日野山の閑居(閑居の気味)・方丈記 現代語訳・品詞分解

すべて、あられぬ世を念じ過ぐしつつ、
総じて、生きにくいこの世を我慢して過ごしながら、
・すべて … 副詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・れ … 可能の助動詞「る」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・世 … 名詞
〇あられぬ世 … 生きにくいこの世
・を … 格助詞
・念じ過ぐし … サ行四段活用の動詞「念じ過ぐす」の連用形
・つつ … 接続助詞

心を悩ませること、三十余年なり。
心を悩ませること、三十年余りである。
・心 … 名詞
・を … 格助詞
・悩ませ … サ行四段活用の動詞「悩ます」の已然形
・る … の存続の助動詞「り」の連体形
・こと … 名詞
・三十余年 … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

その間、折々のたがひめ、おのづから短き運を悟りぬ。
その間、その時々の挫折によって、自然と不幸な運命を悟った。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・間 … 名詞
・折々 … 名詞
・の … 格助詞
・たがひめ … 名詞
・おのづから … 副詞
・短き … ク活用の形容詞「短し」の連体形
・運 … 名詞
・を … 格助詞
・悟り … ラ行四段活用の動詞「悟る」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

すなはち、五十の春を迎へて、家を出でて、世を背けり。
そこで、五十歳の春を迎えて、出家し、世を捨てて仏道に入った。
・すなはち … 接続詞
・五十(いそじ) … 名詞
・の … 格助詞
・春 … 名詞
・を … 格助詞
・迎へ … ハ行下二段活用の動詞「迎ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・家 … 名詞
・を … 格助詞
・出(い)で … ダ行下二段活用の動詞「出づ」の連用形
・て … 接続助詞
・世 … 名詞
・を … 格助詞
・背け … カ行四段活用の動詞「背く」の已然形
・り … 完了の助動詞「り」の終止形

もとより妻子なければ、捨て難きよすがもなし。
もともと妻子がいないので、捨てにくい縁者もいない。
・もとより … 副詞
・妻子 … 名詞
・なけれ … ク活用の形容詞「なし」の已然形
・ば … 接続助詞
・捨て難き … ク活用の形容詞「捨て難し」の連体形
・よすが … 名詞
・も … 係助詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形

身に官禄あらず、何につけてか執をとどめむ。
自分には官位も俸禄もなく、何に対して執着を残そうか。
・身 … 名詞
・に … 格助詞
・官禄(かんろく) … 名詞
〇官禄 … 官位や俸禄
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・何 … 代名詞
・に … 格助詞
・つけ … カ行下二段活用の動詞「つく」の連用形
・て … 接続助詞
・か … 係助詞・疑問
・執(しゆう) … 名詞
・を … 格助詞
・とどめ … マ行下二段活用の動詞「とどむ」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の連体形(結び)

むなしく大原山の雲に臥して、また五返りの春秋をなむ経にける。
何らなすところもなく大原山の山中に住んで、さらに五年の歳月を経過してしまった。
・むなしく … シク活用の形容詞「むなし」の連用形
・大原山(おおはらやま) … 名詞
・の … 格助詞
・雲 … 名詞
・に … 格助詞
・臥(ふ)し … サ行四段活用の動詞「臥す」の連用形
・て … 接続助詞
・また … 副詞
・五返(いつかえ)り … 名詞
・の … 格助詞
・春秋(はるあき) … 名詞
・を … 格助詞
・なむ … 係助詞・強調
・経(へ) … ハ行下二段活用の動詞「経(ふ)」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)

ここに、六十の露消えがたに及びて、
さて、六十歳の、露のようにはかない命が消えようとする頃に及んで、
・ここに … 接続詞
・六十(むそじ) … 名詞
・の … 格助詞
・露 … 名詞
〇露 … はかない命のたとえ
・消えがた … 名詞
・に … 格助詞
・及び … バ行四段活用の動詞「及ぶ」の連用形
・て … 接続助詞

さらに末葉の宿りを結べることあり。
改めて晩年になってからの住居を作ったことがある。
・さらに … 副詞
・末葉(すえは) … 名詞
・の … 格助詞
・宿り … 名詞
〇末葉の宿り … 晩年の住まい
・を … 格助詞
・結べ … バ行四段活用の動詞「結ぶ」の已然形
・る … 完了の助動詞「り」の連体形
・こと … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形

