空を飛ぶ倉・宇治拾遺物語 現代語訳・品詞分解

そこに小さき堂を建てて、据ゑ奉りて、
そこに小さな堂を建てて、(毘沙門天を)安置し申し上げて、
・そこ … 代名詞
・に … 格助詞
・小さき … ク活用の形容詞「小さし」の連体形
・堂 … 名詞
・を … 格助詞
・建て … タ行下二段活用の動詞「建つ」の連用形
・て … 接続助詞
・据ゑ … ワ行下二段活用の動詞「据う」の連用形
・奉(たてまつり)り … ラ行四段活用の動詞「奉る」の連用形
・て … 接続助詞

えもいはず行ひて、年月を経るほどに、
何とも言いようがない修行をして、年月を過ごすうちに、
・え … 副詞
・も … 係助詞
・いは … ハ行四段活用の動詞「いふ」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
〇えもいはず … 何とも言いようがない(ほど程度がはなはだしい)
・行ひ … ハ行四段活用の動詞「行ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・年月 … 名詞
・経(へ)る … ハ行下二段活用の動詞「経(ふ)」の連体形
・ほどに … 接続助詞
〇ほどに … ~(する)うちに

この山のふもとに、いみじき下種徳人ありけり。
この山のふもとに、たいそうな身分の低い金持ちがいた。
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・山 … 名詞
・の … 格助詞
・ふもと … 名詞
・に … 格助詞
・いみじき … シク活用の形容詞「いみじ」の連体形
いみじ … なみなみでない
・下種徳人(げすとくじん) … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

そこに、聖の鉢は常に飛び行きつつ、物は入れて来けり。
そこに、聖の鉢はいつも飛んで行っては、物を入れて来た。
・そこ … 代名詞
・に … 格助詞
・聖(ひじり) … 名詞
・の … 格助詞
・鉢 … 名詞
・は … 係助詞
・常に … ナリ活用の形容動詞「常なり」の連用形
・飛び行き … カ行四段活用の動詞「飛び行く」の連用形
・つつ … 接続助詞
・物 … 名詞
・は … 係助詞
・入れ … ラ行下二段活用の動詞「入る」の連用形
・て … 接続助詞
・来(き) … カ行変格活用の動詞「来(く)」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

大きなる校倉のあるを開けて、物取り出だすほどに、
大きな倉があるのを開けて、物を取り出しているうちに、
・大きなる … ナリ活用の形容動詞「大きなり」の連体形
・校倉(あぜくら) … 名詞
・の … 格助詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・を … 格助詞
・開け … カ行下二段活用の動詞「開く」の連用形
・て … 接続助詞
・物 … 名詞
・取り出だす … サ行四段活用の動詞「取り出だす」の連体形
・ほどに … 接続助詞

この鉢飛びて、例の物乞ひに来たりけるを、
この鉢が飛んで、いつもの物乞いにやって来たのを、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・鉢 … 名詞
・飛び … バ行四段活用の動詞「飛ぶ」の連用形
・て … 接続助詞
・例 … 名詞
・の … 格助詞
〇例の … いつもの
・物乞(ものご)ひ … 名詞
・に … 格助詞
・来(き) … カ行変格活用の動詞「来(く)」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・を … 格助詞

「例の鉢、来にたり。ゆゆしく、ふくつけき鉢よ。」とて、
「いつもの鉢が、来てしまった。ひどく、欲が深い鉢だなあ。」と言って、
・例 … 名詞
・の … 格助詞
・鉢 … 名詞
・来(き) … カ行変格活用の動詞「来(く)」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の終止形
・ゆゆしく … シク活用の形容詞「ゆゆし」の連用形
ゆゆし … はなはだしい
・ふくつけき … ク活用の形容詞「ふくつけし」の連体形
〇ふくつけし … 欲が深い
・鉢 … 名詞
・よ … 間投助詞
〇よ … ~なあ(詠嘆)
・とて … 格助詞

取りて、倉の隅に投げ置きて、とみに物も入れざりければ、
手に取って、倉の隅に投げ置いて、すぐには物も入れなかったので、
・取り … ラ行四段活用の動詞「取る」の連用形
〇取る … 手に取る
・て … 接続助詞
・倉 … 名詞
・の … 格助詞
・隅 … 名詞
・に … 格助詞
・投げ置き … カ行段活用の動詞「投げ置く」の連用形
・て … 接続助詞
・とみに … 副詞
〇とみに(~打消) … すぐには(~ない)
・物 … 名詞
・も … 係助詞
・入れ … ラ行下二段活用の動詞「入る」の未然形
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

