平泉・奥の細道

三代の栄耀一睡のうちにして、
藤原氏三代の栄華も一睡の間のものであって、
・三代 … 名詞
・の … 格助詞
・栄耀(えよう) … 名詞
・一睡(いつすい) … 名詞
・の … 格助詞
・うち … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・して … 接続助詞

大門の跡は一里こなたにあり。
南大門の跡は一里手前にある。
・大門(だいもん) … 名詞
・の … 格助詞
・跡 … 名詞
・は … 係助詞
・一里 … 名詞
・こなた … 代名詞
・に … 格助詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形

秀衡が跡は田野になりて、金鶏山のみ形を残す。
秀衡の館の跡は田野になって、金鶏山だけが昔の形を残している。
・秀衡(ひでひら) … 名詞
・が … 格助詞
・跡 … 名詞
・は … 係助詞
・田野 … 名詞
・に … 格助詞
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・て … 接続助詞
・金鶏山(きんけいざん) … 名詞
・のみ … 副助詞
・形 … 名詞
・を … 格助詞
・残す … サ行四段活用の動詞「残す」の終止形

まづ高館に登れば、北上川、南部より流るる大河なり。
まず高館に登ると、北上川は、南部地方から流れてくる大河である。
・まづ … 副詞
・高館(たかだち) … 名詞
・に … 格助詞
・登れ … ラ行四段活用の動詞「登る」の已然形
・ば … 接続助詞
・北上川 … 名詞
・南部 … 名詞
・より … 格助詞
・流るる … ラ行下二段活用の動詞「流る」の連体形
・大河 … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

衣川は和泉が城を巡りて、高館の下にて大河に落ち入る。
衣川は和泉が城の周囲を回って流れ、高館の下で北上川に流れ込んでいる。
・衣川(ころもがわ) … 名詞
・は … 係助詞
・和泉(いずみ)が城(じよう) … 名詞
・を … 格助詞
・巡り … ラ行四段活用の動詞「巡る」の連用形
・て … 接続助詞
・高館 … 名詞
・の … 格助詞
・下(もと) … 名詞
・にて … 格助詞
・大河 … 名詞
・に … 格助詞
・落ち入る … ラ行四段活用の動詞「落ち入る」の終止形

泰衡らが旧跡は、衣が関を隔てて
泰衡たちの旧跡は、衣が関を隔てて
・泰衡(やすひら)ら … 名詞
・が … 格助詞
・旧跡 … 名詞
・は … 係助詞
・衣(ころも)が関 … 名詞
・を … 格助詞
・隔て … タ行下二段活用の動詞「隔つ」の連用形
・て … 接続助詞

南部口をさし固め、夷を防ぐと見えたり。
南部口の守りを固め、夷の侵入を防いでいるように見える。
・南部口 … 名詞
・を … 格助詞
・さし固め … マ行下二段活用の動詞「さし固む」連用形
・夷(えぞ) … 名詞
・を … 格助詞
・防ぐ … ガ行四段活用の動詞「防ぐ」の終止形
・と … 格助詞
・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の終止形

さても、義臣すぐつてこの城にこもり、
それにしても、忠義の家臣を選び出してこの城にたてこもって戦い、
・さても … 接続詞
・義臣 … 名詞
・すぐつ … ラ行四段活用の動詞「すぐる」連用形
○すぐる … 優れたものを選び出す
・て … 接続助詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・城(じよう) … 名詞
・に … 格助詞
・こもり … ラ行四段活用の動詞「こもる」の連用形

功名一時の草むらとなる。
功名を競ったが、それも一時のもので、今では草むらとなっている。
・功名 … 名詞
・一時 … 名詞
・の … 格助詞
・草むら … 名詞
・と … 格助詞
・なる … ラ行四段活用の動詞「なる」の終止形

「国破れて山河あり、
「国都は破壊されてしまったが、山や川はもとのままである。
・国 … 名詞
・破れ … ラ行下二段活用の動詞「破る」の連用形
・て … 接続助詞
・山河 … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形

城春にして草青みたり。」と、
町は春を迎え、草木が生い茂っている。」と、
・城 … 名詞
・春 … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・して … 接続助詞
・草 … 名詞
・青み … マ行四段活用の動詞「青む」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の終止形
・と … 格助詞

笠うち敷きて、時の移るまで涙を落とし侍りぬ。
笠を地面に置いて、いつまでも涙を流しました。
・笠(かさ) … 名詞
・うち敷き … カ行四段活用の動詞「うち敷く」の連用形
・て … 接続助詞
・時 … 名詞
・の … 格助詞
・移る … ラ行四段活用の動詞「移る」の連体形
○移る … 過ぎる
・まで … 副助詞
・涙 … 名詞
・を … 格助詞
・落とし … サ行四段活用の動詞「落とす」の連用形
・侍(はべ)り … ラ行変格活用の丁寧の補助動詞「侍り」の連用形
侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ 筆者から読者への敬意
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
涙を流した理由 ⇒ 一面の草むらに人間の営みのはかなさを感じたから

