「夢にも身過ぎのことを忘るな。」と、これ長者の言葉なり。
「決して生計を立てることを忘れるな。」と、これは大金持ちの言葉である。
・夢 … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
〇夢にも〜な … 決して〜な(禁止)
・身過(みす)ぎ … 名詞
〇身過ぎ … 生計
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・忘る … ラ行下二段活用の動詞「忘る」の終止形
・な … 終助詞
・と … 格助詞
・これ … 代名詞
・長者 … 名詞
〇長者 … 大金持ち
・の … 格助詞
・言葉 … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
思ふことを必ず夢に見るに、うれしきことあり、悲しき時あり、
思うことを必ず夢に見るものであるが、うれしい(夢の)ことがあり、悲しい(夢の)時があり、
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・必ず … 副詞
・夢 … 名詞
・に … 格助詞
・見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・に … 接続助詞
・うれしき … シク活用の形容詞「うれし」の連体形
・こと … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・悲しき … シク活用の形容詞「悲し」の連体形
・時 … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
さまざまの中に、銀拾ふ夢はさもしきところあり。
さまざまの(夢の)中で、金銭を拾う夢には心の卑しいところがある。
・さまざま … 名詞
・の … 格助詞
・中 … 名詞
・に … 格助詞
・銀(かね) … 名詞
・拾ふ … ハ行四段活用の動詞「拾ふ」の連体形
・夢 … 名詞
・は … 係助詞
・さもしき … シク活用の形容詞「さもし」の連体形
〇さもし … 心が卑しい
・ところ … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形
今の世に落とする人はなし。
今の世の中で金銭を落とす人はいない。
・今 … 名詞
・の … 格助詞
・世 … 名詞
・に … 格助詞
・落とする … サ行四段活用の動詞「落とす」の連体形
・人 … 名詞
・は … 係助詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形
それぞれに命と思うて、大事に懸くることぞかし。
それぞれに(金銭を)命と思って、大事に心をかけていることなんだよ。
・それぞれ … 名詞
・に … 格助詞
・命 … 名詞
・と … 格助詞
・思う … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形、ウ音便
・て … 接続助詞
・大事に … ナリ活用の形容動詞「大事なり」の連用形
・懸くる … カ行下二段活用の動詞「懸く」の連体形
〇懸く … 心をかける
・こと … 名詞
・ぞ … 終助詞
・かし … 終助詞
〇ぞかし … 〜なんだよ(念を押しつつ断定する)
いかないかな、万日回向の果てたる場にも、天満祭の明くる日も、銭が一文落ちてなし。
とてもとても、万日回向の終わった場所にも、天満祭の翌日も、銭が一文も落ちていない。
・いかないかな … 副詞
〇いかないかな(〜打消) … とてもとても(〜ない)
・万日回向(まんにちえこう) … 名詞
・の … 格助詞
・果て … タ行下二段活用の動詞「果つ」の連用形
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・場(にわ) … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・天満祭(てんままつり) … 名詞
・の … 格助詞
・明くる … カ行下二段活用の動詞「明く」の連体形
・日 … 名詞
・も … 係助詞
・銭 … 名詞
・が … 格助詞
・一文(いちもん) … 名詞
・落ち … タ行上二段活用の動詞「落つ」の連用形
・て … 接続助詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形
とかくわがはたらきならでは出ることなし。
とにかく自分の働き以外には(金銭が)出てくることはない。
・とかく … 副詞
〇とかく … とにかく
・わ … 代名詞
・が … 格助詞
・はたらき … 名詞
・なら … 断定の助動詞「なり」の未然形
・で … 接続助詞
・は … 係助詞
〇ならでは … 〜以外には
・出る … ダ行下一段活用の動詞「出る」の連体形
