立てる人どもは、装束の清らなること物にも似ず。
立っている天人たちは、衣装が美しいことは比べるものがない。
・立て … タ行四段活用の動詞「立つ」の命令形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・人ども … 名詞
・は … 係助詞
・装束(そうぞく) … 名詞
・の … 格助詞
・清らなる … ナリ活用の形容動詞「清らなり」の連体形
○清らなり … 清らかで美しい
・こと … 名詞
・物 … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・似 … ナ行上一段活用の動詞「似る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
〇物にも似ず … 何物にも比べるものがない
飛ぶ車一つ具したり。羅蓋さしたり。
飛ぶ車を一台伴っている。薄い絹の布を張った傘をさしている。
・飛ぶ … バ行四段活用の動詞「飛ぶ」の連体形
・車 … 名詞
・一つ … 名詞
・具し … サ行変格活用の動詞「具す」の連用形
○具す … 備える
・たり … 存続の助動詞「たり」の終止形
・羅蓋(らがい) … 名詞
○羅蓋 … 薄絹を張った柄の長い傘
・さし … サ行四段活用の動詞「さす」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の終止形
その中に、王とおぼしき人、家に、
その中で、王と思われる人が、家に向かって、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・中 … 名詞
・に … 格助詞
・王 … 名詞
・と … 格助詞
・おぼしき … シク活用の形容詞「おぼし」の連体形
〇おぼし … ~と思われる
・人 … 名詞
・家 … 名詞
・に … 格助詞
「みやつこまろ、まうで来。」と言ふに、猛く思ひつるみやつこまろも、
「みやつこまろ、出て参れ。」と言うと、勇ましく思っていたみやつこまろも、
・みやつこまろ … 名詞
・まうで来 … カ行変格活用の動詞「まうで来」の命令形
○まうで来 … 「来」の謙譲語 ⇒ 王から王への敬意
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・に … 接続助詞
・猛(たけ)く … ク活用の形容詞「猛し」の連用形
○猛し … 勇ましい
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
・みやつこまろ … 名詞
・も … 係助詞
〇「みやつこまろ、まうで来。」という言い方には、天人の翁に対するどういう態度がうかがわれるか。 ⇒ 上位の身分の者が下位の身分の者に対して命令する態度。
物に酔ひたる心地して、うつぶしに伏せり。
何かに酔ったような気分になって、うつぶせに伏してしまった。
・物 … 名詞
○物 … 何か
・に … 格助詞
・酔(え)ひ … ハ行四段活用の動詞「酔ふ」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・心地 … 名詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・うつぶし … 名詞
・に … 格助詞
・伏せ … サ行四段活用の動詞「伏す」の命令形
・り … 完了の助動詞「り」の終止形
言はく、「なむぢ、幼き人。
言うことには、「おまえ、愚かな者よ。
・言は … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の未然形
・く … 接尾語
・なむぢ … 代名詞
〇なむぢ … おまえ
・幼き … ク活用の形容詞「幼し」の連体形
〇幼し … (考えが)幼稚である
・人 … 名詞
いささかなる功徳を翁作りけるによりて、なむぢが助けにとて、
わずかな善行を翁が積んだからといって、おまえの助けにと思って、
・いささかなる … ナリ活用の形容動詞「いささかなり」の連体形
〇いささかなり … わずかである
・功徳 … 名詞
・を … 格助詞
・翁(おきな) … 名詞
・作り … ラ行四段活用の動詞「作る」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・に … 格助詞
・より … ラ行四段活用の動詞「よる」の連用形
〇よる … 基づく
・て … 接続助詞
・なむぢ … 代名詞
・が … 格助詞
・助け … 名詞
・に … 格助詞
・とて … 格助詞
片時のほどとて下ししを、そこらの年ごろ、
ちょっとの間ということで(地上に)おろしたのだが、多くの年月の間、
・片時(かたとき) … 名詞
〇片時 … ちょっとの間
・の … 格助詞
・ほど … 名詞
・とて … 格助詞
