雲林院の菩提講・大鏡

先つころ、雲林院の菩提講に詣でて侍りしかば、
先頃、雲林院の菩提講に参詣いたしましたところ、
・先(さい)つころ … 名詞
・雲林院(うりんいん) … 名詞
・の … 格助詞
・菩提講(ぼだいこう) … 名詞
・に … 格助詞
・詣(もう)で … ダ行下二段活用の動詞「詣づ」の連用形
詣づ … 参詣する(謙譲語) ⇒ 筆者から雲林院への敬意
・て … 接続助詞
・侍(はべ)り … ラ行変格活用の動詞「侍り」の連用形
侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ 筆者から読者への敬意
・しか … 過去の助動詞「き」の已然形
・ば … 接続助詞

例の人よりはこよなう年老い、うたてげなる翁二人、
普通の人よりは格段に年をとって、異様な感じの老夫が二人と、
・例 … 名詞
○例 … 普通
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・より … 格助詞
・は … 係助詞
・こよなう … ク活用の形容詞「こよなし」の連用形(音便)
こよなし … 格別である
・年 … 名詞
・老い … ヤ行上二段活用の動詞「老ゆ」の連用形
・うたてげなる … ナリ活用の形容動詞「うたげなり」の連体形
○うたてげなり … 異様な感じがする
・翁(おきな) … 名詞
・二人 … 名詞

嫗と行き会ひて、同じ所にゐぬめり。
老婆とが偶然に出会って、同じ所に座ったようです。
・嫗(おうな) … 名詞
・と … 格助詞
・行き会ひ … ハ行四段活用の動詞「行き会ふ」の連用形
○行き会ふ … 偶然に出会う
・て … 接続助詞
・同じ … シク活用の形容詞「同じ」の連体形
・所 … 名詞
・に … 格助詞
・ゐ … ワ行上一段活用の動詞「ゐる」の連用形
ゐる … 座る
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
・めり … 推定の助動詞「めり」の終止形

あはれに、同じやうなるもののさまかなと見侍りしに、
よくもまあ、同じような老人たちの様子だなあと見ておりましたところ、
・あはれに … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形
あはれなり … 人を深く感じさせる
・同じ … シク活用の形容詞「同じ」の連体形
・やうなる … 比況の助動詞「やうなり」の連体形
・もの … 名詞
○もの … 人
・の … 格助詞
・さま … 名詞
さま … 人の様子
・かな … 終助詞
・と … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・侍り … ラ行変格活用の動詞「侍り」の連用形
侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ 筆者から読者への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・に … 接続助詞

これらうち笑ひ、見かはして言ふやう、「年ごろ、
この老人たちが笑って、互いに顔を見て言うには、(世継)「長年の間、
・これら … 代名詞
・うち笑ひ … ハ行四段活用の動詞「うち笑ふ」の連用形
・見かはし … サ行四段活用の動詞「見かはす」の連用形
○見かはす … 互いに顔を見る
・て … 接続助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・やう … 名詞
・年ごろ … 名詞
年ごろ … 長年の間

昔の人に対面して、いかで世の中の見聞くことをも聞こえ合はせむ、
昔なじみに会って、ぜひとも世の中で見聞きしたことも語り合い申し上げたい、
・昔 … 名詞
・の … 格助詞
・人 … 名詞
○昔の人 … 昔、親しくしていた人
・に … 格助詞
・対面(たいめ)し … サ行変格活用の動詞「対面す」の連用形
○対面す … 顔を合わせる
・て … 接続助詞
・いかで … 副詞
いかで … ぜひとも
・世の中 … 名詞
・の … 格助詞
・見聞く … カ行四段活用の動詞「見聞く」の連体形
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・も … 係助詞
・聞こえ合はせ … サ行下二段活用の動詞「聞こえ合はす」の未然形
聞こえ合はす … 「言ひ合はす」の謙譲語 ⇒ 世継から昔なじみへの敬意
○言ひ合はす … 語り合う
・む … 意志の助動詞「む」の終止形

このただ今の入道殿下の御ありさまをも申し合はせばやと思ふに、
この現在の入道殿下のご様子をも語り合い申し上げたいと思っていたところ、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・ただ今 … 名詞
・の … 格助詞
・入道殿下(でんか) … 名詞
・の … 格助詞
・御(おおん)ありさま … 名詞
・を … 格助詞
・も … 係助詞
・申し合はせ … サ行下二段活用の動詞「申し合わす」の未然形
申し合はす … 「言ひ合はす」の謙譲語 ⇒ 世継から昔なじみへの敬意
・ばや … 終助詞
・と … 格助詞
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・に … 接続助詞

