名を聞くより、やがて面影は推しはからるる心地するを、
名前を聞くやいなや、すぐに顔つきは推測される気持ちがするが、
・ 聞く … カ行四段活用の動詞「聞く」の連体形
○ やがて … すぐに
・ 推しはから … ラ行四段活用の動詞「推しはかる」の未然形
・ るる … 自発の助動詞「る」の連体形
・ する … サ行変格活用の動詞「す」の連体形
見る時は、また、かねて思ひつるままの顔したる人こそなけれ。
会って見る時は、また、前々から思っていたとおりの顔をしている人はないものだ。
・ 見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・ 思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・ つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
・ し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・ たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
○ こそ … 係助詞・強調
・ なけれ … ク活用の形容詞「なし」の已然形(結び)
昔物語を聞きても、このごろの人の家の、
昔の物語を聞いても、現在の人の家の、
・ 聞き … カ行四段活用の動詞「聞く」の連用形
そこほどにてぞありけんとおぼえ、人も、
その辺りだったのだろうと思われ、人も、
・ に … 断定の助動詞「なり」の連用形
○ ぞ … 係助詞・強調
・ あり … ラ行変格活用の補助動詞「あり」の連用形
・ けん … 過去推量の助動詞「けん」の連体形(結び)
・ おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連用形
○ おぼゆ … 思われる
今見る人の中に思ひよそへらるるは、誰もかくおぼゆるにや。
現在見る人の中に自然に思い比べられるのは、誰でもこのように感じられるのだろうか。
・ 見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・ 思ひよそへ … ハ行下二段活用の動詞「思ひよそふ」の未然形
・ らるる … 自発の助動詞「らる」の連体形
・ おぼゆる … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連体形
○ おぼゆ … 感じられる
・ に … 断定の助動詞「なり」の連用形
また、いかなる折ぞ、ただ今人の言ふことも、
また、どのような場合だったか、まさに今、人が言っていることも、
・ いかなる … ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連体形
・ 言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
目に見ゆるものも、わが心のうちも、
目に見えているものも、自分の心のうちも、
・ 見ゆる … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の連体形
○ 見ゆ … 目に入る
かかることのいつぞやありしかとおぼえて、
こんなことがいつだったかあったのだがと思われて、
・ かかる … ラ行変格活用の動詞「かかり」の連用形
・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・ し … 過去の助動詞「き」の連体形
・ おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連用形
○ おぼゆ … 思われる
いつとは思ひ出でねども、まさしくありし心地のするは、
いつとは思い出さないが、確かにあった気持ちがするのは、
・ 思ひ出で … ダ行下二段活用の動詞「思ひ出づ」の未然形
・ ね … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ まさしく … シク活用の形容詞「まさし」の連用形
・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・ し … 過去の助動詞「き」の連体形
・ する … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
我ばかりかく思ふにや。
自分だけがこのように思うのだろうか。
・ 思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・ に … 断定の助動詞「なり」の連用形