藤壺の入内 ・源氏物語

藤壺と聞こゆ。げに、御容貌、ありさま、
藤壺と申し上げる。本当に、お顔立ちやお姿が、
・藤壺 … 名詞
・と … 格助詞
・聞こゆ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の終止形
聞こゆ … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から藤壺への敬意
・げに … 副詞
・御容貌(おおんかたち) … 名詞
・ありさま … 名詞

あやしきまでぞおぼえ給へる。
不思議なほど(桐壷の更衣に)似ていらっしゃる。
・あやしき … シク活用の形容詞「あやし」の連体形
あやし … 不思議である
・まで … 副助詞
・ぞ … 係助詞・強意
・おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連用形
おぼゆ … 似る
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から藤壺への敬意
・る … 存続の助動詞「り」の連体形(結び)

これは、人の御際まさりて、思ひなしめでたく、
この方は、ご身分が高くて、そう思うからかすばらしく、
・これ … 代名詞
・は … 係助詞
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・御際(おおんきわ) … 名詞
 … 身分
・まさり … ラ行四段活用の動詞「まさる」の連用形
○まさる … 優れる
・て … 接続助詞
・思ひなし … 名詞
○思ひなし … そう思うからか
・めでたく … ク活用の形容詞「めでたし」の連用形
めでたし … すばらしい

人もえおとしめ聞こえ給はねば、
他の人もさげすみ申し上げることがおできにならないので、
・人 … 名詞
 … 他の人
・も … 係助詞
・え … 副詞
え〜(打消) … 〜できない
・おとしめ … マ行下二段活用の動詞「おとしむ」の連用形
おとしむ … さげすむ
・聞こえ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の連用形
聞こゆ … 謙譲の補助動詞 ⇒ 筆者から藤壺への敬意
・給は … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の未然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から人(女御・更衣)への敬意
・ね … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ば … 接続助詞

受けばりて飽かぬことなし。
遠慮なく振る舞って何の不足もない。
・受けばり … ラ行四段活用の動詞「受けばる」の連用形
○受けばる … 遠慮なく振る舞う
・て … 接続助詞
・飽か … カ行四段活用の動詞「飽く」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
飽かず … 物足りない
・こと … 名詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形

かれは、人の許し聞こえざりしに、
あの方は、他の人がお認め申し上げなかったのに、
・かれ … 代名詞
・は … 係助詞
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・許し … サ行四段活用の動詞「許す」の連用形
○許す … 認める
・聞こえ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の未然形
聞こゆ … 謙譲の補助動詞 ⇒ 筆者から桐壷の更衣への敬意
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・に … 接続助詞

御心ざしあやにくなりしぞかし。
(帝の)ご愛情がかえってあまりに深かったのですよ。
・御心(みこころ)ざし … 名詞
○心ざし … 愛情
・あやにくなり … ナリ活用の形容動詞「あやにくなり」の連用形
あやにくなり … かえってあまりに激しい
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・ぞ … 係助詞
・かし … 終助詞

思しまぎるとはなけれど、
(帝の桐壷の更衣への)お思いがまぎれるというのではないが、
・思しまぎる … ラ行下二段活用の動詞「思しまぎる」の終止形
○まぎる … 入り混じってわからなくなる
・と … 格助詞
・は … 係助詞
・なけれ … ク活用の形容詞「なし」の已然形
・ど … 接続助詞

おのづから御心移ろひて、
自然にお心が(藤壺に)移っていき、
・おのづから … 副詞
おのづから … 自然に
・御心 … 名詞
・移ろひ … ハ行四段活用の動詞「移るふ」の連用形
移ろふ … 移っていく
・て … 接続助詞

こよなう思し慰むやうなるも、
この上なくお気持ちが慰められるようであるのも、
・こよなう … 活用の形容詞「こよなし」の連用形
こよなし … 格別である
・思(おぼ)し慰む … マ行四段活用の動詞「思し慰む」の連体形
思し慰む … 「思い慰む」の尊敬語 ⇒ 筆者から帝への敬意
・やうなる … 比況の助動詞「やうなり」の連体形
・も … 係助詞

あはれなるわざなりけり。
しみじみと感じさせる事の次第であったよ。
・あはれなる … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連体形
あはれなり … しみじみと感じさせる
・わざ … 名詞
○わざ … 事の次第
・なり … 断定の助動詞「なり」の連用形
・けり … 詠嘆の助動詞「けり」の終止形

源氏の君は、御あたり去り給はぬを、
源氏の君は、(帝の)おそばを離れなさらないので、
・源氏の君 … 名詞
・は … 係助詞
・御あたり … 名詞
○あたり … 付近
・去り … ラ行四段活用の動詞「去る」の連用形
去る … 離れて行く
・給は … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の未然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から源氏の君への敬意
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・を … 接続助詞

