おのれ古典を説くに、師の説と違へること多く、
私が古典を説明するときに、師の学説と食い違っていることが多く、
・おのれ … 代名詞
・古典(いにしえぶみ) … 名詞
・を … 格助詞
・説く … カ行四段活用の動詞「説く」の連体形
○説く … 説明する
・に … 格助詞
・師 … 名詞
・の … 格助詞
・説 … 名詞
・と … 格助詞
・違(たが)へ … ハ行四段活用の動詞「違ふ」の已然形
○違ふ … 食い違う
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・こと … 名詞
・多く … ク活用の形容詞「多し」の連用形
師の説のわろきことあるをば、わきまへ言ふことも多かるを、
師の学説のよくないことがあるのを、判別して言うことが多いのを、
・師 … 名詞
・の … 格助詞
・説 … 名詞
・の … 格助詞
・わろき … ク活用の形容詞「わろし」の連体形
○わろし … よくない
・こと … 名詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・を … 格助詞
・ば … 係助詞
・わきまへ … ハ行下二段活用の動詞「わきまふ」の連用形
○わきまふ … 判別する
・言ふ … 行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・こと … 名詞
・も … 係助詞
・多かる … ク活用の形容詞「多し」の連体形
・を … 格助詞
いとあるまじきことと思ふ人多かんめれど、これすなはちわが師の心にて、
決してあってはならないことと思う人が多いようだが、これはそのまま私の師の考えであって、
・いと … 副詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・まじき … 禁止の助動詞「まじ」の連帯形
・こと … 名詞
・と … 格助詞
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・人 … 名詞
・多か … ク活用の形容詞「多し」の連体形
・めれ … 推定の助動詞「めり」の已然形
・ど … 接続助詞
・これ … 代名詞
・すなはち … 副詞
・わ … 代名詞
・が … 格助詞
・師 … 名詞
・の … 格助詞
・心 … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
常に教へられしは、 「後によき考えの出で来たらんには、
いつも教えなさったことは、「後で良い考えが出てきた場合には、
・常に … 副詞
・教へ … ハ行下二段活用の動詞「教ふ」の連用形
・られ … 尊敬の助動詞「らる」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・は … 係助詞
・後 … 名詞
・に … 格助詞
・よき … ク活用の形容詞「よし」の連体形
・考え … 名詞
・の … 格助詞
・出で来(き) … カ行変格活用の動詞「出で来(く)」の連用形
・たら … 完了の助動詞「たり」の未然形
・ん … 仮定の助動詞「ん」の連体形
・に … 格助詞
・は … 係助詞
必ずしも師の説に違ふとて、なはばかりそ。」 となむ、教へられし。
必ずしも師の学説と食い違うからといって、遠慮するな。」と教えなさった。
・必ず … 副詞
・しも … 副助詞
・師 … 名詞
・の … 格助詞
・説 … 名詞
・に … 格助詞
・違ふ … ハ行四段活用の動詞「違ふ」の終止形
・とて … 格助詞
・な … 副詞
○な〜そ … ~するな
・はばかり … ラ行四段活用の動詞「はばかる」の連用形
○はばかる … 遠慮する
・そ … 終助詞
・と … 格助詞
・なん … 係助詞・強意
・教へ … ハ行下二段活用の動詞「教ふ」の未然形
・られ … 尊敬の助動詞「らる」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形(結び)
こはいと尊き教へにて、我が師の、世に優れたまへる一つなり。
これはとても尊い教えであって、私の師が、非常に優れていらっしゃる点の一つである。
・こ … 代名詞
・は … 係助詞
・いと … 副詞
・尊(とうと)き … ク活用の形容詞「尊し」の連体形
・教へ … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
・わ … 代名詞
・が … 格助詞
・師 … 名詞
・の … 格助詞
・世に … 副詞
○世に … 非常に
・優れ … ラ行下二段活用の動詞「優る」の連用形
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・一つ … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
おほかたいにしへを考ふること、さらに一人二人の力もて、
おおよそ古代を考えることは、決して一人二人の力によって、
・おほかた … 副詞
・いにしへ … 名詞
・を … 格助詞
・考ふる … ハ行下二段活用の動詞「考ふ」の連体形
・こと … 名詞
・さらに … 副詞
○さらに(~打消) … 決して(~ない)
・一人 … 名詞
・二人 … 名詞
・の … 格助詞
・力 … 名詞
・もて … 連語
○〜もて … 〜によって
ことごとく明らめ尽くすべくもあらず。
すべて明らかにし尽くすことができるものではない。
・ことごとく … 副詞
・明(あき)らめ尽くす … サ行四段活用の動詞「明らめ尽くす」の終止形
・べく … 可能の助動詞「べし」の連用形
・も … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