いはば、旅人の一夜の宿を作り、老いたる蚕の繭を営むがごとし。
たとえて言えば、旅人がただ一夜の宿を作り、年老いた蚕が繭を作るようなものだ。
・いは … ハ行四段活用の動詞「いふ」の未然形
・ば … 接続助詞
・旅人 … 名詞
・の … 格助詞
・一夜(ひとよ) … 名詞
・の … 格助詞
・宿 … 名詞
・を … 格助詞
・作り … ラ行四段活用の動詞「作る」の連用形
・老い … ヤ行上二段活用の動詞「老ゆ」の連用形
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・蚕(かいこ) … 名詞
・の … 格助詞
・繭(まゆ) … 名詞
・を … 格助詞
・営む … マ行四段活用の動詞「営む」の連体形
・が … 格助詞
・ごとし … 比況の助動詞「ごとし」の終止形

これを中ごろの住みかに並ぶれば、また百分が一に及ばず。
この家を人生半ばの頃に住んでいた家と比べると、また百分の一にも及ばない。
・これ … 代名詞
・を … 格助詞
・中ごろ … 名詞
・の … 格助詞
・住みか … 名詞
・に … 格助詞
・並ぶれ … バ行下二段活用の動詞「並ぶ」の已然形
・ば … 接続助詞
・また … 副詞
・百分(ひやくぶ) … 名詞
・が … 格助詞
・一(いつ) … 名詞
・に … 格助詞
・及ば … バ行四段活用の動詞「及ぶ」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

とかく言ふほどに、齢は歳々に高く、住みかは折々に狭し。
あれこれ言っているうちに、年齢は一年ごとに高くなり、住む家は移るたびに狭くなる。
・とかく … 副詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・ほど … 名詞
・に … 格助詞
・齢(よわい) … 名詞
・は … 係助詞
・歳々(としどし) … 名詞
・に … 格助詞
・高く … ク活用の形容詞「高し」の連用形
・住みか … 名詞
・は … 係助詞
・折々 … 名詞
・に … 格助詞
・狭(せま)し … ク活用の形容詞「狭し」の終止形

その家のありさま、世の常にも似ず、
その家の様子は、世間一般の家にも似ず、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・家 … 名詞
・の … 格助詞
・ありさま … 名詞
・世 … 名詞
・の … 格助詞
・常 … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・似 … ナ行上一段活用の動詞「似る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形

広さはわづかに方丈、高さは七尺がうちなり。
広さはわずかに一丈四方で、高さは七尺以内である。
・広さ … 名詞
・は … 係助詞
・わづかに … ナリ活用の形容動詞「わづかなり」の連用形
・方丈 … 名詞
〇方丈 … 一丈四方
・高さ … 名詞
・は … 係助詞
・七尺 … 名詞
・が … 格助詞
・うち … 名詞
〇うち … 以内
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

所を思ひ定めざるがゆゑに、地を占めて作らず。
定住の場所を決めたわけではないので、敷地を自分のものとして所有しては作らない。
・所 … 名詞
・を … 格助詞
・思ひ定め … マ行下二段活用の動詞「思ひ定む」の未然形
・ざる … 打消の助動詞「ず」の連体形
・が … 格助詞
・ゆゑ … 名詞
・に … 格助詞
・地 … 名詞
・を … 格助詞
・占め … マ行下二段活用の動詞「占む」の連用形
・て … 接続助詞
・作ら … ラ行四段活用の動詞「作る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

土居を組み、打覆を葺きて、継ぎ目ごとに掛金を掛けたり。
家の土台となる材木を組み、仮ごしらえの屋根を葺いて、継ぎ目ごとに掛け金を掛けてある。
・土居(つちい) … 名詞
〇土居 … 家の土台となる材木
・を … 格助詞
・組み … マ行四段活用の動詞「組む」の連用形
・打覆(うちおおい) … 名詞
〇打覆 … 仮ごしらえの屋根
・を … 格助詞
・葺(ふ)き … カ行四段活用の動詞「葺く」の連用形
〇葺く … 茅や板や木の皮などで覆う
・て … 接続助詞
・継ぎ目ごと … 名詞
・に … 格助詞
・掛金(かけがね) … 名詞
・を … 格助詞
・掛け … カ行下二段活用の動詞「掛く」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の終止形

