道真の左遷・大鏡「筑紫におはします所の〜」

筑紫におはします所の御門かためておはします。
筑紫でいらっしゃる所の御門をかたく閉ざしていらっしゃいます。
・筑紫 … 名詞
・に … 格助詞
・おはします … サ行四段活用の動詞「おはします」の連体形
おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・所 … 名詞
・の … 格助詞
・御門 … 名詞
・かため … マ行下二段活用の動詞「かたむ」の連用形
・て … 接続助詞
・おはします … サ行四段活用の動詞「おはします」の終止形
おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意

大弐の居所は遥かなれども、楼の上の瓦などの、
太弐の役所は遠く離れているけれど、高い建物の上の瓦などが、
・大弐 … 名詞
・の … 格助詞
・居所 … 名詞
・は … 係助詞
・遥かなれ … ナリ活用の形容動詞「遥かなり」の已然形
○遥かななり … 遠く離れているさま
・ども … 接続助詞
・楼 … 名詞
○楼 … 高く造った建物
・の … 格助詞
・上 … 名詞
・の … 格助詞
・瓦 … 名詞
・など … 副助詞
・の … 格助詞

心にもあらず御覧じやられけるに、
見るともなく自然にお目にとまった上に、
・心 … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・も … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
○心にもあらず … 無意識で
・御覧じやら … ラ行四段活用の動詞「御覧じやる」の未然形
御覧じやる … 「見やる」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
○見やる … 目を向ける
・れ … 自発の助動詞「る」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・に … 接続助詞

またいと近く観音寺といふ寺のありければ、
またすぐ近くに観音寺という寺があったので、
・また … 接続詞
・いと … 副詞
・近く … ク活用の形容詞「近し」の連用形
・観音寺 … 名詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・寺 … 名詞
・の … 格助詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

鐘の声を聞こし召して、作らしめ給へる詩ぞかし。
鐘の音をお聞きになって、お作りになった詩ですよ。
・鐘 … 名詞
・の … 格助詞
・声 … 名詞
・を … 格助詞
・聞こし召し … サ行四段活用の動詞「聞こし召す」の連用形
聞こし召す … 「聞く」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・て … 接続助詞
・作ら … ラ行四段活用の動詞「作る」の未然形
・しめ … 尊敬の助動詞「しむ」の連用形 ⇒ 筆者から道真への敬意
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から道真への敬意
・る … 完了の助動詞「り」の連体形
・詩 … 名詞
・ぞ … 終助詞・断定
・かし … 終助詞・念押し

  都府楼ハ纔カニ瓦ノ色ヲ看
  都府楼は、わずかに瓦の色を見るだけで、
  ・都府楼 … 名詞
  ○都府楼 … 太宰府庁の大門の高楼
  ・ハ … 係助詞
  ・纔カニ … ナリ活用の形容動詞「纔カナリ」の連用形
  ・瓦 … 名詞
  ・ノ … 格助詞
  ・色 … 名詞
  ・ヲ … 格助詞
  ・看 … マ行上一段活用の動詞「看ル」の連用形

  観音寺ハ只ダ鐘ノ声ヲ聴ク
  観音寺は、ただ鐘の音を聞くだけである。
  ・観音寺 … 名詞
  ・ハ … 係助詞
  ・只ダ … 副詞
  ・鐘 … 名詞
  ・ノ … 格助詞
  ・声 … 名詞
  ・ヲ … 格助詞
  ・聴ク … カ行四段活用の動詞「聴ク」の連用形

これは、文集の、白居易の、
この詩は、『白氏文集』の、白居易の、
・これ … 代名詞
・は … 係助詞
・文集 … 名詞
・の … 格助詞
・白居易 … 名詞
・の … 格助詞

「遺愛寺ノ鐘ハ枕ヲ欹テテ聴キ、
「遺愛寺の鐘は枕を傾けて頭を高くしてじっと聞き、
・遺愛寺 … 名詞
・ノ … 格助詞
・鐘 … 名詞
・ハ … 係助詞
・枕 … 名詞
・ヲ … 格助詞
・欹テ … タ行下二段活用の動詞「欹ツ」の連用形
○欹(そばだ)つ … 枕を傾けて頭を高くする
・テ … 接続助詞
・聴キ … カ行四段活用の動詞「聴ク」の連用形
○聴く … じっと聞く

香炉峰ノ雪ハ簾ヲ撥ゲテ看ル」といふ詩に、
香炉峰の雪は簾をはね上げて眺める。」という詩に、
・香炉峰 … 名詞
・ノ … 格助詞
・雪 … 名詞
・ハ … 係助詞
・簾 … 名詞
・ヲ … 格助詞
・撥ゲ … ガ行下二段活用の動詞「撥グ」の連用形
○撥(かか)ぐ … はね上げる
・テ … 接続助詞
・看ル … マ行上一段活用の動詞「看ル」の連用形
○看(み)る … 眺める
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・詩 … 名詞
・に … 格助詞

まさざまに作らしめ給へりとこそ、昔の博士ども申しけれ。
いっそう優れているほどにお作りになったと、昔の学者たちは申しました。
・まさざまに … ナリ活用の形容動詞「まさざまなり」の連用形
○まさざまなり … いっそう優れているさま
・作ら … ラ行四段活用の動詞「作る」の未然形
・しめ … 尊敬の助動詞「しむ」の連用形 ⇒ 筆者から道真への敬意
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から道真への敬意
・り … 完了の助動詞「り」の終止形
・と … 格助詞
・こそ … 係助詞・強意
・昔 … 名詞
・の … 格助詞
・博士ども … 名詞
・申し … サ行四段活用の動詞「申す」の連用形
申す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から道真への敬意
○博士 … 広く学問に通じた人
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形(結び)

