鏡のかげ・更級日記 現代語訳・品詞分解

母、一尺の鏡を鋳させて、えゐて参らぬかはりにとて、
母は、一尺の鏡を鋳造させて、(私を)連れて参詣できない代わりにということで、
・母 … 名詞
・一尺 … 名詞
・の … 格助詞
・鏡 … 名詞
・を … 格助詞
・鋳(い) … ヤ行上一段活用の動詞「鋳る」の未然形
・させ … 使役の助動詞「さす」の連用形
・て … 接続助詞
・え … 副詞
え(~打消) … ~できない
・ゐ … ワ行上一段活用の動詞「ゐる」の連用形
・て … 接続助詞
・参ら … ラ行四段活用の動詞「参る」の未然形
参る … 参詣する(謙譲語) ⇒ 作者から長谷寺への敬意
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・かはり … 名詞
・に … 格助詞
・とて … 格助詞

僧を出だし立てて初瀬に詣でさすめり。
僧を派遣して長谷寺に参詣させるようだ。
・僧 … 名詞
・を … 格助詞
・出だし立て … タ行下二段活用の動詞「出だし立つ」の連用形
〇出だし立つ … 派遣する
・て … 接続助詞
・初瀬(はつせ) … 名詞
〇初瀬 … 長谷寺
・に … 格助詞
・詣で … ダ行下二段活用の動詞「詣づ」の未然形
詣づ … 参詣する(謙譲語) ⇒ 作者から長谷寺への敬意
・さす … 使役の助動詞「さす」の終止形
・めり … 推量の助動詞「めり」の終止形

「三日候ひて、この人のあべからむさま、
「三日間おこもりして、この人がそうなるに違いないであろう将来の様子を、
・三日(みか) … 名詞
・候(さぶら)ひ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の連用形
候ふ … おこもりする(謙譲語) ⇒ 作者から長谷寺への敬意
・て … 接続助詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・あ … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
あるべから ⇒ あんべから(撥音便) ⇒ あべから(無表記)
・べから … 推量の助動詞「べし」の未然形
・む … 推量の助動詞「む」の連体形
・さま … 名詞

夢に見せ給へ。」など言ひて、詣でさするなめり。
夢にお見せください。」などと言って、参詣させるのだろう。
・夢 … 名詞
・に … 格助詞
・見せ … サ行下二段活用の動詞「見す」の連用形
〇見す … 見せる
・給へ … ;ハ行四段活用の動詞「給ふ」の命令形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 僧から長谷寺への敬意
・など … 副助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・詣で … ダ行下二段活用の動詞「詣づ」の未然形
詣づ … 参詣する(謙譲語) ⇒ 作者から長谷寺への敬意
・さする … 使役の助動詞「さす」の連体形
・な … 断定の助動詞「なり」の連体形
なるめり ⇒ なんめり(撥音便) ⇒ なめり(無表記)
・めり … 推量の助動詞「めり」の終止形

そのほどは精進せさす。
その間は精進させる。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・ほど … 名詞
ほど … 
・は … 係助詞
・精進せ … サ行変格活用の動詞「精進す」の未然形
〇精進す … 行いを慎み身を清める
・さす … 使役の助動詞「さす」の終止形
「精進せさす」は、誰が、誰に「精進」させるのか。⇒作者の母が作者に精進させる。

この僧帰りて、「『夢をだに見で、まかでなむが、
この僧が帰って来て、「『夢をさえ見ないで、退出してしまうのは、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・僧 … 名詞
・帰り … ラ行四段活用の動詞「帰る」の連用形
・て … 接続助詞
・夢 … 名詞
・を … 格助詞
・だに … 副助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・で … 接続助詞
・まかで … ダ行下二段活用の動詞「まかづ」の連用形
まかづ … 「出づ」の謙譲語 ⇒ 僧から長谷寺への敬意
・な … 完了の助動詞「ぬ」の未然形
・む … 婉曲の助動詞「む」の連体形
・が … 格助詞

本意なきこと。いかが帰りても申すべき。』と、
不本意なこと。どのように帰って申し上げたらよいのか。』と、
・本意(ほい)なき … ク活用の形容詞「本意なし」の連体形
本意なし … 不本意である
・こと … 名詞
・いかが … 副詞
いかが … どのように~か
・帰り … ラ行四段活用の動詞「帰る」の連用形
・て … 接続助詞
・も … 係助詞
・申す … サ行四段活用の動詞「申す」の終止形
申す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 僧から作者の母への敬意
・べき … 適当の助動詞「べし」の連体形
・と … 格助詞