もし心にかなはぬことあらば、やすくほかへ移さむがためなり。
もし気に入らないことがあれば、容易によそへ移すためである。
・もし … 副詞
・心 … 名詞
・に … 格助詞
・かなは … ハ行四段活用の動詞「かなふ」の未然形
〇かなふ … 合致する
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・こと … 名詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ば … 接続助詞
・やすく … ク活用の形容詞「やすし」の連用形
・他(ほか) … 名詞
・へ … 格助詞
・移さ … サ行四段活用の動詞「移す」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の連体形
・が … 格助詞
・ため … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

その改め作ること、いくばくのわづらひかある。
その作り直すことに、どれほどの面倒があるだろうか。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・改め作る … ラ行四段活用の動詞「改め作る」の連体形
・こと … 名詞
・いくばく … 副詞
〇いくばく … どれほど多く
・の … 格助詞
・わづらひ … 名詞
〇わづらひ … 面倒
・か … 係助詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形

積むところわづかに二両、車の力を報ふほかには、さらにほかの用途いらず。
積むものはわずかに車二台分、車で運搬する報酬を払う以外には、全く他の費用はいらない。
・積む … 行四段活用の動詞「積む」の連体形
・ところ … 名詞
〇ところ … もの(形式名詞的用法)
・わづかに … ナリ活用の形容動詞「わづかなり」の連用形
・二両 … 名詞
〇二両 … 二台
・車 … 名詞
・の … 格助詞
・力 … 名詞
・を … 格助詞
・報(むく)ふ … ハ行四段活用の動詞「報ふ」の連体形
〇車の力を報ふ … 車で運搬する報酬を支払う
・ほか … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・さらに … 副詞
さらに(~打消) … まったく(~ない)
・ほか … 名詞
・の … 格助詞
・用途(ようどう) … 名詞
〇用途 … 必要な費用
・いら … ラ行四段活用の動詞「いる」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

今、日野山の奥に跡を隠して後、東に三尺あまりの廂をさして、
今、日野山の奥に行方を隠してから、東側に三尺余りの庇を差し出して、
・今 … 名詞
・日野山 … 名詞
・の … 格助詞
・奥 … 名詞
・に … 格助詞
・跡 … 名詞
〇跡 … 行方
・を … 格助詞
・隠し … サ行四段活用の動詞「隠す」の連用形
・て … 接続助詞
・後(のち) … 名詞
・東(ひんがし) … 名詞
・に … 格助詞
・三尺あまり … 名詞
・の … 格助詞
・庇(ひさし) … 名詞
・を … 格助詞
・さし … サ行四段活用の動詞「さす」の連用形
・て … 接続助詞

柴折りくぶるよすがとす。
(その下で)柴を折って燃やす所とした。
・柴(しば) … 名詞
・折り … ラ行四段活用の動詞「折る」の連用形
・くぶる … バ行下二段活用の動詞「くぶ」の連体形
・よすが … 名詞
〇よすが … 頼りにする所
・と … 格助詞
・す … サ行変格活用の動詞「す」の終止形

南、竹の簀子を敷き、その西に閼伽棚を作り、北に寄せて、
南側は、竹の簀子を敷き、その西に閼伽棚を作り、北側に寄せて、
・南 … 名詞
・竹 … 名詞
・の … 格助詞
・簀子(すのこ) … 名詞
・を … 格助詞
・敷き … カ行四段活用の動詞「敷く」の連用形
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・西 … 名詞
・に … 格助詞
・閼伽棚(あかだな) … 名詞
〇閼伽棚 … 仏への供え物(花や水)を載せる棚
・を … 格助詞
・作り … ラ行四段活用の動詞「作る」の連用形
・北 … 名詞
・に … 格助詞
・寄せ … サ行下二段活用の動詞「寄す」の連用形
・て … 接続助詞

