兼好法師が詞のあげつらひ・玉勝間 現代語訳・品詞分解

兼好法師が徒然草に、「花は盛りに、
兼好法師が『徒然草』で、「(桜の)花は満開の時期に、
・兼好法師 … 名詞
・が … 格助詞
・徒然草 … 名詞
・に … 格助詞
・花 … 名詞
・は … 係助詞
・盛り … 名詞
〇盛り … もっとも勢いのある時期
・に … 格助詞

月は隈なきをのみ見るものかは。」とか言へるは、いかにぞや。
月は曇りがないのだけを見るものだろうか。」とか言っているのは、どうだろうか。
・月 … 名詞
・は … 係助詞
・隈(くま)なき … ク活用の形容詞「隈なし」の連体形
〇隈なし … 暗い所がない
・を … 格助詞
・のみ … 副助詞
・見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・もの … 名詞
・かは … 係助詞・疑問
・と … 格助詞
・か … 係助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・は … 係助詞
・いかに … 副詞
・ぞ … 終助詞
・や … 係助詞・疑問

いにしへの歌どもに、花は盛りなる、月は隈なきを見たるよりも、
昔の歌などに、花は盛りであるのを、月は曇りのないのを見た歌よりも、
・いにしへ … 名詞
・の … 格助詞
・歌ども … 名詞
・に … 格助詞
・花 … 名詞
・は … 係助詞
・盛りなる … ナリ活用の形容動詞「盛りなり」の連体形
・月 … 名詞
・は … 係助詞
・隈なき … ク活用の形容詞「隈なし」の連体形
・を … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・より … 格助詞
・も … 係助詞

花のもとには風をかこち、月の夜は雲を厭ひ、
花の下では風をなげき、月の夜は雲をいやがり、
・花 … 名詞
・の … 格助詞
・もと … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・風 … 名詞
・を … 格助詞
・かこち … タ行四段活用の動詞「かこつ」の連用形
かこつ … なげく
・月 … 名詞
・の … 格助詞
・夜 … 名詞
・は … 係助詞
・雲 … 名詞
・を … 格助詞
・厭(いと)ひ … ハ行四段活用の動詞「厭ふ」の連用形
〇厭ふ … いやがる

あるは、待ち惜しむ心づくしを詠めるぞ多くて、
あるいは、待ったり惜しんだりする時のやるせない気持ちを詠んだ歌が多くて、
・あるは … 接続詞
・待ち … タ行四段活用の動詞「待つ」の連用形
・惜しむ … マ行四段活用の動詞「惜しむ」の連体形
・心づくし … 名詞
〇心づくし … やるせない気持ち
・を … 格助詞
・詠め … マ行四段活用の動詞「詠む」の已然形
・る … 完了の助動詞「り」の連体形
・ぞ … 係助詞
・多く … ク活用の形容詞「多し」の連用形
・て … 接続助詞

心深きも、殊にさる歌に多かるは、
風情がある歌も、特にそんな歌に多いのは、
・心深き … ク活用の形容詞「心深し」の連体形
〇心深し … 風情がある
・も … 係助詞
・殊(こと)に … 副詞
・さる … ラ行変格活用の動詞「さり」の連体形
さる … そんな
・歌 … 名詞
・に … 格助詞
・多かる … ク活用の形容詞「多し」の連体形
・は … 係助詞

みな、花は盛りをのどかに見まほしく、
みんな、花は盛りのものを静かに見たいし、
・みな … 名詞
・花 … 名詞
・は … 係助詞
・盛り … 名詞
・を … 格助詞
・のどかに … ナリ活用の形容動詞「のどかなり」の連用形
〇のどかなり … 静かである
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の未然形
・まほしく … 希望の助動詞「まほし」の連用形

月は隈なからんことを思ふ心のせちなるからこそ、
月は曇りがないことを願う気持ちが切実であるからこそ、
・月 … 名詞
・は … 係助詞
・隈なから … ク活用の形容詞「隈なし」の未然形
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
〇思ふ … 心の中で願う
・心 … 名詞
・の … 格助詞
・せちなる … ナリ活用の形容動詞「せちなり」の連体形
せちなり … 切実である
・から … 接続助詞
・こそ … 係助詞・強意

