去年の夏、竹植うる日のころ、うき節しげきうき世に生まれたる娘、
去年の夏、竹を植える日の頃、つらい事柄が多い世の中に生まれた娘、
・去年(こぞ) … 名詞
・の … 格助詞
・夏 … 名詞
・竹 … 名詞
・植うる … ワ行下二段活用の動詞「植う」の連体形
・日 … 名詞
・の … 格助詞
・ころ … 名詞
・うき節(ふし) … 名詞
〇うし … つらい
〇節 … 事柄
・しげき … ク活用の形容詞「しげし」の連体形
〇しげし … たくさんある
・うき世 … 名詞
〇うき世 … 世の中
・に … 格助詞
・生まれ … ラ行下二段活用の動詞「生まる」の連用形
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・娘 … 名詞
おろかにしてものにさとかれとて、名前をさとと呼ぶ。
理知的ではなくて物事に敏感であれと思って、名前をさとと呼ぶ。
・おろかに … ナリ活用の形容動詞「おろかなり」の連用形
〇おろかなり … 知力が劣っている
・して … 接続助詞
・もの … 名詞
・に … 格助詞
・さとかれ … ク活用の形容詞「さとし」の命令形
〇さとし … 敏感である
・とて … 格助詞
・名 … 名詞
・を … 格助詞
・さと … 名詞
・と … 格助詞
・呼ぶ … バ行四段活用の動詞「呼ぶ」の終止形
今年誕生日祝ふころほひより、てうちてうちあはは、
今年誕生日を祝う頃から、チョーチチョーチアワワ、
・今年 … 名詞
・誕生日 … 名詞
・祝ふ … ハ行四段活用の動詞「祝ふ」の連体形
・ころほひ … 名詞
・より … 格助詞
・てうちてうち … 名詞
・あはは … 名詞
おつむてんてん、かぶりかぶり振りながら、
オツムテンテン、カブリカブリ(と頭を)振りながら、
・おつむてんてん … 名詞
・かぶりかぶり … 名詞
・振り … ラ行四段活用の動詞「振る」の連用形
・ながら … 接続助詞
同じ子どもの風車といふものを持てるを、
同様の子どもが風車というものを持っているのを、
・同じ … シク活用の形容詞「同じ」の連体形
・子ども … 名詞
・の … 格助詞
・風車 … 名詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・もの … 名詞
・を … 格助詞
・持て … タ行四段活用動詞「持つ」已然形(命令形)
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・を … 格助詞
しきりに欲しがりてむづかれば、とみに取らせけるを、
むやみに欲しがって駄々をこねるので、すぐに与えたところ、
・しきりに … 副詞
〇しきりに … むやみに
・欲しがり … ラ行四段活用の動詞「欲しがる」の連用形
〇欲し … シク活用の形容詞「欲し」の語幹
〇がる … 接尾語、気持ちを態度に表すという意を添える
・て … 接続助詞
・むづかれ … ラ行四段活用の動詞「むづかる」の已然形
〇むづかる … 幼児が駄々をこねる
・ば … 接続助詞
・とみに … 副詞
〇とみに … すぐに
・取らせ … サ行下二段活用の動詞「取らす」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・を … 接続助詞
やがてむしやむしやしやぶつて捨て、つゆほどの執念なく、
そのうちにむしゃむしゃとしゃぶって捨て、ほんの少しの執着心もなく、
・やがて … 副詞
〇やがて … そのうちに
・むしやむしや … 副詞
・しやぶつ … ラ行四段活用の動詞「しやぶる」の連用形、促音便
・て … 接続助詞
・捨て … タ行下二段活用の動詞「捨つ」の連用形
・つゆ … 名詞
・ほど … 副助詞
〇つゆほど … ほんの少し
・の … 格助詞
・執念 … 名詞
〇執念 … 執着する心
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
ただちにほかの物に心移りて、そこらにある茶碗を打ち破りつつ、
すぐに他の物に心が移って、その辺りにある茶碗をひどく壊しながら、
