蛸売りの八助・世間胸算用 現代語訳・品詞分解

昔から今に、同じ顔を見るこそをかしき世の中、
昔から今まで、同じ人の顔を見るのがおかしな世の中だが、
・昔 … 名詞
・から … 格助詞
・今 … 名詞
・に … 格助詞
・同じ … シク活用の形容詞「同じ」の連体形
・顔 … 名詞
・を … 格助詞
・見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・こそ … 係助詞
・をかしき … シク活用の形容詞「をかし」の連体形
・世の中 … 名詞

この二十四、五年も、奈良通ひする魚屋ありけるが、
この二十四、五年も、奈良に行商に通う魚屋があったが、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・二十四、五年 … 名詞
・も … 係助詞
・奈良通ひする … サ行変格活用の動詞「奈良通ひす」の連体形
〇奈良通ひす … 奈良へ行商に通う
・魚屋 … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・が … 接続助詞

行く度にただ一色に極めて、蛸よりほかに売ることなし。
行くたびにただ一種類に決めて、蛸以外に売ることはない。
・行く … カ行四段活用動詞「行く」連体形
・度 … 名詞
・に … 格助詞
・ただ … 副詞
・一色(ひといろ) … 名詞
〇一色 … 一種類
・に … 格助詞
・極(きわ)め … マ行下二段活用の動詞「極む」の連用形
〇極む … 決める
・て … 接続助詞
・蛸(たこ) … 名詞
・より … 格助詞
・ほか … 名詞
・に … 格助詞
・売る … ラ行四段活用の動詞「売る」の連体形
・こと … 名詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形

後には人も、「蛸売りの八助」とて、見知らぬ人もなく、
後には人も、「蛸売りの八助」と言って、見知らぬ人もなく、
・後 … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・人 … 名詞
・も … 係助詞
・蛸売り … 名詞
・の … 格助詞
・八助 … 名詞
・とて … 格助詞
・見知ら … ラ行四段活用の動詞「見知る」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・人 … 名詞
・も … 係助詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形

それそれに商ひの道付きて、ゆるりと三人口を過ぎける。
その人あの人と得意先ができて、ゆったりと家族三人が生活できた。
・それそれ … 代名詞
〇それそれ … だれそれ
・に … 格助詞
・商(あきな)ひ … 名詞
・の … 格助詞
・道 … 名詞
・付き … カ行四段活用の動詞「付く」の連用形
・て … 接続助詞
〇商ひの道付きて … 得意先ができて
・ゆるりと … 副詞
〇ゆるりと … ゆったりと
・三人口 … 名詞
〇三人口 … 家族三人が生活すること
・を … 格助詞
・過ぎ … ガ行上二段活用動詞
〇過ぐ … ある程度を超える
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

されども大晦日に、銭五百持つてつひに年を取りたることなし。
しかし大晦日に、五百文のお金を持って今まで一度も年を越したことはない。
・されども … 接続詞
・大晦日(おおつごもり) … 名詞
・に … 格助詞
・銭(ぜに) … 名詞
・五百 … 名詞
〇銭五百 … 五百文のお金
・持つ … タ行四段活用の動詞「持つ」の連用形、促音便
・て … 接続助詞
・つひに … 副詞
〇つひに(〜打消) … 今まで一度も(〜ない)
・年 … 名詞
・を … 格助詞
・取り … ラ行四段活用の動詞「取る」の連用形
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・こと … 名詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形

口食うて一杯に、雑煮祝うた分なり。
食べるだけで精いっぱいで、雑煮で祝う程度である。
・口 … 名詞
・食う … ハ行四段活用動詞「食ふ」連用形、ウ音便
・て … 接続助詞
・一杯 … 名詞
〇口食うて一杯 … 食べるだけで精いっぱい
・に … 接続助詞
・雑煮(ぞうに) … 名詞
・祝う … ハ行四段活用の動詞「祝ふ」の連用形、ウ音便
・た … 完了の助動詞「たり」の連体形「たる」の「る」が脱落した形
・分 … 名詞
〇分 … 程度
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