・こと … 名詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形
さる貧者、世のかせぎはほかになし、
ある貧乏な者が、世間の生活を立てるための仕事はうち捨てて顧みないで、
・さる … 連体詞
・貧者 … 名詞
・世 … 名詞
・の … 格助詞
・かせぎ … 名詞
〇かせぎ … 生活を立てるための仕事
・は … 係助詞
・ほか … 名詞
・に … 格助詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形
〇ほかになし … うち捨てて顧みないで
一足とびに分限になることを思ひ、この前江戸にありし時、
順序を踏まないで一気に金持ちになることを考え、以前江戸に住んでいた時、
・一足(いつそく)とび … 名詞
〇一足とび … 順序を踏まないで一気に物事を進めること
・に … 格助詞
・分限(ぶんげん) … 名詞
〇分限 … 金持ち
・に … 格助詞
・なる … ラ行四段活用の動詞「なる」の連体形
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・前 … 名詞
・江戸 … 名詞
・に … 格助詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・時 … 名詞
駿河町見世に、裸銀、
駿河町の店(両替屋)に、紙などに包んでいない金銭が、
・駿河町見世(するがちようみせ) … 名詞
〇見世 … 商品を並べて売る店
・に … 格助詞
・裸銀(はだかがね) … 名詞
〇裸銀 … 紙などに包んでいない金銭
山のごとくなるを見しこと、今に忘れず、
まるで山のようであるのを見たことを、今になっても忘れないで、
・山 … 名詞
・の … 格助詞
・ごとくなる … 比況の助動詞「ごとくなり」の連体形
〇ごとくなり … まるで〜のようだ
・を … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・こと … 名詞
・今 … 名詞
・に … 格助詞
〇今に … 今になっても
・忘れ … ラ行下二段活用の動詞「忘る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
「あはれ、今年の暮れに、その銀の塊欲しや。
「ああ、今年の暮れに、その金銭の固まりが欲しいものだ。
・あはれ … 感動詞
〇あはれ … ああ
・今年 … 名詞
・の … 格助詞
・暮れ … 名詞
・に … 格助詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・銀 … 名詞
・の … 格助詞
・塊(かたまり) … 名詞
〇塊 … 一つに固まったもの
・欲し … シク活用の形容詞「欲し」の終止形
・や … 間投助詞
敷革の上に新小判が、我らが寝姿ほどありし。」と、
毛皮の敷物の上に新小判が、私などの寝姿くらいあった。」と、
・敷革(しきがわ) … 名詞
〇敷革 … 毛皮の敷物
・の … 格助詞
・上 … 名詞
・に … 格助詞
・新小判 … 名詞
・が … 格助詞
・我ら … 代名詞
〇ら … 接尾語(いくらか卑下した気持ちを含ませる)
・が … 格助詞
・寝姿 … 名詞
・ほど … 副助詞
〇ほど … 〜くらい
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・と … 格助詞
一心に余のことなしに、紙衾の上に臥しける。
一心に他のことは考えないで、外側が紙製の粗末な布団の上に横になった。
・一心 … 名詞
・に … 格助詞
・余() … 名詞
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形
・に … 格助詞
・紙衾(かみぶすま) … 名詞
〇紙衾 … 外側が紙製の粗末な布団
・の … 格助詞
・上 … 名詞
・に … 格助詞
・臥(ふ)し … サ行四段活用の動詞「臥す」の連用形
〇臥す … 眠るために横になる
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
ころは十二月晦日のあけぼのに、女房はひとり目覚めて、
ころは十二月の末の明け方に、女房はひとり目が覚めて、
・ころ … 名詞
・は … 係助詞
・十二月 … 名詞
・晦日(つごもり) … 名詞
〇晦日 … 月末
・の … 格助詞
・あけぼの … 名詞
〇あけぼの … 明け方
・に … 格助詞
・女房 … 名詞
・は … 係助詞
・ひとり … 名詞
・目覚め … マ行下二段活用の動詞「目覚む」の連用形
・て … 接続助詞
「今日の日、いかにたて難し。」と、身代の取り置きを案じ、
「今日一日、どうしよう、暮らしが成り立たない。」と、家計のやりくりを思案し、
・今日 … 名詞
・の … 格助詞
・日 … 名詞
・いかに … 副詞
・たて難し … ク活用の形容詞「たて難し」の終止形
〇たつ … 生活が成り立つ