・ただちに … 副詞
〇ただちに … すぐに
・ほか … 名詞
・の … 格助詞
・物 … 名詞
・に … 格助詞
・心 … 名詞
・移り … ラ行四段活用の動詞「移る」の連用形
・て … 接続助詞
・そこら … 代名詞
〇ら … 接尾語、ものごとを漠然と示す意を表す
・に … 格助詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・茶碗(ちやわん) … 名詞
・を … 格助詞
・打ち破り … ラ行四段活用の動詞「打ち破る」の連用形
〇打ち … 接頭語、下の動詞の意味を強める
〇破る … 破壊する
・つつ … 接続助詞
それもただちに飽きて、障子の薄紙をめりめりむしるに、
それもすぐに飽いて、障子の薄紙をめりめりとむしるので、
・それ … 代名詞
・も … 係助詞
・ただちに … 副詞
・飽き … カ行四段活用の動詞「飽く」の連用形
・て … 接続助詞
・障子 … 名詞
・の … 格助詞
・薄紙 … 名詞
・を … 格助詞
・めりめり … 副詞
・むしる … ラ行四段活用の動詞「むしる」の連体形
・に … 接続助詞
「よくした、よくした。」と褒むれば、まことと思ひ、
「よくやった、よくやった。」と褒めると、本当(によくやったのだ)と思い、
・よく … 副詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・た … 完了の助動詞「た」の終止形
・よく … 副詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・た … 完了の助動詞「た」の終止形
・と … 格助詞
・褒(ほ)むれ … マ行下二段活用の動詞「褒む」の已然形
・ば … 接続助詞
・まこと … 名詞
〇まこと … 本当
・と … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
きやらきやらと笑ひて、ひたむしりにむしりぬ。
きゃらきゃらと笑って、ひたすらむしりにむしった。
・きゃらきゃらと … 副詞
・笑ひ … ハ行四段活用の動詞「笑ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・ひたむしり … ラ行四段活用動詞「ひたむしる」の連用形
〇ひた … 接頭語、「ひたすら」の意を添える
・に … 格助詞
・むしり … ラ行四段活用の動詞「むしる」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
心のうち一点の塵もなく、名月のきらきらしく清く見ゆれば、
心のうちに一点の汚れもなく、名月のようにきらきら光って清らかに見えるので、
・心 … 名詞
・の … 格助詞
・うち … 名詞
・一点 … 名詞
・の … 格助詞
・塵(ちり) … 名詞
〇塵 … ほんの少しの汚れ
・も … 係助詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・名月 … 名詞
・の … 格助詞
・きらきらしく … シク活用の形容詞「きらきらし」の連用形
〇きらきらし … きらきら光っているさま
・清く … ク活用の形容詞「清し」の連用形
・見ゆれ … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の已然形
・ば … 接続助詞
あとなき俳優見るやうに、なかなか心の皺を伸ばしぬ。
比類ない役者を見るようで、ずいぶん晴れやかな気分になった。
・あとなき … ク活用の形容詞「あとなし」の連体形
〇あとなし … 比類がない
・俳優(わざおぎ) … 名詞
〇俳優 … 役者、様々な芸をして人を喜ばせる人
・見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・やうに … 比況の助動詞「やうなり」の連用形
・なかなか … 副詞
〇なかなか … ずいぶん
・心 … 名詞
・の … 格助詞
