富士の山・竹取物語

中将、人々引き具して帰り参りて、かぐや姫を、
中将は、人々を引き連れて帰って参って、かぐや姫を、
・中将 … 名詞
・人々 … 名詞
・引き具(ぐ)し … サ行変格活用の動詞「引き具す」の連用形
○引き具す … 引き連れる
・て … 接続助詞
・帰り参り … ラ行四段活用の動詞「帰り参る」の連用形
帰り参る … 「帰り来」の謙譲語 ⇒ 筆者から帝への敬意
・て … 接続助詞
・かぐや姫 … 名詞
・を … 格助詞

え戦ひとめずなりぬること、こまごまと奏す。
戦い留めることができずに終わったことを、詳しく奏上する。
・え … 副詞
・戦ひとめ … マ行下二段活用の動詞「戦ひとむ」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・ぬる … 完了の助動詞「ぬ」の連体形
・こと … 名詞
・こまごまと … 副詞
○こまごまと … くわしく
・奏(そう)す … サ行変格活用の動詞「奏す」の終止形
奏す … (天皇に)申し上げる(謙譲語) ⇒ 筆者から帝への敬意

薬の壺に、御文添へて参らす。
薬の壺にお手紙を添えて差し上げる。
・薬 … 名詞
・の … 格助詞
・壺 … 名詞
・に … 格助詞
・御文 … 名詞
・添へ … ハ行下二段活用の動詞「添ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・参らす … サ行下二段活用の動詞「参らす」の終止形
参らす … 差し上げる(謙譲語) ⇒ 筆者から帝への敬意

広げて御覧じて、いとあはれがらせ給ひて、
広げて御覧になって、とてもしみじみと感動なさって、
・広げ … ガ行下二段活用の動詞「広ぐ」の連用形
・て … 接続助詞
・御覧じ … サ行変格活用の動詞「御覧ず」の連用形
御覧ず … 「見る」の尊敬語 ⇒ 筆者から帝への敬意
・て … 接続助詞
・いと … 副詞
・あはれがら … ラ行四段活用の動詞「あはれがる」の未然形
○あはれがる … しみじみと感動する
・せ … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 筆者から帝への敬意
・給(たま)ひ … ハ行四段活用の「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から帝への敬意
・て … 接続助詞

物も聞こし召さず、御遊びなどもなかりけり。
お食事も召し上がらず、管弦のお遊びなどもなさらなくなった。
・物 … 名詞
・も … 係助詞
・聞こし召さ … サ行四段活用の動詞「聞こし召す」の未然形
聞こし召す … 「食ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から帝への敬意
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・御遊び … 名詞
・など … 副助詞
・も … 係助詞
・なかり … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

大臣、上達部を召して、
大臣や公卿をお召しになって、
・大臣 … 名詞
・上達部(かんだちめ) … 名詞
○上達部 … 大臣・大納言・中納言・参議、その他三位以上の者
・を … 格助詞
・召し … サ行四段活用の動詞「召す」の連用形
召す … お呼び寄せになる(尊敬語) ⇒ 筆者から帝への敬意
・て … 接続助詞

「いづれの山か天に近き。」と問はせ給ふに、
「どの山が天に近いか。」とお尋ねになると、
・いづれ … 代名詞
・の … 格助詞
・山 … 名詞
・か … 係助詞・疑問
・天 … 名詞
・に … 格助詞
・近き … ク活用の形容詞「近し」の連体形(結び)
・と … 格助詞
・問は … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の未然形
・せ … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 筆者から帝への敬意
・給ふ … ハ行四段活用の「給ふ」の終止形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から帝への敬意
・に … 接続助詞

ある人奏す、「駿河国にあるなる山なむ、
その場にいた人が奏上するには、「駿河の国にあるという山が、
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・人 … 名詞
・奏す … サ行変格活用の動詞「奏す」の連体形
奏す … (天皇に)申し上げる(謙譲語) ⇒ 筆者から帝への敬意
・駿河国(するがのくに) … 名詞
・に … 格助詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・なる … 伝聞の助動詞「なり」の連体形
・山 … 名詞
・なむ … 係助詞・強意

この都も近く、天も近く侍る。」と奏す。
この都にも近く、天にも近うございます。」と奏上する。
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・都 … 名詞
・も … 係助詞
・近く … ク活用の形容詞「近し」の連用形
・天 … 名詞
・も … 係助詞
・近く … ク活用の形容詞「近し」の連用形
・侍(はべ)る … ラ行変格活用の動詞「侍り」の連体形(結び)
侍り … 「あり」の丁寧語 ⇒ ある人から帝への敬意
・と … 格助詞
・奏す … サ行変格活用の動詞「奏す」の終止形
奏す … (天皇に)申し上げる(謙譲語) ⇒ 筆者から帝への敬意

これを聞かせ給ひて、
これをお聞きになって、
・これ … 代名詞
・を … 格助詞
・聞か … カ行四段活用の動詞「聞く」の未然形
・せ … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 筆者から帝への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から帝への敬意
・て … 接続助詞

  あふこともなみだに浮かぶわが身には
  かぐや姫に会うこともないので、涙にひたるわが身にとって、
  ・あふ … ハ行四段活用の動詞「あふ」の連体形
  ・こと … 名詞
  ・も … 係助詞
  ・なみだ … 名詞
  ○なみだ … 「涙」と「無み」の掛詞
  ・に … 格助詞
  ・浮かぶ … バ行四段活用の動詞「浮かぶ」の連体形
  ・わ … 代名詞
  ・が … 格助詞
  ・身 … 名詞
  ・に … 格助詞
  ・は … 係助詞