さもえあらぬを嘆きたるなれ。
そのようにもあることができないのを嘆いているのである。
・さ … 副詞
・も … 係助詞
さも … そのようにも
・え … 副詞
え(~打消) … ~できない
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・を … 格助詞
・嘆き … カ行四段活用の動詞「嘆く」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形(結び)
「さもえあらぬ」とは、どういうことか。 ⇒ 花を満開の時期に静かに見たり、月を雲がかからない状態で見たりすることは、そうそうあることではないということ。

いづこの歌にかは、花に風を待ち、
どこの歌に、花に風(が吹きつけるの)を待ち、
・いづこ … 代名詞
・の … 格助詞
・歌 … 名詞
・に … 格助詞
・かは … 係助詞・反語
・花 … 名詞
・に … 格助詞
・風 … 名詞
・を … 格助詞
・待ち … タ行四段活用の動詞「待つ」の連用形

月に雲を願ひたるはあらん。
月に雲(がかかるの)を願っている歌があるだろうか、ありはしないだろう。
・月 … 名詞
・に … 格助詞
・雲 … 名詞
・を … 格助詞
・願ひ … ハ行四段活用の動詞「願ふ」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・は … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ん … 推量の助動詞「ん」の連体形(結び)

さるを、かの法師が言へるごとくなるは、人の心に逆ひたる、
そうであるのに、あの法師が言っているようなことは、人の心に逆らった、
・さるを … 接続詞
・か … 代名詞
・の … 格助詞
・法師 … 名詞
・が … 格助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・ごとくなる … 比況の助動詞「ごとくなり」の連体形
・は … 係助詞
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・心 … 名詞
・に … 格助詞
・逆ひ … ハ行四段活用の動詞「逆ふ」の連用形
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形

後の世のさかしら心の作り雅びにして、まことの雅び心にはあらず。
後の世の利口ぶった心がことさら作りあげた風情であって、本当の風流心ではない。
・後 … 名詞
・の … 格助詞
・世 … 名詞
・の … 格助詞
・さかしら心 … 名詞
〇さかしら … 利口ぶったこと
・の … 格助詞
・作り雅(みや)び … 名詞
〇作り雅び … ことさら作りあげた風情
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・して … 接続助詞
・まこと … 名詞
・の … 格助詞
・雅び心 … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・は … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

かの法師が言へる言ども、この類ひ多し。みな、同じことなり。
あの法師が言っている言葉には、この類いが多い。みんな、同じことである。
・か … 代名詞
・の … 格助詞
・法師 … 名詞
・が … 格助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・言(こと)ども … 名詞
〇言 … 言葉
〇ども … 接尾語、見下した感じを添える
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・類ひ … 名詞
・多し … ク活用の形容詞「多し」の終止形
・みな … 名詞
・同じ … シク活用の形容詞「同じ」の連体形
・こと … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

すべて、なべての人の願ふ心に違へるを雅びとするは、作りことぞ多かりける。
総じて、普通の人の願う心に反することを風流とするのは、作り事が多いんだなあ。
・すべて … 副詞
・なべて … 副詞
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・願ふ … ハ行四段活用の動詞「願ふ」の連体形
・心 … 名詞
・に … 格助詞
・違(たが)へ … ハ行四段活用の動詞「違ふ」の已然形
〇違ふ … 反する
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・を … 格助詞
・雅び … 名詞
・と … 格助詞
・する … サ行変格活用の動詞「す」の連体形
・は … 係助詞
・作りこと … 名詞
・ぞ … 係助詞・強意
・多かり … ク活用の形容詞「多し」の連用形
・ける … 詠嘆の助動詞「けり」の連体形(結び)

恋に、あへるを喜ぶ歌は心深からで、
恋(の歌)に、契りを結んだことを喜ぶ歌は風情がなくて、
・恋 … 名詞
・に … 格助詞
・あへ … ハ行四段活用の動詞「あふ」の已然形
あふ … 契りを結ぶ
・る … 完了の助動詞「り」の連体形
・を … 格助詞
・喜ぶ … バ行四段活用の動詞「喜ぶ」の連体形
・歌 … 名詞
・は … 係助詞
・心深から … ク活用の形容詞「心深し」の未然形
・で … 接続助詞