・皺(しわ) … 名詞
・を … 格助詞
・伸ばし … サ行四段活用の動詞「伸ばす」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
〇心の皺を伸ばす … 心の中の悩み、苦しみ、ストレスなどが解消する
また、人の来たりて、「わんわんはどこに。」と言へば犬に指さし、
また、人がやって来て、「わんわんはどこに。」と言うと犬を指さし、
・また … 接続詞
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・来たり … ラ行四段活用の動詞「来たる」の連用形
・て … 接続助詞
・わんわん … 名詞
・は … 係助詞
・どこ … 代名詞
・に … 格助詞
・と … 格助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・ば … 接続助詞
・犬 … 名詞
・に … 格助詞
・指さし … サ行四段活用の動詞「指さす」の連用形
「かあかあは。」と問へば烏に指さすさま、
「かあかあは。」と尋ねるとカラスを指さす様子は、
・かあかあ … 名詞
・は … 係助詞
・と … 格助詞
・問へ … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の已然形
・ば … 接続助詞
・烏(からす) … 名詞
・に … 格助詞
・指さす … サ行四段活用の動詞「指さす」の連体形
・さま … 様子
口もとより爪先まで、愛嬌こぼれて愛らしく、
口もとから爪先まで、愛嬌があふれ出てかわいらしく、
・口もと … 名詞
・より … 格助詞
・爪先 … 名詞
・まで … 副助詞
・愛嬌(あいきよう) … 名詞
・こぼれ … ラ行下二段活用の動詞「こぼる」の連用形
〇こぼる … あふれ出る
・て … 接続助詞
・愛らしく … シク活用の形容詞「愛らし」の連用形
いはば春の初草に胡蝶の戯るるよりもやさしくなんおぼえ侍る。
言ってみれば春の初草に蝶が戯れるよりも優美に思われるます。
・いは … ハ行四段活用動詞「いふ」未然形
・ば … 接続助詞
〇いはば … 言ってみれば
・春 … 名詞
・の … 名詞
・初草 … 名詞
・に … 格助詞
・胡蝶(こちよう) … 名詞
・の … 格助詞
・戯(たわむ)るる … ラ行下二段活用の動詞「戯る」の連体形
・より … 格助詞
・も … 係助詞
・やさしく … シク活用の形容詞「やさし」の連用形
〇やさし … 優美である
・なん … 係助詞・強意
・おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連用形
・侍(はべ)る … ラ行変格活用の動詞「侍り」の連体形(結び)
〇侍る … 丁寧の補助動詞 ⇒ 作者から読者への敬意
この幼、仏の守りし給ひけん、逮夜の夕暮れに、
この幼子は、仏が守護なされたのだろう、命日の前夜の夕暮れに、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・幼(おさな) … 名詞
・仏 … 名詞
・の … 格助詞
・守り … 名詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・給(たま)ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
・けん … 過去推量の助動詞「けん」の連体形
・逮夜(たいや) … 名詞
〇逮夜 … 命日の前夜、亡くなった人の忌日の前夜
・の … 格助詞
・夕暮れ … 名詞
・に … 格助詞
持仏堂に蠟燭照らして錀打ち鳴らせば、どこにゐてもいそがはしく這ひ寄りて、
仏壇に蠟燭をともして鈴を鳴らすと、どこにいても忙しそうに這い寄って、
・持仏堂(じぶつどう) … 名詞
〇持仏堂 … 仏壇
・に … 格助詞
・蠟燭(ろうそく) … 名詞
・照らし … サ行四段活用の動詞「照らす」の連用形
・て … 接続助詞
・錀(りん) … 名詞
〇錀 … 鈴