障子を隔てて阿弥陀の絵像を安置し、
障子を隔てて阿弥陀如来の絵像を安置し、
・障子(しようじ) … 名詞
・を … 格助詞
・隔て … タ行下二段活用の動詞「隔つ」の連用形
・て … 接続助詞
・阿弥陀(あみだ) … 名詞
・の … 格助詞
・絵像 … 名詞
・を … 格助詞
・安置(あんぢ)し … サ行変格活用の動詞「安置す」の連用形

そばに普賢を画き、前に法華経を置けり。
そばに普賢菩薩を描いたものを掛け、前に法華経を置いている。
・そば … 名詞
・に … 格助詞
・普賢(ふげん) … 名詞
・を … 格助詞
・画(か)き … カ行四段活用の動詞「画く」の連用形
・前 … 名詞
・に … 格助詞
・法華経(ほけきよう) … 名詞
・を … 格助詞
・置け … カ行四段活用の動詞「置く」の已然形
・り … 存続の助動詞「り」の終止形

東の際に蕨のほとろを敷きて、夜の床とす。
東の端に蕨のほとろを敷いて、夜の寝床とする。
・東 … 名詞
・の … 格助詞
・際 … 名詞
・に … 格助詞
・蕨(わらび) … 名詞
・の … 格助詞
・ほとろ … 名詞
〇蕨のほとろ … 蕨の穂が伸びて広がったもの
・を … 格助詞
・敷き … カ行四段活用の動詞「敷く」の連用形
・て … 接続助詞
・夜 … 名詞
・の … 格助詞
・床(ゆか) … 名詞
・と … 格助詞
・す … サ行変格活用の動詞「す」の終止形

西南に竹の吊棚を構へて、黒き皮籠三合を置けり。
西南に竹の吊り棚を作って、黒い皮のつづら三箱を置いている。
・西南 … 名詞
・に … 格助詞
・竹 … 名詞
・の … 格助詞
・吊棚(つりだな) … 名詞
・を … 格助詞
・構へ … ハ行下二段活用の動詞「構ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・黒き … ク活用の形容詞「黒し」の連体形
・皮籠(かわご) … 名詞
〇皮籠 … 皮のつづら
・三合 … 名詞
〇三合 … 三箱
・を … 格助詞
・置け … カ行四段活用の動詞「置く」の連用形
・り … 存続の助動詞「り」の終止形

すなはち、和歌、管絃、往生要集ごときの抄物を入れたり。
そして、和歌、管弦、往生要集などを抜き書きしたものを入れている。
・すなはち … 接続詞
・和歌 … 名詞
・管弦(かんげん) … 名詞
・往生要集(おうじようようしゆう) … 名詞
・ごとき … 例示の助動詞「ごとし」の連体形
・の … 格助詞
・抄物(しようもつ) … 名詞
〇抄物 … 書物の一部分などを抜き書きしたもの
・を … 格助詞
・入れ … ラ行下二段活用の動詞「入る」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の終止形

傍らに、琴、琵琶おのおの一張を立つ。
そばに、琴、琵琶それぞれ一張ずつを立てる。
・傍ら … 名詞
・に … 格助詞
・琴 … 名詞
・琵琶(びわ) … 名詞
・おのおの … 副詞
・一張(いつちよう) … 名詞
・を … 格助詞
・立つ … タ行下二段活用の動詞「立つ」の終止形

いはゆる折琴、継琵琶これなり。
いわゆる折琴、継琵琶がこれである。
・いはゆる … 連体詞
・折琴(おりごと) … 名詞
・継琵琶(つぎびわ) … 名詞
・これ … 代名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

仮の庵のありやう、かくのごとし。
仮の庵の様子は、このようである。
・仮 … 名詞
・の … 格助詞
・庵(いおり) … 名詞
・の … 格助詞
・ありやう … 名詞
・かく … 副詞
・の … 格助詞
・ごとし … 比況の助動詞「ごとし」の終止形

その所のさまを言はば、南に懸樋かけひあり。
その場所の様子を言うならば、南に懸樋がある。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・所 … 名詞
・の … 格助詞
・さま … 名詞
・を … 格助詞
・言は … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の未然形
・ば … 接続助詞
・南 … 名詞
・に … 格助詞
・懸樋(かけい) … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形