あはぬを嘆く歌のみ多くして心深きも、あひ見んことを願ふからなり。
契りを結ばないのを嘆く歌ばかり多くて風情があるのも、契りを結ぶことを願うからである。
・あは … 行四段活用の動詞「あふ」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・を … 格助詞
・嘆く … カ行四段活用の動詞「嘆く」の連体形
・歌 … 名詞
・のみ … 副助詞
・多く … ク活用の形容詞「多し」の連用形
・して … 接続助詞
・心深き … ク活用の形容詞「心深し」の連体形
・も … 係助詞
・あひ見 … マ行上一段活用の動詞「あひ見る」の未然形
〇あひ見る … 契りを結ぶ
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・願ふ … ハ行四段活用の動詞「願ふ」の連体形
・から … 接続助詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

人の心は、うれしきことはさしも深くはおぼえぬものにて、
人の心は、うれしいことはそれほど深くは感じられないものであって、
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・心 … 名詞
・は … 係助詞
・うれしき … シク活用の形容詞「うれし」の連体形
・こと … 名詞
・は … 係助詞
・さしも … 副詞
〇さしも(~打消) … それほど(~ない)
・深く … ク活用の形容詞「深し」の連用形
・は … 係助詞
・おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の未然形
おぼゆ … (自然に)感じられる
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・もの … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞

ただ、心にかなはぬことぞ深く身にしみてはおぼゆるわざなれば、
ただ、思い通りにならないことは深く身にしみて感じられるものであるから、
・ただ … 副詞
・心 … 名詞
・に … 格助詞
・かなは … ハ行四段活用の動詞「かなふ」の未然形
〇かなふ … 望み通りになる
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・こと … 名詞
・ぞ … 係助詞
・深く … 活用の形容詞「深し」の連用形
・身 … 名詞
・に … 格助詞
・しみ … マ行下二段活用の動詞「しむ」の連用形
・て … 接続助詞
・は … 係助詞
・おぼゆる … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連体形
・わざ … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞

すべて、うれしきを詠める歌には、心深きは少なくて、
総じて、うれしいことを詠んだ歌には、風情があるものは少なくて、
・すべて … 副詞
・うれしき … シク活用の形容詞「うれし」の連体形
・を … 格助詞
・詠め … マ行四段活用の動詞「詠む」の已然形
・る … 完了の助動詞「り」の連体形
・歌 … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・心深き … ク活用の形容詞「心深し」の連体形
・は … 係助詞
・少なく … ク活用の形容詞「少なし」の連用形
・て … 接続助詞

心にかなはぬ筋を悲しみ憂へたるに、あはれなるは多きぞかし。
思い通りにならない方面の事柄を悲しみ嘆いた歌に、しみじみ趣深いものが多いんだよ。
・心 … 名詞
・に … 格助詞
・かなは … ハ行四段活用の動詞「かなふ」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・筋 … 名詞
〇筋 … その方面の物事
・を … 格助詞
・悲しみ … マ行四段活用の動詞「悲しむ」の連用形
・憂へ … ハ行下二段活用の動詞「憂ふ」の連用形
憂ふ … 嘆き悲しむ
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・に … 格助詞
・あはれなる … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連体形
・は … 係助詞
・多き … ク活用の形容詞「多し」の連体形
・ぞ … 終助詞
・かし … 終助詞
〇ぞかし … 念を押しつつ断定する

しかりとて、わびしく悲しきを雅びたりとて願はんは、
そうだからといって、せつなく悲しいことを風流であるといって願うようなことは、
・しかり … ラ行変格活用の動詞「しかり」の終止形
・とて … 格助詞
・わびしく … シク活用の形容詞「わびし」の連用形
わびし … せつない
・悲しき … シク活用の形容詞「悲し」の連体形
・を … 格助詞
・雅び … バ行上二段活用の動詞「雅ぶ」の連用形
〇雅ぶ … 風流である
・たり … 存続の助動詞「たり」の終止形
・とて … 格助詞
・願は … ハ行四段活用の動詞「願ふ」の未然形
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・は … 係助詞

人のまことの情ならめや。
人の本当の心情であろうか、本当の心情ではないだろう。
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・まこと … 名詞
・の … 格助詞
・情(こころ) … 名詞
・なら … 断定の助動詞「なり」の未然形
・め … 推量の助動詞「む」の已然形
・や … 係助詞