この男、つねづね世渡りに油断せず、
この男は、つねづね世渡りに油断せず、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・男 … 名詞
・つねづね … 名詞
・世渡り … 名詞
・に … 格助詞
・油断せ … サ行四段活用の動詞「油断す」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形

一人ある母親の頼まれて、火桶買うて来るにも、
一人いる母親に頼まれて、手あぶり火鉢を買って来るにも、
・一人 … 名詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・母親 … 名詞
・の … 格助詞
・頼ま … マ行四段活用動詞「頼む」
・れ … 受身の助動詞「る」の連用形
・て … 接続助詞
・火桶(ひおけ) … 名詞
〇火桶 … 手あぶり火鉢
・買う … ハ行四段活用の動詞「買ふ」の連用形、ウ音便
・て … 接続助詞
・来る … カ行変格活用の動詞「来(く)」の連体形
・に … 格助詞
・も … 係助詞

はや間銭取りてただは通さず。
すでに手数料を取ってただでは頼みを聞かない。
・はや … 副詞
〇はや … もう、すでに
・間銭(あいせん) … 名詞
〇間銭 … 手数料
・取り … ラ行四段活用の動詞「取る」の連用形
・て … 接続助詞
・ただ … 名詞
・は … 係助詞
・通さ … サ行四段活用の動詞「通す」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

まして他人のことには、取り上げ婆呼んで来てやる険しき時も、
まして他人のことでは、産婆を呼んで来てやるあわただしい時でも、
・まして … 副詞
・他人 … 名詞
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・取り上げ婆(ばば) … 名詞
〇取り上げ婆 … 産婆
・呼ん … バ行四段活用の動詞「呼ぶ」の連用形、撥音便
・で … 接続助詞
・来(き) … カ行変格活用の動詞「来(く)」の連用形
・て … 接続助詞
・やる … ラ行四段活用動詞「やる」連体形
・険(けわ)しき … シク活用の形容詞「険し」の連体形
〇険し … あわただしい
・時 … 名詞
・も … 係助詞

茶漬け飯を食はずには行かぬものなり。
茶漬け飯を食べないでは行かない人なのである。
・茶漬(ちやづ)け飯(めし) … 名詞
・を … 格助詞
・食は … ハ行四段活用の動詞「食ふ」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・行か … カ行四段活用の動詞「行く」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・もの … 名詞
〇もの … 人
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

いかに欲の世に住めばとて、念仏講仲間の布に利を取るなどは、
いくら欲の世の中に住むからといって、念仏講仲間の布(の購入)で利益を得るなどは、
・いかに … 副詞
いかに … いくら〜だって
・欲 … 名詞
・の … 格助詞
・世 … 名詞
・に … 格助詞
・住め … マ行四段活用の動詞「住む」の已然形
・ば … 接続助詞
・とて … 格助詞
・念仏講(ねんぶつこう)仲間 … 名詞
・の … 格助詞
・布(ぬの) … 名詞
・に … 格助詞
・利 … 名詞
・を … 格助詞
・取る … ラ行四段活用の動詞「取る」の連体形
〇利を取る … 利益を得る
・など … 副助詞
・は … 係助詞

まことに死ねがな目くじろの男なり。
ほんとうに強欲非道の男である。
・まことに … 副詞
・死ね … ナ行変格活用の動詞「死ぬ」の命令形
・がな … 終助詞・願望
〇死ねがな … 死んでほしいなあ
・目 … 名詞
・くじろ … ラ行四段活用の動詞「くじる」の未然形「くじら」の変形したもの
〇目くじろ … 目をくり抜いてやろう
・の … 格助詞
・男 … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