また、よき人の説ならんからに、多くの中には、
また、優れた人の説だからといって、多くの(説の)中には、
・また … 接続詞
・よき … ク活用の形容詞「よし」の連体形
○よし … 優れている
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・説 … 名詞
・なら … 断定の助動詞「なり」の未然形
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・からに … 接続助詞
○〜ならんからに … ~だからといって
・多く … 副詞
・の … 格助詞
・中 … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
誤りもなどかなからん。
誤りもどうしてないだろうか、誤りが必ずあるだろう。
・誤り … 名詞
・も … 係助詞
・など … 副詞
・か … 係助詞・反語
・なから … ク活用の形容詞「なし」の未然形
・ん … 推量の助動詞「ん」の連体形(結び)
必ずわろきことも交じらではえあらず。
絶対に、(他説より)劣っていることも混じらないということはありえない。
・必ず … 副詞
○必ず(~打消) … 絶対に(~ない)
・わろき … ク活用の形容詞「わろし」の連体形
○わろし … 他と比べて劣っている
・こと … 名詞
・も … 係助詞
・交じら … ラ行四段活用の動詞「交じる」の未然形
・で … 接続助詞
・は … 係助詞
・え … 副詞
○え(~打消) … 不可能の意を表す
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
そのおのが心には、 「今はいにしへの心ことごとく明らかなり。
その人自身の心では、 「今となっては古代の精神はすべて明らかである。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・おの … 代名詞
・が … 格助詞
・心 … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・今 … 名詞
・は … 係助詞
○今は … 今となっては
・いにしへ … 名詞
・の … 格助詞
・意(こころ) … 名詞
・ことごとく … 副詞
・明らかなり … ナリ活用の形容動詞「明らかなり」の終止形
これをおきては、あるべくもあらず。」 と、思ひ定めたることも、
この説を除いては、(正しい説など)あるはずもない。」 と、心を決めていることも、
・これ … 代名詞
・を … 格助詞
・おき … カ行四段活用の動詞「おく」の連用形
○おく … 除く
・て … 接続助詞
・は … 係助詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・べく … 当然の助動詞「べし」の連用形
・も … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・と … 格助詞
・思ひ定め … マ行下二段活用の動詞「思ひ定む」の連用形
○思ひ定む … 心を決める
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・こと … 名詞
・も … 係助詞
思ひのほかに、また人のことなるよき考への出で来るわざなり。
思いがけなく、ほかの人の異なる良い考えが出てくるものである。
・思ひのほかに … 活用の形容動詞「思ひのほかなり」の連用形
○思ひのほかなり … 思いがけないさま
・また … 副詞
・人 … 名詞
○また人 … ほかの人
・の … 格助詞
・異なる … ナリ活用の形容動詞「異なり」の連体形
・よき … ク活用の形容詞「よし」の連体形
・考へ … 名詞
・の … 格助詞
・出で来る … カ行変格活用の動詞「出で来(く)」の連体形
・わざ … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
あまたの手を経るまにまに、先々の考えの上を、
たくさんの(人の)手を経るにつれて、以前の考えの上を、
・あまた … 副詞
・の … 格助詞
・手 … 名詞
・を … 格助詞
・経(ふ)る … ハ行下二段活用の動詞「経(ふ)」の連体形
・まにま … 名詞
・に … 格助詞
○まにまに … 〜につれて
・さきざき … 名詞
○さきざき … 以前
・の … 格助詞
・考へ … 名詞
・の … 格助詞
・上 … 名詞
・を … 格助詞
なほよく考へきはむるからに、次々に詳しくなりもてゆくわざなれば、
さらによく考え究めるから、次々に詳しくなっていくものなので、
・なほ … 副詞
○なほ … さらに
・よく … ク活用の形容詞「よし」の連用形
・考へ … ハ行下二段活用の動詞「考ふ」の連用形
・きはむる … マ行下二段活用の動詞「きはむ」の連体形
・からに … 接続助詞
○からに … 〜から(理由)
・次々に … 副詞
・詳しく … シク活用の形容詞「詳し」の連用形
・なりもてゆく … カ行四段活用の動詞「なりもてゆく」の連体形
○もてゆく … だんだん〜していく
・わざ … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞
師の説なりとて、必ずなづみ守るべきにもあらず。
師の説だからといって、必ずしもこだわり守るべきでもない。
・師 … 名詞
・の … 格助詞
・説 … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
・とて … 格助詞
・必ず … 副詞
・なづみ … マ行四段活用の動詞「なづむ」の連用形
○なづむ … こだわる