・打ち鳴らせ … サ行四段活用の動詞「打ち鳴らす」の已然形
〇打ち … 接頭語、語調を整えるためのもの
・ば … 接続助詞
・どこ … 代名詞
・に … 格助詞
・ゐ … ワ行上一段活用の動詞「ゐる」の連用形
・て … 接続助詞
・も … 係助詞
・いそがはしく … シク活用の形容詞「いそがはし」の連用形
〇いそがはし … 忙しそうである
・這(は)ひ寄り … ラ行四段活用の動詞「這ひ寄る」の連用形
・て … 接続助詞
早蕨の小さき手を合はせて、「なんむなんむ。」と唱ふ声、
早蕨のような小さな手を合わせて、「南無南無。」と唱える声が、
・早蕨(さわらび) … 名詞
・の … 格助詞
・小さき … ク活用の形容詞「小さし」の連体形
・手 … 名詞
・を … 格助詞
・合はせ … サ行下二段活用の動詞「合はす」の連用形
・て … 接続助詞
・なんむなんむ … 名詞
・と … 格助詞
・唱ふ … ハ行四段活用の動詞「唱ふ」の終止形
・声 … 名詞
しをらしく、ゆかしく、なつかしく、殊勝なり。
愛らしく、慕わしく、いとしく、けなげである。
・しをらしく … シク活用の形容詞「しをらし」連の用形
〇しをらし … 愛らしい
・ゆかしく … シク活用の形容詞「ゆかし」の連用形
〇ゆかし … 慕わしい
・なつかしく … シク活用の形容詞「なつかし」の連用形
〇なつかし … いとしい
・殊勝(しゆしよう)なり … ナリ活用の形容動詞「殊勝なり」の終止形
〇殊勝なり … けなげなさま
それにつけても、おのれ、頭にはいくらの霜をいただき、
それにつけても、自分は、頭には多くの霜(のような白髪)を上にのせ、
・それ … 代名詞
・に … 格助詞
・つけ … カ行下二段活用の動詞「つく」の連用形
・て … 接続助詞
・も … 係助詞
・おのれ … 代名詞
・頭(かしら) … 名詞
・には … 格助詞
・いくら … 副詞
・の … 格助詞
〇いくらの … 多くの
・霜 … 名詞
・を … 格助詞
・いただき … カ行四段活用の動詞「いただく」の連用形
〇いただく … 頭の上にのせる
額にはしわしわ波の寄せ来る齢にて、弥陀頼むすべも知らで、
額には皺が波のように寄せて来る年齢であって、阿弥陀如来にすがる方法も知らないで、
・額 … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・しわしわ … 副詞
・波 … 名詞
・の … 格助詞
・寄せ来る … カ行変格活用の動詞「寄せ来」の連体形
・齢(よわい) … 名詞
・に … 格助詞
・て … 接続助詞
・弥陀(みだ) … 名詞
〇弥陀 … 阿弥陀如来
・頼む … マ行四段活用の動詞「頼む」の連体形
〇頼む … 頼りにする
・すべ … 名詞
〇すべ … 方法
・も … 係助詞
・知ら … ラ行四段活用の動詞「知る」の未然形
・で … 接続助詞
うかうか月日を費やすこそ、二つ子の手前も恥づかしけれと思ふも、
うかうかと月日を費やしていることは、二歳の子の手前も恥ずかしいと思うのだが、
・うかうか … 副詞
・月日 … 名詞
・を … 格助詞
・費やす … サ行四段活用の動詞「費やす」の連体形
・こそ … 係助詞・強意
・二つ子 … 名詞
〇二つ子 … 二歳の子
・の … 格助詞
・手前 … 名詞
・も … 係助詞
・恥ずかしけれ … シク活用の形容詞「恥ずかし」の已然形(結び)
・と … 格助詞
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・も … 接続助詞
その座を退けば、はや地獄の種をまきて、膝に群がる蠅をにくみ、
その場所を離れると、もう地獄に落ちる原因を作って、膝に群がる蠅を憎み、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・座 … 名詞
〇座 … すわる場所
・を … 格助詞
・退(の)け … カ行四段活用動詞「退く」の已然形
〇退く … ひきさがる
・ば … 接続助詞
・はや … 副詞
〇はや … はやくも、もう
