かくのみ思ひくんじたるを、心も慰めむと、心苦しがりて、
このようにふさぎこんでばかりいるのを、心を慰めようと、心配して、
・かく … 副詞
・のみ … 副助詞
・思ひくんじ … サ行変格活用の動詞「思ひくんず」の連用形
○思ひくんず … ふさぎこむ
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・を … 格助詞
・心 … 名詞
・も … 係助詞
・慰め … マ行下二段活用の動詞「慰む」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・心苦しがり … ラ行四段活用の動詞「心苦しがる」の連用形
○心苦しがる … 心に苦しく思う
・て … 接続助詞
母、物語など求めて見せ給ふに、げにおのづから慰みゆく。
母が、物語などを探し求めて見せてくださるので、本当に自然に心が晴れていく。
・母 … 名詞
・物語 … 名詞
・など … 副助詞
・求め … マ行下二段活用の動詞「求む」の連用形
・て … 接続助詞
・見せ … サ行下二段活用の動詞「見す」の連用形
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連体形
・に … 接続助詞
・げに … 副詞
○げに … なるほど、ほんとうに
・おのづから … 副詞
○おのづから … 自然に
・慰みゆく … カ行四段活用の動詞「慰みゆく」の終止形
○慰む … 心が晴れる
紫のゆかりを見て、
『源氏物語』の若紫の巻などを読んで、
・紫 … 名詞
・の … 格助詞
・ゆかり … 名詞
○紫のゆかり … 『源氏物語』の若紫の巻など
・を … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・て … 接続助詞
続きの見まほしくおぼゆれど、人語らひなどもえせず。
続きを読みたいと思われるけれども、誰かに相談などもできない。
・続き … 名詞
・の … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の未然形
・まほしく … 希望の助動詞「まほし」の連用形
・おぼゆれ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の已然形
○おぼゆ … (自然に)思われる
・ど … 接続助詞
・人語らひ … 名詞
○人語らひ … 相談
・など … 副助詞
・も … 係助詞
・え … 副詞
○え〜(打消) … 〜できない
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
誰もいまだ都慣れぬほどにて、え見つけず。
誰もまだ都に慣れないころであって、見つけることができない。
・誰(たれ) … 代名詞
・も … 係助詞
・いまだ … 副詞
・都なれ … ラ行下二段活用の動詞「都なる」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・ほど … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
・え … 副詞
・見つけ … カ行下二段活用の動詞「見つく」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
いみじく心もとなく、ゆかしくおぼゆるままに、
たいそうじれったく、読みたく思われるので、
・いみじく … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形
・心もとなく … ク活用の形容詞「心もとなし」の連用形
○心もとなし … じれったい
・ゆかしく … シク活用の形容詞「ゆかし」の連用形
○ゆかし … 知りたい、見たい、聞きたい
・おぼゆる … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連体形
・まま … 名詞
・に … 格助詞
○~ままに … ~ので
この源氏の物語、一の巻よりしてみな見せ給へと、
この『源氏物語』を、一の巻からはじめて全部お見せくださいと、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・源氏の物語 … 名詞
・一の巻 … 名詞
・より … 格助詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・みな … 副詞
・見せ … サ行下二段活用の動詞「見す」の連用形
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の命令形
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から仏への敬意
・と … 格助詞
心の内に祈る。親の太秦に籠り給へるにも、
心の中で祈る。親が太秦寺にお籠りになったときにも、
・心 … 名詞
・の … 格助詞
・内 … 名詞
・に … 格助詞
・祈る … ラ行四段活用の動詞「祈る」の終止形
・親 … 名詞
・の … 格助詞
・太秦(うづまさ) … 名詞
・に … 格助詞
・籠(こも)り … ラ行四段活用の動詞「籠る」の連用形
○籠る … お籠りする
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の命令形