いみじう額づき行ひて、寝たりしかば、御帳の方より、
ひたすら額をつけて拝み勤行して、寝ていたところ、御帳の方から、
・いみじう … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形
・額づき … カ行四段活用の動詞「額づく」の連用形
〇額づく … 額をつけて拝む
・行ひ … ハ行四段活用の動詞「行ふ」の連用形
〇行ふ … 勤行する
・て … 接続助詞
・寝(ね) … ナ行下二段活用の動詞「寝(ぬ)」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の連用形
・しか … 過去の助動詞「き」の已然形
・ば … 接続助詞
・御帳(みちよう) … 名詞
〇帳 … 垂れ布
・の … 格助詞
・方 … 名詞
・より … 格助詞

いみじう気高う清げにおはする女の、
たいそう気品がありきれいでいらっしゃる女性で、
・いみじう … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形
・気高う … ク活用の形容詞「気高し」の連用形
〇気高し … 気品がある
・清げに … ナリ活用の形容動詞「清げなり」の連用形
清げなり … きれいである
・おはする … サ行変格活用の動詞「おはす」の連体形
おはす … 「あり」の尊敬語 ⇒ 僧から女(長谷寺)への敬意
・女 … 名詞
・の … 格助詞

うるわしく装束き給へるが、奉りし鏡をひきさげて、
きちんと装束を身におつけになっている人が、奉納した鏡を手にさげて持って、
・うるわしく … シク活用の形容詞「うるはし」の連用形
うるわし … きちんと整っている
・装束(そうぞ)き … カ行四段活用の動詞「装束く」の連用形
〇装束く … 装束を身につける
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 僧から女(長谷寺)への敬意
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・が … 格助詞
・奉(たてまつ)り … ラ行四段活用の動詞「奉る」の連用形
奉る … 「与ふ」の謙譲語 ⇒ 僧から女(長谷寺)への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・鏡 … 名詞
・を … 格助詞
・ひきさげ … ガ行下二段活用の動詞「ひきさぐ」の連用形
〇ひきさぐ … 手にさげて持つ
・て … 接続助詞

『この鏡には、文や添ひたりし。』と問ひ給へば、
『この鏡には、願文が伴っていたか。』とお尋ねになるので、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・鏡 … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・文(ふみ) … 名詞
 … 祈願の趣旨を書いた願文
・や … 係助詞・疑問
・添ひ … ハ行四段活用の動詞「添ふ」の連用形
添ふ … 伴う
・たり … 存続の助動詞「たり」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形(結び)
・と … 格助詞
・問ひ … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の連用形
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 僧から女(長谷寺)への敬意
・ば … 接続助詞

かしこまりて、『文も候はざりき。
恐れつつしんで、『願文もございませんでした。
・かしこまり … 行四段活用の動詞「かしこまる」の連用形
かしこまる … 恐れつつしむ
・て … 接続助詞
・文 … 名詞
・も … 係助詞
・候は … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の未然形
候ふ … 「あり」の謙譲語 ⇒ 僧から女(長谷寺)への敬意
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・き … 過去の助動詞「き」の終止形

この鏡をなむ奉れと侍りし。』と答へ奉れば、
ただこの鏡を奉納せよとのことでした。』とお答え申し上げると、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・鏡 … 名詞
・を … 格助詞
・なむ … 係助詞・強意
・奉れ … ラ行四段活用の動詞「奉る」の命令形
奉る … 「与ふ」の謙譲語 ⇒ 僧から女(長谷寺)への敬意
・と … 格助詞
・侍(はべ)り … ラ行変格活用の動詞「侍り」の連用形
侍り … 「あり」の丁寧語 ⇒ 僧から女(長谷寺)への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形(結び)
・と … 格助詞
・答へ … ハ行下二段活用の動詞「答ふ」の連用形
・奉れ … ラ行四段活用の動詞「奉る」の已然形
奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 僧から女(長谷寺)への敬意
・ば … 接続助詞

『あやしかりけることかな。文添ふべきものを。』とて、
『奇妙なことだねえ。願文は付けることになっているのに。』とおっしゃって、
・あやしかり … シク活用の形容詞「あやし」の連用形
〇あやし … 妙だ
・ける … 詠嘆の助動詞「けり」の連体形
・こと … 名詞
・かな … 終助詞・詠嘆
・文 … 名詞
・添ふ … ハ行下二段活用の動詞「添ふ」の終止形
・べき … 当然の助動詞「べし」の連体形
・ものを … 接続助詞
・とて … 格助詞

『この鏡を、こなたに映れるかげを見よ。
『この鏡を、こちらに映っている姿を見よ。
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・鏡 … 名詞
・を … 格助詞
・こなた … 代名詞
・に … 格助詞
・映れ … ラ行四段活用の動詞「映る」の已然形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・かげ … 名詞
〇かげ … 物や人の姿
・を … 格助詞
・見よ … マ行上一段活用の動詞「見る」の命令形