・下し … サ行四段活用の動詞「下す」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・を … 接続助詞
・そこら … 副詞
○そこら … 数量の多いさま
・の … 格助詞
・年ごろ … 名詞
そこらの黄金賜ひて、身を変へたるがごとなりにたり。
たくさんの黄金をお与えになって、生まれ変わったようになってしまった。
・そこら … 副詞
・の … 格助詞
・黄金(こがね) … 名詞
・賜(たま)ひ … ハ行四段活用の動詞「賜ふ」の連用形
○賜ふ … 「与ふ」の尊敬語 ⇒ 王から王への敬意
・て … 接続助詞
・身 … 名詞
・を … 格助詞
・変へ … ハ行下二段活用の動詞「変ふ」の連用形
〇身を変ふ … 生まれ変わる、別人になる
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・が … 格助詞
・ごと … 比況の助動詞「ごとし」の語幹
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の終止形
かぐや姫は、罪を作り給へりければ、
かぐや姫は、罪を犯しなさったので、
・かぐや姫 … 名詞
・は … 係助詞
・罪 … 名詞
・を … 格助詞
・作り … ラ行四段活用の動詞「作る」の連用形
・給へ … ハ行四段活用の尊敬の補助動詞「給ふ」の命令形
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 王からかぐや姫への敬意
・り … 完了の助動詞「り」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
かくいやしきおのれがもとに、しばしおはしつるなり。
このように身分が低いお前のところに、ちょっとの間いらっしゃったのだ。
・かく … 副詞
・いやしき … シク活用の形容詞「いやし」の連体形
○いやし … 身分が低い
・おのれ … 代名詞
・が … 格助詞
・もと … 名詞
〇もと … 人のいる所
・に … 格助詞
・しばし … 副詞
〇しばし … ちょっとの間
・おはし … サ行変格活用の動詞「おはす」の連用形
○おはす … 「あり」の尊敬語 ⇒ 王からかぐや姫への敬意
・つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
罪の限り果てぬれば、かく迎ふるを、
罪を償う期間が終わったので、このように迎えるのを、
・罪 … 名詞
・の … 格助詞
・限り … 名詞
〇罪の限り … 罪を償う期間
・果て … タ行下二段活用の動詞「果つ」の連用形
・ぬれ … 完了の助動詞「ぬ」の已然形
・ば … 接続助詞
・かく … 副詞
・迎ふる … ハ行下二段活用の動詞「迎ふ」の連体形
・を … 格助詞
翁は泣き嘆く。あたはぬことなり。
翁は泣いて嘆く。(かぐや姫を引き留めるのは)無理なことだ。
・翁 … 名詞
・は … 係助詞
・泣き嘆く … カ行四段活用の動詞「泣き嘆く」の終止形
・あたは … ハ行四段活用の動詞「あたふ」の未然形
○あたふ … 理にかなう
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・こと … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
はや返し奉れ。」と言ふ。
早くお返し申し上げよ。」と言う。
・はや … 副詞
〇はや … 早く、急いで
・返し … サ行四段活用の動詞「返す」の連用形
・奉れ … ラ行四段活用の動詞「奉る」の命令形
○奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 王から王への敬意
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形
翁答へて申す、「かぐや姫を養ひ奉ること二十余年になりぬ。
翁が答えて申し上げる、「かぐや姫を養い申し上げること二十余年になりました。
・翁 … 名詞
・答へ … ハ行下二段活用の動詞「答ふ」の連用形
・て …
・申す … サ行四段活用の動詞「申す」の連体形
○申す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 作者から王への敬意
・かぐや姫 … 名詞
・を … 格助詞
・養ひ … ハ行四段活用の動詞「養ふ」の連用形
・奉る … ラ行四段活用の動詞「奉る」の連体形
○奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 翁からかぐや姫への敬意
・こと … 名詞
・二十余年 … 名詞
・に … 格助詞
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
片時とのたまふに、あやしくなり侍りぬ。
ちょっとの間とおっしゃるので、わからなくなりました。