  夏草や兵どもが夢の跡
  夏草が生い茂っている。ここは武士たちが功名のために戦い、はかなく夢が消えたところなのだ。
  ・夏草 … 名詞
  ・や … 間投助詞
  ・兵(つわもの)ども … 名詞
  ・が … 格助詞
  ・夢 … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・跡 … 名詞
  ○季語「夏草」、季節「夏」、切れ字「や」
  ○作者の気持ち ⇒ 自然は永遠に続くが、人間の営みははかなく消え去ってしまう、という感慨

  卯の花に兼房見ゆる白毛かな
  白い卯の花を見ていると、白髪を振り乱して奮戦する兼房の姿が目に前に浮かんでくる。
  ・卯(う)の花 … 名詞
  ・に … 格助詞
  ・兼房(かねふさ) … 名詞
  ・見ゆる … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の連体形
  ・白毛(しらが) … 名詞
  ・かな … 終助詞
  ○季語「卯の花」、季節「夏」、切れ字「かな」

かねて耳驚かしたる二堂開帳す。
以前からうわさに聞いて驚いていた二堂が開帳している。
・かねて … 副詞
○かねて … 前もって
・耳 … 名詞
・驚かし … サ行四段活用の動詞「驚かす」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・二堂 … 名詞
・開帳す … サ行変格活用の動詞「開帳す」の終止形

経堂は三将の像を残し、
経堂には三代の将軍の像があり、
・経堂(きようどう) … 名詞
・は … 係助詞
・三将 … 名詞
・の … 格助詞
・像 … 名詞
・を … 格助詞
・残し … サ行四段活用の動詞「残す」の連用形

光堂は三代の棺を納め、三尊の仏を安置す。
光堂は三代の棺を納め、三尊の仏を安置する。
・光堂(ひかりどう) … 名詞
・は … 係助詞
・三代 … 名詞
・の … 格助詞
・棺(ひつぎ) … 名詞
・を … 格助詞
・納め … マ行下二段活用の動詞「納む」の連用形
・三尊 … 名詞
・の … 格助詞
・仏 … 名詞
・を … 格助詞
・安置(あんぢ)す … サ行変格活用の動詞「安置す」の終止形

七宝散り失せて、珠の扉風に破れ、
七宝は散り失せて、珠玉を散りばめた扉も風のために壊れ、
・七宝(しつぽう) … 名詞
○七宝 … 七種の宝物
・散り失(う)せ … サ行下二段活用の動詞「散り失す」連用形
・て … 接続助詞
・珠(たま) … 名詞
○珠 … 美しい丸い小石の総称
・の … 格助詞
・扉 … 名詞
・風 … 名詞
・に … 格助詞
・破れ … ラ行下二段活用の動詞「破る」の連用形

金の柱霜雪に朽ちて、
金箔を貼った柱も霜や雪に朽ちて、
・金(こがね) … 名詞
・の … 格助詞
・柱 … 名詞
・霜雪(そうせつ) … 名詞
・に … 格助詞
・朽(く)ち … タ行上二段活用の動詞「朽つ」の連用形
○朽つ … くさる
・て … 接続助詞

すでに頽廃空虚の草むらとなるべきを、
今にもくずれて何もない草むらになってしまうはずのところを、
・すでに … 副詞
・頽廃(たいはい) … 名詞
○頽廃 … くずれてだめになること
・空虚(くうきよ) … 名詞
・の … 格助詞
・草むら … 名詞
・と … 格助詞
・なる … ラ行四段活用の動詞「なる」の終止形
・べき … 当然の助動詞「べし」の連体形
・を … 接続助詞

四面新たに囲みて、甍を覆ひて風雨をしのぐ。
四方を新しく囲んで、瓦ぶきの屋根で覆って風雨を防いでいる。
・四面 … 名詞
・新たに … ナリ活用の形容動詞「新たなり」の連用形
・囲み … マ行四段活用の動詞「囲む」の連用形
・て … 接続助詞
・甍(いらか) … 名詞
○甍 … 瓦ぶきの屋根
・を … 格助詞
・覆(おお)ひ … ハ行四段活用の動詞「覆ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・風雨 … 名詞
・を … 格助詞
・しのぐ … ガ行四段活用の動詞「しのぐ」の終止形

しばらく千歳の記念とはなれり。
しばらくは遠い昔をしのぶ記念物となっている。
・しばらく … 
「しばらく」である理由 ⇒ 人間の営みによるものは、いずれは消え去るから
・千歳(せんざい) … 名詞
○千歳 … 長い年月
・の … 格助詞
・記念(かたみ) … 名詞
・と … 格助詞
・は … 係助詞
・なれ … ラ行四段活用の動詞「なる」の命令形
・り … 存続の助動詞「り」の終止形

  五月雨の降り残してや光堂
  長年の間、五月雨は光堂を避けて降ったのだろうか。今も、光堂は昔のように光り輝いている。
  ・五月雨 … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・降り残し … サ行四段活用の動詞「降り残す」の連用形
  ・て … 接続助詞
  ・や … 係助詞
  ・光堂 … 名詞
  ○季語「五月雨」、季節「夏」、切れ字「や」
  ○作者の気持ち ⇒ 数百年の間、自然の力に耐え忍んできた、光堂という人間の営みによるものへの賛嘆の気持ち

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