宮に初めて参りたるころ・枕草子

宮に初めて参りたるころ、
中宮様の御所に初めて参上したころ、
・宮 … 名詞
○宮 … 中宮定子の御所
・に … 格助詞
・初めて … 副詞
・参り … ラ行四段活用の動詞「参る」の連用形
参る … 貴人の所に参上する(謙譲語) ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・ころ … 名詞

ものの恥づかしきことの数知らず、
何かと恥ずかしいことが数えきれないほど多く、
・もの … 名詞
もの … ある事、何か(対象を漠然と指す語)
・の … 格助詞
・恥づかしき … シク活用の形容詞「恥づかし」の連体形
・こと … 名詞
・の … 格助詞
・数 … 名詞
・知ら … ラ行四段活用の動詞「知る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
○数知らず … 数えきれないほど多い

涙も落ちぬべければ、夜々参りて、
涙もこぼれ落そうなので、夜ごとに参上して、
・涙 … 名詞
・も … 係助詞
・落ち … タ行上二段活用の動詞「落つ」の連用形
・ぬ … 強意の助動詞「ぬ」の終止形
・べけれ … 推量の助動詞「べし」の已然形
・ば … 接続助詞
・夜々 … 名詞
・参り … ラ行四段活用の動詞「参る」の連用形
参る … 貴人の所に参上する(謙譲語) ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・て … 接続助詞

三尺の御几帳の後ろに候ふに、
三尺の御几帳の後ろに控えていると、
・三尺 … 名詞
・の … 格助詞
・御几帳 … 名詞
・の … 格助詞
・後ろ … 名詞
・に … 格助詞
・候ふ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の連体形
候ふ … 控えている(謙譲語) ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・に … 接続助詞

絵など取り出でて見せさせ給ふを、
絵などを取り出してお見せくださるのだが、
・絵 … 名詞
・など … 副助詞
・取り出で … ダ行下二段活用の動詞「取り出づ」の連用形
・て … 接続助詞
・見せ … サ行下二段活用の動詞「見す」の連用形
・させ … 尊敬の助動詞「さす」の連用形 ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連体形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・を … 接続助詞

手にてもえさし出づまじうわりなし。
手を差し出すこともできないくらいに、ひどく困ってしまう。
・手 … 名詞
・にて … 格助詞
・も … 係助詞
・え … 副詞
え(〜打消) … 〜できない
・さし出づ … ダ行下二段活用の動詞「さし出づ」の終止形
・まじう … 不可能の助動詞「まじ」の連用形
・わりなし … ク活用の形容詞「わりなし」の終止形
わりなし … どうしようもなく苦しい

「これは、とあり、かかり。
「これは、ああだ、こうだ。
・これ … 代名詞
・は … 係助詞
・と … 副詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形
○とあり … ああである
・かかり … ラ行変格活用の動詞「かかり」の終止形
○かかり … こうである(かくあり、かかり)

それか、かれか。」などのたまはす。
それがよいか、あれがよいか。」などとおっしゃる。
・それ … 代名詞
・か … 係助詞
・かれ … 代名詞
・か … 係助詞
・など … 副助詞
・のたまはす … サ行下二段活用の動詞「のたまはす」の終止形
のたまはす … 「言ふ」の最高敬語 ⇒ 筆者から中宮定子への敬意

高杯に参らせたる大殿油なれば、髮の筋なども、
高杯にともし申し上げた御灯火なので、髪の毛筋なども、
・高杯 … 名詞
・に … 格助詞
・参らせ … サ行下二段活用の動詞「参らす」の連用形
参らす … ともし申し上げる(謙譲語) ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・大殿油 … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞
・髮 … 名詞
・の … 格助詞
・筋 … 名詞
・など … 副助詞
・も … 係助詞

なかなか昼よりは顕証に見えてまばゆけれど、
かえって昼よりもはっきり見えて恥ずかしいけれども、
・なかなか … 副詞
なかなか … かえって
・昼 … 名詞
・より … 格助詞
・も … 係助詞
・顕証に … ナリ活用の形容動詞「顕証なり」の連用形
○顕証なり … はっきりとあらわなさま
・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の連用形
・て … 接続助詞
・まばゆけれ … ク活用の形容詞「まばゆし」の已然形
まばゆし … 恥ずかしくて正視できない
・ど … 接続助詞

念じて見などす。いと冷たきころなれば、
我慢して拝見したりなどする。とても冷える頃なので、
・念じ … サ行変格活用の動詞「念ず」の連用形
念ず … 我慢する
・て … 接続助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・など … 副助詞
・す … サ行変格活用の動詞「す」の終止形
・いと … 副詞
・冷たき … ク活用の形容詞「冷たし」の連体形
・ころ … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞

さし出でさせ給へる御手のはつかに見ゆるが、
差し出しなさっているお手がちらっと見えるのが、
・さし出で … ダ行下二段活用の動詞「さし出づ」の未然形
・させ … 尊敬の助動詞「さす」の連用形 ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の命令形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・御手 … 名詞
・の … 格助詞
・はつかに … ナリ活用の形容動詞「はつかなり」の連用形
○はつかなり … かすかである
・見ゆる … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の連体形
・が … 格助詞

いみじうにほひたる薄紅梅なるは、
たいそうつやつやと美しい薄紅梅色であるのは、
・いみじう … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形
・にほひ … ハ行四段活用の動詞「にほふ」の連用形
にほふ … 輝くように美しい
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・薄紅梅 … 名詞
・なる … 断定の助動詞「なり」の連体形
・は … 係助詞