・と … 格助詞
・身代(しんだい) … 名詞
・の … 格助詞
・取り置き … 名詞
〇身代の取り置き … 家計のやりくり
・を … 格助詞
・案じ … サ行変格活用の動詞「案ず」の連用形
窓より東明かりのさす方見れば、何かは知らず、
窓から明け方の光が差し込む方を見ると、なぜかは分からないが、
・窓 … 名詞
・より … 格助詞
・東明かり … 名詞
・の … 格助詞
・さす … サ行四段活用の動詞「さす」の連体形
・方(かた) … 名詞
・見れ … マ行上一段活用の動詞「見る」の已然形
・ば … 接続助詞
・何 … 副詞
・かは … 係助詞
〇何か … どうして〜か
・知ら … ラ行四段活用の動詞「知る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
小判一塊、「これはしたり、これはしたり。天の与へ。」とうれしく、
小判が一塊、「これはうまい、これはうまい。天のお恵み。」とうれしくて、
・小判 … 名詞
・一塊 … 名詞
・これ … 代名詞
・は … 係助詞
・したり … 感動詞
〇したり … うまくいった
・これ … 代名詞
・は … 係助詞
・したり … 感動詞
・天 … 名詞
・の … 格助詞
・与へ … 名詞
・と … 格助詞
・うれしく … シク活用の形容詞「うれし」の連用形
「こちの人、こちの人。」と呼び起こしければ、
「おまえさん、おまえさん。」と呼び起こしたところ、
・こちの人 … 名詞
〇こちの人 … おまえさん
・こちの人 … 名詞
・と … 格助詞
・呼び起こし … サ行四段活用の動詞「呼び起こす」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
「何ぞ。」と言ふ声の下より、小判は消えてなかりき。
「何だ。」と言う声がするやいなや、小判は消えてなくなった。
・何 … 代名詞
・ぞ … 終助詞
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・声 … 名詞
・の … 格助詞
・下 … 名詞
・より … 格助詞
〇より … 〜やいなや
・小判 … 名詞
・は … 係助詞
・消え … ヤ行下二段活用の動詞「消ゆ」の連用形
・て … 接続助詞
・なかり … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・き … 過去の助動詞「き」の終止形
「さても惜しや。」と悔やみ、男にこのことを語れば、
「ほんとにまあ惜しいなあ。」と残念がり、夫にこのことを語ると、
・さても … 感動詞
〇さても … ほんとにまあ
・惜し … シク活用の形容詞「惜し」の終止形
・や … 間投助詞
・と … 格助詞
・悔やみ … マ行四段活用の動詞「悔やむ」の連用形
・男 … 名詞
・に … 格助詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・語れ … ラ行四段活用の動詞「語る」の已然形
・ば … 接続助詞
「我江戸で見し金子、欲しや欲しやと思ひ込みし一念、
「私が江戸で見た金貨を、欲しいなあ欲しいなあと思い込んだ一念が、
・我 … 代名詞
・江戸 … 名詞
・で … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・金子(きんす) … 名詞
〇金子 … 金貨
・欲し … シク活用の形容詞「欲し」の終止形
・や … 間投助詞
・欲し … シク活用の形容詞「欲し」の終止形
・や … 間投助詞
・と … 格助詞
・思ひ込み … マ行四段活用の動詞「思ひ込む」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・一念 … 名詞
しばし小判現れしぞ。
しばらく小判となって現れたのだ。
・しばし … 副詞
・小判 … 名詞
・現れ … ラ行下二段活用の動詞「現る」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・ぞ … 終助詞
〇小判現れしぞ … 小判となって現れたのだ
今の悲しさならば、たとへ後世は取りはづし、奈落へ沈むとも、
今の貧しさならば、たとえ来世は極楽往生ができず、地獄へ落ちるとも、
・今 … 名詞
・の … 格助詞
・悲しさ … 名詞
〇悲しさ … 貧しさ
・なら … 断定の助動詞「なり」の未然形
・ば … 接続助詞
・たとへ … 副詞
・後世(ごせ) … 名詞
〇後世 … 来世
・は … 係助詞
・取りはづし … サ行四段活用の動詞「取りはづす」の連用形
〇取りはづす … 極楽往生ができない
・奈落(ならく) … 名詞
〇奈落 … 地獄
・へ … 格助詞
・沈む … マ行四段活用の動詞「沈む」の終止形
〇沈む … よくない状態に落ち込む
・とも … 接続助詞
佐夜の中山にありし無間の鐘を撞きてなりとも、まづこの世を助かりたし。
