中納言参り給ひて・枕草子

中納言参り給ひて、御扇奉らせ給ふに、
中納言が参上なさって、御扇を差し上げなさる時に、
・中納言 … 名詞
・参り … ラ行四段活用の動詞「参る」の連用形
参る … 参上する(謙譲語) ⇒ 作者から中宮定子への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から隆家への敬意
・て … 接続助詞
・御扇 … 名詞
・奉らせ … サ行下二段活用の動詞「奉らす」の連用形
奉らす … 献上する(謙譲語) ⇒ 作者から中宮定子への敬意
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連体形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から隆家への敬意
・に … 格助詞

「隆家こそいみじき骨は得て侍れ。
「隆家はすばらしい骨を手に入れております。
・隆家 … 名詞
・こそ … 係助詞
・いみじき … シク活用の形容詞「いみじ」の連体形
・骨 … 名詞
・は … 係助詞
・得 … ア行下二段活用の動詞「得」の連用形
・て … 接続助詞
・侍れ … ラ行変格活用の動詞「侍り」の已然形
侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ 隆家から中宮定子への敬意

それを張らせて参らせむとするに、おぼろけの紙は
それを張らせて献上しようと思いますが、ありふれた紙は
・それ … 代名詞
・を … 格助詞
・張ら … ラ行四段活用の動詞「張る」の未然形
・せ … 使役の助動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・参らせ … サ行下二段活用の動詞「参らす」の未然形
参らす … 差し上げる(謙譲語) ⇒ 隆家から中宮定子への敬意
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・する … サ行変格活用の動詞「す」の連体形
・に … 接続助詞
・おぼろけ … 活用の形容動詞「おぼろけなり」の語幹
おぼろけなり … 普通である
・の … 格助詞
・紙 … 名詞
・は … 係助詞

え張るまじければ、求め侍るなり。」と申し給ふ。
張れそうにありませんので、探しております。」と申し上げなさる。
・え … 副詞
え(〜打消) … 〜できない
・張る … ラ行四段活用の動詞「張る」の終止形
・まじけれ … 不可能の助動詞「まじ」の已然形
・ば … 接続助詞
・求め … マ行下二段活用の動詞「求む」の連用形
○求む … 探し求める
・侍る … ラ行変格活用の動詞「侍り」の連体形
侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ 隆家から中宮定子への敬意
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
・と … 格助詞
・申し … サ行四段活用の動詞「申す」の連用形
申す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 作者から中宮定子への敬意
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の終止形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から隆家への敬意

「いかやうにかある。」と問ひ聞こえさせ給へば、
「どのようなものですか。」とお尋ね申し上げなさると、
・いかやうに … ナリ活用の形容動詞「いかやうなり」の連用形
○いかやうなり … どのようである
・か … 係助詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・と … 格助詞
・問ひ … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の連用形
・聞こえ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の未然形
聞こゆ … 謙譲の補助動詞 ⇒ 作者から隆家への敬意
・させ … 尊敬の助動詞「さす」の連用形 ⇒ 作者から中宮定子への敬意
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から中宮定子への敬意
・ば … 接続助詞

「すべていみじく侍り。
「何から何までみごとでございます。
・すべて … 副詞
・いみじう … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形(音便)
いみじ … すばらしい
・侍り … ラ行変格活用の動詞「侍り」の終止形
侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ 隆家から中宮定子への敬意

『さらにまだ見ぬ骨のさまなり。』となむ人々申す。
『まったく今まで見たこともない骨の様子だ。』と人々が言います。
・さらに … 副詞
さらに(~打消) … まったく(~ない)
・まだ … 副詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・骨 … 名詞
・の … 格助詞
・さま … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
・と … 格助詞
・なむ … 係助詞
・人々 … 名詞
・申す … サ行四段活用の動詞「申す」の終止形
申す … 「言ふ」の丁寧語 ⇒ 隆家から中宮定子への敬意

まことにかばかりのは見えざりつ。」と言高くのたまへば、
本当にこれほどの骨は見たことがありません。」と大声でおっしゃるので、
・まことに … 副詞
・かばかり … 副詞
○かばかり … これほど
・の … 格助詞
・は … 係助詞
・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の未然形
見ゆ … 見かける
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・つ … 完了の助動詞「つ」の終止形
・と … 格助詞
・言(こと) … 名詞
○言 … 言葉
・高く … ク活用の形容詞「高し」の連用形
○高し … 声が大きい
・のたまへ … ハ行四段活用の動詞「のたまふ」の已然形
のたまふ … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ 作者から隆家への敬意
・ば … 接続助詞

「さては、扇のにはあらで、海月のななり。」と聞こゆれば、
「それでは、扇の骨ではなくて、海月の骨のようですね。」と申しあげると、
・さては … 接続詞
・扇 … 名詞
・の … 格助詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・は … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・で … 接続助詞
・海月 … 名詞
・の … 格助詞
・な … 断定の助動詞「なり」の連体形
なる ⇒ なん(撥音便) ⇒ な(無表記)
・なり … 推定の助動詞「なり」の終止形
・と … 格助詞
・聞こゆれ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の已然形
聞こゆ … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 作者から隆家への敬意
・ば … 接続助詞

「これは隆家が言にしてむ。」とて、笑ひ給ふ。
「これは隆家の言葉にしてしまおう。」とおっしゃって、お笑いになる。
・これ … 代名詞
・は … 係助詞
・隆家 … 名詞
・が … 格助詞
・言 … 名詞
・に … 格助詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 強意の助動詞「つ」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・とて … 格助詞
・笑ひ … ハ行四段活用の動詞「笑ふ」の連用形
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の終止形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から隆家への敬意

かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、
このようなことは、聞き苦しいことの中に入れてしまうべきですが、
・かやう … ナリ活用の形容動詞「かやうなり」の語幹
○かやうなり … このようである
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・こそ … 係助詞
・は … 係助詞
・かたはらいたき … ク活用の形容詞「かたはらいたし」の連体形
かたはらいたし … みっともない
・こと … 名詞
・の … 格助詞
・うち … 名詞
・に … 格助詞
・入れ … ラ行下二段活用の動詞「入る」の連用形
・つ … 強意の助動詞「つ」の終止形
・べけれ … 当然の助動詞「べし」の已然形
・ど … 接続助詞

「一つな落しそ。」と言えば、いかがはせむ。
「一つも書き落とすな。」と言うので、どうしようもない。
・一つ … 名詞
・な … 副詞
・落とし … サ行四段活用の動詞「落とす」の連用形
・そ … 終助詞
な~そ … ~するな(禁止)
・と … 格助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・ば … 接続助詞
・いかが … 副詞
・は … 係助詞
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の連体形
いかがせむ … どうしようか、どうしようもない(反語)

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