鉢は待ちゐたりけるほどに、物どもしたため果てて、
鉢がずっと待っているうちに、物を処理し終わって、
・鉢 … 名詞
・は … 係助詞
・待ちゐ … ワ行上一段活用の動詞「待ちゐる」の連用形
ゐる … ずっと~ている
・たり … 存続の助動詞「たり」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・ほどに … 接続助詞
・物ども … 名詞
〇ども … 接尾語、複数を表す
・したため果て … タ行下二段活用の動詞「したため果つ」の連用形
したたむ … 処理する
〇果つ … ~し終わる
・て … 接続助詞

この鉢を忘れて物も入れず、取りも出ださで、
この鉢を忘れて物も入れず、取り出しもしないで、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・鉢 … 名詞
・を … 格助詞
・忘れ … ラ行下二段活用の動詞「忘る」の連用形
・て … 接続助詞
・物 … 名詞
・も … 係助詞
・入れ … ラ行下二段活用の動詞「入る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・取り … ラ行四段活用の動詞「取る」の連用形
・も … 係助詞
・出ださ … ダ行四段活用の動詞「出だす」の未然形
・で … 接続助詞

倉の戸を鎖して立ち帰りぬるほどに、
倉の戸に鍵をかけて戻ったところ、
・倉 … 名詞
・の … 格助詞
・戸 … 名詞
・を … 格助詞
・鎖(さ)し … サ行四段活用の動詞「鎖す」の連用形
〇鎖す … (戸が)開かないようにする
・て … 接続助詞
・立ち帰り … ラ行四段活用の動詞「立ち帰る」の連用形
〇立ち帰る … 戻る
・ぬる … 完了の助動詞「ぬ」の連体形
・ほどに … 接続助詞
〇ほどに … ~(した)ところ

とばかりありて、この倉、すずろにゆさゆさと揺るぐ。
しばらくして、この倉が、思いがけずゆさゆさと揺れ動いた。
・とばかり … 副詞
〇とばかり … しばらく
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・て … 接続助詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・倉 … 名詞
・すずろに … ナリ活用の形容動詞「すずろなり」の連用形
すずろなり … 予想外である
・ゆさゆさと … 副詞
・揺るぐ … ガ行四段活用の動詞「揺るぐ」の終止形
〇揺るぐ … 揺れ動く

「いかに、いかに。」と見騒ぐほどに、
「どうして、どうして。」と見て騒ぐうちに、
・いかに … 副詞
・いかに … 副詞
いかに … どんなわけで
・と … 格助詞
・見騒ぐ … ガ行四段活用の動詞「見騒ぐ」の連体形
・ほどに … 接続助詞

揺るぎ揺るぎて、土より一尺ばかり揺るぎ上がるときに、
揺れ動き揺れ動いて、地面から一尺ほど揺れ動きながら上がるときに、
・揺るぎ … ガ行四段活用の動詞「揺るぐ」の連用形
・揺るぎ … ガ行四段活用の動詞「揺るぐ」の連用形
・て … 接続助詞
・土 … 名詞
・より … 格助詞
・一尺 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・揺るぎ上がる … ラ行四段活用の動詞「揺るぎ上がる」の連体形
・とき … 名詞
・に … 格助詞

「こはいかなることぞ。」とあやしがりて騒ぐ。
「これはどういうわけだ。」と不思議に思って騒ぐ。
・こ … 代名詞
・は … 係助詞
・いかなる … ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連体形
〇いかなり … どういうわけである
・こと … 名詞
・ぞ … 終助詞
・と … 格助詞
・あやしがり … ラ行四段活用の動詞「あやしがる」の連用形
〇あやしがる … 不思議がる
・て … 接続助詞
・騒ぐ … ガ行四段活用の動詞「騒ぐ」の終止形

「まことに、まことに、ありつる鉢を忘れて、
「ほんとうに、ほんとうに、先ほどの鉢を忘れて、
・まことに … 副詞
・まことに … 副詞
〇まことに … ほんとうに
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
〇ありつる … 先ほどの
・鉢 … 名詞
・を … 格助詞
・忘れ … ラ行下二段活用の動詞「忘る」の連用形
・て … 接続助詞

取り出でずなりぬる、それが仕業にや。」など言ふほどに、
取り出さないままだった、それの所業だろうか。」などと言ううちに、
・取り出で … ダ行下二段活用の動詞「取り出づ」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・ぬる … 完了の助動詞「ぬ」の連体形
・それ … 代名詞
・が … 格助詞
・仕業(しわざ) … 名詞
〇仕業 … 所業、したこと
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・や … 係助詞
・など … 副助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・ほどに … 接続助詞