佐夜の中山にあった無間の鐘を撞いてであっても、まずこの世を助かりたい。
・佐夜(さよ)の中山 … 名詞
・に … 格助詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・無間(むげん)の鐘 … 名詞
・を … 格助詞
・撞(つ)き … カ行四段活用の動詞「撞く」の連用形
・て … 接続助詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
・とも … 接続助詞
・まづ … 副詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・世 … 名詞
・を … 格助詞
・助かり … ラ行四段活用の動詞「助かる」の連用形
・たし … 希望の助動詞「たし」の終止形
目前に福人は極楽、貧者は地獄、釜の下へ焚くものさへあらず。
目の前で金持ちは極楽、貧乏人は地獄、釜の下へ焚くものさえもない。
・目前 … 名詞
・に … 格助詞
・福人 … 名詞
・は … 係助詞
・極楽 … 名詞
・貧者 … 名詞
・は … 係助詞
・地獄 … 名詞
・釜 … 名詞
・の … 格助詞
・下 … 名詞
・へ … 格助詞
・焚(た)く … カ行四段活用の動詞「焚く」の連体形
・もの … 名詞
・さへ … 副助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
さても悲しき年の暮れや。」と、
それにしても哀れな年の暮れだなあ。」と、
・さても … 感動詞
・悲しき … シク活用の形容詞「悲し」の連体形
〇悲し … 哀れである
・年 … 名詞
・の … 格助詞
・暮れ … 名詞
・や … 間投助詞
・と … 格助詞
我と悪心起これば、魂入れ替はり、少しまどろむうちに、
自然と悪心が起こると、魂が入れ替わって、少しうとうと眠るうちに、
・我 … 代名詞
・と … 格助詞
〇我と … 自然と
・悪心 … 名詞
・起これ … ラ行四段活用の動詞「起こる」の已然形
・ば … 接続助詞
・魂 … 名詞
・入れ替はり … ラ行四段活用の動詞「入れ替はる」の連用形
・少し … 副詞
・まどろむ … マ行四段活用の動詞「まどろむ」の連体形
〇まどろむ … うとうと眠る
・うち … 名詞
・に … 格助詞
黒白の鬼、車をとどろかし、あの世この世の境を見せける。
牛頭と馬頭が、車をとどろかせ、あの世とこの世の境を見せた。
・黒白(こくびやく) … 名詞
・の … 格助詞
・鬼 … 名詞
〇黒白の鬼 … 牛頭と馬頭(火の車を引いて罪人を迎えに来る)
・車 … 名詞
・を … 格助詞
・とどろかし … サ行四段活用の動詞「とどろかす」の連用形
・あ … 代名詞
・の … 格助詞
・世 … 名詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・世 … 名詞
・の … 格助詞
・境 … 名詞
・を … 格助詞
・見せ … サ行下二段活用の動詞「見す」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
女房このありさまをなほ嘆き、わが男に教訓して、
女房はこの様子を見てまた悲しみ、自分の夫に意見して、
・女房 … 名詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・ありさま … 名詞
・を … 格助詞
・なほ … 副詞
・嘆き … カ行四段活用の動詞「嘆く」の連用形
〇嘆く … 悲しむ
・わ … 代名詞
・が … 格助詞
・男 … 名詞
・に … 格助詞
・教訓し … サ行変格活用の動詞「教訓す」の連用形
〇教訓す … 意見する
・て … 接続助詞
「世に誰か百まで生きる人なし。
「世の中に、誰一人、百歳まで生きる人はいません。
・世 … 名詞
・に … 格助詞
・誰(たれ) … 代名詞
・か … 係助詞
・百 … 名詞
・まで … 副助詞
・生きる … カ行上一段活用の動詞「生きる」の連用形
・人 … 名詞
・なし … 活用の形容詞「なし」の終止形
しかればよしなき願ひすること、おろかなり。
だからつまらない願い事をするのは、愚かなことです。
・しかれば … 接続詞
〇しかれば … だから
・よしなき … ク活用の形容詞「よしなし」の連体形
〇よしなき … つまらない
・願ひ … 名詞
・する … サ行変格活用の動詞「す」の連体形
・こと … 名詞
・おろかなり … ナリ活用の形容動詞「おろかなり」の終止形
互ひの心変はらずは、行く末にめでたく年も取るべし。
お互いの心が変わらなければ、将来、めでたく年を取ることもできます。
・互ひ … 名詞
・の … 格助詞
・心 … 名詞
・変はら … ラ行四段活用の動詞「変はる」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・は … 係助詞
・行く末 … 名詞
〇行く末 … 将来
