虫は、鈴虫。ひぐらし。蝶。松虫。きりぎりす。
虫は、鈴虫。ひぐらし。蝶。松虫。こおろぎ。
・虫 … 名詞
・は … 係助詞
・鈴虫 … 名詞
・ひぐらし … 名詞
・蝶 … 名詞
・松虫 … 名詞
・きりぎりす … 名詞
はたおり。われから。ひを虫。蛍。
きりぎりす。われから。かげろう。蛍。
・はたおり … 名詞
・われから … 名詞
・ひをむし … 名詞
・蛍 … 名詞
みの虫、いとあはれなり。鬼の生みたりければ、
蓑虫は、たいそうしみじみと趣深い。鬼が生んだので、
・みの虫 … 名詞
・いと … 副詞
・あはれなり … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の終止形
○あはれなり … しみじみとした趣がある
・鬼 … 名詞
・の … 格助詞
・生み … マ行四段活用の動詞「生む」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
親に似て、これもおそろしき心あらむとて、
親に似て、これも恐ろしい心を持っているだろうと、
・親 … 名詞
・に … 格助詞
・似 … ナ行上一段活用の動詞「似る」の連用形
・て … 接続助詞
・これ … 代名詞
・も … 係助詞
・おそろしき … シク活用の形容詞「おそろし」の連体形
・心 … 名詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・む … 推量の助動詞「む」の終止形
・とて … 格助詞
親のあやしき衣ひき着せて、
親がみすぼらしい着物を着せて、
・親 … 名詞
・の … 格助詞
・あやしき … シク活用の形容詞「あやし」の連体形
○あやし … 粗末である
・衣(きぬ) … 名詞
・ひき着せ … サ行下二段活用の動詞「ひき着す」の連用形
・て … 接続助詞
「いま秋風吹かむ折ぞ来むとする。侍てよ。」と
「まもなく秋風が吹く時分に来ようと思う。待っていなさいよ。」と
・いま … 副詞
・秋風 … 名詞
・吹か … カ行四段活用の動詞「吹く」の未然形
・む … 婉曲の助動詞「む」の連体形
・折 … 名詞
・ぞ … 係助詞・強調
・来(こ) … カ行変格活用の動詞「来(く)」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・する … サ行変格活用の動詞「す」の連体形(結び)
・侍て … タ行四段活用の動詞「侍つ」の命令形
・よ … 間投助詞
・と … 格助詞
言ひおきて、逃げて去にけるも知らず、
言い残して、逃げて行ったのも知らないで、
・言ひおき … カ行四段活用の動詞「言ひおく」の連用形
・て … 接続助詞
・逃げ … ガ行下二段活用の動詞「逃ぐ」の連用形
・て … 接続助詞
・去(い)に … ナ行変格活用の動詞「去ぬ」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・も … 係助詞
・知ら … ラ行四段活用の動詞「知る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
風の音を聞き知りて、八月ばかりになれば、
風の音を聞いて秋だと知って、八月頃になると、
・風 … 名詞
・の … 格助詞
・音 … 名詞
・を … 格助詞
・聞き知り … ラ行四段活用の動詞「聞き知る」の連用形
○聞き知る … 聞いてわかる
・て … 接続助詞
・八月 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・に … 格助詞
・なれ … ラ行四段活用の動詞「なる」の已然形
・ば … 接続助詞
「ちちよ、ちちよ。」とはかなげに鳴く、
「ちちよ、ちちよ。」と心細そうに鳴く、
・ちち … 名詞
・よ … 間投助詞
・ちち … 名詞
・よ … 間投助詞
・と … 格助詞
・はかなげに … ナリ活用の形容動詞「はかなげなり」の連用形
○はかなし … 心細い
・鳴く … カ行四段活用の動詞「鳴く」の連体形
いみじうあはれなり。ぬかづき虫、またあはれなり。
とてもかわいそうだ。米つき虫も、またしみじみと趣深い。
・いみじう … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形(音便)
・あはれなり … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の終止形
・ぬかづき虫 … 名詞
・また … 副詞
・あはれなり … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の終止形
さる心地に道心おこして、つきありくらむよ。
小さな虫の心に道心をおこして、額をついて動き回るそうだよ。
・さる … 連体詞
○さる … そのような
・心地 … 名詞
・に … 格助詞
・道心 … 名詞
○道心 … 仏道に志す心
・おこし … サ行四段活用の動詞「おこす」の連用形
・て … 接続助詞
・つきありく … カ行四段活用の動詞「つきありく」の終止形
○つく … ひたいをつく
○ありく … 動き回る
・らむ … 伝聞の助動詞「らむ」の終止形
・よ … 間投助詞
思ひかけず、暗き所などに、ほとめきありきたるこそをかしけれ。
思いがけず、暗い所などで、ことことと音を立てて動き回っているのは面白い。