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から親への敬意
・る … 完了の助動詞「り」の連体形
・に … 格助詞
・も … 係助詞
異事なく、このことを申して、出でむままに
他のことは祈らないで、このことをお願い申し上げて、出たらすぐに
・異事(ことごと) … 名詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
○異事なく … 他のことはお願いしないで
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・申し … サ行四段活用の動詞「申す」の連用形
○申す … 「願ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から太秦寺への敬意
・て … 接続助詞
・出で … ダ行下二段活用の動詞「出づ」の未然形
・む … 婉曲の助動詞「む」の連体形
・まま … 名詞
・に … 格助詞
○~ままに … ~するやいなや
この物語見果てむと思へど、見えず。
この物語を読んでしまおうと思ったが、読むことができない。
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・物語 … 名詞
・見果て … タ行下二段活用の動詞「見果つ」の未然形
○~果つ … 完全に~する
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・思へ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の已然形
・ど … 接続助詞
・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の未然形
○見ゆ … 見ることができる
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
いと口惜しく思ひ嘆かるるに、をばなる人の、
とても残念で悲しみ嘆かれるときに、おばである人が、
・いと … 副詞
・口惜しく … シク活用の形容詞「口惜し」の連用形
○口惜し … 残念である
・思ひ嘆か … カ行四段活用の動詞「思ひ嘆く」の未然形
○思ひ嘆く … 悲しみ嘆く
・るる … 自発の助動詞「る」の連体形
・に … 格助詞
・をば … 名詞
・なる … 断定の助動詞「なり」の連体形
・人 … 名詞
・の … 格助詞
田舎より上りたる所に渡いたれば、
地方から上京していた所に(親が)行かせたところ、
・田舎 … 名詞
・より … 格助詞
・上り … ラ行四段活用の動詞「上る」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・所 … 名詞
・に … 格助詞
・渡い … ラ行四段活用の動詞「渡る」の連用形(音便)
○渡す … 行かせる
・たれ … 完了の助動詞「たり」の已然形
・ば … 接続助詞
「いとうつくしう生ひなりにけり。」など、あはれがり、
「とてもかわいらしく成長したのねえ。」などと、しみじみと感動し、
・いと … 副詞
・うつくしう … シク活用の形容詞「うつくし」の連用形
○うつくし … 愛らしい
・生ひなり … ラ行四段活用の動詞「生ひなる」の連用形
○生ひなる … 成長する
・に … 完了の助動詞「なり」の連用形
・けり … 詠嘆の助動詞「けり」の終止形
・など … 副助詞
・あはれがり … ラ行四段活用の動詞「あはれがる」の連用形
○あはれがる … しみじみと感動する
めづらしがりて、帰るに、「何をか奉らむ、
珍しがって、帰るときに、「何を差し上げましょうか、
・めづらしがり … 行四段活用の動詞「めづらしがる」の連用形
○めづらしがる … 珍しく思う
・て … 接続助詞
・帰る … ラ行四段活用の動詞「帰る」の連体形
・に … 格助詞
・何 … 代名詞
・を … 格助詞
・か … 係助詞・疑問
・奉ら … ラ行四段活用の動詞「奉る」の未然形
○奉る … 「与ふ」の謙譲語 ⇒ おばから筆者への敬意
・む … 意志の助動詞「む」の連体形(結び)
まめまめしきものは、まさなかりなむ。
実用的なものは、きっとよくないでしょう。
・まめまめしき … シク活用の形容詞「まめまめし」の連体形
○まめまめし … 実用的である
・もの … 名詞
・は … 係助詞
・まさなかり … ク活用の形容詞「まさなし」の連用形
○まさなし … よろしくない
・な … 強意の助動詞「ぬ」の未然形
・む … 推量の助動詞「む」の終止形
ゆかしくし給ふなるものを奉らむ。」とて、
見たがっていらっしゃるとかいうものを差し上げましょう。」と言って、
・ゆかしく … シク活用の形容詞「ゆかし」の連用形
○ゆかし … 知りたい、見たい、聞きたい
・し … 行変格活用の動詞「す」の連用形
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の終止形
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ おばから筆者への敬意
・なる … 伝聞の助動詞「なり」の連体形
○なり … なり(伝聞)は終止形接続、なり(断定)は連体形接続
・もの … 名詞
・を … 格助詞
・奉ら … ラ行四段活用の動詞「奉る」の未然形
○奉る … 「与ふ」の謙譲語 ⇒ おばから筆者への敬意