ましてしげく渡らせ給ふ御方は、
まして(帝が)絶え間なくお通いになるお方は、
・まして … 副詞
・しげく … ク活用の形容詞「しげし」の連用形
○しげし … 絶え間がない
・渡ら … ラ行四段活用の動詞「渡る」の連用形
渡る … 行く
・せ … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 筆者から帝への敬意
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連体形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から帝への敬意
・御方 … 名詞
・は … 係助詞

え恥ぢあへ給はず。
(源氏の君に対し)恥ずかしがってばかりはいらっしゃれない。
・え … 副詞
え〜(打消) … 〜できない
・恥ぢあへ … ハ行下二段活用の動詞「恥ぢあふ」の連用形
○恥づ … 恥ずかしく思う
○あへず … 〜しきれない
・給は … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の未然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から(帝が頻繁に通う)方への敬意
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

いづれの御方も、我、人に劣らむと思いたるやはある、
どのお方も、自分が、人に劣っているだろうと思っている方があるだろうか、
・いづれ … 代名詞
・の … 格助詞
・御方 … 名詞
・も … 係助詞
・我 … 代名詞
・人 … 名詞
・に … 格助詞
・劣ら … ラ行四段活用の動詞「劣る」の未然形
・む … 推量の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・思い … サ行四段活用の動詞「思す」の連用形(音便)
思す … 「思ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から(帝が頻繁に通う)方への敬意
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・やは … 係助詞・反語
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形(結び)

とりどりにいとめでたけれど、うち大人び給へるに、
それぞれにとても美しいが、少し年配でいらっしゃるのに、
・とりどりに … 活用の形容動詞「とりどりなり」の連用形
○とりどりなり … それぞれに違っているさま
・いと … 副詞
・めでたけれ … ク活用の形容詞「めでたし」の已然形
・ど … 接続助詞
・うち大人び … バ行上二段活用の動詞「うち大人ぶ」の連用形
○大人ぶ … 年配である
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から(帝が頻繁に通う)方への敬意
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・に … 接続助詞

いと若ううつくしげにて、切に隠れ給へど、
(藤壺は)とても若くかわいらしくて、ひたすらお隠れになるが、
・いと … 副詞
・若う … ク活用の形容詞「若し」の連用形(音便)
・うつくしげに … ナリ活用の形容動詞「うつくしげなり」の連用形
○うつくしげなり … かわいらしい
・て … 接続助詞
・切(せち)に … ナリ活用の形容動詞「切なり」の連用形
○切なり … いちずである、ひたすら
・隠れ … ラ行下二段活用の動詞「隠る」の連用形
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から藤壺への敬意
・ど … 接続助詞

おのづから漏り見奉る。
(源氏の君は)自然と物の隙間からお見かけ申し上げる。
・おのづから … 副詞
・漏り … ラ行四段活用の動詞「漏る」の連用形
○漏る … 隙間からこぼれ出る
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・奉る … ラ行四段活用の動詞「奉る」の終止形
奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 筆者から藤壺への敬意

母御息所も影だにおぼえ給はぬを、
母の御息所のことも面影さえ覚えていらっしゃらないが、
・母 … 名詞
・御息所(みやすんどころ) … 名詞
・も … 係助詞
・影 … 名詞
○影 … 面影
・だに … 副助詞
だに … 〜さえ
・おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連用形
おぼゆ … 記憶する
・給は … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の未然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から源氏の君への敬意
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・を … 接続助詞

「いとよう似給へり。」と典侍の聞こえけるを、
「(藤壺は)とてもよく似ていらっしゃる。」と、典侍が申し上げたので、
・いと … 副詞
・よう … ク活用の形容詞「よし」の連用形(音便)
・似 … ナ行上一段活用の動詞「似る」の連用形
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 典侍から藤壺への敬意
・り … 存続の助動詞「り」の終止形
・と … 格助詞
・典侍(ないしのすけ) … 名詞
・の … 格助詞
・聞こえ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の連用形
聞こゆ … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から藤壺への敬意
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・を … 接続助詞

若き御心地にいとあはれと思ひ聞こえ給ひて、
幼いお心にとてもいとしいとお思い申し上げなさって、
・若き … ク活用の形容詞「若し」の連体形
○若し … 幼い
・御心地(おおんここち) … 名詞
○心地 … 心
・に … 格助詞
・いと … 副詞
・あはれ … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の語幹
あはれなり … いとしい
・と … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・聞こえ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の連用形
聞こゆ … 謙譲の補助動詞 ⇒ 筆者から藤壺への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から源氏の君への敬意
・て … 接続助詞