・地獄 … 名詞
・の … 格助詞
・種 … 名詞
・を … 格助詞
・まき … カ行四段活用の動詞「まく」の連用形
〇種をまく … 物事の原因を作る
・て … 接続助詞
・膝 … 名詞
・に … 格助詞
・群がる … ラ行四段活用の動詞「群がる」の連体形
・蠅(はえ) … 名詞
・を … 格助詞
・にくみ … マ行四段活用の動詞「にくむ」の連用形
〇「その座」とは、どのような所か。 ⇒ すわって仏様にお祈りする場所。
膳を巡る蚊をそしりつつ、あまつさへ仏の戒めし酒を飲む。
膳の周囲を飛び回る蚊を悪く言いながら、さらに仏の戒めた酒を飲む。
・膳(ぜん) … 名詞
・を … 格助詞
・巡る … ラ行四段活用の動詞「巡る」の連体形
〇巡る … 周囲をまわる
・蚊 … 名詞
・を … 格助詞
・そしり … ラ行四段活用の動詞「そしる」の連用形
〇そしる … 悪口を言う
・つつ … 接続助詞
・あまつさへ … 副詞
〇あまつさへ … あることの上に、さらに付け加わるさま
・仏 … 名詞
・の … 格助詞
・戒(いまし)め … マ行下二段活用の動詞「戒む」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・酒 … 名詞
・を … 格助詞
・飲む … マ行四段活用の動詞「飲む」の終止形
折から門に月さして、いと涼しく、外に童べの踊りの声のすれば、
ちょうどその時に門に月の光がさして、とても涼しく、外に子どもの踊りの声がすると、
・折から … 副詞
〇折から … ちょうどその時に
・門 … 名詞
・に … 格助詞
・月 … 名詞
・さし … サ行四段活用の動詞「さす」の連用形
・て … 接続助詞
・いと … 副詞
・涼しく … シク活用の形容詞「涼し」の連用形
・外 … 名詞
・に … 格助詞
・童(わらわ)べ … 名詞
・の … 格助詞
・踊り … 名詞
・の … 格助詞
・声 … 名詞
・の … 格助詞
・すれ … サ行変格活用の動詞「す」の已然形
・ば … 接続助詞
ただちに小椀投げ捨てて、片ゐざりにゐざり出て、
すぐに小さな椀を投げ捨てて、這いに這って出てきて、
・ただちに … 副詞
〇ただちに …
・小椀(おわん) … 名詞
・投げ捨て … タ行下二段活用の動詞「投げ捨つ」の連用形
・て … 接続助詞
・片ゐざり … 名詞
〇片ゐざり … 幼児がはって進むこと
・に … 格助詞
・ゐざり出 … ダ行下一段活用の動詞「ゐざり出る」の連用形
・て … 接続助詞
声を上げ、手まねして、うれしげなるを見るにつけつつ、
声を上げ、手まねをして、うれしそうなのを見るといつも、
・声 … 名詞
・を … 格助詞
・上げ … ガ行下二段活用の動詞「上ぐ」の連用形
・手まね … 名詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・うれしげなる … ナリ活用の形容動詞「うれしげなり」の連体形
・を … 格助詞
・見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・に … 格助詞
・つけ … カ行下二段活用の動詞「つく」の連用形
・つつ … 接続助詞
いつしかかれをも振り分け髪の丈になして、踊らせて見たらんには、
早くこの子をも振り分け髪のできる背丈にして、踊らせて(その姿を)見たとしたら、
・いつしか … 副詞
〇いつしか … 早く
・かれ … 代名詞
〇かれ … 話題になっている人
・を … 格助詞
・も … 係助詞
・振り分け髪 … 名詞
・の … 格助詞
・丈 … 名詞
・に … 格助詞
・なし … サ行四段活用の動詞「なす」の連用形
〇なす … ~にする
・て … 接続助詞
・踊ら … ラ行四段活用の動詞「踊る」の未然形
・せ … 使役の助動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・たら … 完了の助動詞「たり」の未然形
・ん … 仮定の助動詞「ん」の連体形
・に … 格助詞
・は … 係助詞