・片時 … 名詞
・と … 格助詞
・のたまふ … ハ行四段活用の動詞「のたまふ」の連体形
○申す … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ 翁から王への敬意
・に … 接続助詞
・あやしく … シク活用の形容詞「あやし」の連用形
○あやし … 理解できない
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・侍(はべ)り … ラ行変格活用の動詞「侍り」の連用形
○侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ 翁から王への敬意
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
〇「片時とのたまふに、あやしくなり侍りぬ。」とは、どういうことか。 ⇒ 王の、かぐや姫は翁のところに「ちょっとの間いらっしゃった」という言葉は、二十余年にわたってかぐや姫を養ってきた翁には、理解できないものであるということ。
また異所にかぐや姫と申す人ぞおはしますらむ。」と言ふ。
また他の所にかぐや姫と申す人がいらっしゃるのでしょう。」と言う。
・また … 副詞
・異所(ことどころ) … 名詞
・に … 格助詞
・かぐや姫 … 名詞
・と … 格助詞
・申す … サ行四段活用の動詞「申す」の連体形
○申す … 丁寧の補助動詞 ⇒ 翁から王への敬意
・人 … 名詞
・ぞ … 係助詞・強調
・おはします … サ行四段活用の動詞「おはします」の終止形
○おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 翁からかぐや姫への敬意
・らむ … 現在推量の助動詞「らむ」の連体形(結び)
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形
「ここにおはするかぐや姫は、重き病をし給へば、
「ここにいらっしゃるかぐや姫は、重い病にかかっておられるので、
・ここ … 代名詞
・に … 格助詞
・おはする … サ行変格活用の動詞「おはす」の連体形
○おはす … 「あり」の尊敬語 ⇒ 翁からかぐや姫への敬意
・かぐや姫 … 名詞
・は … 係助詞
・重き … ク活用の形容詞「重し」の連体形
・病 … 名詞
・を … 格助詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 翁からかぐや姫への敬意
・ば … 接続助詞
え出でおはしますまじ。」と申せば、
出ていらっしゃることはできないでしょう。」と申し上げると、
・え … 副詞
○え(~打消) … ~できない
・出で … ダ行下二段活用の動詞「出づ」の連用形
・おはします … サ行四段活用の動詞「おはします」の終止形
○おはします … 尊敬の補助動詞 ⇒ 翁からかぐや姫への敬意
・まじ … 打消推量の助動詞「まじ」の終止形
・と … 格助詞
・申せ … サ行四段活用の動詞「申す」の已然形
○申す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から王への敬意
・ば … 接続助詞
その返り事はなくて、屋の上に飛ぶ車を寄せて、「いざ、かぐや姫、
その返事はなくて、屋根の上に飛ぶ車を寄せて、「さあ、かぐや姫、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・返り事 … 名詞
・は … 係助詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・て … 接続助詞
・屋(や) … 名詞
・の … 格助詞
・上 … 名詞
・に … 格助詞
・飛ぶ … バ行四段活用の動詞「飛ぶ」の連体形
・車 … 名詞
・を … 格助詞
・寄せ … サ行下二段活用の動詞「寄す」の連用形
・て … 接続助詞
・いざ … 感動詞
・かぐや姫 … 名詞
きたなき所に、いかでか久しくおはせむ。」と言ふ。
けがれた所に、どうして長くいらっしゃるのでしょうか。」と言う。
・きたなき … ク活用の形容詞「きたなし」の連体形
○きたなし … 清浄でない
・所 … 名詞
・に … 格助詞
・いかで … 副詞
・か … 係助詞・疑問
・久しく … シク活用の形容詞「久し」の連用形
・おはせ … サ行変格活用の動詞「おはす」の未然形
○おはす … 「あり」の尊敬語 ⇒ 王からかぐや姫への敬意
・む … 推量の助動詞「む」の連体形(結び)
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形
立て籠めたる所の戸、すなはちただ開きに開きぬ。
締めていた所の戸は、すぐに、ただひたすら開いてしまった。
・立て籠め … マ行下二段活用の動詞「立て籠む」の連用形