この鉢、倉より漏り出でて、この鉢に倉乗りて、
この鉢は、倉から漏れ出て、この鉢に倉が乗って、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・鉢 … 名詞
・倉 … 名詞
・より … 格助詞
・漏(も)り出で … ダ行下二段活用の動詞「漏り出づ」の連用形
・て … 接続助詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・鉢 … 名詞
・に … 格助詞
・倉 … 名詞
・乗り … ラ行四段活用の動詞「乗る」の連用形
・て … 接続助詞

ただ上りに、空ざまに一、二丈ばかり上る。
ひたすら上のほうに、空のほうに一、二丈ほど上がる。
・ただ … 
〇ただ … ひたすら
・上り … 名詞
〇上り … 上の方向
・に … 格助詞
・空ざま … 名詞
〇ざま … 接尾語、~のほう
・に … 格助詞
・一、二丈 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・上る … ラ行四段活用の動詞「上る」の終止形

さて飛び行くほどに、人々見ののしり、あさみ騒ぎ合ひたり。
そういう状態で飛んで行くと、人々は見て大声をあげ、驚き騒ぎ合った。
・さて … 副詞
〇さて … そういう状態で
・飛び行く … カ行四段活用の動詞「飛び行く」の連体形
・ほどに … 接続助詞
・人々 … 名詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・ののしり … ラ行四段活用の動詞「ののしる」の連用形
ののしる … 大声を立てる
・あさみ … マ行四段活用の動詞「あさむ」の連用形
〇あさむ … 驚く
・騒ぎ合ひ … ハ行四段活用の動詞「騒ぎ合ふ」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の終止形

倉の主も、さらにすべきやうもなければ、
倉の主人も、まったくどうすることもできないので、
・倉 … 名詞
・の … 格助詞
・主 … 名詞
・も … 係助詞
・さらに … 副詞
さらに(~打消) … まったく(~ない)
・す … サ行変格活用の動詞「す」の終止形
・べき … 
・やう … 名詞
・も … 係助詞
・なけれ … ク活用の形容詞「なし」の已然形
〇すべきやうもなし … どうすることもできない
・ば … 接続助詞

「この倉の行かむ所を見む。」とて、後に立ちて行く。
「この倉が行く所を見よう。」と思って、後ろについて行く。
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・倉 … 名詞
・の … 格助詞
・行か … カ行四段活用の動詞「行く」の未然形
・む … 婉曲の助動詞「む」の連体形
・所 … 名詞
・を … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・とて … 格助詞
・後 … 名詞
・に … 格助詞
・立ち … タ行四段活用の動詞「立つ」の連用形
〇後に立つ … 後ろについて行く
・て … 接続助詞
・行く … カ行四段活用の動詞「行く」の終止形

そのわたりの人々もみな走りけり。
その付近の人々もみんな走った。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・わたり … 名詞
〇わたり … ある場所の付近一帯
・の … 格助詞
・人々 … 名詞
・も … 係助詞
・みな … 名詞
・走り … ラ行四段活用の動詞「走る」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

さて見れば、やうやう飛びて、河内国に、
そのような状態で見ると、少しずつ飛んで、河内国に、
・さて … 副詞
・見れ … マ行上一段活用の動詞「見る」の已然形
・ば … 接続助詞
・やうやう … 副詞
〇やうやう … だんだん
・飛び … バ行四段活用の動詞「飛ぶ」の連用形
・て … 接続助詞
・河内国 … 名詞
・に … 格助詞

この聖の行ふ山の中に飛び行きて、聖の坊の傍らに、どうと落ちぬ。
この聖が修行をする山の中に飛んで行って、聖の僧坊のすぐ近くに、ドンと落ちた。
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・聖 … 名詞
・の … 格助詞
・行ふ … ハ行四段活用の動詞「行ふ」の連体形
・山 … 名詞
・の … 格助詞
・中 … 名詞
・に … 格助詞
・飛び行き … カ行四段活用の動詞「飛び行く」の連用形
・て … 接続助詞
・聖 … 名詞
・の … 格助詞
・坊 … 名詞
〇坊 … 僧のいる場所、僧坊
・の … 格助詞
・傍ら … 名詞
〇傍(かたわ)ら … すぐ近く
・に … 格助詞
・どうと … 副詞
・落ち … タ行上二段活用の動詞「落つ」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

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