また、同じ法師の、「人は四十歳に足らで死なんこそ、
また、同じ法師が、「人は四十歳に達しないで死ぬことが、
・また … 接続詞
・同じ … 活用の形容詞「同じ」の連体形
・法師 … 名詞
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・は … 係助詞
・四十歳(よそじ) … 名詞
・に … 格助詞
・足ら … ラ行四段活用の動詞「足る」の未然形
〇足る … 一定の数量に達する
・で … 接続助詞
・死な … ナ行変格活用の動詞「死ぬ」の未然形
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・こそ … 係助詞・強意

めやすかるべけれ。」と言へるなどは、
見苦しくないだろう。」と言っていることなどは、
・めやすかる … ク活用の形容詞「めやすし」の連体形
めやすし … 見苦しくない
・べけれ … 推量の助動詞「べし」の已然形(結び)
・と … 格助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・など … 副助詞
・は … 係助詞

中ごろよりこなたの人の、みな、歌にも詠み、常にも言ふ筋にて、
平安時代後期以降の人が、みんな、歌にも詠み、普通にも言う方面の事柄であって、
・中ごろ … 名詞
・より … 格助詞
・こなた … 代名詞
〇中ごろよりこなた … 平安時代後期以降
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・みな … 名詞
・歌 … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・詠み … マ行四段活用の動詞「詠む」の連用形
・常 … 名詞
〇常 … 普通
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・筋 … 名詞
〇筋 … その方面の物事
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞

命長からんことを願ふをば心汚きこととし、早く死ぬるをめやすきことに言ひ、
寿命が長いことを願うのを邪念があることとし、早く死ぬのを見苦しくないことに言い、
・命 … 名詞
・長から … ク活用の形容詞「長し」の未然形
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・願ふ … ハ行四段活用の動詞「願ふ」の連体形
・を … 格助詞
・ば … 係助詞
・心汚(こころぎたな)き … ク活用の形容詞「心汚し」の連体形
〇心汚し … 邪念がある
・こと … 名詞
・と … 格助詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・早く … ク活用の形容詞「早し」の連用形
・死ぬる … ナ行変格活用の動詞「死ぬ」の連体形
・を … 格助詞
・めやすき … ク活用の形容詞「めやすし」の連体形
・こと … 名詞
・に … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形

この世を厭ひ捨つるをいさぎよきこととするは、
この世を嫌い捨てるのを清らかなこととするのは、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・世 … 名詞
・を … 格助詞
・厭(いと)ひ … ハ行四段活用の動詞「厭ふ」の連用形
〇厭ふ … 嫌う
・捨つる … タ行下二段活用の動詞「捨つ」の連体形
・を … 格助詞
・いさぎよき … ク活用の形容詞「いさぎよし」の連体形
〇いさぎよし … 清らかである
・こと … 名詞
・と … 格助詞
・する … サ行変格活用の動詞「す」の連体形
・は … 係助詞

これみな、仏の道にへつらへるものにて、多くは偽りなり。
これはみな、仏教の教えに追従したものであって、たいていは偽りである。
・これ … 代名詞
・みな … 名詞
・仏 … 名詞
・の … 格助詞
・道 … 名詞
〇道 … 神仏・聖賢などの示した教え
・に … 格助詞
・へつらへ … ハ行四段活用の動詞「へつらふ」の已然形
〇へつらふ … 追従する
・る … 完了の助動詞「り」の連体形
・もの … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
・多く … 副詞
・は … 係助詞
・偽り … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

言にこそさも言へ、心のうちには誰かはさは思はん。
言葉ではそうも言うが、心の中では誰がそう思うだろうか、誰もそう思わないだろう。
・言 … 名詞
〇言 … 言葉
・に … 格助詞
・こそ … 係助詞
・さ … 副詞
・も … 係助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・心 … 名詞
・の … 格助詞
・うち … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・誰(たれ) … 代名詞
・かは … 係助詞・反語
・さ … 副詞
・は … 係助詞
・思は … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の未然形
・ん … 推量の助動詞「ん」の連体形(結び)