二十五菩薩の管絃よりも、はるか勝りて興あるわざならんと、
二十五菩薩の演奏する音楽よりも、ずっと勝って面白みのある芸であるだろうと、
・二十五菩薩(ぼさつ) … 名詞
・の … 格助詞
・管絃(かんげん) … 名詞
〇管絃 … 演奏する音楽
・より … 格助詞
・も … 係助詞
・はるか … 副詞
・勝り … ラ行四段活用の動詞「勝る」の連用形
・て … 接続助詞
・興 … 名詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
〇興あり … 面白みがある
・わざ … 名詞
〇わざ … 技芸
・なら … 断定の助動詞「なり」の未然形
・ん … 推量の助動詞「ん」の終止形
・と … 格助詞
わが身に積もる老いを忘れて、憂さをなん晴らしける。
わが身に積み重なる老いを忘れて、つらい気持ちを晴らしたことだ。
・わ … 代名詞
・が … 格助詞
・身 … 名詞
・に … 格助詞
・積もる … ラ行四段活用の動詞「積もる」の連体形
〇積もる … 積み重なる
・老い … 名詞
・を … 格助詞
・忘れ … ラ行四段活用の動詞「忘る」の連用形
・て … 接続助詞
・憂さ … 名詞
〇憂さ … つらいこと、心苦しいこと
・を … 格助詞
・なん … 係助詞・強意
・晴らし … サ行四段活用の動詞「晴らす」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)
かく日すがら、牡鹿の角のつかの間も、
このように一日じゅう、(夏の)牡鹿の角のようにきわめて短い時間も、
・かく … 副詞
・日すがら … 副詞
〇すがら … 接尾語、〜じゅう
・牡鹿(おじか) … 名詞
・の … 格助詞
・角 … 名詞
・の … 格助詞
〇牡鹿の角の … 「つかの間」を導く序詞(夏の牡鹿の角が非常に短いことから)
・つかの間 … 名詞
〇つかの間 … きわめて短い時間
・も … 係助詞
手足を動かさずといふことなくて、
手足を動かさないということがなくて、
・手足 … 名詞
・を … 格助詞
・動かさ … サ行四段活用の動詞「動かす」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ぬ」の連用形
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・こと … 名詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・て … 接続助詞
遊び疲れるものから、朝は日のたけるまで眠る。
遊び疲れるので、朝は日が高くなるまで眠る。
・遊び疲れる … 下一段活用動詞「遊び疲れる」の連体形
・ものから … 接続助詞
〇ものから … 〜だから
・朝 … 名詞
・は … 係助詞
・日 … 名詞
・の … 格助詞
・たける … カ行下一段活用の動詞「たける」の連体形
〇たける … 高くなる
・まで … 副助詞
・眠る … ラ行四段活用の動詞「眠る」の終止形
そのうちばかり母は正月と思ひ、飯炊き、そこら掃きかたづけて、
その間だけ母は正月と思い、飯を炊き、その辺りを掃きかたづけて、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・うち … 名詞
〇うち … 間
・ばかり … 副助詞
・母 … 名詞
・は … 係助詞
・正月 … 名詞
・と … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・飯 … 名詞
・炊き … カ行四段活用の動詞「炊く」の連用形
・そこら … 代名詞
〇ら … 接尾語
・掃きかたづけ … カ行下一段活用の動詞「掃きかたづける」の連用形
・て … 接続助詞
〇「正月」とは、どのような様子か。 ⇒ 赤ちゃんの世話から解放されて、家事を手早く処理し、少し休みながら次の世話に備えている様子。
団扇ひらひら汗をさまして、閨に泣き声のするのを目の覚める合図とさだめ、
団扇をひらひらさせ汗を冷まして、寝室で泣き声がするのを目が覚める合図と決め、