○立て籠む … 締め切る
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・所 … 名詞
・の … 格助詞
・戸 … 名詞
・すなはち … 副詞
○すなはち … ただちに
・ただ … 副詞
・開(あ)き … カ行四段活用の動詞「開く」の連用形
・に … 格助詞
・開き … カ行四段活用の動詞「開く」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
格子どもも、人はなくして開きぬ。
格子なども、人がいないのに開いた。
・格子ども … 名詞
・も … 係助詞
・人 … 名詞
・は … 係助詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・して … 接続助詞
・開き … カ行四段活用の動詞「開く」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
嫗抱きてゐたるかぐや姫、外に出でぬ。
嫗が抱いて座っていたかぐや姫は、外に出てしまった。
・嫗(おうな) … 名詞
・抱き … カ行四段活用の動詞「抱く」の連用形
・て … 接続助詞
・ゐ … ワ行上一段活用の動詞「ゐる」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・かぐや姫 … 名詞
・外(と) … 名詞
・に … 格助詞
・出で … ダ行下二段活用の動詞「出づ」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
えとどむまじければ、たださし仰ぎて泣きをり。
止めることができないようなので、ただ見上げて泣いている。
・え … 副詞
・とどむ … マ行下二段活用の動詞「とどむ」の終止形
・まじけれ … 打消意志の助動詞「まじ」の連用形
・ば … 接続助詞
・ただ … 副詞
・さし仰ぎ … ガ行四段活用の動詞「さし仰ぐ」の連用形
・て … 接続助詞
・泣きをり … ラ行変格活用の動詞「泣きをり」の終止形
天人の中に、持たせたる箱あり。天の羽衣入れり。
天人の中(のある者)に持たせている箱がある。天の羽衣が入っている。
・天人 … 名詞
・の … 格助詞
・中 … 名詞
・に … 格助詞
・持た … タ行四段活用の動詞「持つ」の未然形
・せ … 使役の助動詞「す」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・箱 … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形
・天(あま)の羽衣(はごろも) … 名詞
・入れ … ラ行四段活用の動詞「入る」の命令形
・り … 存続の助動詞「り」の終止形
またあるは、不死の薬入れり。
もう一つの箱には、不死の薬が入っている。
・また … 副詞
〇また … 他にもう一つ
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・は … 係助詞
〇あるは … あるものは
・不死 … 名詞
・の … 格助詞
・薬 … 名詞
・入れ … ラ行四段活用の動詞「入る」の命令形
・り … 存続の助動詞「り」の終止形
一人の天人言ふ、「壺なる御薬奉れ。
一人の天人が言う、「壺にあるお薬を召し上がれ。
・一人 … 名詞
・の … 格助詞
・天人 … 名詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・壺(つぼ) … 名詞
・なる … 存在の助動詞「なり」の連体形
・御薬(おおんくすり) … 名詞
・奉れ … ラ行四段活用の動詞「奉る」の命令形
○奉る … 「飲む」の尊敬語 ⇒ 天人からかぐや姫への敬意
きたなき所の物聞こし召したれば、御心地悪しからむものぞ。」とて、
けがれた所の物を召し上がったので、ご気分が悪いにちがいない。」と言って、
・きたなき … ク活用の形容詞「きたなし」の連体形
〇きたなし … けがれている
・所 … 名詞
・の … 格助詞
・物 … 名詞
・聞こし召し … サ行四段活用の動詞「聞こし召す」の連用形
○聞こし召す … 「食ふ」の尊敬語 ⇒ 天人からかぐや姫への敬意
・たれ … 完了の助動詞「たり」の已然形
・ば … 接続助詞
・御心地 … 名詞
・悪(あ)しから … シク活用の形容詞「悪し」の未然形
○悪し … (体調が)すぐれない
・む … 推量の助動詞「む」の連体形
・もの … 名詞
・ぞ … 終助詞
〇ものぞ … ~にちがいない(強調)
・とて … 格助詞
持て寄りたれば、いささかなめ給ひて、少し、形見とて、
持って近寄ってきたので、ちょっとおなめになって、少し、形見として、
・持て寄り … ラ行四段活用の動詞「持て寄る」の連用形
〇持て寄る … 持って近寄る
・たれ … 完了の助動詞「たり」の已然形