たとひ、まれまれにはまことにしか思ふ人のあらんも、もとよりの真心にはあらず。
たとえ、ごくまれには本当にそう思う人がいるとしても、もともとの真の心ではない。
・たとひ … 副詞
・まれまれ … 副詞
〇まれまれ … ごくまれに
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・まことに … 副詞
・しか … 副詞
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ん … 仮定の助動詞「ん」の連体形
・も … 係助詞
・もとより … 副詞
〇もとより … もともと
・の … 格助詞
・真心 … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
「しか思ふ人」とは、どのようなことを考えている人か。 ⇒ 寿命が長いことを願うのを邪念があると考え、早く死ぬのを見苦しくないと考え、この世を嫌い捨てるのを清らかなことと考えている人。

仏の教へに惑へるなり。
仏教の教えに心が乱れているのである。
・仏 … 名詞
・の … 格助詞
・教へ … 名詞
・に … 格助詞
・惑へ … ハ行四段活用の動詞「惑ふ」の已然形
惑ふ … 心が乱れる
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

人の真心は、いかにわびしき身も、
人の真の心は、どんなにつらく苦しい身でも、
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・真心 … 名詞
・は … 係助詞
・いかに … 副詞
・わびしき … シク活用の形容詞「わびし」の連体形
わびし … つらく苦しい
・身 … 名詞
・も … 係助詞

早く死なばやとは思はず、命惜しまぬ者はなし。
早く死にたいとは思わず、命を惜しまない者はいない。
・早く … ク活用の形容詞「早し」の連用形
・死な … ナ行変格活用の動詞「死ぬ」の未然形
・ばや … 終助詞
ばや … ~したい
・と … 格助詞
・は … 係助詞
・思は … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・命 … 名詞
・惜しま … マ行四段活用の動詞「惜しむ」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・者 … 名詞
・は … 係助詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形

されば、万葉などのころまでの歌には、ただ、長く生きたらんことをこそ願ひたれ。
だから、万葉集などの頃までの歌には、ただ、長く生きていることを願っている。
・されば … 接続詞
されば … だから
・万葉 … 名詞
・など … 副助詞
・の … 格助詞
・ころ … 名詞
・まで … 副助詞
・の … 格助詞
・歌 … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・ただ … 副詞
・長く … ク活用の形容詞「長し」の連用形
・生き … カ行上二段活用の動詞「生く」の連用形
・たら … 存続の助動詞「たり」の未然形
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・こそ … 係助詞・強意
・願ひ … ハ行四段活用の動詞「願ふ」の連用形
・たれ … 存続の助動詞「たり」の已然形(結び)

中ごろよりこなたの歌とは、その心うらうへなり。
平安時代後期以降の歌とは、その気持ちが表と裏である。
・中ごろ … 名詞
・より … 格助詞
・こなた … 代名詞
・の … 格助詞
・歌 … 名詞
・と … 格助詞
・は … 係助詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・心 … 名詞
・うらうへ … 名詞
〇うらうへ … 表と裏
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

すべて何ごとも、なべての世の人の真心に逆ひて、異なるをよきことにするは、
総じて何事も、普通の世間の人の真の心に逆らって、異なるのをよいことにするのは、
・すべて … 副詞
・何ごと … 名詞
・も … 係助詞
・なべて … 副詞
なべて … 普通
・の … 格助詞
・世 … 名詞
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・真心 … 名詞
・に … 格助詞
・逆ひ … ハ行四段活用の動詞「逆ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・異なる … ナリ活用の形容動詞「異なリ」の連体形
・を … 格助詞
・よき … ク活用の形容詞「よし」の連体形
・こと … 名詞
・に … 格助詞
・する … サ行変格活用の動詞「す」の連体形
・は … 係助詞

外国のならひの移れるにて、心を作り飾れるものと知るべし。
外国の考え方に染まっているのであって、心を作り飾っているものと理解するべきである。
・外国(とつくに) … 名詞
・の … 格助詞
・ならひ … 名詞
〇外国のならひ … 仏教や儒教の考え方
・の … 格助詞
・移れ … ラ行四段活用の動詞「移る」の已然形
移る … 染まる
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
・心 … 名詞
・を … 格助詞
・作り飾れ … ラ行四段活用の動詞「作り飾る」の已然形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・もの … 名詞
・と … 格助詞
・知る … ラ行四段活用の動詞「知る」の終止形
〇知る … 理解する
・べし … 当然の助動詞「べし」の終止形

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