藤壺の入内「年月にそへて、御息所の御事を」・源氏物語 現代語訳・品詞分解

年月にそへて、御息所の御事をおぼし忘るるをりなし。
年月がたつにつれて、(帝は)御息所のことをお忘れになるときがない。
・年月 … 名詞
・に … 格助詞
・そへ … ハ行下二段活用の動詞「そふ」の連用形
・て … 接続助詞
・御息所(みやすどころ) … 名詞
・の … 格助詞
・御事 … 名詞
・を … 格助詞
・おぼし忘るる … ラ行下二段活用の動詞「おぼし忘る」の連体形
おぼし忘る … 「思ひ忘る」の尊敬語 ⇒ 作者から帝への敬意
・をり … 名詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形

慰むやと、さるべき人々参らせたまへど、
心がなごみもしようかと、ふさわしい人々を宮中に参上させなさったが、
・慰む … マ行四段活用の動詞「慰む」の終止形
○慰む … 心がなごむ
・や … 係助詞
・と … 格助詞
・さる … ラ行変格活用の動詞「さり」の連体形
・べき … 当然の助動詞「べし」の連体形
さるべき … 適当な
・人々 … 名詞
・参ら … ラ行四段活用の動詞「参る」の未然形
参る … 参上する(謙譲語) ⇒ 作者から帝への敬意
・せ … 使役の助動詞「す」の連用形
・たまへ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の已然形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から帝への敬意
・ど … 接続助詞

なずらひにおぼさるるだにいとかたき世かなと、
(桐壷の更衣と)同類と自然にお思いになられる人さえ非常にまれな世の中だなあと、
・なずらひ … 名詞
○なずらひ … 同類
・に … 格助詞
・おぼさ … サ行四段活用の動詞「おぼす」の未然形
おぼす … 「思ふ」の尊敬語 ⇒ 作者から帝への敬意
・るる … 自発の助動詞「る」の連体形
・だに … 副助詞
・いと … 副詞
・かたき … ク活用の形容詞「かたし」の連体形
かたし … まれである
・世 … 名詞
・かな … 終助詞
・と … 格助詞

うとましうのみよろづにおぼしなりぬるに、
いやな感じにのみ、何事につけても、お思になられていたところ、
・うとましう … シク活用の形容詞「うとまし」の連用形、ウ音便
うとまし … いやな感じである
・のみ … 副助詞
・よろづに … 副詞
○よろづに … 何事につけても
・おぼしなり … ラ行四段活用の動詞「おぼしなる」の連用形
おぼしなる … 「思ひなる」の尊敬語 ⇒ 作者から帝への敬意
・ぬる … 完了の助動詞「ぬ」の連体形
・に … 接続助詞

先帝の四の宮の、御容貌すぐれたまへる聞こえ高くおはします、
先帝の四の宮で、ご器量がすぐれていらっしゃると評判が高くていらっしゃる、
・先帝(せんだい) … 名詞
・の … 格助詞
・四(し)の宮 … 名詞
・の … 格助詞
・御容貌(おんかたち) … 名詞
○容貌 … 器量
・すぐれ … ラ行下二段活用の動詞「すぐる」の連用形
・たまへ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の已然形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から四の宮への敬意
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・聞こえ … 名詞
○聞こえ … 評判
・高く … ク活用の形容詞「高し」の連用形
・おはします … サ行四段活用の動詞「おはします」の終止形
おはします … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から四の宮への敬意

母后世になくかしづききこえたまふを、
母后がこの上なく大切に守りお育て申し上げなさっている(お方)を、
・母后(ほほきさき) … 名詞
・世 … 名詞
・に … 格助詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
○世になし … この上ない
・かしづき … カ行四段活用の動詞「かしづく」の連用形
かしづく … 大切に守り育てる
・きこえ … ヤ行下二段活用の動詞「きこゆ」の連用形
きこゆ … 謙譲の補助動詞 ⇒ 作者から四の宮への敬意
・たまふ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の連体形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から母后への敬意
・を … 格助詞

