菅原道真の左遷(道真と時平)・大鏡

醍醐の帝の御時、この大臣、左大臣の位にて年いと若くておはします。
醍醐天皇の御代に、この大臣は、左大臣の位で年がとても若くていらっしゃる。
・醍醐(だいご)の帝 … 名詞
・の … 格助詞
・御時 … 名詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・大臣(おとど) … 名詞
○この大臣 ⇒ 藤原時平(ときひら)
・左大臣 … 名詞
・の … 格助詞
・位 … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
・年 … 名詞
・いと … 副詞
・若く … ク活用の形容詞「若し」の連用形
・て … 接続助詞
・おはします … サ行四段活用の動詞「おはします」の終止形
おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から左大臣への敬意

菅原の大臣、右大臣の位にておはします。
菅原の大臣は、右大臣の位でいらっしゃる。
・菅原(すがわら) … 名詞
・の … 格助詞
・大臣 … 名詞
○菅原の大臣 ⇒ 菅原道真(みちざね)
・右大臣 … 名詞
・の … 格助詞
・位 … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
・おはします … サ行四段活用の動詞「おはします」の終止形
おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から右大臣への敬意

その折、帝御年いと若くおはします。
その時、帝はお年がたいそう若くていらっしゃる。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・折 … 名詞
・帝 … 名詞
・御年 … 名詞
・いと … 副詞
・若く … ク活用の形容詞「若し」の連用形
・おはします … サ行四段活用の動詞「おはします」の終止形
おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から帝への敬意

左右の大臣に世の政を行ふべきよし、宣旨下さしめ給へりしに、
左右の大臣に世の中の政治を行うようにという旨、宣旨をお下しになったが、
・左右(さう) … 名詞
・の … 格助詞
・大臣 … 名詞
・に … 格助詞
・世 … 名詞
・の … 格助詞
・政(まつりごと) … 名詞
・を … 格助詞
・行ふ … ハ行四段活用の動詞「行ふ」の終止形
・べき … 命令の助動詞「べし」の連体形
・よし … 名詞
よし … 趣旨
・宣旨(せんじ) … 名詞
・下さ … サ行四段活用の動詞「下す」の未然形
・しめ … 尊敬の助動詞「しむ」の連用形 ⇒ 筆者から帝への敬意
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から帝への敬意
・り … 完了の助動詞「り」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・に … 接続助詞

その折、左大臣、御年二十八、九ばかりなり。
その時、左大臣は、お年が二十八、九ぐらいである。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・折 … 名詞
・左大臣 … 名詞
・御年 … 名詞
・二十八、九 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

右大臣の御年五十七、八にやおはしましけむ。
右大臣のお年は五十七、八でいらっしゃっただろうか。
・右大臣 … 名詞
・の … 格助詞
・御年 … 名詞
・五十七、八 … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・や … 係助詞・疑問
・おはしまし … サ行四段活用の動詞「おはします」の連用形
おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から右大臣への敬意
・けむ … 過去推量の助動詞「けむ」の連体形(結び)

ともに世の政をせしめ給ひし間、
いっしょに世の中の政治をお執りになっていたが、
・とも … 名詞
・に … 格助詞
・世 … 名詞
・の … 格助詞
・政 … 名詞
・を … 格助詞
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・しめ … 尊敬の助動詞「しむ」の連用形 ⇒ 筆者から左大臣・右大臣への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から左大臣・右大臣への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・間 … 名詞

右大臣は才世にすぐれ、めでたくおはしまし、
右大臣は学才が比類なく優れ、立派でいらっしゃり、
・右大臣 … 名詞
・は … 係助詞
・才(ざえ) … 名詞
○才 … 学問、学才
・世に … 副詞
○世に … 比類なく、きわだって
・すぐれ … ラ行下二段活用の動詞「すぐる」の連用形
・めでたく … ク活用の形容詞「めでたし」の連用形
めでたし … 立派である
・おはしまし … サ行四段活用の動詞「おはします」の連用形
おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から右大臣への敬意

御心おきても、ことのほかにかしこくおはします。
お心構えも、格別にすばらしくていらっしゃいます。
・御心おきて … 名詞
○御心おきて … お心構え
・も … 係助詞
・ことのほかに … ナリ活用の形容動詞「ことのほかなり」の連用形
○ことのほかなり … 格別である
・かしこく … ク活用の形容詞「かしこし」の連用形
かしこし … すばらしい
・おはします … サ行四段活用の動詞「おはします」の終止形
おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から右大臣への敬意