・ば … 接続助詞
・いささか … 副詞
・なめ … マ行下二段活用の動詞「なむ」の連用形
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者からかぐや姫への敬意
・て … 接続助詞
・少し … 副詞
・形見 … 名詞
・とて … 格助詞
脱ぎ置く衣に包まむとすれば、在る天人包ませず。
脱いで置いていく着物に包もうとすると、そこにいる天人が包ませない。
・脱ぎ置く … カ行四段活用の動詞「脱ぎ置く」の連体形
・衣(きぬ) … 名詞
・に … 格助詞
・包ま … マ行四段活用の動詞「包む」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・すれ … サ行変格活用の動詞「す」の已然形
・ば … 接続助詞
・在る … ラ行変格活用の動詞「在り」の連体形
・天人 … 名詞
・包ま … マ行四段活用の動詞「包む」の未然形
・せ … 使役の助動詞「す」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
御衣を取り出でて着せむとす。
天の羽衣を取り出して着せようとする。
・御衣(みぞ) … 名詞
・を … 格助詞
・取り出で … ダ行下二段活用の動詞「取り出づ」の連用形
・て … 接続助詞
・着せ … サ行下二段活用の動詞「着す」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・す … サ行変格活用の動詞「す」の終止形
その時に、かぐや姫、「しばし待て。」と言ふ。
その時に、かぐや姫が、「しばらく待て。」と言う。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・時 … 名詞
・に … 格助詞
・かぐや姫 … 名詞
・しばし … 副詞
・待て … タ行四段活用の動詞「待つ」の命令形
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形
「衣着せつる人は、心異になるなりといふ。
「天の羽衣を着せた人は、心が変わるのだという。
・衣 … 名詞
・着せ … サ行下二段活用の動詞「着す」の連用形
・つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
・人 … 名詞
・は … 係助詞
・心 … 名詞
・異(こと)に … ナリ活用の形容動詞「異なり」の連用形
・なる … ラ行四段活用の動詞「なる」の連体形
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の終止形
〇「心異になるなり」とは、どういうことか。 ⇒ 現在の自分とは異なった、ものの考え方、感じ方をするようになるということ。
もの一言、言ひ置くべきことありけり。」と言ひて、文書く。
一言、言い残しておくべきことがあるのですよ。」と言って、手紙を書く。
・もの … 名詞
・一言(ひとこと) … 名詞
・言ひ置く … カ行四段活用の動詞「言ひ置く」の終止形
・べき … 当然の助動詞「べし」の連体形
・こと … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・けり … 詠嘆の助動詞「けり」の終止形
・と … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・文 … 名詞
・書く … カ行四段活用の動詞「書く」の終止形
天人、「遅し。」と心もとながり給ふ。
天人は、「遅い。」とじれったがりなさる。
・天人 … 名詞
・遅し … ク活用の形容詞「遅し」の終止形
・と … 格助詞
・心もとながり … ラ行四段活用の動詞「心もとながる」の連用形
○心もとながる … 待ち遠しく思う
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の終止形
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から天人への敬意
かぐや姫、「もの知らぬこと、なのたまひそ。」とて、
かぐや姫は、「わからないことを、おっしゃいますな。」と言って、
・かぐや姫 … 名詞
・もの … 名詞
・知ら … ラ行四段活用の動詞「知る」の未然
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・こと … 名詞
・な … 副詞
○な~そ … ~してくれるな
・のたまひ … ハ行四段活用の動詞「のたまふ」の連用形
○のたまふ … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ かぐや姫から天人への敬意
・そ … 終助詞
・とて … 格助詞
いみじく静かに、朝廷に御文奉り給ふ。あわてぬさまなり。