上にさぶらふ典侍は、先帝の御時の人にて、
帝のお側にお仕えする典侍は、先帝の御時からの人で、
・上 … 名詞
 … 天皇
・に … 格助詞
・さぶらふ … ハ行四段活用の動詞「さぶらふ」の連体形
さぶらふ … お側にお仕えする(謙譲語) ⇒ 作者から帝への敬意
・典侍(ないしのすけ) … 名詞
・は … 係助詞
・先帝 … 名詞
・の … 格助詞
・御時 … 名詞
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞

かの宮にも親しう参り馴れたりければ、
母后の住居にも親しく参上し馴れていたので、
・か … 代名詞
・の … 格助詞
・宮 … 名詞
○宮 … 皇族の住居
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・親しう … ク活用の形容詞「親し」の連用形、ウ音便
・参り馴(な)れ … ラ行下二段活用の動詞「参り馴る」の連用形
参り馴る … 参上し馴れる(謙譲語) ⇒ 作者から母后への敬意
・たり … 存続の助動詞「たり」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

いはけなくおはしましし時より見たてまつり、今もほの見たてまつりて、
四の宮が幼くていらっしゃった時から見申し上げ、今もちらっと見申し上げて、
・いはけなく … ク活用の形容詞「いはけなし」の連用形
○いはけなし … 幼い
・おはしまし … サ行四段活用の動詞「おはします」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・時 … 名詞
・より … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・たてまつり … ラ行四段活用の動詞「たてまつる」の連用形
たてまつる … 謙譲の補助動詞 ⇒ 作者から四の宮への敬意
・今 … 名詞
・も … 係助詞
・ほの見 … マ行上一段活用の動詞「ほの見る」の連用形
○ほの(接頭語) … 「わずかに」の意を添える
・たてまつり … ラ行四段活用の動詞「たてまつる」の連用形
たてまつる … 謙譲の補助動詞 ⇒ 作者から四の宮への敬意
・て … 接続助詞

「うせたまひにし御息所の御容貌に似たまへる人を、
「お亡くなりになった御息所のお顔立ちに似ていらっしゃる人を、
・うせ … サ行下二段活用の動詞「うす」の連用形
・たまひ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の連用形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から桐壷の更衣への敬意
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・御息所 … 名詞
・の … 格助詞
・御容貌 … 名詞
○容貌 … 顔立ち
・に … 格助詞
・似 … ナ行上一段活用の動詞「似る」の連用形
・たまへ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の已然形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 敬意の対象なし
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・人 … 名詞
・を … 格助詞

三代の宮仕へに伝はりぬるに、え見たてまつりつけぬを、
三代の帝にずっとお仕えしてきたのに、見かけ申し上げることができなかったのですが、
・三代 … 名詞
・の … 格助詞
・宮仕へ … 名詞
・に … 格助詞
・伝はり … ラ行四段活用の動詞「伝はる」の連用形
○伝はる … ずっと〜ている
・ぬる … 完了の助動詞「ぬ」の連体形
・に … 接続助詞
・え … 副詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・たてまつり … ラ行四段活用の動詞「たてまつる」の連用形
たてまつる … 謙譲の補助動詞 ⇒ 敬意の対象なし
・つけ … カ行下二段活用の動詞「つく」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・を … 接続助詞

后の宮の姫宮こそ、いとようおぼえて生ひ出でさせたまへりけれ。
后の宮の姫宮こそ、(亡き御息所に)とてもよく似て成長なさっていらっしゃいました。
・后の宮 … 名詞
・の … 格助詞
・姫宮 … 名詞
・こそ … 係助詞・強意
・いと … 副詞
・よう … ク活用の形容詞「よし」の連用形、ウ音便
・おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連用形
おぼゆ … 似る
・て … 接続助詞
・生(お)ひ出(い)で … ダ行下二段活用の動詞「生ひ出づ」の未然形
○生ひ出づ … 成長する
・させ … 尊敬の助動詞「さす」の連用形 ⇒ 作者から姫宮への敬意
・たまへ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の已然形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から姫宮への敬意
・り … 存続の助動詞「り」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形(結び)