これほどにしてもあのざまなれば、天のとがめの道理ぞかし。
これほどにしてもあの貧乏暮らしなので、天のおとがめは当然のことなのだよ。
・これ … 代名詞
・ほど … 名詞
・に … 格助詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・も … 係助詞
・あ … 代名詞
・の … 格助詞
・ざま … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞
・天 … 名詞
・の … 格助詞
・とがめ … 名詞
〇とがめ … 非難
・の … 格助詞
・道理 … 名詞
〇道理 … そうあるべきこと
・ぞ … 係助詞
・かし … 終助詞
〇ぞかし … 〜なのだよ(念をおしながら断定する)

そもそも奈良に通ふ時より今に、蛸の足は日本国が八本に極まりたるものを、
そもそも奈良に通う時から今まで、蛸の足は日本国では八本と決まっているのに、
・そもそも … 接続詞
・奈良 … 名詞
・に … 格助詞
・通ふ … ハ行四段活用の動詞「通ふ」の連体形
・時 … 名詞
・より … 格助詞
・今 … 名詞
・に … 格助詞
・蛸 … 名詞
・の … 格助詞
・足 … 名詞
・は … 係助詞
・日本国 … 名詞
・が … 格助詞
・八本 … 名詞
・に … 格助詞
・極(きわ)まり … ラ行四段活用の動詞「極まる」の連用形
〇極まる … 決まる
・たる … 存続の助動詞「たり」連体形
・ものを … 接続助詞
〇ものを … 〜のに

一本づつ切りて、足七本にして売れども、
一本ずつ切って、足を七本にして売るけれども、
・一本づつ … 名詞
〇づつ … 接尾語
・切り … ラ行四段活用の動詞「切る」の連用形
・て … 接続助詞
・足 … 名詞
・七本 … 名詞
・に … 格助詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・売れ … ラ行四段活用動詞「売る」已然形
・ども … 接続助詞

誰かこれに気のつかぬことにて売りける。
誰一人これに気がつかないことで(七本にして)売っていた。
・誰 … 代名詞
・か … 副助詞
・これ … 代名詞
・に … 格助詞
・気 … 名詞
・の … 格助詞
・つか … カ行四段活用の動詞「つく」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」連体形
・こと … 名詞
・にて … 格助詞
・売り … ラ行四段活用の動詞「売る」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

その足ばかりを、松原の煮売屋に定まつて買ふ者あり。
その(切った一本の)足だけを、松原の煮売屋で決まって買う人がいる。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・足 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・を … 格助詞
・松原 … 名詞
・の … 格助詞
・煮売屋(にうりや) … 名詞
・に … 格助詞
・定まつ … ラ行四段活用の動詞「定まる」の連用形、促音便
・て … 接続助詞
・買ふ … ハ行四段活用の動詞「買ふ」の連体形
・者 … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形

さりとはおそろしの人心ぞかし。
何とまあ恐ろしい人の心であることよ。
・さりとは … 接続詞
〇さりとは … 何とまあ
・おそろし … シク活用の形容詞「おそろし」の終止形
・の … 格助詞
・人心 … 名詞
・ぞ … 係助詞
・かし … 終助詞

ものには七十五度とて、必ず顕るる時節あり。
ものには七十五度といって、必ず露見する時がある。
・もの … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・七十五度 … 名詞
・とて … 格助詞
・必ず … 副詞
・顕(あらわ)るる … ラ行下二段活用の動詞「顕る」の連体形
〇顕る … 露見する
・時節(じせつ) … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形

過ぎつる年の暮れに、足二本づつ切りて六本にして、忙しまぎれに売りけるに、
去年の暮れに、足を二本ずつ切って六本にして、忙しくて見分けにくい時に売ったが、
・過ぎ … ガ行上二段活用の動詞「過ぐ」の連用形
・つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
・年 … 名詞
〇過ぎつる年 … 去年
・の … 格助詞
・暮れ … 名詞
・に … 格助詞
・足 … 名詞
・二本づつ … 名詞
〇づつ … 接尾語
・切り … ラ行四段活用の動詞「切る」の連用形
・て … 接続助詞
・六本 … 名詞
・に … 格助詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・忙しまぎれ … 名詞
〇忙しまぎれ … 忙しくて見分けにくい時
・に … 格助詞
・売り … ラ行四段活用の動詞「売る」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・に … 接続助詞