とても静かに、帝にお手紙を差し上げなさる。落ち着いた様子である。
・いみじく … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形
・静かに … ナリ活用の形容動詞「静かなり」の連用形
・朝廷(おほやけ) … 名詞
・に … 格助詞
・御文 … 名詞
・奉り … ラ行四段活用の動詞「奉る」の連用形
○奉る … 「与ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から帝への敬意
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の終止形
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者からかぐや姫への敬意
・あわて … タ行下二段活用の動詞「あわつ」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・さま … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
「かくあまたの人を賜ひて、とどめさせ給へど、
「こんなに大勢の人を遣わされて、お引きとめなさいますが、
・かく … 副詞
・あまた … 副詞
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・を … 格助詞
・賜ひ … ハ行四段活用の動詞「賜ふ」の連用形
○賜ふ … 「与ふ」の尊敬語 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・て … 接続助詞
・とどめ … マ行下二段活用の動詞「とどむ」の連用形
・させ … 尊敬の助動詞「さす」の連用形 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・給へ … ハ行四段活用の尊敬の補助動詞「給ふ」の已然形
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・ど … 接続助詞
許さぬ迎へまうで来て、
許さない迎えがやって参って、
・許さ … サ行四段活用の動詞「許す」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・迎へ … 名詞
・まうで来 … カ行変格活用の動詞「まうで来」の連用形
○まうで来 … 「来」の謙譲語 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・て … 接続助詞
取り率てまかりぬれば、口惜しく悲しきこと。
私を召し連れて参りますので、残念で悲しいことです。
・取り率(い) … 上一段活用の動詞「取り率る」の連用形
・て … 接続助詞
・まかり … ラ行四段活用の動詞「まかる」の連用形
○まかる … 「行く」の謙譲語 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・ぬれ … 完了の助動詞「ぬ」の已然形
・ば … 接続助詞
・口惜しく … シク活用の形容詞「口惜し」の連用形
○口惜し … 残念である
・悲しき … シク活用の形容詞「悲し」の連体形
・こと … 名詞
宮仕へつかうまつらずなりぬるも、
宮仕えをいたさぬままになったのも、
・宮仕へ … 名詞
・つかうまつら … ラ行四段活用の動詞「つかうまつる」の未然形
○つかうまつる … 「す」の謙譲語 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・ぬる … 完了の助動詞「ぬ」の連体形
・も … 係助詞
かくわづらはしき身にて侍れば。
このように複雑な身の上でございますので。
・かく … 副詞
・わづらはしき … シク活用の形容詞「わづらはし」の連体形
○わづらはし … 複雑である
・身 … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
・侍れ … ラ行変格活用の動詞「侍り」の已然形
○侍り … 「あり」の丁寧語 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・ば … 接続助詞
○「かくわづらはしき身」とは、どういうことか。 ⇒ しばらくの間だけ天上界から地上に下されていて、いずれは天上界に連れ戻されることになっている身の上であるということ。
心得ず思し召されつらめども、
納得できないとお思いになられているでしょうが、
・心得 … ア行下二段活用の動詞「心得」の未然形
○心得 … 理解できる
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・思(おぼ)し召さ … サ行四段活用の動詞「思し召す」の未然形