・思ひかけ … カ行下二段活用の動詞「思ひかく」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・暗き … ク活用の形容詞「暗し」の連体形
・所 … 名詞
・など … 副助詞
・に … 格助詞
・ほとめき … カ行四段活用の動詞「ほとめく」の連用形
○ほとめく … ことことと音を立てる
・ありき … カ行四段活用の動詞「ありく」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連用形
・こそ … 係助詞・強調
・をかしけれ … シク活用の形容詞「をかし」の已然形(結び)
蝿こそにくきもののうちに入れつべく、愛敬なきものはあれ。
繩は憎いものの中に当然入れるべきもので、愛らしさのないものである。
・蝿(はえ) … 名詞
・こそ … 係助詞・強調
・にくき … ク活用の形容詞「にくし」の連体形
・もの … 名詞
・の … 格助詞
・うち … 名詞
・に … 格助詞
・入れ … ラ行下二段活用の動詞「入る」の連用形
・つ … 強意の助動詞「つ」の終止形
・べく … 当然の助動詞「べし」の連用形
・愛敬(あいぎよう)なき … ク活用の形容詞「愛敬なし」の連体形
○愛敬 … 愛らしさ
・もの … 名詞
・は … 係助詞
・あれ … ラ行変格活用の動詞「あり」の已然形(結び)
人々しう敵などにすべきものの大きさにはあらねど、秋など、
人間なみに扱って相手にするような大きさのものではないが、秋など、
・人々しう … シク活用の形容詞「人々し」の連用形(音便)
○人々し … 人並みである
・敵(かたき) … 名詞
○敵 … 相手
・など … 副助詞
・に … 格助詞
・す … サ行変格活用の動詞「す」の終止形
・べき … 当然の助動詞「べし」の連体形
・もの … 名詞
・の … 格助詞
・大きさ … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ね … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ど … 接続助詞
・秋 … 名詞
・など … 副助詞
ただよろづのものに居、顔などに濡れ足して居るなどよ。
ひたすらあらゆる物にとまり、人の顔などに濡れ足でとまりなどするよ。
・ただ … 副詞
・よろづ … 名詞
・の … 格助詞
・もの … 名詞
・に … 格助詞
・居(い) … ワ行上一段活用の動詞「居る」の連用形
○居る … とまる
・顔 … 名詞
・など … 副助詞
・に … 格助詞
・濡(ぬ)れ足 … 名詞
・して … 格助詞
・居る … ワ行上一段活用の動詞「居る」の連体形
・など … 副助詞
・よ … 間投助詞
人の名につきたる、いとうとまし。
人の名についている、とてもいやな感じである。
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・名 … 名詞
・に … 格助詞
・つき … カ行四段活用の動詞「つく」の連用形
・たる … そんぞくの助動詞「たり」の連体形
・いと … 副詞
・うとまし … シク活用の形容詞「うとまし」の終止形
○うとまし … いやな感じである
夏虫、いとをかしうらうたげなり。
夏虫は、たいそう面白くかわいらしい。
・夏虫 … 名詞
・いと … 副詞
・をかしう … シク活用の形容詞「をかし」の連用形(音便)
・らうたげなり … ナリ活用の形容動詞「らうたげなり」の終止形
○らうたし … かわいらしい
火近う取り寄せて物語など見るに、
灯火を近くに引き寄せて物語などを読むときに、
・火 … 名詞
・近う … ク活用の形容詞「近し」の連用形(音便)
・取り寄せ … サ行下二段活用の動詞「取り寄す」の連用形
・て … 接続助詞
・物語 … 名詞
・など … 副助詞
・見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・に … 格助詞
草子の上などに飛びありく、いとをかし。
本の上などに飛び回るのは、とても面白い。
・草子 … 名詞
・の … 格助詞
・上 … 名詞
・など … 副助詞
・に … 格助詞
・飛びありく … カ行四段活用の動詞「飛びありく」の連体形
・いと … 副詞
・をかし … シク活用の形容詞「をかし」の終止形
蟻はいとにくけれど、かろびいみじうて、
蟻はたいそう憎らしいが、身の軽さはすばらしくて、
・蟻(あり) … 名詞
・は … 係助詞
・いと … 副詞
・憎けれ … ク活用の形容詞「憎し」の已然形
・ど … 接続助詞
・かろび … 名詞
○かろび … 身軽さ
・いみじう … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形(音便)
○いみじ … すばらしい
・て … 接続助詞
水の上などをただ歩みに歩みありくこそをかしけれ。
水の上などをただどんどん歩き回るのが面白い。
・水 … 名詞
・の … 格助詞
・上 … 名詞
・など … 副助詞
・を … 格助詞
・ただ … 副詞
・歩み … マ行四段活用の動詞「歩む」の連用形
・に … 格助詞
・歩み … マ行四段活用の動詞「歩む」の連用形
・ありく … カ行四段活用の動詞「ありく」の連体形
・こそ … 係助詞・強調
・をかしけれ … シク活用の形容詞「をかし」の已然形(結び)