左大臣は御年も若く、才もことのほかに劣り給へるにより、
左大臣はお年も若く、学才も格段に劣っていらっしゃることから、
・左大臣 … 名詞
・は … 係助詞
・御年 … 名詞
・も … 係助詞
・若く … ク活用の形容詞「若し」の連用形
・才 … 名詞
・も … 係助詞
・ことのほかに … ナリ活用の形容動詞「ことのほかなり」の連用形
・劣り … ラ行四段活用の動詞「劣る」の連用形
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の已然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から左大臣への敬意
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・に … 格助詞
・より … ラ行四段活用の動詞「よる」の連用形

右大臣の御おぼえことのほかにおはしましたるに、
(帝からの)右大臣へのご信任は格別でいらっしゃったので、
・右大臣 … 名詞
・の … 格助詞
・御おぼえ … 名詞
○御おぼえ … ご信任
・ことのほかに … ナリ活用の形容動詞「ことのほかなり」の連用形
・おはしまし … サ行四段活用の動詞「おはします」の連用形
おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から右大臣への敬意
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・に … 接続助詞

左大臣やすからず思したるほどに、
左大臣は心おだやかでなくお思いになっているうちに、
・左大臣 … 名詞
・やすから … ク活用の形容詞「やすし」の未然形
○やすし … 心おだやかである
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・思(おぼ)し … サ行四段活用の動詞「思す」の連用形
思す … 「思ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から左大臣への敬意
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・ほど … 名詞
・に … 格助詞

さるべきにやおはしけむ、
そうなる運命だったのでございましょうか、
・さる … ラ行変格活用の動詞「さり」の連体形
・べき … 当然の助動詞「べし」の連体形
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・や … 係助詞・疑問
さるべきにや … そうなる運命だったのか
・おはし … サ行変格活用の動詞「おはす」の連用形
おはす … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から右大臣への敬意
・けむ … 過去推量の助動詞「けむ」の連体形(結び)

右大臣の御ためによからぬこと出で来て、
右大臣の御身にとって不都合なことが起こって、
・右大臣 … 名詞
・の … 格助詞
・御ため … 名詞
・に … 格助詞
・よから … ク活用の形容詞「よし」の未然形
よし … 都合がよい
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・こと … 名詞
・出(い)で来(き) … カ行変格活用の動詞「出で来(く)」の連用形
○出で来 … 発生する
・て … 接続助詞

昌泰四年正月二十五日、大宰権帥になしたてまつりて、流され給ふ。
昌泰四年正月二十五日、大宰権帥に任命申し上げて、(右大臣は)お流されになる。
・昌泰()四年 … 名詞
・正月二十五日 … 名詞
・大宰権帥(だざいのごんのそち) … 名詞
・に … 格助詞
・なし … サ行四段活用の動詞「なす」の連用形
○なす … 〜にする
・奉り … ラ行四段活用の動詞「奉る」の連用形
奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 筆者から右大臣への敬意
・て … 接続助詞
・流さ … サ行四段活用の動詞「流す」の未然形
・れ … 受身の助動詞「る」の連用形
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の終止形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から右大臣への敬意

この大臣、子どもあまたおはせしに、女君たちは婿取り、
この大臣には、子供がたくさんいらっしゃったが、女君たちは結婚し、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・大臣 … 名詞
・子ども … 名詞
・あまた … 副詞
・おはせ … サ行変格活用の動詞「おはす」の未然形
おはす … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から右大臣への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・に … 接続助詞
・女君(おんなぎみ)たち … 名詞
・は … 係助詞
・婿 … 名詞
・とり … ラ行四段活用の動詞「とる」の連用形

男君たちは、みなほどほどにつけて位どもおはせしを、
男君たちは、みな年齢や才能に応じて官位がおありだったが、
・男君(おとこぎみ)たち … 名詞
・は … 係助詞
・みな … 名詞
・ほどほど … 名詞
・に … 格助詞
・つけ … カ行下二段活用の動詞「つく」の連用形
・て … 接続助詞
○ほどほどにつけて … それぞれの年齢や才能に応じて
・位ども … 名詞
・おはせ … サ行変格活用の動詞「おはす」の未然形
おはす … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から男君たちへの敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・を … 接続助詞