・守る … ラ行四段活用の動詞「守る」の終止形
・べき … 当然の助動詞「べし」の連体形
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・も … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
よきあしきを言はず、ひたぶるに古きを守るは、学問の道には言ふかひなきわざなり。
良い悪いを区別せず、ひたすら古いものを守るのは、学問の道ではつまらないことである。
・よき … ク活用の形容詞「よし」の連体形
・あしき … シク活用の形容詞「あし」の連体形
・を … 格助詞
・言は … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・ひたぶるに … ナリ活用の形容動詞「ひたぶるなり」の連用形
○ひたぶるなり … ひたすらであるさま
・古き … ク活用の形容詞「古し」の連体形
・を … 格助詞
・守る … ラ行四段活用の動詞「守る」の連体形
・は … 係助詞
・学問 … 名詞
・の … 格助詞
・道 … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・かひ … 名詞
・なき … ク活用の形容詞「なし」の連体形
○言ふかひなし … つまらない
・わざ … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
また、おのが師などのわろきことを言ひ表すは、いともかしこくはあれど、
また、自分の師など(の説)の良くないことを言い表すのは、たいそう恐れ多くはあるが、
・また … 接続詞
・おの … 代名詞
・が … 格助詞
・師 … 名詞
・など … 副助詞
・の … 格助詞
・わろき … ク活用の形容詞「わろし」の連体形
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・言ひ表す … サ行四段活用の動詞「言ひ表す」の連体形
・は … 係助詞
・いと … 副詞
・も … 係助詞
・かしこく … ク活用の形容詞「かしこし」の連用形
○かしこし … 恐れ多い
・は … 係助詞
・あれ … ラ行変格活用の動詞「あり」の已然形
・ど … 接続助詞
それも言はざれば、世の学者その説に惑ひて、長くよきを知る期なし。
それも言わなければ、世間の学者はその説に惑わされて、長い間良い説を知る折がない。
・それ … 代名詞
・も … 係助詞
・言は … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の未然形
・ざれ … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ば … 接続助詞
・世 … 名詞
・の … 格助詞
・学者 … 名詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・説 … 名詞
・に … 格助詞
・惑ひ … ハ行四段活用の動詞「惑ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・長く … ク活用の形容詞「長し」の連用形
・よき … ク活用の形容詞「よし」の連体形
・を … 格助詞
・知る … ラ行四段活用の動詞「知る」の連体形
・期(ご) … 名詞
○期 … 時、折
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形
師の説なりとて、わろきを知りながら、
師の説だからといって、良くないのを知りながら、
・師 … 名詞
・の … 格助詞
・説 … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
・と … 格助詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・わろき … ク活用の形容詞「わろし」の連体形
・を … 格助詞
・知り … ラ行四段活用の動詞「知る」の連用形
・ながら … 接続助詞
言はず包み隠して、よさまに繕ひをらんは、
言わず包み隠して、よいようにとり繕っているとしたら、それは、
・言は … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・包み隠し … サ行四段活用の動詞「包み隠す」の連用形
・て … 接続助詞
・よさまに … ナリ活用の形容動詞「よさまなり」の連用形
○よさまなり … よいようである
・繕(つくろ)ひ … ハ行四段活用の動詞「繕ふ」の連用形
○繕ふ … とり繕う
・をら … ラ行変格活用の動詞「をり」の未然形
○をり … 〜ている(補助動詞)
・ん … 仮定の助動詞「ん」の連体形
・は … 係助詞
ただ師をのみ尊みて、道をば思はざるなり。
ただ師だけを尊重して、学問の道を思わないのである。
・ただ … 副詞
・師 … 名詞
・を … 格助詞
・のみ … 副助詞
・尊(とうと)み … マ行四段活用の動詞「尊む」の連用形
・て … 接続助詞
・道 … 名詞
・を … 格助詞
・ば … 係助詞
・思は … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の未然形
・ざる … 打消の助動詞「ず」の連体形
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
宣長は、道を尊み、いにしヘを思ひて、ひたぶるに道の明らかならんことを思ひ、
宣長は、学問の道を尊重し、古代を思って、ひたすら学問の道が明らかになることを思い、
・宣長 … 名詞
・は … 係助詞
・道 … 名詞
・を … 格助詞
