古今和歌集仮名序・六歌仙 現代語訳・品詞分解

近き世に、その名聞こえたる人は、
近い時代に、その名が世間で評判になっている人は、
・近き … ク活用の形容詞「近し」の連体形
・世 … 名詞
・に … 格助詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・名 … 名詞
・聞こえ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の連用形
聞こゆ世間で評判になる
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・人 … 名詞
・は … 係助詞

すなはち僧正遍照は、歌のさまは得たれども、まこと少なし。
すなわち僧正遍昭は、歌の体裁は会得しているが、真実性が少ない。
・すなはち … 接続詞
・僧正遍照(そうじようへんじよう) … 名詞
・は … 係助詞
・歌 … 名詞
・の … 格助詞
・さま … 名詞
さま体裁
・は … 係助詞
・得(え) … ア行下二段活用の動詞「得(う)」の連用形
・たれ … 存続の助動詞「たり」の已然形
・ども … 接続助詞
・まこと … 名詞
まこと真実
・少なし … ク活用の形容詞「少なし」の終止形

たとへば、絵に描ける女を見て、いたづらに心を動かすがごとし。
たとえば、絵に描いてある女性を見て、むだに心を動かすようなものだ。
・たとへば … 副詞
・絵 … 名詞
・に … 格助詞
・描(か)け … カ行四段活用の動詞「描く」の已然形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・女 … 名詞
・を … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・て … 接続助詞
・いたづらに … ナリ活用の形容動詞「いたづらなり」の連用形
いたづらなり役に立たない
・心 … 名詞
・を … 格助詞
・動かす … サ行四段活用の動詞「動かす」の連体形
・が … 格助詞
・ごとし … 比況の助動詞「ごとし」の終止形

  浅緑糸よりかけて白露を
  うすい緑色の糸をよって掛けて白露を
  ・浅緑 … 名詞
  ・糸 … 名詞
  ・よりかけ … カ行下二段活用の動詞「よりかく」の連用形
  ・て … 接続助詞
  ・白露 … 名詞
  ・を … 格助詞

  珠にも貫ける春の柳か
  玉として貫いている春の柳よ。
  ・珠(たま) … 名詞
  ・に … 格助詞
  ・も … 係助詞
  ・貫(ぬ)け … カ行四段活用の動詞「貫く」の已然形
  ・る … 存続の助動詞「り」の連体形
  ・春 … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・柳 … 名詞
  ・か … 終助詞

在原業平は、その心あまりて、言葉足らず。
在原業平は、その感情が余って、言葉が足りない。
・在原業平(ありはらのなりひら) … 名詞
・は … 係助詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・心 … 名詞
感情
・あまり … ラ行四段活用の動詞「あまる」の連用形
〇あまる〜余分になる
・て … 接続助詞
・言葉 … 名詞
・足ら … ラ行四段活用の動詞「足る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

しぼめる花の色なくて、にほひ残れるがごとし。
しぼんでいる花が色つやがなくて、においが残っているようなものだ。
・しぼめ … マ行四段活用の動詞「しぼむ」の已然形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・花 … 名詞
・の … 格助詞
・色 … 名詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・て … 接続助詞
・にほひ … 名詞
・残れ … ラ行四段活用の動詞「残る」の已然形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・が … 格助詞
・ごとし … 比況の助動詞「ごとし」の終止形

  月やあらぬ春や昔の春ならぬ
  月は昔のままの月ではないのか。春は昔のままの春ではないのか。
  ・月 … 名詞
  ・や … 係助詞
  ・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
  ・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
  ・春 … 名詞
  ・や … 係助詞
  ・昔 … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・春 … 名詞
  ・なら … 断定の助動詞「なり」の未然形
  ・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形

  わが身ひとつはもとの身にして
  私の身だけは昔のままの身であって。
  ・わ … 代名詞
  ・が … 格助詞
  ・身 … 名詞
  ・ひとつ … 名詞
  ・は … 係助詞
  ・もと … 名詞
  〇もと〜昔
  ・の … 格助詞
  ・身 … 名詞
  ・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
  ・して … 接続助詞

文屋康秀は、言葉は巧みにて、そのさま身に負はず。
文屋康秀は、言葉の使い方は上手だが、その体裁が内容に似合っていない。
・文屋康秀(ふんやのやすひで) … 名詞
・は … 係助詞
・言葉 … 名詞
・は … 係助詞
・巧みに … ナリ活用の形容動詞「巧みなり」の連用形
〇巧みなり〜上手である
・て … 接続助詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・さま … 名詞
さま体裁
・身 … 名詞
〇身~中身
・に … 格助詞
・負は … ハ行四段活用の動詞「負ふ」の未然形
負ふ似合う
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