これも詮索する人なく、売つて通りけるに、
これも細かく調べる人もなく、うまく売っていたところ、
・これ … 代名詞
・も … 係助詞
・詮索(せんさく)する … サ行変格活用の動詞「詮索す」の連体形
〇詮索する … 細かく調べる
・人 … 名詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・売つ … ラ行四段活用の動詞「売る」の連用形、促音便
・て … 接続助詞
・通り … ラ行四段活用の動詞「通る」の連用形
〇通る … うまくいく
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・に … 接続助詞

手貝の町の中ほどに、表に菱垣したる内より呼び込み、
手貝の町の中ほどで、表に菱垣をしている家から(八助を)呼び込み、
・手貝 … 名詞
・の … 格助詞
・町 … 名詞
・の … 格助詞
・中 … 名詞
・ほど … 名詞
・に … 格助詞
・表 … 名詞
・に … 格助詞
・菱垣(ひしがき) … 名詞
〇菱垣 … 竹をひし形に結った垣根
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・内 … 名詞
 … 
・より … 格助詞
・呼び込み … マ行四段活用の動詞「呼び込む」の連用形

蛸二杯売つて出る時、法体したる親仁じろりと見て、
蛸二杯を売って出る時、髪を剃りおとした老人が鋭い目つきで見て、
・蛸二杯(たこにはい) … 名詞
・売つ … ラ行四段活用の動詞「売る」の連用形、促音便
・て … 接続助詞
・出る … ダ行下一段活用の動詞「出る」の連体形
・時 … 名詞
・法体(ほつたい)し … サ行変格活用の動詞「法体す」の連用形
〇法体す … 髪を剃りおとす
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・親仁(おやじ) … 名詞
〇親仁 … 老人
・じろりと … 副詞
〇じろりと … 鋭い目つきで
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・て … 接続助詞

碁を打ちさして立ち出で、
碁を打っていたのを中途で打ち切って出て来て、
・碁 … 名詞
・を … 格助詞
・打ちさし … サ行四段活用の動詞「打ちさす」の連用形
〇さす … 接尾語(動作を中途で打ち切る意を表す)
・て … 接続助詞
・立ち出で … ダ行下二段活用の動詞「立ち出づ」の連用形
〇立ち … 接頭語(動詞に付いて、その動詞の意味を強める)

「何とやら裾の枯れたる蛸。」と、足の足らぬを吟味しだし、
「なんとなく下の方が寂しい蛸だ。」と、足が足りないのを詳しく調べ始め、
・何とやら … 連語
〇何とやら … なんとなく
・裾(すそ) … 名詞
〇裾 … 下の方
・の … 格助詞
・枯れ … ラ行下二段活用の動詞「枯る」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
〇枯れたる … 寂しい状況である
・蛸 … 名詞
・と … 格助詞
・足 … 名詞
・の … 格助詞
・足ら … ラ行四段活用の動詞「足る」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・を … 格助詞
・吟味(ぎんみ)しだし … サ四段格活用の動詞「吟味しだす」の連用形
〇吟味す … 詳しく調べる
〇だす … 補助動詞、〜始める

「これはどこの海よりあがる蛸ぞ。
「これはどこの海から揚がる蛸か。
・これ … 代名詞
・は … 係助詞
・どこ … 代名詞
・の … 格助詞
・海 … 名詞
・より … 格助詞
・あがる … ラ行四段活用の動詞「あがる」の連体形
・蛸 … 名詞
・ぞ … 係助詞・疑問

足六本づつは、神代この方、何の書にも見えず。
足が六本ずつの蛸は、神代以来、何の書物にも見えない。
・足 … 名詞
・六本づつ … 名詞
〇づつ … 接尾語
・は … 係助詞
・神代(じんだい) … 名詞
・この方 … 名詞
〇この方 … 以来
・何 … 代名詞
・の … 格助詞
・書(しよ) … 名詞
〇書 … 書物
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