岩を立てて水をためたり。
岩を組み立てて水をためている。
・岩 … 名詞
・を … 格助詞
・立て … タ行下二段活用の動詞「立つ」の連用形
・て … 接続助詞
・水 … 名詞
・を … 格助詞
・ため … マ行下二段活用の動詞「たむ」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の終止形

林の木近ければ、爪木を拾ふに乏しからず。
林の木が近いので、薪用の木の小枝を拾うのに不自由しない。
・林 … 名詞
・の … 格助詞
・木 … 名詞
・近けれ … ク活用の形容詞「近し」の已然形
・ば … 接続助詞
・爪木(つまぎ) … 名詞
〇爪木 … 薪用の木の小枝
・を … 格助詞
・拾ふ … ハ行四段活用の動詞「拾ふ」の連体形
・に … 格助詞
・乏(とも)しから … シク活用の形容詞「乏し」の未然形
〇乏し … 不足している
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

名を音羽山といふ。
名前を音羽山という。
・名 … 名詞
・を … 格助詞
・音羽山(おとはやま) … 名詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の終止形

まさきのかづら、跡埋めり。
まさきのかずらが、人の通った足跡を覆い隠している。
・まさきのかづら … 名詞
・跡 … 名詞
〇跡 … 人の通った足跡
・埋(うず)め … マ行四段活用の動詞「埋む」の已然形
〇埋む … 覆い隠す
・り … 

谷しげけれど、西晴れたり。
谷は草木が生い茂っているが、西の方は広々としている。
・谷 … 名詞
・しげけれ … ク活用の形容詞「しげし」の已然形
〇しげし … 草や木が生い茂っている
・ど … 接続助詞
・西 … 名詞
・晴れ … ラ行下二段活用の動詞「晴る」の連用形
〇晴る … 広々としている
・たり … 存続の助動詞「たり」の終止形

観念のたよりなきにしもあらず。
西方浄土を思い浮かべる手掛かりがないというわけでもない。
・観念 … 名詞
・の … 格助詞
・たより … 名詞
〇観念のたより … 西方浄土を思い浮かべる手掛かり
・なき … ク活用の形容詞「なし」の連体形
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・しも … 副助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

春は藤波を見る。
春は波のように風に揺れる藤の花を見る。
・春 … 名詞
・は … 格助詞
・藤波(ふじなみ) … 名詞
〇藤波 … 波のように風に揺れる藤の花
・を … 格助詞
・見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の終止形

紫雲のごとくして、西方ににほふ。
紫雲のようであって、西方に美しく照り映える。
・紫雲 … 名詞
〇紫雲 … 極楽往生の際、来迎の阿弥陀如来や諸菩薩が乗ってくるという雲
・の … 格助詞
・ごとく … 比況の助動詞「ごとし」の連用形
・して … 接続助詞
・西方(さいほう) … 名詞
・に … 格助詞
・にほふ … ハ行四段活用の動詞「にほふ」の終止形
〇にほふ … 美しく照り映える

夏は郭公を聞く。
夏はホトトギスの鳴き声を聞く。
・夏 … 名詞
・は … 格助詞
・郭公(ほととぎす) … 名詞
・を … 格助詞
・聞く … カ行四段活用の動詞「聞く」の連用形

語らふごとに、死出の山路を契る。
鳴くたびに、冥土の道案内をしてくれるように頼む。
・語らふ … ハ行段四活用の動詞「語らふ」の連体形
・ごと … 接尾語、「~するたび」という意味を添える
・に … 格助詞
・死出(しで) … 名詞
・の … 格助詞
・山路(やまじ) … 名詞
・を … 格助詞
・契る … ラ行四段活用の動詞「契る」の終止形
〇死出の山路を契る … 冥土の道案内をしてくれるように頼む

秋はひぐらしの声、耳に満てり。
秋はひぐらしの声が、耳に満ちあふれる。
・秋 … 名詞
・は … 係助詞
・ひぐらし … 名詞
・の … 格助詞
・声 … 名詞
・耳 … 名詞
・に … 格助詞
・満て … タ行四段活用の動詞「満つ」の已然形
・り … 存続の助動詞「り」の終止形

うつせみの世を悲しむほど聞こゆ。
はかないこの世を悲しむように聞こえる。
・うつせみ … 名詞
・の … 格助詞
・世 … 名詞
〇うつせみの世 … はかないこの世
・を … 格助詞
・悲しむ … マ行四段活用の動詞「悲しむ」の連体形
・ほど … 名詞
・聞こゆ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の終止形