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・とて … 格助詞
源氏の五十余巻、櫃に入りながら、
源氏物語の五十余巻を、木製の箱に入ったままで、
・源氏 … 名詞
・の … 格助詞
・五十余巻 … 名詞
・櫃(ひつ) … 名詞
○櫃 … ふたのある大型の木製の箱
・に … 格助詞
・入(い)り … ラ行四段活用の動詞「入る」の連用形
・ながら … 接続助詞
○〜ながら … 〜ままで
在中将・とほぎみ・せりかは・しらら・
在中将・とほぎみ・せりかは・しらら・
・在(ざい)中将 … 名詞
・とほぎみ … 名詞
・せりかは … 名詞
・しらら … 名詞
あさうづなどいふ物語ども、一袋取り入れて、
あさうづなどという物語を、一つの袋いっぱいに入れて、
・あさうづ … 名詞
・など … 副助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・物語ども … 名詞
・一袋 … 名詞
○一袋 … 一つの袋いっぱい
・取り入れ … ラ行下二段活用の動詞「取り入る」の連用形
・て … 接続助詞
得て帰る心地のうれしさぞいみじきや。
もらって帰る気持ちのうれしさは、たいへんなものだったよ。
・得(え) … ア行下二段活用の動詞「得(う)」の連用形
・て … 接続助詞
・帰る … ラ行四段活用の動詞「帰る」の連体形
・心地 … 名詞
・の … 格助詞
・うれしさ … 名詞
・ぞ … 係助詞・強意
・いみじき … シク活用の形容詞「いみじ」の連体形
・や … 間投助詞
はしるはしる、わづかに見つつ、
胸をわくわくさせて、ほんの少し読んでは、
・はしるはしる … 副詞
○はしるはしる … 胸をわくわくさせて
・わづかに … ナリ活用の形容動詞「わづかなり」の連用形
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・つつ … 接続助詞
心も得ず心もとなく思ふ源氏を、
話の筋もわからず、じれったく思っていた『源氏物語』を、
・心 … 名詞
・も … 係助詞
・得(え) … ア行下二段活用の動詞「得(う)」の未然形
○心得 … 理解できる
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・心もとなく … ク活用の形容詞「心もとなし」の連用形
○心もとなし … じれったい
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・源氏 … 名詞
・を … 格助詞
一の巻よりして、人も交じらず、几帳の内にうち臥して、
一の巻からはじめて、他の人も交じらず、几帳の中に伏して、
・一の巻 … 名詞
・より … 格助詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・人 … 名詞
・も … 係助詞
・交じら … ラ行四段活用の動詞「交じる」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・几帳 … 名詞
・の … 格助詞
・内 … 名詞
・に … 格助詞
・うち臥(ふ)し … サ行四段活用の動詞「うち臥す」の連用形
・て … 接続助詞
引き出でつつ見る心地、后の位も何にかはせむ。
取り出し取り出し読む気持ちは、后の位も何になろうか。
・引き出で … 行下二段活用の動詞「引き出づ」の連用形
○引き出づ … 取り出す
・つつ … 接続助詞
・見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・心地 … 名詞
・后(きさき) … 名詞
・の … 格助詞
・位 … 名詞
・も … 係助詞
・何 … 代名詞
・に … 格助詞
・かは … 係助詞・反語
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・む … 推量の助動詞「む」の連体形(結び)
昼は日暮らし、夜は目の覚めたる限り、灯を近くともして、
昼は一日中、夜は目の覚めている限り、灯火を近くにともして、
・昼 … 名詞
・は … 係助詞
・日暮らし … 副詞
○日暮らし … 一日中
・夜 … 名詞
・は … 係助詞
・目 … 名詞
・の … 格助詞
・覚め … マ行下二段活用の動詞「覚む」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・限り … 名詞
・灯 … 名詞
・を … 格助詞
・近く … ク活用の形容詞「近し」の連用形
・ともし … サ行四段活用の動詞「ともす」の連用形
・て … 接続助詞
これを見るよりほかのことなければ、おのづからなどは、
これを読むよりほかのことは何もしないので、自然に、
・これ … 代名詞
・を … 格助詞
・見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・より … 格助詞
・ほか … 名詞
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・なけれ … ク活用の形容詞「なし」の已然形
・ば … 接続助詞
・おのづから … 副詞
・など … 副助詞
・は … 係助詞
○おのづからなどは … 自然に(いつのまにか自然と、ふとした折などに)
そらにおぼえ浮かぶを、いみじきことに思ふに、
そらに思い出し浮かんでくるのを、すばらしいことだと思っていると、