  死なぬ薬も何にかはせむ
  不死の薬が何になろうか、何にもならない。
  ・死な … ナ行変格活用の動詞「死ぬ」の未然形
  ・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
  ・薬 … 名詞
  ・も … 係助詞
  ・何 … 代名詞
  ・に … 格助詞
  ・かは … 係助詞・反語
  ・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
  ・む … 意志の助動詞「む」の連体形(結び)

かの奉る不死の薬壺に文具して、御使ひに賜はす。
あの差し上げた不死の薬の壷に手紙を添えて、お使いにお与えになる。
・か … 代名詞
・の … 格助詞
・奉(たてまつ)る … ラ行四段活用の動詞「奉る」の連体形
奉る … 「与ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から帝への敬意
・不死 … 名詞
・の … 格助詞
・薬壺 … 名詞
・に … 格助詞
・文 … 名詞
・具し … サ行変格活用の動詞「具す」の連用形
・て … 接続助詞
・御使ひ … 名詞
・に … 格助詞
・賜(たま)はす … サ行下二段活用の動詞「賜はす」の終止形
賜はす … 「与ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から帝への敬意

勅使には、調石笠といふ人を召して、
勅使には、調石笠という人をお召しになって、
・勅使 … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・調石笠(つきのいわがさ) … 名詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・人 … 名詞
・を … 格助詞
・召し … サ行四段活用の動詞「召す」の連用形
召す … お呼び寄せになる(尊敬語) ⇒ 筆者から帝への敬意
・て … 接続助詞

駿河国にあなる山の頂に、持てつくべきよし仰せ給ふ。
駿河の国にあるという山の頂上に、運んでいくようにとの旨をお命じになる。
・駿河国 … 名詞
・に … 格助詞
あるなる ⇒ あんなる(音便) ⇒ あなる(無表記)
・あ … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・なる … 伝聞の助動詞「なり」の連体形
・山 … 名詞
・の … 格助詞
・頂 … 名詞
・に … 格助詞
・持てつく … カ行四段活用の動詞「持てつく」の終止形
○持てつく … 持って到着する
・べき … 命令の助動詞「べし」の連体形
・よし … 名詞
よし … 趣旨
・仰(おお)せ … サ行下二段活用の動詞「仰す」の連用形
仰す … 命令する(尊敬語) ⇒ 筆者から帝への敬意
・給ふ … ハ行四段活用の「給ふ」の終止形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から帝への敬意

峰にてすべきやう教へさせ給ふ。
頂上でなすべき方法をお教えになる。
・峰 … 名詞
・にて … 格助詞
・す … サ行変格活用の動詞「す」の終止形
・べき … 当然の助動詞「べし」の連体形
・やう … 名詞
○やう … 方法
・教へ … ハ行下二段活用の動詞「教ふ」の未然形
・させ … 尊敬の助動詞「さす」の連用形 ⇒ 筆者から帝への敬意
・給ふ … ハ行四段活用の「給ふ」の終止形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から帝への敬意

御文、不死の薬の壺並べて、
お手紙と不死の薬と壺を並べて、
・御文 … 名詞
・不死 … 名詞
・の … 格助詞
・薬 … 名詞
・の … 格助詞
・壺 … 名詞
・並べ … バ行下二段活用の動詞「並ぶ」の連用形
・て … 接続助詞

火をつけて燃やすべきよし仰せ給ふ。
火をつけて燃やさなければならないという旨をお命じになる。
・火 … 名詞
・を … 格助詞
・つけ … カ行下二段活用の動詞「つく」の連用形
・て … 接続助詞
・燃やす … サ行四段活用の動詞「燃やす」の終止形
・べき … 命令の助動詞「べし」の連体形
・よし … 名詞
・仰せ … サ行下二段活用の動詞「仰す」の連用形
仰す … 命令する(尊敬語) ⇒ 筆者から帝への敬意
・給ふ … ハ行四段活用の「給ふ」の終止形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から帝への敬意

そのよし承りて、士どもあまた具して山へ登りけるよりなむ、
その旨を承って、兵士たちを大勢引き連れて山へ登ったことから、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・よし … 名詞
・承(うけたまわ)り … ラ行四段活用の動詞「承る」の連用形
承る … お受けする(謙譲語) ⇒ 筆者から帝への敬意
・て … 接続助詞
・士(つわもの)ども … 名詞
・あまた … 副詞
○あまた … たくさん
・具し … サ行変格活用の動詞「具す」の連用形
具す … 引き連れる
・て … 接続助詞
・山 … 名詞
・へ … 格助詞
・登り … ラ行四段活用の動詞「登る」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・より … 格助詞
・なむ … 係助詞・強意

その山を富士の山とは名付けける。
その山を富士の山と名づけたのだった。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・山 … 名詞
・を … 格助詞
・富士の山 … 名詞
・と … 格助詞
・は … 係助詞
・名付け … カ行下二段活用の動詞「名付く」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)

その煙、いまだ雲の中へ立ち上るとぞ、言ひ伝へたる。
その煙は、今でも雲の中へ立ち昇っている、と言い伝えている。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・煙(けぶり) … 名詞
・いまだ … 副詞
・雲 … 名詞
・の … 格助詞
・中 … 名詞
・へ … 格助詞
・立ち上る … ラ行四段活用の動詞「立ち上る」の終止形
・と … 格助詞
・ぞ … 係助詞・強意
・言ひ伝へ … ハ行下二段活用の動詞「言ひ伝ふ」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形(結び)

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