冬は雪をあはれぶ。
冬は雪をしみじみと趣深くながめる。
・冬 … 名詞
・は … 係助詞
・雪 … 名詞
・を … 格助詞
・あはれぶ … バ行四段活用の動詞「あはれぶ」の終止形
〇あはれぶ … 「あはれ」と思う

積もり消ゆるさま、罪障にたとへつべし。
積もったり消えたりする様子は、きっと罪障にたとえることができるに違いない。
・積もり … ラ行四段活用の動詞「積もる」の連用形
・消ゆる … ヤ行下二段活用の動詞「消ゆ」の連体形
・さま … 名詞
・罪障(ざいしよう) … 名詞
〇罪障 … 悟りの妨げとなる悪い行為
・に … 格助詞
・たとへ … ハ行下二段活用の動詞「たとふ」の連用形
・つ … 強意の助動詞「つ」の終止形
・べし … 可能の助動詞「べし」の終止形
つべし … きっと~できるに違いない

もし念仏もの憂く、読経まめならぬ時は、自ら休み、自ら怠る。
もし、念仏に気が進まず、読経に身が入らないときは、自分で休み、自分で怠ける。
・もし … 副詞
・念仏 … 名詞
・もの憂く … ク活用の形容詞「もの憂し」の連用形
〇もの憂し … なんとなく気が進まないさま
・読経(どきよう) … 名詞
・まめなら … ナリ活用の形容動詞「まめなり」の未然形
まめなり … 誠実である
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・とき … 名詞
・は … 係助詞
・自ら … 名詞
・休み … マ行四段活用の動詞「休む」の連用形
・自ら … 名詞
・怠る … ラ行四段活用の動詞「怠る」の終止形
怠る … なまける

さまたぐる人もなく、また、恥づべき人もなし。
妨げる人もなく、また、恥ずかしく思うような人もいない。
・さまたぐる … ガ行下二段活用の動詞「さまたぐ」の連体形
・人 … 名詞
・も … 係助詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・また … 接続詞
・恥づ … ダ行上二段活用の動詞「恥づ」の終止形
〇恥づ … 恥ずかしく思う
・べき … 当然の助動詞「べし」の連体形
・人 … 名詞
・も … 係助詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形

ことさらに無言をせざれども、独り居れば、
わざわざ無言の行をしないけれども、独りでいるから、
・ことさらに … ナリ活用の形容動詞「ことさらなり」の連用形
・無言 … 名詞
〇無言 … 一定期間無言でいる修行
・を … 格助詞
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・ざれ … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ども … 接続助詞
・独り … 名詞
・居れ … ラ行変格活用の動詞「居り」の已然形
・ば … 接続助詞

口業を修めつべし。
きっと言葉による罪から身を守れるに違いない。
・口業(くぎよう) … 名詞
〇口業 … 言葉による罪
・を … 格助詞
・修め … マ行下二段活用の動詞「修む」の連用形
〇修む … 平定する
・つ … 強意の助動詞「つ」の終止形
・べし … 可能の助動詞「べし」の終止形

必ず禁戒を守るとしもなくとも、
必ず禁戒を守るというのではなくても、
・必ず … 副詞
・禁戒 … 名詞
・を … 格助詞
・守る … ラ行四段活用の動詞「守る」の終止形
・と … 格助詞
・しも … 副助詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・とも … 接続助詞

境界なければ、何につけてか破らん。
(禁戒を破るような)環境がないので、何について破るのだろうか。
・境界(きようがい) … 名詞
〇境界 … 環境・境遇
・なけれ … ク活用の形容詞「なし」の已然形
・ば … 接続助詞
・何 … 代名詞
・に … 格助詞
・つけ … カ行下二段活用の動詞「つく」の連用形
・て … 接続助詞
・か … 係助詞・疑問
・破ら … ラ行四段活用の動詞「破る」の未然形
・ん … 推量の助動詞「ん(む)」の連体形(結び)