それもみな方々に流され給ひて悲しきに、
その男君たちもみな、あちらこちらに流されなさって悲しいのに、
・それ … 代名詞
・も … 係助詞
・みな … 名詞
・方々(かたがた) … 名詞
○方々 … あちらこちら
・に … 格助詞
・流さ … サ行四段活用の動詞「流す」の未然形
・れ … 受身の助動詞「る」の連用形
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から男君たちへの敬意
・て … 接続助詞
・悲しき … シク活用の形容詞「悲し」の連体形
・に … 接続助詞

幼くおはしける男君・女君たち、慕ひ泣きておはしければ、
幼くていらっしゃった男君・女君たちは、(道真を)慕って泣いていらっしゃったので、
・幼く … ク活用の形容詞「幼し」の連用形
・おはし … サ行変格活用の動詞「おはす」の連用形
おはす … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から幼い男君・女君たちへの敬意
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・男君 … 名詞
・女君たち … 名詞
・慕ひ泣き … カ行四段活用の動詞「慕ひ泣く」の連用形
・て … 接続助詞
・おはし … サ行変格活用の動詞「おはす」の連用形
おはす … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から幼い男君・女君たちへの敬意
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

「小さきはあへなむ。」と、
「幼い者は(連れて行っても)差し支えないだろう。」と、
・小さき … ク活用の形容詞「小さし」の連体形
・は … 係助詞
・あへ … ハ行下二段活用の動詞「あふ」の連用形
・な … 強意の助動詞「ぬ」の未然形
・む … 推量の助動詞「む」の終止形
○あへなむ … 差し支えないだろう
・と … 格助詞

おほやけも許させ給ひしぞかし。
朝廷もお許しになったのですよ。
・おほやけ … 名詞
○おほやけ … 朝廷
・も … 係助詞
・許さ … サ行四段活用の動詞「許す」の連用形
・せ … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 筆者から朝廷への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から朝廷への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・ぞ … 終助詞・断定
・かし … 終助詞・念押し
○ぞかし … 念を押しつつ断定する

帝の御おきて、きはめてあやにくにおはしませば、
帝のご処置は、この上もなく厳しいものでございましたので、
・帝 … 名詞
・の … 格助詞
・御おきて … 名詞
○おきて … 処置
・きはめて … 副詞
○きはめて … この上もなく
・あやにくに … ナリ活用の形容動詞「あやにくなり」の連用形
あやにくなり … 厳しい、意地が悪い
・おはしませ … サ行四段活用の動詞「おはします」の已然形
おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から帝への敬意
・ば … 接続助詞

この御子どもを、同じ方に遣はさざりけり。
このお子様たちを、同じ方面におやりにならなかった。
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・御子(みこ)ども … 名詞
・を … 格助詞
・同じ … シク活用の形容詞「同じ」の連体形
・方 … 名詞
・に … 格助詞
・遣(つか)はさ … サ行四段活用の動詞「遣はす」の未然形
遣はす … 「遣(や)る」の尊敬語 ⇒ 筆者から帝への敬意
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

方々にいと悲しく思し召して、御前の梅の花を御覧じて、
あれやこれやと非常に悲しくお思いになって、お庭先の梅の花をご覧になって、
・方々 … 名詞
・に … 格助詞
○方々に … あれやこれやと
・いと … 副詞
・悲しく … シク活用の形容詞「悲し」の連用形
・思し召し … サ行四段活用の動詞「思し召す」の連用形
思し召す … 「思ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・て … 接続助詞
・御前(おまえ) … 名詞
○御前 … お庭先
・の … 格助詞
・梅 … 名詞
・の … 格助詞
・花 … 名詞
・を … 格助詞
・御覧じ … サ行変格活用の動詞「御覧ず」の連用形
御覧ず … 「見る」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・て … 接続助詞

  東風吹かばにほひおこせよ梅の花
  (春になり)東風が吹いたなら、香りを(筑紫まで)届けてくれ、梅の花よ。
  ・東風(こち) … 名詞
  ・吹か … カ行四段活用の動詞「吹く」の未然形
  ・ば … 接続助詞
  ・にほひ … 名詞
  ・おこせよ … サ行下二段活用の動詞「おこす」の命令形
  ○おこす … こちらに届けてくる
  ・梅 … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・花 … 名詞