ありがたき御容貌人になむ。」と奏しけるに、
めったにないほど美しいお顔立ちの方です。」と奏上したところ、
・ありがたき … ク活用の形容詞「ありがたし」の連体形
ありがたし … めったにないほど優れている
・御容貌人 … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・なむ … 係助詞
・と … 格助詞
・奏し … サ行四段活用の動詞「奏す」の連用形
奏す … 奏上する(尊敬語) ⇒ 作者から帝への敬意
・ける … 過去の助動詞「ける」の連体形
・に … 接続助詞

まことにやと御心とまりて、ねんごろに聞こえさせたまひけり。
ほんとうだろうかとお心がひかれて、心をこめて(入内を)申し入れなされた。
・まこと … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・や … 係助詞
・と … 格助詞
・御心 … 名詞
・とまり … ラ行四段活用の動詞「とまる」の連用形
・て … 接続助詞
・ねんごろに … ナリ活用の形容動詞「ねんごろなり」の連用形
・聞こえ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の未然形
聞こゆ … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 作者から母后への敬意
・させ … 尊敬の助動詞「さす」の連用形 ⇒ 作者から帝への敬意
・たまひ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の連用形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から帝への敬意
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

母后、「あな恐ろしや、春宮の女御のいとさがなくて、
母后は、「まあ恐ろしいこと、春宮の(御母である)女御がとても意地悪で、
・母后 … 名詞
・あな … 感動詞
・恐ろし … シク活用の形容詞「恐ろし」の終止形
・や … 間投助詞
・春宮(とうぐう) … 名詞
・の … 格助詞
・女御 … 名詞
・の … 格助詞
・いと … 副詞
・さがなく … ク活用の形容詞「さがなし」の連用形
さがなし … 意地が悪い
・て … 接続助詞
「あな恐ろしや」と考えているのはなぜか。 ⇒ 姫宮を入内させると、姫宮も意地悪な春宮の女御の犠牲になるのではないかと思ったから。

桐壺の更衣の、あらはにはかなくもてなされにし例もゆゆしう。」と、おぼしつつみて、
桐壷の更衣が、露骨にいいかげんに扱われた例も不吉なこと。」と、ご用心なさって、
・桐壺 … 名詞
・の … 格助詞
・更衣 … 名詞
・の … 格助詞
・あらはに … ナリ活用の形容動詞「あらはなり」の連用形
あらはなり … 露骨である
・はかなく … ク活用の形容詞「はかなし」の連用形
はかなし … 心がこもらないさま
・もてなさ … サ行四段活用の動詞「もてなす」の未然形
もてなす … 待遇する
・れ … 受身の助動詞「る」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・例(ためし) … 名詞
・も … 係助詞
・ゆゆしう … シク活用の形容詞「ゆゆし」の連用形、ウ音便
ゆゆし … 不吉である
・と … 格助詞
・おぼしつつみ … マ行四段活用の動詞「おぼしつつむ」の連用形
おぼしつつむ … 「思ひつつむ」の尊敬語 ⇒ 作者から母后への敬意
○思ひつつむ … 用心する
・て … 接続助詞

すがすがしうもおぼし立たざりけるほどに、后もうせたまひぬ。
きっぱりとも決心なされないうちに、后もお亡くなりになってしまった。
・すがすがしう … 活用の形容詞「すがすがし」の連用形、ウ音便
○すがすがし … 思い切りがよいさま
・も … 係助詞
・おぼし立た … タ行四段活用の動詞「おぼし立つ」の未然形
おぼし立つ … 「思ひ立つ」の尊敬語 ⇒ 作者から母后への敬意
○思ひ立つ … 決心する
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・ほど … 名詞
・に … 格助詞
・后 … 名詞
・も … 係助詞
・うせ … サ行下二段活用の動詞「うす」の連用形
・たまひ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の連用形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から母后への敬意
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