もし、跡の白波にこの身を寄する朝には、
もし、舟の航跡の白波にこの身のはかなさを近づけて思う朝には、
・もし … 副詞
・跡 … 名詞
・の … 格助詞
・白波 … 名詞
・に … 格助詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・身 … 名詞
・を … 格助詞
・寄する … サ行下二段活用の動詞「寄す」の連体形
〇寄す … 近づける
・朝(あした) … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞

岡屋に行きかふ船をながめて、満沙弥が風情を盗み、
岡屋に行き交う舟を眺めて、満沙弥の歌の風情を味わい、
・岡屋(おかのや) … 名詞
・に … 格助詞
・行きかふ … ハ行四段活用の動詞「行きかふ」の連体形
・船 … 名詞
・を … 格助詞
・ながめ … マ行下二段活用の動詞「ながむ」の連用形
・て … 接続助詞
・満沙弥(まんしやみ) … 名詞
・が … 格助詞
・風情 … 名詞
・を … 格助詞
・盗み … マ行四段活用の動詞「盗む」の連用形
〇盗む … 他人のものを許可なく自分のものにする

もし、桂の風、葉を鳴らす夕べには、
もし、楓に吹きつける風が、葉を鳴らす夕べには、
・もし … 副詞
・桂(かつら) … 名詞
・の … 格助詞
・風 … 名詞
・葉 … 名詞
・を … 格助詞
・鳴らす … サ行四段活用の動詞「鳴らす」の連用形
・夕べ … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞

尋陽の江を思ひやりて、源都督の行ひをならふ。
尋陽の江を思いやって、源都督にならって琵琶を弾く。
・尋陽(じんよう) … 名詞
・の … 格助詞
・江(え) … 名詞
・を … 格助詞
・思ひやり … ラ行四段活用の動詞「思ひやる」の連用形
・て … 接続助詞
・源都督(げんととく) … 名詞
・の … 格助詞
・行ひ … 名詞
・を … 格助詞
・ならふ … ハ行四段活用の動詞「ならふ」の終止形

もし、余興あれば、しばしば松の響きに
もし、興が尽きないときは、しばしば松を吹く風の音に合せて
・もし … 副詞
・余興 … 名詞
〇余興 … 尽きない感興
・あれ … ラ行変格活用の動詞「あり」の已然形
・ば … 接続助詞
・しばしば … 副詞
・松 … 名詞
・の … 格助詞
・響き … 名詞
・に … 格助詞

秋風楽をたぐへ、水の音に流泉の曲をあやつる。
秋風楽を演奏し、水の音に合せて流泉の曲を弾く。
・秋風楽(しゆうふうらく) … 名詞
・を … 格助詞
・たぐへ … ハ行下二段活用の動詞「たぐふ」の連用形
〇たぐふ … 添わせる
・水 … 名詞
・の … 格助詞
・音 … 名詞
・に … 格助詞
・流泉(りゆうせん) … 名詞
・の … 格助詞
・曲 … 名詞
・を … 格助詞
・あやつる … ラ行四段活用の動詞「あやつる」の終止形
〇あやつる … 道具や楽器をたくみに扱う

芸はこれ拙けれども、人の耳をよろこばしめんとにはあらず、
芸はたいそう劣るけれども、人の耳を喜ばせようというのではない、
・芸 … 名詞
・は … 係助詞
・これ … 代名詞
・拙(つたな)けれ … ク活用の形容詞「拙し」の已然形
〇拙し … 技能が不十分で劣る
・ども … 接続助詞
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・耳 … 名詞
・を … 格助詞
・よろこば … バ行四段活用の動詞「よろこぶ」の未然形
・しめ … 使役の助動詞「しむ」の未然形
・ん … 意志の助動詞「ん(む)」の終止形
・と … 格助詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・は … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

独り調べ、独り詠じて、自ら情を養ふばかりなり。
独りで演奏し、独りで詠んで、自分の心を慰めるだけなのだ。
・独り … 名詞
・調べ … バ行下二段活用の動詞「調ぶ」の連用形
・独り … 名詞
・詠じ … サ行変格活用の動詞「詠ず」の連用形
・て … 接続助詞
・自ら … 名詞
・情(こころ) … 名詞
・を … 格助詞
・養ふ … ハ行四段活用の動詞「養ふ」の連体形
〇養ふ … 養生する
・ばかり … 副助詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

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