また、かの筑紫にて、九月九日菊の花を御覧じけるついでに、
また、あの筑紫で、九月九日に菊の花をご覧になった折に、
・また … 接続詞
・か … 代名詞
・の … 格助詞
・筑紫 … 名詞
・にて … 格助詞
・九月九日 … 名詞
・菊 … 名詞
・の … 格助詞
・花 … 名詞
・を … 格助詞
・御覧じ … サ行変格活用の動詞「御覧ず」の連用形
御覧ず … 「見る」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・ついで … 名詞
ついで … 機会、折
・に … 格助詞

いまだ京におはしましし時、九月の今宵、
まだ京都にいらっしゃった時、九月の今夜、
・いまだ … 副詞
・京 … 名詞
・に … 格助詞
・おはしまし … サ行四段活用の動詞「おはします」の連用形
おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・時 … 名詞
・九月 … 名詞
・の … 格助詞
・今宵 … 名詞

内裏にて菊の宴ありしに、この大臣の作らせたまひける詩を、
宮中で観菊の宴があった時に、この大臣がお作りになった詩を、
・内裏 … 名詞
・にて … 格助詞
・菊 … 名詞
・の … 格助詞
・宴 … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・に … 格助詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・大臣 … 名詞
・の … 格助詞
・作ら … ラ行四段活用の動詞「作る」の未然形
・せ … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 筆者から道真への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から道真への敬意
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・詩 … 名詞
・を … 格助詞

帝かしこく感じ給ひて、御衣賜はり給へりしを、
帝はたいそう感心なさって、帝自身のご衣服をお与えになったのを、
・帝 … 名詞
・かしこく … ク活用の形容詞「かしこし」の連用形
かしこし … たいそう(連用形の用法)
・感じ … サ行変格活用の動詞「感ず」の連用形
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から帝への敬意
・て … 接続助詞
・御衣 … 名詞
・賜はり … ラ行四段活用の動詞「賜はる」の連用形
賜はる … 「与ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から帝への敬意
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から帝への敬意
・り … 完了の助動詞「り」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・を … 格助詞

筑紫に持て下らしめ給へりければ、御覧ずるに、
筑紫に持ってお下りになっていたので、ご覧になると、
・筑紫 … 名詞
・に … 格助詞
・持て下ら … ラ行四段活用の動詞「持て下る」の未然形
・しめ … 尊敬の助動詞「しむ」の連用形 ⇒ 筆者から道真への敬意
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から道真への敬意
・り … 存続の助動詞「り」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
・御覧ずる … サ行変格活用の動詞「御覧ず」の連体形
御覧ず … 「見る」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・に … 接続助詞

いとどその折思し召し出でて、作らしめ給ひける、
いよいよその時のことを思い出しなさって、お作りになった、
・いとど … 副詞
いとど … いっそう
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・折 … 名詞
・思し召し出で … ダ行下二段活用の動詞「思し召し出づ」の連用形
思し召し出づ … 「思ひ出づ」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・て … 接続助詞
・作ら … ラ行四段活用の動詞「作る」の未然形
・しめ … 尊敬の助動詞「しむ」の連用形 ⇒ 筆者から道真への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から道真への敬意
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

  去年ノ今夜清涼ニ侍シ
  去年の今夜は清涼殿で(帝の)おそばに仕え、
  ・去年 … 名詞
  ・ノ … 格助詞
  ・今夜 … 名詞
  ・清涼 … 名詞
  ・ニ … 格助詞
  ・侍シ … サ行変格活用の動詞「侍ス」の連用形
  ○侍す … お側近くお仕えする(謙譲語) ⇒ 道真から帝への敬意

  秋思ノ詩篇独リ腸ヲ断ツ
  「秋思」という題の詩篇を作り、独り断腸の思いを詠んだ。
  ・秋思 … 名詞
  ・ノ … 格助詞
  ・詩篇 … 名詞
  ・独リ … 名詞
  ・腸 … 名詞
  ・ヲ … 格助詞
  ・断ツ … タ行四段活用の動詞「断ツ」の終止形

  恩賜ノ御衣ハ今此ニ在リ
  帝からいただいた御衣は今ここにあります。
  ・恩賜 … 名詞
  ○恩賜 … 天皇から物をいただくこと
  ・ノ … 格助詞
  ・御衣 … 名詞
  ・ハ … 係助詞
  ・今 … 名詞
  ・此 … 代名詞
  ・ニ … 格助詞
  ・在リ … ラ行四段活用の動詞「在リ」の終止形

  捧持シテ毎日余香ヲ拝ス
  捧げ持って、毎日、香の残り香を拝している。
  ・捧ゲ持チ … タ行四段活用の動詞「捧ゲ持ツ」の連用形
  ○捧ぐ … 高い位置に上げる、かかげる
  ・テ … 接続助詞
  ・毎日 … 名詞
  ・余香 … 名詞
  ・ヲ … 格助詞
  ・拝ス … サ行四段活用の動詞「拝ス」の終止形
  ○拝す … 拝礼する(謙譲語) ⇒ 道真から帝への敬意

この詩、いとかしこく人々感じ申されき。
この詩を、たいそう深く人々は感嘆申し上げました。
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・詩 … 名詞
・いと … 副詞
・かしこく … 活用の形容詞「かしこし」の連用形
・人々 … 名詞
・感じ … サ行変格活用の動詞「感ず」の連用形
○感ず … 感動する
・申さ … サ行四段活用の動詞「申す」の未然形
・れ … 尊敬の助動詞「る」の連用形 ⇒ 筆者から人々への敬意
・き … 過去の助動詞「き」の終止形

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