・尊み … マ行四段活用の動詞「尊む」の連用形
・いにしヘ … 名詞
・を … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・ひたぶるに … ナリ活用の形容動詞「ひたぶるなり」の連用形
・道 … 名詞
・の … 格助詞
・明らかなら … ナリ活用の形容動詞「明らかなり」の未然形
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
いにしへの意の明らかならんことを旨と思ふが故に、
古代の精神が明らかになることを学問する意味と思うがために、
・いにしへ … 名詞
・の … 格助詞
・意 … 名詞
・の … 格助詞
・明らかなら … ナリ活用の形容動詞「明らかなり」の未然形
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・旨(むね) … 名詞
○旨 … 事柄の意味するところ
・と … 格助詞
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・が … 格助詞
・故(ゆえ) … 名詞
・に … 格助詞
わたくしに師を尊む理の欠けんことをば、えしも顧みざることあるを、
個人的に師を尊重する道理が欠けることを、どうしても配慮できないことがあるのを、
・わたくし … 名詞
○わたくし … 個人的なこと
・に … 格助詞
・師 … 名詞
・を … 格助詞
・尊む … マ行四段活用の動詞「尊む」の連体形
・理(ことわり) … 名詞
○理 … 物事の道筋、道理
・の … 格助詞
・欠け … カ行下二段活用の動詞「欠く」の未然形
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・ば … 係助詞
・え … 副詞
・しも … 副助詞
・顧み … マ行上一段活用の動詞「顧みる」の未然形
○顧みる … 配慮する
・ざる … 打消の助動詞「ず」の連体形
・こと … 名詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・を … 格助詞
なほわろしと、そしらん人はそしりてよ。
それでもやはりよくないと、非難する人は非難しなさい。
・なほ … 副詞
○なほ … それでもやはり
・わろし … ク活用の形容詞「わろし」の終止形
・と … 格助詞
・そしら … ラ行四段活用の動詞「そしる」の未然形
○そしる … 非難する
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・人 … 名詞
・は … 係助詞
・そしり … ラ行四段活用の動詞「そしる」の連用形
・てよ … 強意の助動詞「つ」の命令形
そはせんかたなし。
それはどうしようもない。
・そ … 代名詞
・は … 係助詞
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・ん … 当然の助動詞「ん」の連体形
・かた … 名詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形
○せんかたなし … どうしようもない
われは人にそしられじ、よき人にならんとて、道を曲げ、
私は人に非難されまい、よい人になろうと思って、学問の道を曲げ、
・われ … 代名詞
・は … 係助詞
・人 … 名詞
・に … 格助詞
・そしら … ラ行四段活用の動詞「そしる」の未然形
・れ … 受身の助動詞「る」の連用形
・じ … 打消意志の助動詞「じ」の終止形
・よき … ク活用の形容詞「よし」の連体形
・人 … 名詞
・に … 格助詞
・なら … ラ行四段活用の動詞「なる」の未然形
・ん … 意志の助動詞「ん」の終止形
・とて … 格助詞
・道 … 名詞
・を … 格助詞
・曲げ … ガ行下二段活用の動詞「曲ぐ」の連用形
いにしヘの意を曲げて、さてあるわざはえせずなん。
古代の精神を曲げて、そのままでいることはできない。
・いにしヘ … 名詞
・の … 格助詞
・意 … 名詞
・を … 格助詞
・曲げ … ガ行下二段活用の動詞「曲ぐ」の連用形
・て … 接続助詞
・さて … 副詞
○さて … そのままで
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・わざ … 名詞
・は … 係助詞
・え … 副詞
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・なん … 係助詞
これすなはちわが師の心なれば、かへりては師を尊むにもあるべくや。
これはそのまま私の師の考えだから、かえって師を尊重することでもあるはずではないか。
・これ … 代名詞
・すなはち … 副詞
・わ … 代名詞
・が … 格助詞
・師 … 名詞
・の … 格助詞
・心 … 名詞
○心 … 考え
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞
・かへりて … 副詞
○かへりて … かえって
・は … 係助詞
・師 … 名詞
・を … 格助詞
・尊む … マ行四段活用の動詞「尊む」の連体形
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・も … 係助詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・べく … 当然の助動詞「べし」の連用形
・や … 係助詞
そはいかにもあれ。
それはどうでもよい。
・そ … 代名詞
・は … 係助詞
・いかに … 副詞
○いかに … どのように
・も … 係助詞
・あれ … ラ行変格活用の動詞「あり」の命令形