いはば、商人のよき衣着たらむがごとし。
いわば、商人が立派な衣服を着ているようなものだ。
・いは … ハ行四段活用の動詞「いふ」の未然形
・ば … 接続助詞
・商人(あきびと) … 名詞
・の … 格助詞
・よき … ク活用の形容詞「よし」の連体形
・衣(きぬ) … 名詞
・着 … カ行上一段活用の動詞「着る」の連用形
・たら … 存続の助動詞「たり」の未然形
・む … 婉曲の助動詞「む」の連体形
・が … 格助詞
・ごとし … 比況の助動詞「ごとし」の終止形

  吹くからに秋の草木のしをるれば
  (風が)吹くとすぐに秋の草木がしおれるので、
  ・吹く … 行四段活用の動詞「吹く」の連体形
  ・からに … 接続助詞
  〇からに〜すぐに起こるという意を表す
  ・秋 … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・草木 … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・しをるれ … ラ行下二段活用の動詞「しをる」の已然形
  ・ば … 接続助詞

  むべ山風をあらしといふらむ
  なるほど山風を嵐というのだろう。
  ・むべ … 副詞
  〇むべ〜なるほど(納得の意を表す)
  ・山風 … 名詞
  ・を … 格助詞
  ・嵐 … 名詞
  ・と … 格助詞
  ・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の終止形
  ・らむ … 原因推量の助動詞「らむ」の終止形

宇治山の僧喜撰は、言葉かすかにして、始め終はり確かならず。
宇治山の僧喜撰は、言葉が弱々しくて、一首のまとまりが明らかでない。
・宇治山 … 名詞
・の … 格助詞
・僧 … 名詞
・喜撰(きせん) … 名詞
・は … 係助詞
・言葉 … 名詞
・かすかに … ナリ活用の形容動詞「かすかなり」の連用形
〇かすかなり〜わずかで弱々しいさま
・して … 接続助詞
・初め … 名詞
・終はり … 名詞
・確かなら … ナリ活用の形容動詞「確かなり」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

いはば、秋の月を見るに暁の雲にあへるがごとし。
いわば、秋の月を見ているときに夜明け前の雲に会ったようなものだ。
・いは … ハ行四段活用の動詞「いふ」の未然形
・ば … 接続助詞
・秋 … 名詞
・の … 格助詞
・月 … 名詞
・を … 格助詞
・見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・に … 格助詞
・暁 … 名詞
〇暁〜夜明け前
・の … 格助詞
・雲 … 名詞
・に … 格助詞
・あへ … ハ行四段活用の動詞「あふ」の已然形
・る … 完了の助動詞「り」の連体形
・が … 格助詞
・ごとし … 比況の助動詞「ごとし」の終止形

詠める歌、多く聞こえねば、
詠んだ歌が、たくさんは知られていないので、
・詠め … マ行四段活用の動詞「詠む」の已然形
・る … 完了の助動詞「り」の連体形
・歌 … 名詞
・多く … ク活用の形容詞「多し」の連用形
・聞こえ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の未然形
聞こゆ人の耳に入る
・ね … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ば … 接続助詞

かれこれを通はして、よく知らず。
あれこれの歌を比較して、十分にわかるということがない。
・かれ … 代名詞
・これ … 代名詞
・を … 格助詞
・通はし … サ行四段活用の動詞「通はす」の連用形
〇通はす〜行き来させる
・て … 接続助詞
・よく … ク活用の形容詞「よし」の連用形
〇よく〜十分に
・知ら … ラ行四段活用の動詞「知る」の未然形
知る理解する
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

  わが庵は都の辰巳しかぞ住む
  私の草庵は都の南東にあり、このように住んでいる。
  ・わ … 代名詞
  ・が … 格助詞
  ・庵(いお) … 名詞
  〇庵〜草庵(粗末な家)
  ・は … 係助詞
  ・都 … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・辰巳(たつみ) … 名詞
  ・しか … 副詞
  ・ぞ … 係助詞
  ・住む … マ行四段活用の動詞「住む」の連体形