○思しめす … 「思ふ」の尊敬語 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・れ … 尊敬の助動詞「る」の連用形 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・つ … 強意の助動詞「つ」の終止形
・らめ … 現在推量の助動詞「らむ」の已然形
・ども … 接続助詞
心強く承らずなりにしこと、なめげなる者に
強情にお受けしないままになりましたことを、無礼な者だと
・心強く … ク活用の形容詞「心強し」の連用形
・承ら … ラ行四段活用の動詞「承る」の未然形
○承る … 「受く」の謙譲語 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・こと … 名詞
・なめげなる … ナリ活用の形容動詞「なめげなり」の連体形
○なめげなり … 無礼である
・者 … 名詞
・に … 格助詞
思し召しとどめられぬるなむ、心にとまり侍りぬる。」とて、
お心にとどめられてしまいましたことが、心残りでございます。」と書いて、
・思し召しとどめ … マ行下二段活用の動詞「思しめしとどむ」の未然形
○思しめしとどむ … 「思ひとどむ」の尊敬語 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・られ … 尊敬の助動詞「らる」の連用形 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・ぬる … 完了の助動詞「ぬ」の連体形
・なむ … 係助詞・強調
・心 … 名詞
・に … 格助詞
・とまり … ラ行四段活用の動詞「とまる」の連用形
・侍り … ラ行変格活用の動詞「侍り」の連用形
○侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ かぐや姫から帝への敬意
・ぬる … 完了の助動詞「ぬ」の連体形(結び)
・とて … 格助詞
今はとて天の羽衣着る折ぞ
もう最後だと思って天の羽衣を着るときになって、
・今 … 名詞
・は … 係助詞
・とて … 格助詞
・天の羽衣 … 名詞
・着る … カ行上一段活用の動詞「着る」の連体形
・折 … 名詞
・ぞ … 係助詞・強調
君をあはれと思ひ出でける
あなた様のことをしみじみ思い出すことです。
・君 … 代名詞
・を … 格助詞
・あはれ … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の語幹
・と … 格助詞
・思ひ出で … ダ行下二段活用の動詞「思ひ出づ」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)
とて、壺の薬添へて、頭中将呼び寄せて、奉らす。
と詠んで、壺の薬を添えて、頭中将を呼び寄せて、献上させる。
・とて … 格助詞
・壺 … 名詞
・の … 格助詞
・薬 … 名詞
・添へ … ハ行下二段活用の動詞「添ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・頭中将(とうのちゆうじよう) … 名詞
・呼び寄せ … サ行下二段活用の動詞「呼び寄す」の連用形
・て … 接続助詞
・奉ら … ラ行四段活用の動詞「奉る」の未然形
○奉る … 「与ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から帝への敬意
・す … 使役の助動詞「す」の終止形
中将に、天人取りて伝ふ。
中将に、天人が取って渡す。
・中将 … 名詞
・に … 格助詞
・天人 … 名詞
・取り … ラ行四段活用の動詞「取る」の連用形
・て … 接続助詞
・伝ふ … ハ行下二段活用の動詞「伝ふ」の終止形
○伝ふ … 渡す
中将取りつれば、ふと天の羽衣うち着せ奉りつれば、
中将が受け取ったので、さっと天の羽衣をお着せ申し上げたところ、
・中将 … 名詞
・取り … ラ行四段活用の動詞「取る」の連用形
・つれ … 完了の助動詞「つ」の已然形
・ば … 接続助詞
・ふと … 副詞
・天の羽衣 … 名詞
・うち着せ … サ行下二段活用の動詞「うち着す」の連用形
・奉り … ラ行四段活用の謙譲の補助動詞「奉る」の連用形
○奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 筆者からかぐや姫への敬意
・つれ … 完了の助動詞「つ」の已然形
・ば … 接続助詞
翁を、いとほし、かなしと思しつることも失せぬ。
翁を、気の毒だ、ふびんだとお思いになっていたことも消え失せた。
・翁 … 名詞
・を … 格助詞
・いとほし … シク活用の形容詞「いとほし」の終止形
○いとほし … 見ていてつらい
・かなし … シク活用の形容詞「かなし」の終止形
○かなし … かわいそうである
・と … 格助詞