・団扇(うちわ) … 名詞
・ひらひら … 副詞
・汗 … 名詞
・を … 格助詞
・さまし … サ行四段活用の動詞「さます」の連用形
・て … 接続助詞
・閨(ねや) … 名詞
〇閨 … 寝室
・に … 格助詞
・泣き声 … 名詞
・の … 格助詞
・する … サ行変格活用の動詞「す」の連体形
・を … 格助詞
・目 … 名詞
・の … 格助詞
・覚める … マ行下一段活用の動詞「覚める」の連体形
・合図 … 名詞
・と … 格助詞
・さだめ … マ行下二段活用の動詞「さだむ」の連用形
〇さだむ … 決める
手かしこく抱き起こして、裏の畑に尿やりて、
手早く抱き起こして、裏の畑でおしっこさせて、
・手かしこく … ク活用の形容詞「手かしこし」の連用形
〇手かしこし … 手早い
・抱き起こし … サ行四段活用の動詞「抱き起こす」の連用形
・て … 接続助詞
・裏 … 名詞
・の … 格助詞
・畑 … 名詞
・に … 格助詞
・尿(しと) … 名詞
・やり … ラ行四段活用の動詞「やる」の連用形
〇やる … 出させる
・て … 接続助詞
乳房あてがへば、すはすは吸ひながら、
乳房をあてがうと、すはすは吸いながら、
・乳房 … 名詞
・あてがへ … ハ行四段活用の動詞「あてがふ」の已然形
・ば … 接続助詞
・すはすは … 副詞
・吸ひ … ハ行四段活用の動詞「吸ふ」の連用形
・ながら … 接続助詞
胸板のあたりを打ちたたきて、にこにこ笑ひ顔を作るに、
胸板のあたりを軽くたたいて、にこにこ笑ひ顔を作ると、
・胸板 … 名詞
・の … 格助詞
・あたり … 名詞
・を … 格助詞
・打ちたたき … カ行四段活用の動詞「打ちたたく」の連用形
〇打ち … 接頭語、動詞の上に付いて動詞に種々の意味を添える
・て … 接続助詞
・にこにこ … 副詞
・笑ひ顔 … 名詞
・を … 格助詞
・作る … ラ行四段活用の動詞「作る」の連体形
・に … 接続助詞
母は長々胎内の苦しびも、日々襁褓の汚らしきも、
母は長い間胎内(に娘がいた時)の苦しみも、毎日おむつがとても汚いのも、
・母 … 名詞
・は … 係助詞
・長々 … 副詞
・胎内 … 名詞
・の … 格助詞
・苦(くる)しび … 名詞
・も … 係助詞
・日々 … 名詞
・襁褓(むつき) … 名詞
〇襁褓 … おむつ
・の … 格助詞
・汚(きたな)らしき … シク活用の形容詞「汚らし」の連体形
〇汚らし … とても汚いさま
・も … 係助詞
ほとほと忘れて、衣の裏の玉を得たるやうに、
ほとんど忘れて、この上ない宝を得たように、
・ほとほと … 副詞
〇ほとほと … ほとんど
・忘れ … ラ行下二段活用の動詞「忘る」の連用形
・て … 接続助詞
・衣 … 名詞
・の … 格助詞
・裏 … 名詞
・の … 格助詞
・玉 … 名詞
〇衣の裏の玉 … この上ない宝
・を … 格助詞
・得(え) … ア行下二段活用の動詞「得(う)」の連用形
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・やうに … 比況の助動詞「やうなり」の連用形
なでさすりて、ひとしほ喜ぶありさまなりけらし。
なでさすって、よりいっそう喜ぶ様子であることよ。
・なでさすり … ラ行四段活用の動詞「なでさする」の連用形
・て … 接続助詞
・ひとしほ … 副詞
〇ひとしほ … よりいっそう
・喜ぶ … バ行四段活用の動詞「喜ぶ」の連体形
・ありさま … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の連用形
・けらし … 詠嘆の助動詞「けらし」の終止形
蚤の跡数へながらに添え乳かな 一茶
蚤が(娘の血を吸った)跡を数えながら添い寝したまま乳を飲ませているなあ 一茶
・蚤(のみ) … 名詞
・の … 格助詞
・跡 … 名詞
・数へ … ハ行下二段活用の動詞「数ふ」の連用形
・ながら … 接続助詞
・に … 格助詞
・添え乳 … 名詞
・かな … 終助詞・詠嘆
・一茶 … 名詞