりゆくなん、あさましき。
ものの情趣もわからなくなってゆくのは、情けない。
・もののあはれ … 名詞
・も … 係助詞
・知ら … ラ行四段活用の動詞「知る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・なりゆく … カ行四段活用の動詞「なりゆく」の連体形
・なん … 係助詞・強調
・あさましき … シク活用の形容詞「あさまし」の連体形(結び)
あさまし … 情けない

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