あはれにうれしくも会ひ申したるかな。
よくもまあ、うれしいことにお会い申し上げたことですよ。
・あはれに … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形
・うれしく … シク活用の形容詞「うれし」の連用形
・も … 係助詞
・会ひ … ハ行四段活用の動詞「会ふ」の連用形
・申し … サ行四段活用の動詞「申す」の連体形
申す … 謙譲の補助動詞 ⇒ 世継から大犬丸への敬意
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・かな … 終助詞

今ぞ心やすく黄泉路もまかるべき。
今は安心してあの世にも参ることができます。
・今 … 名詞
・ぞ … 係助詞・強意
・心やすく … 
心やすし … 安心である
・黄泉路(よみじ) … 名詞
○黄泉路 … あの世
・も … 係助詞
・まかる … ラ行四段活用の動詞「まかる」の終止形
まかる … 「行く」の謙譲語 ⇒ 世継からこの世への敬意
・べき … 可能の助動詞「べし」の連体形(結び)

おぼしきこと言はぬは、
(言いたいと)思っていることを言わないのは、
・おぼしき … シク活用の形容詞「おぼし」の連体形
○おぼし … 思っている
・こと … 名詞
・言は … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・は … 係助詞

げにぞ腹ふくるる心地しける。
ほんとうに腹がふくれるような気持ちがするものですなあ。
・げに … 副詞
げに … ほんとうに
・ぞ … 係助詞・強意
・腹 … 名詞
・ふくるる … ラ行下二段活用の動詞「ふくる」の連体形
・心地 … 名詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・ける … 詠嘆の助動詞「けり」の連体形(結び)

かかればこそ、昔の人はもの言はまほしくなれば、
こういうわけだからこそ、昔の人は何か言いたくなると、
・かかれば … 接続詞
○かかれば … こういうわけだから
・こそ … 係助詞・強意
・昔 … 名詞
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・は … 係助詞
・もの … 名詞
もの … 何か
・言は … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の未然形
・まほしく … 希望の助動詞「まほし」の連用形
・なれ … ラ行四段活用の動詞「なる」の已然形
・ば … 接続助詞

穴を掘りては言ひ入れ侍りけめとおぼえ侍り。
穴を掘っては(その中に)言い入れたのだろうと思われます。
・穴 … 名詞
・を … 格助詞
・掘り … ラ行四段活用の動詞「掘る」の連用形
・て … 接続助詞
・は … 係助詞
・言ひ入れ … ラ行下二段活用の動詞「言ひ入る」の連用形
・侍り … ラ行変格活用の動詞「侍り」の連用形
侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ 世継から大犬丸への敬意
・けめ … 過去原因推量の助動詞「けむ」の已然形(結び)
・と … 格助詞
・おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連用形
・侍り … ラ行変格活用の動詞「侍り」の終止形
侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ 世継から大犬丸への敬意

返す返すうれしく対面したるかな。
返す返すもうれしいことに顔を合わせたものですなあ。
・返(かえ)す返(がえ)す … 副詞
・うれしく … シク活用の形容詞「うれし」の連用形
・対面し … サ行変格活用の動詞「対面す」の連用形
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・かな … 終助詞

さても、いくつにかなりたまひぬる。」と言へば、
ところで、何歳におなりになったのですか。」と言うと、
・さても … 接続詞
○さても … ところで
・いくつ … 名詞
・に … 格助詞
・か … 係助詞・疑問
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 世継から大犬丸への敬意
・ぬる … 完了の助動詞「ぬ」の連体形(結び)
・と … 格助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・ば … 接続助詞

いま一人の翁、「いくつといふこと、さらにおぼえ侍らず。
もう一人の老夫は、「いくつということは、まったく覚えておりません。
・いま … 副詞
・一人 … 名詞
・の … 格助詞
・翁 … 名詞
・いくつ … 名詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・こと … 名詞
・さらに … 副詞
さらに(〜打消) … まったく(〜ない)
・おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連用形
・侍ら … ラ行変格活用の動詞「侍り」の未然形
侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ 大犬丸から世継への敬意
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

ただし、おのれは、故太政大臣貞信公、
ただし、私は、亡くなった太政大臣貞信公が、
・ただし … 接続詞
・おのれ … 代名詞
・は … 係助詞
・故太政大臣貞信公(ていしんこう) … 名詞