・そらに … ナリ活用の形容動詞「そらなり」の連用形
・おぼえ浮かぶ … 行四段活用の動詞「おぼえ浮かぶ」の連体形
○おぼえ浮かぶ … 思い出し浮かんでくる
・を … 格助詞
・いみじき … シク活用の形容詞「いみじ」の連体形
○いみじ … すばらしい
・こと … 名詞
・に … 格助詞
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・に … 接続助詞
夢に、いと清げなる僧の、黄なる地の袈裟着たるが来て、
夢に、とても清楚で美しい僧で、黄色の地の袈裟を着ている僧が出て来て、
・夢 … 名詞
・に … 格助詞
・いと … 副詞
・清げなる … ナリ活用の形容動詞「清げなり」の連体形
○清げなり … 清楚で美しい
・僧 … 名詞
・の … 格助詞
・黄なる … ナリ活用の形容動詞「黄なり」の連体形
・地 … 名詞
・の … 格助詞
・袈裟(けさ) … 名詞
・着 … カ行上一段活用の動詞「着る」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・が … 格助詞
・来(き) … カ行変格活用の動詞「来(く)」の連用形
・て … 接続助詞
「法華経五の巻を、とく習へ。」と言ふと見れど、
「法華経の第五巻を、はやく習いなさい。」と言うのを見たけれども、
・法華経(ほけきょう) … 名詞
・五の巻 … 名詞
・を … 格助詞
・とく … 副詞
・習へ … ハ行四段活用の動詞「習ふ」の命令形
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形
・と … 格助詞
・見れ … マ行上一段活用の動詞「見る」の已然形
・ど … 接続助詞
人にも語らず、習はむとも思ひかけず、
人にも話さず、習おうという思いも起こさず、
・人 … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・語ら … ラ行四段活用の動詞「語る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・習は … ハ行四段活用の動詞「習ふ」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・も … 係助詞
・思ひかけ … カ行下二段活用の動詞「思ひかく」の未然形
○思ひかく … 思いを向ける
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
物語のことをのみ心にしめて、我はこのごろ
物語のことばかりを心に思いつめて、私は今は
・物語 … 名詞
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・のみ … 副助詞
・心 … 名詞
・に … 格助詞
・しめ … マ行下二段活用の動詞「しむ」の連用形
○しむ … 深く思い入る
・て … 接続助詞
・我 … 代名詞
・は … 係助詞
・このごろ … 名詞
○このごろ … 近い過去、今時分、近い未来
わろきぞかし、盛りにならば、かたちも限りなくよく、
器量がよくないのだ、女盛りになったならば、容貌もこの上なく良く、
・わろき … 活用の形容詞「わろし」の連体形
○わろし … 美しくない
・ぞ … 係助詞
・かし … 終助詞
○~ぞかし … ~なのだ(強い断定)
・盛り … 名詞
○盛り … 若い盛り
・に … 格助詞
・なら … ラ行四段活用の動詞「なる」の未然形
・ば … 接続助詞
・かたち … 名詞
○かたち … 顔かたち、容貌
・も … 係助詞
・限りなく … ク活用の形容詞「限りなし」の連用形
○限りなし … この上なし
・よく … ク活用の形容詞「よし」の連用形
髪もいみじく長くなりなむ、
髪もたいそう長くきっとなるだろう、
・髪 … 名詞
・も … 係助詞
・いみじく … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形
・長く … ク活用の形容詞「長し」の連用形
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・な … 強意の助動詞「ぬ」の連体形
・む … 推量の助動詞「む」の終止形
光の源氏の夕顔、宇治の大将の浮舟の女君のやうにこそあらめ、
光源氏の夕顔や、宇治の大将の浮舟の女君のようになるだろう、
・光の源氏 … 名詞
・の … 格助詞
・夕顔 … 名詞
・宇治の大将 … 名詞
・の … 格助詞
・浮舟(うきふね)の女君 … 名詞
・の … 格助詞
・やうに … 比況の助動詞「やうなり」の連用形
・こそ … 係助詞・強意
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・め … 推量の助動詞「む」の已然形(結び)
と思ひける心、まづいとはかなく、あさまし。
と思っていた心は、実にとてもあさはかで、あきれはてたものだった。
・と … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・心 … 名詞
・まづ … 副詞
○まづ … どうにも、実に
・いと … 副詞
・はかなく … ク活用の形容詞「はかなし」の連用形
○はかなし … たわいない、あさはかだ
・あさまし … シク活用の形容詞「あさまし」の終止形
○あさまし … あきれて興ざめだ