  あるじなしとて春を忘るな
  主人がいないからといって春を忘れるな。
  ・あるじ … 名詞
  ・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形
  ・とて … 格助詞
  ・春 … 名詞
  ・を … 格助詞
  ・忘る … ラ行下二段活用の動詞「忘る」の終止形
  ・な … 終助詞・禁止

また、亭子の帝に聞こえさせ給ふ。
また、亭子の帝に申し上げなさった。
・また … 接続詞
・亭子(ていじ)の帝 … 名詞
・に … 格助詞
・聞こえ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の未然形
聞こゆ … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から亭子の帝への敬意
・させ … 尊敬の助動詞「さす」の連用形、筆者から道真への敬意
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の終止形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から道真への敬意

  流れゆく我は水屑となり果てぬ
  (筑紫に)流されていく私は、すっかり水中のごみになってしまいました。
  ・流れゆく … カ行四段活用の動詞「流れゆく」の連体形
  ○流る … 流罪になる
  ・我 … 代名詞
  ・は … 係助詞
  ・水屑(みくず) … 名詞
  ○水屑 … 水中のごみ
  ・と … 格助詞
  ・なり果て … タ行下二段活用の動詞「なり果つ」の連用形
  ○なり果つ〜すっかり … になってしまう
  ・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

  君しがらみとなりてとどめよ
  我が君よ、しがらみとなって(私を)引き止めてください。
  ・君 … 名詞
  ・しがらみ … 名詞
  ○しがらみ〜川の中に杭を打ち並べ、それに竹などを横に結びつけて水をせき止めるもの
  ・と … 格助詞
  ・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
  ・て … 接続助詞
  ・とどめよ … マ行下二段活用の動詞「とどむ」の命令形
  ○とどむ〜止める

なきことにより、かく罪せられ給ふを、
無実の罪によって、このように処罰されなさるのを、
・なき … ク活用の形容詞「なし」の連体形
・こと … 名詞
○なきこと … 無実の罪
・に … 格助詞
・より … ラ行四段活用の動詞「よる」の連用形
・かく … 副詞
・罪せ … サ行変格活用の動詞「罪す」の連用形
○罪す … 処罰する
・られ … 受身の助動詞「らる」の連用形
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連体形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から道真への敬意
・を … 格助詞

かしこく思し嘆きて、やがて山崎にて出家せしめ給ひて、
たいそうお嘆きになって、そのまま山崎で出家なさいまして、
・かしこく … ク活用の形容詞「かしこし」の連用形
かしこし … たいそう(連用形の用法)
・思し嘆き … カ行四段活用の動詞「思し嘆く」の連用形
思し嘆く … 「思ひ嘆く」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・て … 接続助詞
・やがて … 副詞
・山崎(やまざき) … 名詞
・にて … 格助詞
・出家(すけ)せ … サ行変格活用の動詞「出家す」の未然形
・しめ … 尊敬の助動詞「しむ」の連用形 ⇒ 筆者から道真への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から道真への敬意
・て … 接続助詞

都遠くなるままに、あはれに心細く思されて、
都が遠くなるにつれて、しみじみと心細く思われなさって、
・都 … 名詞
・遠く … ク活用の形容詞「遠し」の連用形
・なる … ラ行四段活用の動詞「なる」の連体形
・まま … 名詞
・に … 格助詞
・あはれに … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形
あはれなり … しみじみとした情趣がある
・心細く … ク活用の形容詞「心細し」の連用形
・思さ … サ行四段活用の動詞「思す」の未然形
思す … 「思ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・れ … 自発の助動詞「る」の連用形
・て … 接続助詞

  君が住む宿の梢をゆくゆくと
  あなたが住んでいる家の(木々の)梢を、道を行きながら、
  ・君 … 名詞
  ・が … 格助詞
  ・住む … マ行四段活用の動詞「住む」の連体形
  ・宿 … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・梢(こずえ) … 名詞
  ・を … 格助詞
  ・ゆくゆくと … 副詞
  ○ゆくゆくと … 道を行きながら

  隠るるまでも返り見しはや
  隠れてしまうまでも振り返って見たことだよ。
  ・隠るる … ラ行下二段活用の動詞「隠る」の連体形
  ・まで … 副助詞
  ・も … 係助詞
  ・返り見 … マ行上一段活用の動詞「返り見る」の連用形
  ・し … 過去の助動詞「き」の連体形
  ・は … 終助詞・詠嘆
  ・や … 間投助詞・詠嘆