蔵人少将と申しし折の子舎人童、大犬丸ぞかし。ぬしは、
蔵人少将と申し上げた頃の小舎人童、大犬丸ですよ。あなたは、
・蔵人(くろうど)少将 … 名詞
・と … 格助詞
・申し … サ行四段活用の動詞「申す」の連用形
申す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 大犬丸から貞信公への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・折 … 名詞
・の … 格助詞
・子舎人童(こどねりわらわ) … 名詞
・大犬丸(おおいぬまる) … 名詞
・ぞ … 終助詞(係助詞とする説もある)
・かし … 終助詞
かし … 〜よ(念を押す)
・ぬし … 代名詞
・は … 係助詞

その御時の母后の宮の御方の召し使ひ、高名の大宅世継とぞ言ひ侍りしかしな。
その御代の母后の宮の御方の召し使いで、有名な大宅世継と言いましたよね。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・御時 … 名詞
・の … 格助詞
・母后(ははきさき)の宮 … 名詞
・の … 格助詞
・御方(おおんかた) … 名詞
・の … 格助詞
・召使(めしつかい) … 名詞
・高名 … 名詞
・の … 格助詞
・大宅世継(おおやけのよつぎ) … 名詞
・と … 格助詞
・ぞ … 係助詞
・いひ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連用形
・侍り … ラ行変格活用の動詞「侍り」の連用形
侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ 大犬丸から世継への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・かし … 終助詞
・な … 終助詞
 … 〜ね(確認する)

されば、ぬしの御年は、おのれにはこよなくまさり給へらむかし。
ですから、あなたのお年は、私よりはずっと上でいらっしゃるでしょうよ。
・されば … 接続詞
されば … そうであるから
・ぬし … 代名詞
・の … 格助詞
・御年(みどし) … 名詞
・は … 係助詞
・おのれ … 代名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・こよなく … ク活用の形容詞「こよなし」の連用形
こよなし … 格段の差がある
・まさり … ラ行四段活用の動詞「まさる」の連用形
○まさる … 上である
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 大犬丸から世継への敬意
・ら … 存続の助動詞「る」の未然形
・む … 推量の助動詞「む」の終止形
・かし … 終助詞

自らが小童にてありし時、ぬしは二十五、六ばかりの
私が幼い子供であった時、あなたは二十五、六歳くらいの
・自(みずか)ら … 代名詞
○自ら … 私
・が … 格助詞
・小童(こわらわ) … 名詞
○小童 … 幼い子供
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・時 … 名詞
・ぬし … 代名詞
・は … 係助詞
・二十五、六 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・の … 格助詞

男にてこそはいませしか。」と言ふめれば、
一人前の男でいらっしゃいました。」と言うと、
・男 … 名詞
 … 成人期を迎えた男
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
・こそ … 係助詞・強意
・は … 係助詞
・いませ … サ行変格活用の動詞「います」の連用形
います … 「あり」の尊敬語 ⇒ 大犬丸から世継への敬意
・しか … 過去の助動詞「き」の已然形(結び)
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形
・めれ … 婉曲の助動詞「めり」の已然形
・ば … 接続助詞

世継、「しかしか、さ侍りしことなり。
世継は、「そうそう、そうでありました。
・世継 … 名詞
・しかしか … 感動詞
○しかしか … そうそう
・さ … 副詞
 … そう
・侍り … ラ行変格活用の動詞「侍り」の連用形
侍り … 「あり」の丁寧語 ⇒ 世継から大犬丸への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・こと … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

さても、ぬしの御名はいかにぞや。」と言ふめれば、
ところで、あなたのお名前は何とおっしゃいますか。」と言うと、
・さても … 接続詞
・ぬし … 代名詞
・の … 格助詞
・御名 … 名詞
・は … 係助詞
・いかに … 副詞
いかに … どのように
・ぞ … 終助詞(係助詞とする説もある)
・や … 係助詞
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形
・めれ … 婉曲の助動詞「めり」の已然形
・ば … 接続助詞

「太政大臣殿にて元服仕まつりし時、『きむぢが姓はなにぞ。』と
「太政大臣のお邸で元服いたしました時、『おまえの姓は何か。』と
・太政大臣殿 … 名詞
○殿 … 邸宅
・にて … 格助詞
・元服 … 名詞
・仕(つか)まつり … ラ行四段活用の動詞「仕まつる」の連用形
仕まつる … 「す」の丁寧語 ⇒ 大犬丸から世継への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・時 … 名詞
・きむぢ … 代名詞
○きむぢ … あなた
・が … 格助詞
・姓 … 名詞
・は … 係助詞
・何 … 代名詞
・ぞ … 終助詞(係助詞とする説もある)
・と … 格助詞