常に参らまほしく、なづさひ見奉らばやとおぼえ給ふ。
いつもお側に参りたく、なれ親しんで拝見したいとお思いになられる。
・常に … ナリ活用の形容動詞「常なり」の連用形
・参ら … ラ行四段活用の動詞「参る」の未然形
参る … 貴人のもとに参上する(謙譲語) ⇒ 筆者から藤壺への敬意
○参る … 貴人のもとに参上する
・まほしく … 希望の助動詞「まほし」の連用形
・なづさひ … ハ行四段活用の動詞「なづさふ」の連用形
○なづさふ … なれ親しむ
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・奉ら … ラ行四段活用の動詞「奉る」の未然形
奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 筆者から藤壺への敬意
・ばや … 終助詞
・と … 格助詞
・おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連用形
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の終止形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から源氏の君への敬意

上も、限りなき御思ひどちにて、「な疎み給ひそ。
帝も、この上ないご寵愛の方々なので、「よそよそしくなさいますな。
・上(うえ) … 名詞
・も … 係助詞
・限りなき … ク活用の形容詞「限りなし」の連体形
○限りなし … この上ない
・御思ひどち … 名詞
○御思ひ … ご寵愛
○どち … 接尾語、〜仲間
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
・な … 副詞
○な〜そ … 〜するな
・疎(うと)み … マ行四段活用の動詞「疎む」の連用形
○疎む … 嫌だと思って遠ざける
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 帝から藤壺への敬意
・そ … 終助詞

あやしくよそへ聞こえつべき心地なむする。
不思議にも(源氏の君の母に)お見立て申してもよいような気持ちがする。
・あやしく … シク活用の形容詞「あやし」の連用形
あやし … 不思議である
・よそへ … ハ行下二段活用の動詞「よそふ」の連用形
○よそふ … 見立てる
・聞こえ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の連用形
聞こゆ … 謙譲の補助動詞 ⇒ 帝から藤壺への敬意
・つ … 強意の助動詞「つ」の終止形
・べき … 適当の助動詞「べし」の連体形
・心地 … 名詞
○心地 … 気持ち
・なむ … 係助詞・強意
・する … サ行変格活用の動詞「す」の連体形(結び)

なめしと思さで、らうたくし給へ。
無礼だとお思いにならないで、かわいがってください。
・なめし … ク活用の形容詞「なめし」の終止形
○なめし … 無礼である
・と … 格助詞
・思さ … サ行四段活用の動詞「思す」の未然形
思す … 「思ふ」の尊敬語 ⇒ 帝から藤壺への敬意
・で … 接続助詞
・らうたく … ク活用の形容詞「らうたし」の連用形
らうたし … いとしい
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の命令形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 帝から藤壺への敬意

面つき、まみなどはいとよう似たりしゆゑ、
(桐壷の更衣は)顔つき、目もとなどはとてもよく(あなたに)似ていたので、
・面(つら)つき … 名詞
○面つき … 顔つき
・まみ … 名詞
○まみ … 目もと
・など … 副助詞
・は … 係助詞
・いと … 副詞
・よう … ク活用の形容詞「よし」の連用形(音便)
・似 … ナ行上一段活用の動詞「似る」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・ゆゑ … 名詞

通ひて見え給ふも似げなからずなむ。」など
(母に)似かよってお見えになるのも不似合いなことではないのです。」などと
・通ひ … ハ行四段活用の動詞「通ふ」の連用形
○通ふ … 似かよう
・て … 接続助詞
・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の連用形
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連体形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 帝から藤壺への敬意
・も … 係助詞
・似げなから … ク活用の形容詞「似げなし」の未然形
○似げなし … ふさわしくない
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・なむ … 係助詞
・など … 副助詞

聞こえつけ給ヘれば、幼心地にも、
お頼み申し上げなさったので、(源氏の君は)幼心にも、
・聞こえつけ … カ行下二段活用の動詞「聞こえつく」の連用形
聞こえつく … 「言ひつく」の謙譲語 ⇒ 筆者から藤壺への敬意
・給ヘ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から帝への敬意
・れ … 完了の助動詞「り」の已然形
・ば … 接続助詞
・幼(おさな)心地 … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞

はかなき花紅葉につけても心ざしを見え奉る。
ちょっとした花や紅葉につけても慕う気持ちを(藤壺に)お見せ申し上げる。
・はかなき … ク活用の形容詞「はかなし」の連体形
はかなし … ほんのちょっとである
・花 … 名詞
・紅葉 … 名詞
・に … 格助詞
・つけ … カ行下二段活用の動詞「つく」の連用形
・て … 接続助詞
・も … 係助詞
・心ざし … 名詞
○心ざし … 相手に寄せる心の働き
・を … 格助詞
・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の連用形
○見ゆ … 見せる
・奉る … ラ行四段活用の動詞「奉る」の終止形
奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 筆者から藤壺への敬意