・思し … サ行四段活用の動詞「思す」の連用形
○思す … 「思ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者からかぐや姫への敬意
・つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
・こと … 名詞
・も … 係助詞
・失(う)せ … サ行下二段活用の動詞「失す」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
この衣着つる人は、物思ひなくなりにければ、
この天の羽衣を着た人は、悩むことがなくなってしまったので、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・衣 … 名詞
・着 … カ行上一段活用の動詞「着る」の連用形
・つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
・人 … 名詞
・は … 係助詞
・物思ひ … 名詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
車に乗りて、百人ばかり天人具して、昇りぬ。
車に乗って、百人ほどの天人を引き連れて、天に昇った。
・車 … 名詞
・に … 格助詞
・乗り … ラ行四段活用の動詞「乗る」の連用形
・て … 接続助詞
・百人 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・天人 … 名詞
・具し … サ行変格活用の動詞「具す」の連用形
・て … 接続助詞
・昇り … ラ行四段活用の動詞「昇る」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
その後、翁・媼、血の涙を流して惑へど、かひなし。
その後、翁、媼は、血の涙を流して思い悩んだけれども、なんの効果もない。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・後 … 名詞
・翁 … 名詞
・媼 … 名詞
・血 … 名詞
・の … 格助詞
・涙 … 名詞
・を … 格助詞
・流し … サ行四段活用の動詞「流す」の連用形
・て … 接続助詞
・惑へ … ハ行四段活用の動詞「惑ふ」の已然形
○惑ふ … 思い悩む
・ど … 接続助詞
・かひなし … ク活用の形容詞「かひなし」の終止形
○かひなし … 効果がない
あの書き置きし文を読みて聞かせけれど、
あの(かぐや姫が)書き置いた手紙を読んで聞かせたけれども、
・あ … 代名詞
・の … 格助詞
・書き置き … カ行四段活用の動詞「書き置く」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・文 … 名詞
・を … 格助詞
・読み … マ行四段活用の動詞「読む」の連用形
・て … 接続助詞
・聞か … カ行四段活用の動詞「聞く」の未然形
・せ … 使役の助動詞「す」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ど … 接続助詞
「何せむにか命も惜しからむ。
「どうして命が惜しいだろうか、惜しくはない。
・何 … 代名詞
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の連体形
・に … 格助詞
○何せむに … どうして
・か … 係助詞・反語
・命 … 名詞
・も … 係助詞
・惜しから … シク活用の形容詞「惜し」の未然形
・む … 推量の助動詞「む」の連体形(結び)
誰がためにか。
誰のために(命が惜しいだろう)か、惜しくはない。
・誰 … 代名詞
・が … 格助詞
・ため … 名詞
・に … 格助詞
・か … 係助詞・反語
何事も用なし」とて、薬も食はず。
なにもいらない。」と言って、薬も飲まない。
・何ごと … 名詞
○何ごと … どんな事
・も … 係助詞
・用 … 名詞
○用 … 必要
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形
・とて … 格助詞
・薬 … 名詞
・も … 係助詞
・食は … ハ行四段活用の動詞「食ふ」の未然形
○食ふ … 飲み込む
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
やがて起きもあがらで、病み臥せり。
そのまま起き上がりもしないで、病気になって寝込んでいた。
・やがて … 副詞
○やがて … そのまま
・起き … カ行上二段活用の動詞「起く」の連用形
・も … 係助詞
・あがら … ラ行四段活用の動詞「あがる」の連用形
・で … 接続助詞
・病み臥せ … サ行下二段活用の動詞「病み臥す」の已然形
○病み臥す … 病気で寝込む
・り … 存続の助動詞「り」の終止形