不憫や、今まで奈良中の者が、一杯食うたであらう。
気の毒だなあ、今まで奈良中の者が、うまくだまされたことだろう。
・不憫(ふびん) … ナリ活用の形容動詞「不憫なり」の語幹
不憫なり … 気の毒である
・や … 間投助詞
 … ~なあ
・今 … 名詞
・まで … 副助詞
・奈良中 … 名詞
・の … 格助詞
・者 … 名詞
・が … 格助詞
・一杯 … 名詞
・食う … ハ行四段活用の動詞「食ふ」の連用形、ウ音便
・た … 過去の助動詞「た」の終止形
〇一杯食うた … うまくだまされた
・であらう … 連語
〇であらう … 〜だろう

魚屋、顔見知つた。」と言へば、「こなたのやうなる、
魚屋、顔を覚えたぞ。」と言ったので、「あなたのような、
・魚屋 … 名詞
・顔 … 名詞
・見知つ … ラ行四段活用の動詞「見知る」の連用形、促音便
〇見知る … 見てわかる
・た … 過去の助動詞「た」の終止形
・と … 格助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・ば … 接続助詞
・こなた … 代名詞
〇こなた … あなた
・の … 格助詞
・やうなる … 比況の助動詞「やうなり」の連体形

大晦日に碁を打つてゐる所では売らぬ。」と言ひ分してぞ帰りける。
大晦日に碁を打っている所では売らない。」と口げんかして帰った。
・大晦日 … 名詞
・に … 格助詞
・碁 … 名詞
・を … 格助詞
・打つ … タ行四段活用の動詞「打つ」の連用形、促音便
・て … 接続助詞
・ゐる … ワ行上一段活用の動詞「ゐる」の連体形
・所 … 名詞
・で … 格助詞
・は … 係助詞
・売ら … ラ行四段活用の動詞「売る」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」連体形
・と … 格助詞
・言ひ分 … 名詞
〇言ひ分 … 口げんか
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・ぞ … 係助詞
・帰り … ラ行四段活用の動詞「帰る」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

その後、誰が沙汰するともなく世間に知れて、
その後、誰がうわさするともなく世間に知られて、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・後 … 名詞
・誰 … 代名詞
・が … 格助詞
・沙汰(さた)する … サ行変格活用の動詞「沙汰す」の連体形
沙汰す … うわさする
・と … 格助詞
・も … 係助詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・世間 … 名詞
・に … 格助詞
・知れ … ラ行下二段活用の動詞「知る」の連用形
知る … 人に知られる
・て … 接続助詞

さるほどに狭い所は、隅から隅まで、「足切り八助」と言ひふらして、
そうするうちに狭い所は、隅から隅まで、「足切り八助」と言いふらして、
・さるほどに … 接続詞
〇さるほどに … そうするうちに
・狭い … ク活用の形容詞「狭し」の連体形、イ音便
・所 … 名詞
・は … 係助詞
・隅 … 名詞
・から … 格助詞
・隅 … 名詞
・まで … 副助詞
・足切り八助 … 名詞
・と … 格助詞
・言ひふらし … サ行四段活用の動詞「言ひふらす」の連用形
・て … 接続助詞

一生の身過ぎの止まること、これ、おのれが心からなり。
一生の職業が行き詰まることは、これも、自分自身の心がけによるのである。
・一生 … 名詞
・の … 格助詞
・身過(みす)ぎ … 名詞
〇身過ぎ … 生活の手段としての職業
・の … 格助詞
・止まる … ラ行四段活用の動詞「止まる」の連体形
〇止まる … 動かなくなる
・こと … 名詞
・これ … 代名詞
・おのれ … 代名詞
〇おのれ … 自分自身
・が … 格助詞
・心 … 名詞
・から … 格助詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

error: Content is protected !!