  世をうぢ山と人はいふなり
  この世を憂しと思って住むうぢ山と世間の人は言うようだ。
  ・世 … 名詞
  ・を … 格助詞
  ・うぢ山 … 名詞
  ・と … 格助詞
  ・人 … 名詞
  ・は … 係助詞
  ・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の終止形
  ・なり … 伝聞の助動詞「なり」の終止形
  ○「うぢ山」の「う」は「憂し」の「憂」との掛詞になっている。

小野小町は、いにしへの衣通姫の流なり。
小野小町は、昔の衣通姫の系統(の歌人)である。
・小野小町(おののこまち) … 名詞
・は … 係助詞
・いにしへ … 名詞
・の … 格助詞
・衣通姫(そとおりひめ) … 名詞
・の … 格助詞
・流(りゆう) … 名詞
〇流〜系統
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

あはれなるやうにて強からず。
しみじみと情趣がある様子であって、強くない。
・あはれなる … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連体形
あはれなりしみじみとした情趣がある
・やう … 名詞
やう様子
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
・強から … ク活用の形容詞「強し」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

いはば、よき女のなやめるところあるに似たり。
いわば、美しい女性が病気で苦しんでいるところがあるのに似ている。
・いは … ハ行四段活用の動詞「いふ」の未然形
・ば … 接続助詞
・よき … ク活用の形容詞「よし」の連体形
・女 … 名詞
・の … 格助詞
・なやめ … マ行四段活用の動詞「悩む」の已然形
なやむ病気で苦しむ
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・ところ … 名詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・に … 格助詞
・似 … ナ行上一段活用の動詞「似る」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の終止形

強からぬは、女の歌なればなるべし。
強くないのは、女性の歌だからであろう。
・強から … ク活用の形容詞「強し」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・は … 係助詞
・女 … 名詞
・の … 格助詞
・歌 … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞
・なる … 断定の助動詞「なり」の連体形
・べし … 推量の助動詞「べし」の終止形

  色見えでうつろふものは世の中の
  様子が見えないであせていくものは世の中の
  ・色 … 名詞
  〇色~そぶり、様子
  ・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の未然形
  ・で … 接続助詞
  ・うつろふ … ハ行四段活用の動詞「うつろふ」の連体形
  〇うつろふ美しい色がなくなる、あせる
  ・もの … 名詞
  ・は … 係助詞
  ・世の中 … 名詞
  ・の … 格助詞

  人の心の花にぞありける
  人の心という花だったのだなあ。
  ・人 … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・心 … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・花 … 名詞
  ・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
  ・ぞ … 係助詞
  ・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
  ・ける … 詠嘆の助動詞「けり」の連体形

大友黒主は、そのさまいやし。
大友黒主は、歌の体裁が卑俗である。
・大友黒主(おおとものくろぬし) … 名詞
・は … 係助詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・さま … 名詞
さま体裁
・いやし … シク活用の形容詞「いやし」の終止形
いやし卑俗である

いはば、たきぎ負へる山人の、
いわば、たきぎを背負っているきこりが、
・いは … ハ行四段活用の動詞「いふ」の未然形
・ば … 接続助詞
・たきぎ … 名詞
・負へ … ハ行四段活用の動詞「負ふ」の已然形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・山人(やまびと) … 名詞
〇山人~きこり
・の … 格助詞

花のかげに休めるがごとし。
花のかげで休んでいるようなものである。
・花 … 名詞
・の … 格助詞
・かげ … 名詞
・に … 格助詞
・休め … マ行四段活用の動詞「休む」の已然形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・が … 格助詞
・ごとし … の比況の助動詞「ごとし」の終止形

  思ひ出でて恋しき時は初雁の
  思い出して恋しい時は、初雁が鳴いて空を渡るように私も泣いて
  ・思ひ出(い)で … ダ行下二段活用の動詞「思ひ出づ」の連用形
  ・て … 接続助詞
  ・恋しき … シク活用の形容詞「恋し」の連体形
  ・時 … 名詞
  ・は … 係助詞
  ・初雁(はつかり) … 名詞
  ・の … 格助詞

  なきて渡ると人は知るらめや
  あなたの家のそばを通っていると、あなたは知っているだろうか。
  ・なき … カ行四段活用の動詞「なく」の連用形
  ・て … 接続助詞
  ・渡る … ラ行四段活用の動詞「渡る」の終止形
  〇渡る移動する
  ・と … 格助詞
  ・人 … 名詞
  ・は … 係助詞
  ・知る … ラ行四段活用の動詞「知る」の終止形
  ・らめ … 現在推量の助動詞「らむ」の已然形
  ・や … 係助詞

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