これ見れば、あはれに悲しきぞ。』とて、
これを見ると、しみじみと悲しいよ。』とおっしゃって、
・これ … 代名詞
・見れ … マ行上一段活用の動詞「見る」の已然形
・ば … 接続助詞
・あはれに … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形
・悲しき … シク活用の形容詞「悲し」の連体形
・ぞ … 終助詞・断定
・とて … 格助詞

さめざめと泣き給ふを見れば、
さめざめとお泣きになる、(鏡の中)を見ると、
・さめざめと … 副詞
〇さめざめと … 声を立てず涙を流すさま
・泣き … カ行四段活用の動詞「泣く」の連用形
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連体形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 僧から女(長谷寺)への敬意
・を … 格助詞
・見れ … マ行上一段活用の動詞「見る」の已然形
・ば … 接続助詞

臥しまろび、泣き嘆きたるかげ映れり。
ころげまわって、泣き嘆いている姿が映っている。
・臥しまろび … 行四段活用の動詞「臥しまろぶ」の連用形
〇臥しまろぶ … ころげまわる
・泣き … カ行四段活用の動詞「泣く」の連用形
・嘆き … カ行四段活用の動詞「嘆く」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・かげ … 名詞
・映れ … ラ行四段活用の動詞「映る」の已然形
・り … 存続の助動詞「り」の終止形

『このかげを見れば、いみじう悲しな。これ見よ。』とて、
『この姿を見ると、とても悲しいね。これを見よ。』とおっしゃって、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・かげ … 名詞
・を … 格助詞
・見れ … マ行上一段活用の動詞「見る」の已然形
・ば … 接続助詞
・いみじう … 活用の形容詞「いみじ」の連用形
・悲し … シク活用の形容詞「悲し」の終止形
・な … 終助詞・確認
・これ … 代名詞
・見よ … マ行上一段活用の動詞「見る」の命令形
・とて … 格助詞

いま片つ方に映れるかげを見せ給へば、御簾ども青やかに、
もう一方に映っている姿をお見せになると、御簾などが青々として、
・いま … 副詞
・片つ方 … 名詞
・に … 格助詞
・映れ … ラ行四段活用の動詞「映る」の已然形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・かげ … 名詞
・を … 格助詞
・見せ … サ行下二段活用の動詞「見す」の連用形
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 僧から女(長谷寺)への敬意
・ば … 接続助詞
・御簾ども … 名詞
・青やかに … ナリ活用の形容動詞「青やかなり」の連用形

几帳おし出でたる下より、いろいろの衣こぼれ出で、
几帳を押し出している下から、いろんな色の着物がはみ出し、
・几帳 … 名詞
・おし出で … ダ行下二段活用の動詞「おし出づ」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・下 … 名詞
・より … 格助詞
・いろいろ … 名詞
〇いろいろ … いろんな色
・の … 格助詞
・衣(きぬ) … 名詞
・こぼれ出で … ダ行下二段活用の動詞「こぼれ出づ」の連用形

梅桜咲きたるに、鶯、木伝ひ鳴きたるを見せて、
梅や桜が咲いているところに、鶯が、木から木へ移り鳴いているのを見せて、
・梅 … 名詞
・桜 … 名詞
・咲き … カ行四段活用の動詞「咲く」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・に … 接続助詞
・鶯 … 名詞
・木伝(こづた)ひ … ハ行四段活用の動詞「木伝ふ」の連用形
〇木伝ふ … 木から木へ移る
・鳴き … カ行四段活用の動詞「鳴く」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・を … 格助詞
・見せ … サ行下二段活用の動詞「見す」の連用形
・て … 接続助詞

『これを見るは、うれしな。』とのたまふとなむ見えし。」と語るなり。
『これを見るのは、うれしいね。』とおっしゃる、と見えた。」と(母に)報告したそうだ。
・これ … 代名詞
・を … 格助詞
・見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・は … 係助詞
・うれし … シク活用の形容詞「うれし」の終止形
・な … 終助詞・確認
・と … 名詞
・のたまふ … ハ行四段活用の動詞「のたまふ」の連体形
のたまふ … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ 僧から女(長谷寺)への敬意
・と … 名詞
・なむ … 係助詞・強意
・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形(結び)
・と … 名詞
・語る … ラ行四段活用の動詞「語る」の連体形
・なり … 伝聞の助動詞「なり」の終止形

いかに見えけるぞとだに、耳もとどめず。
どのように占われたのかとさえ、聞こうともしない。
・いかに … 副詞
・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の連用形
〇見ゆ … 見て判断される
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・ぞ … 係助詞
・と … 名詞
・だに … 副助詞
・耳 … 名詞
・も … 係助詞
・とどめ … マ行下二段活用の動詞「とどむ」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

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