仰せられしかば、『夏山となむ申す。』と申ししを、
(貞信公が)おっしゃったので、『夏山と申します。』と申し上げたところ、
・仰せ … サ行下二段活用の動詞「仰す」の連用形
仰す … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ 大犬丸から貞信公への敬意
・られ … 尊敬の助動詞「らる」の連用形 ⇒ 大犬丸から貞信公への敬意
・しか … 過去の助動詞「き」の已然形
・ば … 接続助詞
・夏山 … 名詞
・と … 格助詞
・なむ … 係助詞・強意
・申す … サ行四段活用の動詞「申す」の連体形(結び)
申す … 「言ふ」の丁寧語 ⇒ 大犬丸から貞信公への敬意
・と … 格助詞
・申し … サ行四段活用の動詞「申す」の連用形
申す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 大犬丸から貞信公への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・を … 接続助詞

やがて繁樹となむつけさせ給へりし。」など言ふに、
そのまま(夏山にちなんで)繁樹とおつけになりました。」などと言うので、
・やがて … 副詞
やがて … そのまま
・繁樹(しげき) … 名詞
・と … 格助詞
・なむ … 係助詞
・つけ … カ行下二段活用の動詞「つく」の未然形
・させ … 尊敬の助動詞「さす」の連用形 ⇒ 大犬丸から貞信公への敬意
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 大犬丸から貞信公への敬意
・り … 完了の助動詞「り」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・など … 副助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・に … 接続助詞

いとあさましうなりぬ。
(あまりにも古い話なので)たいそう驚きあきれてしまいました。
・いと … 副詞
・あさましう … シク活用の形容詞「あさまし」の連用形(音便)
あさまし … 驚きあきれるさま
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

誰も、少しよろしき者どもは、
誰も、それほど悪くはない身分の者たちは、
・誰 … 代名詞
・も … 係助詞
・少し … 副詞
・よろしき … シク活用の形容詞「よろし」の連体形
よろし … 悪くはない
・者ども … 名詞
・は … 係助詞

見おこせ、ゐ寄りなどしけり。
老人たちの方を見たり、にじり寄ったりなどしました。
・見おこせ … サ行下二段活用の動詞「見おこす」の連用形
○見おこす … こちらの方を見る
・ゐ寄り … ラ行四段活用の動詞「ゐ寄る」の連用形
○ゐ寄る … にじり寄る
・など … 副助詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

年三十ばかりなる侍めきたる者の、せちに近く寄りて、
年が三十歳くらいで侍のような者が、ぐっと近くに寄ってきて、
・年 … 名詞
・三十 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・なる … 断定の助動詞「なり」の連体形
・侍めき … カ行四段活用の動詞「侍めく」の連用形
○めく(接尾語) … 〜のようである
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・者 … 名詞
・の … 格助詞
・せちに … ナリ活用の形容動詞「せちなり」の連用形
○せちなり … いちずである
・近く … ク活用の形容詞「近し」の連用形
・寄り … ラ行四段活用の動詞「寄る」の連用形
・て … 接続助詞

「いで、いと興あること言ふ老者たちかな。
「いやはや、たいそうおもしろいことを言うご老人たちですなあ。
・いで … 感動詞
○いで … いやはや
・いと … 副詞
・興 … 名詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
○興あり … おもしろみがある
・こと … 名詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・老者たち … 名詞
・かな … 終助詞
かな … 〜だなあ

さらにこそ信ぜられね。」と言へば、
(あなたたちの話は)まったく信じられません。」と言うと、
・さらに … 副詞
さらに(〜打消) … まったく(〜ない)
・こそ … 係助詞・強意
・信ぜ … サ行変格活用の動詞「信ず」の未然形
・られ … 可能の助動詞「らる」の未然形
・ね … 打消の助動詞「ず」の已然形(結び)
・と … 格助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・ば … 接続助詞

翁二人見かはしてあざ笑ふ。
老夫二人は互いに顔を見て大声で笑いました。
・翁 … 名詞
・二人 … 名詞
・見かはし … サ行四段活用の動詞「見かはす」の連用形
○見かはす … 互いに顔を見る
・て … 接続助詞
・あざ笑ふ … ハ行四段活用の動詞「あざ笑ふ」の終止形
○あざ笑ふ … 大声で笑う

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