また、播磨の国におはしまし着きて、
また、播磨の国にお着きになって、
・また … 接続詞
・播磨(はりま)の国 … 名詞
・に … 格助詞
・おはしまし着き … カ行四段活用の動詞「おはしまし着く」の連用形
おはしまし着く … 「行き着く」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・て … 接続助詞

明石の駅といふ所に御宿りせしめ給ひて、
明石の駅という所にご宿泊なさいまして、
・明石(あかし)の駅(うまや) … 名詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・所 … 名詞
・に … 格助詞
・御宿り … 名詞
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・しめ … 尊敬の助動詞「しむ」の連用形 ⇒ 筆者から道真への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から道真への敬意
・て … 接続助詞

駅の長のいみじく思へる気色を御覧じて、
宿駅の長がひどく悲しく思っている様子をご覧になって、
・駅 … 名詞
・の … 格助詞
・長(おさ) … 名詞
・の … 格助詞
・いみじく … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形
いみじ … はなはだしい
・て … 接続助詞
・思へ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の已然形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・気色(けしき) … 名詞
気色 … 自然や人間の様子
・を … 格助詞
・御覧じ … サ行変格活用の動詞「御覧ず」の連用形
御覧ず … 「見る」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・て … 接続助詞

作らしめ給ふ詩、いと悲し。
お作りになった漢詩は、たいそう悲しい。
・作ら … ラ行四段活用の動詞「作る」の未然形
・しめ … 尊敬の助動詞「しむ」の連用形 ⇒ 筆者から道真への敬意
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連体形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から道真への敬意
・詩 … 名詞
○詩 … 漢詩
・いと … 副詞
・悲し … シク活用の形容詞「悲し」の終止形

  駅長驚クコト莫カレ時ノ変改ヲ
  駅長よ、驚いてはいけない、時勢の移り変わりを。
  ・駅長 … 名詞
  ・驚ク … カ行四段活用の動詞「驚ク」の連体形
  ・コト … 名詞
  ・莫(な)カレ … ク活用の形容詞「莫シ」の命令形
  ・時 … 名詞
  ・ノ … 格助詞
  ・変改(へんがい) … 名詞
  ○変改 … 移り変わり
  ・ヲ … 格助詞

  一栄一落ハ是レ春秋
  春に花が美しく咲き秋に葉が寂しく散るのは、時の流れなのだから。
  ・一栄(いつえい) … 名詞
  ・一落(いつらく) … 名詞
  ・是(こ)レ … 代名詞
  ・春秋 … 名詞
  ○春秋 … 時の流れ

かくて筑紫におはし着きて、ものをあはれに心細く
こうして筑紫にお着きになって、ものをしみじみと心細く
・かくて … 副詞
・筑紫(つくし) … 名詞
・に … 格助詞
・おはし着き … カ行四段活用の動詞「おはし着く」の連用形
おはし着く … 「行き着く」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・て … 接続助詞
・もの … 名詞
・を … 格助詞
・あはれに … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形
・心細く … ク活用の形容詞「悲し」の連用形

思さるる夕べ、遠方にところどころ煙立つを御覧じて、
お感じになる夕暮れ、遠方の所々に煙が立つのをご覧になって、
・思さ … サ行四段活用の動詞「思す」の未然形
思す … 「思ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・るる … 自発の助動詞「る」の連体形
・夕べ … 名詞
・遠方(おちかた) … 名詞
・に … 格助詞
・ところどころ … 名詞
・煙(けぶり) … 名詞
・立つ … タ行四段活用の動詞「立つ」の連体形
・を … 格助詞
・御覧じ … サ行変格活用の動詞「御覧ず」の連用形
御覧ず … 「見る」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・て … 接続助詞

  夕されば野にも山にも立つ煙
  夕方になると野にも山にも立ちのぼる煙は
  ・夕され … 行四段活用の動詞「夕さる」の已然形
  ○夕さる … 夕方になる
  ・ば … 接続助詞
  ・野 … 名詞
  ・に … 格助詞
  ・も … 係助詞
  ・山 … 名詞
  ・に … 格助詞
  ・も … 係助詞
  ・立つ … タ行四段活用の動詞「立つ」の連体形
  ・煙 … 名詞

  なげきよりこそ燃えまさりけれ
  嘆きという木を添えるのでいよいよ激しく燃えるのだなあ。
  ・なげき … 名詞
  ・より … 格助詞
  ・こそ … 係助詞・強意
  ・燃えまさり … ラ行四段活用の動詞「燃えまさる」の連用形
  ・けれ … 詠嘆の助動詞「けり」の已然形(結び)