心細きさまにておはしますに、「ただわが女御子たちの
(姫宮が)心細い様子でいらっしゃるので、(帝は)「ただ私の皇女たちと
・心細き … ク活用の形容詞「心細し」の連体形
・さま … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
・おはします … サ行四段活用の動詞「おはします」の連体形
おはします … 「をり」の尊敬語 ⇒ 作者から姫宮への敬意
・に … 接続助詞
・ただ … 副詞
・わ … 代名詞
・が … 格助詞
・女御子(おんなみこ)たち … 名詞
・の … 格助詞

同じつらに思ひきこえむ。」と、いとねんごろに聞こえさせたまふ。
同列に思い申し上げよう。」と、たいそう心をこめて申し入れになる。
・同じ … シク活用の形容詞「同じ」の連体形
・つら … 名詞
○つら … 列
・に … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・きこえ … ヤ行下二段活用の動詞「きこゆ」の未然形
きこゆ … 謙譲の補助動詞 ⇒ 帝から姫宮への敬意
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・いと … 副詞
・ねんごろに … ナリ活用の形容動詞「ねんごろなり」の連用形
ねんごろなり … 真心をこめるさま
・聞こえ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の連用形
聞こゆ … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 作者から姫宮への敬意
・させ … 尊敬の助動詞「さす」の連用形 ⇒ 作者から帝への敬意
・たまふ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の連用形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から帝への敬意

さぶらふ人々、御後見たち、御兄の兵部卿の親王など、
(姫宮の)お側にお仕えする女房たち、ご後見の方々、御兄の兵部卿の親王などは、
・さぶらふ … ハ行四段活用の動詞「さぶらふ」の連体形
さぶらふ … お側にお仕えする(謙譲語) ⇒ 作者から姫宮への敬意
・人々 … 名詞
・御後見(おんうしろみ)たち … 名詞
・御兄(おんせうと) … 名詞
・の … 格助詞
・兵部卿(ひようぶきよう) … 名詞
・の … 格助詞
・親王(みこ) … 名詞
・など … 副助詞

かく心細くておはしまさむよりは、内裏住みせさせたまひて、
このように心細い状態でいらっしゃるよりは、宮中にお住みになって、
・かく … 副詞
かく … このように
・心細く … ク活用の形容詞「心細し」の連用形
・て … 接続助詞
・おはしまさ … サ行四段活用の動詞「おはします」の未然形
おはします … 「をり」の尊敬語 ⇒ 作者から姫宮への敬意
・む … 婉曲の助動詞「む」の連体形
・より … 格助詞
・は … 係助詞
・内裏住(うちず)みせ … サ行変格活用の動詞「内裏住みす」の未然形
・させ … 尊敬の助動詞「さす」の連用形 ⇒ 作者から姫宮への敬意
・たまひ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の連用形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から姫宮への敬意
・て … 接続助詞

御心も慰むべくなどおぼしなりて、参らせたてまつりたまへり。
お心も晴らすほうがよいなどとお思いになって、入内させ申し上げなさった。
・御心 … 名詞
・も … 係助詞
・慰む … マ行下二段活用の動詞「慰む」の終止形
○慰む … 心を晴らす
・べく … 適当の助動詞「べし」の連用形
・など … 副助詞
・おぼしなり … ラ行四段活用の動詞「おぼしなる」の連用形
おぼしなる … 「思ひなる」の尊敬語 ⇒ 作者から「さぶらふ人々、御後見たち、御兄の兵部卿の親王など」への敬意
・て … 接続助詞
・参ら … 行四段活用の動詞「参る」の未然形
参る … 入内する(謙譲語) ⇒ 作者から帝への敬意
・せ … 使役の助動詞「す」の連体形
・たてまつり … ラ行四段活用の動詞「たてまつる」の連用形
たてまつる … 謙譲の補助動詞 ⇒ 作者から姫宮への敬意
・たまへ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の已然形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から「さぶらふ人々、御後見たち、御兄の兵部卿の親王など」への敬意
・り … 完了の助動詞「り」の終止形

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