こよなう心寄せ聞こえ給へれば、弘徽殿の女御、
この上なく心を寄せ申し上げなさっているので、弘徽殿の女御は、
・こよなう … 活用の形容詞「こよなし」の連用形(音便)
・心 … 名詞
・寄せ … サ行下二段活用の動詞「寄す」の連用形
・聞こえ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の連用形
聞こゆ … 謙譲の補助動詞 ⇒ 筆者から藤壺への敬意
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から源氏の君への敬意
・れ … 完了の助動詞「り」の已然形
・ば … 接続助詞
・弘徽殿(こきでん)の女御 … 名詞

また、この宮とも御仲そばそばしきゆゑ、
また、この(藤壺の)宮ともお仲がとげとげしいので、
・また … 副詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・宮 … 名詞
・と … 格助詞
・も … 係助詞
・御仲 … 名詞
・そばそばしき … シク活用の形容詞「そばそばし」の連体形
○そばそばし … とげとげしい
・ゆゑ … 名詞

うち添へて、もとよりの憎さも立ち出でて、
それに加えて、以前からの(桐壷の更衣への)憎しみも出てきて、
・うち添へ … ハ行下二段活用の動詞「うち添ふ」の連用形
○うち添ふ … ある物事に他の物事を付け加える
・て … 接続助詞
・もとより … 副詞
○もとより … 以前から
・の … 格助詞
・憎さ … 名詞
・も … 係助詞
・立ち出で … ダ行下二段活用の動詞「立ち出づ」の連用形
○立ち出づ … 現れ出る
・て … 接続助詞

ものしと思したり。
(源氏の君と藤壺の仲を)不快だとお思いになっている。
・ものし … シク活用の形容詞「ものし」の終止形
○ものし … 不快である
・と … 格助詞
・思し … サ行四段活用の動詞「思す」の連用形
思す … 「思ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から弘徽殿の女御への敬意
・たり … 存続の助動詞「たり」の終止形

世にたぐひなしと見奉り給ひ、
(女御が)この世に並ぶものがないと見申し上げなさり、
・世 … 名詞
・に … 格助詞
・たぐひなし … ク活用の形容詞「たぐひなし」の終止形
○たぐひなし … 並ぶものがない
・と … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・奉り … ラ行四段活用の動詞「奉る」の連用形
奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 筆者から第一皇子への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から弘徽殿の女御への敬意

名高うおはする宮の御容貌にも、なほ
評判が高くいらっしゃる第一皇子のお顔立ちに比べても、やはり
・名高う … ク活用の形容詞「名高し」の連用形(音便)
○名 … 評判
・おはする … サ行変格活用の動詞「おはす」の連体形
おはす … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から第一皇子への敬意
・宮 … 名詞
・の … 格助詞
・御容貌 … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
○にも … に比べても
・なほ … 副詞

匂はしさはたとへむ方なく、うつくしげなるを、
(源氏の君の)つややかな美しさはたとえようもなく、かわいらしいので、
・匂(にお)はしさ … 名詞
○匂はし … つややかに美しい
・は … 係助詞
・たとへ … ハ行下二段活用の動詞「たとふ」の未然形
・む … 婉曲の助動詞「む」の連体形
・方 … 名詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・うつくしげなる … ナリ活用の形容詞「うつくしげなり」の連体形
○うつくしげなり … かわいらしいさま
・を … 接続助詞

世の人、光る君と聞こゆ。藤壺、並び給ひて、
世の人は、光る君と申し上げる。藤壺も、(源氏の君と)お並びになって、
・世 … 名詞
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・光る君 … 名詞
・と … 格助詞
・聞こゆ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の終止形
聞こゆ … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から源氏の君への敬意
・藤壺 … 名詞
・並び … バ行四段活用の動詞「並ぶ」の連用形
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から藤壺への敬意
・て … 接続助詞

御おぼえもとりどりなれば、かかやく日の宮と聞こゆ。
帝のご寵愛もそれぞれに深いので、輝く日の宮と申し上げる。
・御おぼえ … 名詞
・も … 係助詞
・とりどりなれ … ナリ活用の形容動詞「とりどりなり」の已然形
○とりどりなり … さまざまに違っているさま
・ば … 接続助詞
・かかやく日の宮 … 名詞
・と … 格助詞
・聞こゆ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の終止形
聞こゆ … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から藤壺への敬意

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