また、雲の浮きて漂ふを御覧じて、
また、雲が浮いて漂うのを御覧になって、
・また … 接続詞
・雲 … 名詞
・の … 格助詞
・浮き … カ行四段活用の動詞「浮く」の連用形
・て … 接続助詞
・漂ふ … ハ行四段活用の動詞「漂ふ」の連体形
・を … 格助詞
・御覧じ … サ行変格活用の動詞「御覧ず」の連用形
御覧ず … 「見る」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・て … 接続助詞

  山わかれ飛びゆく雲のかへり来る
  山から離れ、飛び去っていく雲が帰って来る
  ・山 … 名詞
  ・わかれ … 行下二段活用の動詞「わかる」の連用形
  ・飛びゆく … カ行四段活用の動詞「飛びゆく」の連体形
  ・雲 … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・かへり来る … カ行変格活用の動詞「かへり来」の連体形

  影見る時はなほ頼まれぬ
  姿を見る時はやはり自然に(都に帰れるのではないかと)頼りにしてしまう。
  ・影 … 名詞
  ○影 … 物や人の姿
  ・見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
  ・時 … 名詞
  ・は … 係助詞
  ・なほ … 副詞
  ・頼ま … マ行四段活用の動詞「頼む」の未然形
  ○頼む … 頼りにする
  ・れ … 自発の助動詞「る」の連用形
  ・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

さりともと、世を思し召されけるなるべし。
そうであってもと、(ご自分の)身の上をお思いになられたのでしょう。
・さりとも … 接続詞
○さりとも … そうだとしても
・と … 格助詞
・世 … 名詞
○世 … 身の上
・を … 格助詞
・思し召さ … サ行四段活用の動詞「思し召す」の未然形
思し召す … 「思ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・れ … 尊敬の助動詞「る」の連用形 ⇒ 筆者から道真への敬意
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・なる … 断定の助動詞「なり」の連体形
・べし … 推量の助動詞「べし」の終止形

月の明かき夜、
月の明かるい夜、
・月 … 名詞
・の … 格助詞
・明かき … ク活用の形容詞「明かし」の連体形
・夜 … 名詞

  海ならずたたへる水の底までに
  海どころか、もっと深く満々とたたえている水の底までも
  ・海 … 名詞
  ・なら … 断定の助動詞「なり」の未然形
  ・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
  ・たたへ … ハ行下二段活用の動詞「たたふ」の連用形
  ・る … 存続の助動詞「り」の連体形
  ・水 … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・底 … 名詞
  ・まで … 副助詞
  ・に … 格助詞

  清き心は月ぞ照らさむ
  清らかな心をきっと月は照らすだろう。
  ・清き … ク活用の形容詞「清し」の連体形
  ・心 … 名詞
  ・は … 係助詞
  ・月 … 名詞
  ・ぞ … 係助詞・強意
  ・照らさ … サ行四段活用の動詞「照らす」の未然形
  ・む … 推量の助動詞「む」の連体形(結び)

これ、いとかしこくあそばしたりかし。
この歌は、とてもすばらしくお詠みになったものよ。
・これ … 代名詞
・いと … 副詞
・かしこく … ク活用の形容詞「かしこし」の連用形
かしこし … すばらしい
・あそばし … サ行四段活用の動詞「あそばす」の連用形
○あそばす … (歌を)お詠みになる
あそばす … 「詠む」の尊敬語 ⇒ 筆者から道真への敬意
・たり … 完了の助動詞「たり」の終止形
・かし … 終助詞・念押し

げに月日こそは照らし給はめとこそはあめれ。
なるほど月や太陽だけはお照らしになるだろうというのでしょう。
・げに … 副詞
げに … なるほど、本当に
・月日 … 名詞
・こそ … 係助詞・強意
・は … 係助詞
・照らし … サ行四段活用の動詞「照らす」の連用形
・給は … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の未然形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から月・太陽への敬意
・め … 推量の助動詞「む」の已然形(結び)
・と … 格助詞
・こそ … 係助詞・強意
・は … 係助詞
あるめれ ⇒ あんめれ(撥音便) ⇒ あめれ(無表記)
・あ … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・めれ … 推定の助動詞「めり」の已然形(結び}

error: Content is protected !!