・に … 格助詞
・めでたく … ク活用の形容詞「めでたし」の連用形
・年 … 名詞
・も … 係助詞
・取る … ラ行四段活用の動詞「取る」の終止形
・べし … 可能の助動詞「べし」の終止形
わが手前を思し召して、さぞ口惜しかるべし。
私の手前をお思いになって、さぞ悔しいでしょう。
・わ … 代名詞
・が … 格助詞
・手前 … 名詞
・を … 格助詞
・思(おぼ)し召し … サ行四段活用の動詞「思し召す」の連用形
〇思し召す … 「思ふ」の尊敬語 ⇒ 女房から夫への敬意
・て … 接続助詞
・さぞ … 副詞
・口惜しかる … シク活用の形容詞「口惜し」の連体形
〇口惜し … 悔しい
・べし … 推量の助動詞「べし」の終止形
されどもこのままありては、三人ともに渇命におよべば、
けれどもこのままでいては、三人ともに飢え渇いて命が危なくなりますから、
・されども … 接続詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・まま … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・て … 接続助詞
・は … 係助詞
・三人 … 名詞
・とも … 名詞
・に … 格助詞
・渇命(かつめい) … 名詞
〇渇命 … 飢え渇いて命が危なくなること
・に … 格助詞
・およべ … バ行四段活用の動詞「およぶ」の已然形
・ば … 接続助詞
一人あるせがれが後々のためにもよし。
一人いる子どもの後々のためにもよいことです。
・一人 … 名詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・せがれ … 名詞
〇せがれ … 子ども
・が … 格助詞
・後々 … 名詞
・の … 格助詞
・ため … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・よし … ク活用の形容詞「よし」の終止形
奉公の口あるこそ幸ひなれ。
奉公の口があるのが幸いです。
・奉公 … 名詞
・の … 格助詞
・口 … 名詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・こそ … 係助詞・強意
・幸ひなれ … ナリ活用の形容動詞「幸ひなり」の已然形(結び)
何とぞあれを手にかけて育て給はば、末の楽しみ、
どうかあの子を自分で世話をして大切にお育てになれば、将来の楽しみ(にもなります)、
・何とぞ … 副詞
・あれ … 代名詞
・を … 格助詞
・手 … 名詞
・に … 格助詞
・かけ … カ行下二段活用の動詞「かく」の連用形
〇手にかける … 自分で世話をして大切にする
・て … 接続助詞
・育て … タ行下二段活用の動詞「育つ」の連用形
・給(たま)は … 行四段活用の動詞「給ふ」の未然形
〇給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 女房から夫への敬意
・ば … 接続助詞
・末 … 名詞
・の … 格助詞
・楽しみ … 名詞
捨つるはむごいことなれば、ひとへに頼みます。」と涙をこぼせば、
捨てるのはむごいことですから、ひたすら(あなたを)頼りにします。」と涙をこぼすので、 ⇒
・捨つる … 行下二段活用の動詞「捨つ」の連体形
・は … 係助詞
・むごい … ク活用の形容詞「むごし」の連体形、イ音便
・こと … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞
・ひとへに … 副詞
〇ひとへに … ひたすら
・頼み … マ行四段活用の動詞「頼む」の連用形
〇頼む … 頼りにする
・ます … 丁寧の補助動詞 ⇒ 女房から夫への敬意
・と … 格助詞
・涙 … 名詞
・を … 格助詞
・こぼせ … サ行四段活用の動詞「こぼす」の已然形
・ば … 接続助詞
男の身にしては悲しく、とかうの言葉もなく、
男の身としては悲しく、あれこれの言葉もなく、
・男 … 名詞
・の … 格助詞
・身 … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・して … 接続助詞
・は … 係助詞
・悲しく … シク活用の形容詞「悲し」の連用形
・とかう … 副詞、ウ音便
〇とかく … あれこれ
・の … 格助詞
・言葉 … 名詞
・も … 係助詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
目をふさぎ、女房顔を見ぬところへ、
目をつむり、女房の顔を見ないでいるところに、
・目 … 名詞
・を … 格助詞
・ふさぎ … ガ行四段活用の動詞「ふさぐ」の連用形
・女房 … 名詞
・顔 … 名詞
・を … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・ところ … 名詞
・へ … 格助詞