限りなくめでたしと、見知らぬ里人心地には、
この上なくすばらしいと、宮中を見知っていない里人の気持ちには、
・限りなく … ク活用の形容詞「限りなし」の連用形
○限りなし … この上ない
・めでたし … ク活用の形容詞「めでたし」の終止形
めでたし … すばらしい
・と … 格助詞
・見知ら … ラ行四段活用の動詞「見知る」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
○見知らぬ … 宮中を見知っていない
・里人心地 … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞

かかる人こそは世におはしましけれと、
こうした方がこの世にはいらっしゃるのだなあと、
・かかる … ラ行変格活用の動詞「かかり」の連体形
・人 … 名詞
・こそ … 係助詞
・は … 係助詞
・世 … 名詞
・に … 格助詞
・おはしまし … サ行四段活用の動詞「おはします」の連用形
おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・けれ … 詠嘆の助動詞「けり」の已然形
・と … 格助詞

おどろかるるまでぞまもり参らする。
自分ではっとするほど、じっとお見つめ申し上げる。
・おどろか … カ行四段活用の動詞「おどろく」の未然形
おどろく … はっと気づく
・るる … 自発の助動詞「る」の連体形
・まで … 副助詞
・ぞ … 係助詞・強調
・まもり … ラ行四段活用の動詞「まもる」の連用形
まもる … じっと見つめる
・参らする … サ行下二段活用の動詞「参らす」の連体形(結び)
参らす … 謙譲の補助動詞 ⇒ 筆者から中宮定子への敬意

暁には疾く下りなむと急がるる。
明け方には早く下がろうと気持ちがせかれる。
・暁 … 名詞
・に … 格助詞
・は … 係助詞
・疾(と)く … 副詞
○疾く … 早く
・下り … ラ行上二段活用の動詞「下る」の連用形
・な … 強意の助動詞「ぬ」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・急が … ガ行四段活用の動詞「急ぐ」の未然形
・るる … 自発の助動詞「る」の連体形

「葛城の神もしばし。」など仰せらるるを、
「葛城の神もしばらく。」などとおっしゃるけれど、
・葛城 … 名詞
・の … 格助詞
・神 … 名詞
・も … 係助詞
・しばし … 副詞
・など … 副助詞
・仰せ … サ行下二段活用の動詞「仰す」の連用形
仰す … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・らるる … 尊敬の助動詞「らる」の連体形 ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・を … 接続助詞

いかでかは筋かひ御覧ぜられむとて、
どうして斜めにでも顔をご覧に入れようかと思って、
・いかで … 副詞
・かは … 係助詞・反語
・筋かひ … ハ行四段活用の動詞「筋かふ」の連用形
・御覧ぜ … サ行変格活用の動詞「御覧ず」の未然形
・られ … 受身の助動詞「らる」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の連体形(結び)
・とて … 格助詞

なほ伏したれば、御格子も参らず。
やはりうつ伏しているので、御格子もお上げしない。
・なほ … 副詞
・伏し … サ行四段活用の動詞「臥す」の連用形
・たれ … 存続の助動詞「たち」の已然形
・ば … 接続助詞
・御格子 … 名詞
・も … 係助詞
・参ら … ラ行四段活用の動詞「参る」の未然形
参る … お上げする(謙譲語) ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

女官ども参りて、「これ放たせ給へ。」など言ふを聞きて、
女官たちが参って、「これをお上げください。」と言うのを聞いて、
・女官ども … 名詞
・参り … ラ行四段活用の動詞「参る」の連用形
参る … 貴人の所に参上する(謙譲語) ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・て … 接続助詞
・これ … 代名詞
・放た … タ行四段活用の動詞「放つ」の未然形
○放つ … 格子を上げる
・せ … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 女官どもから中宮定子への敬意
・給へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の命令形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 女官どもから中宮定子への敬意
・など … 副助詞
・言ふ … 行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・を … 格助詞
・聞き … 行四段活用の動詞「聞く」の連用形
・て … 接続助詞

女房の放つを、
女房が上げようとするのを、
・女房 … 名詞
・の … 格助詞
・放つ … タ行四段活用の動詞「放つ」の連体形
・を … 格助詞

「まな。」と仰せらるれば、笑ひて帰りぬ。
「だめです。」とおっしゃるので、笑って帰って行った。
・まな … 副詞
○まな … 禁止・制止をする言葉
・と … 格助詞
・仰せ … サ行下二段活用の動詞「仰す」の未然形
仰す … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・らるれ … 尊敬の助動詞「らる」の已然形 ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・ば … 接続助詞
・笑ひ … ハ行四段活用の動詞「笑ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・帰り … ラ行四段活用の動詞「帰る」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

ものなど問はせ給ひ、のたまはするに、
何かとお尋ねになったり、お話しなさったりするうちに、
・もの … 名詞
・など … 副助詞
・問は … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の未然形
・せ … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・のたまはする … サ行下二段活用の動詞「のたまはす」の連体形
のたまはす … 「言ふ」の最高敬語 ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・に … 格助詞

久しうなりぬれば、「下りまほしうなりにたらむ。
長い時間がたったので、「下がりたくなったのだろう。
・久しう … シク活用の形容詞「久し」の連用形
○久し … 時間が長い
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・ぬれ … 完了の助動詞「ぬ」の已然形
・ば … 接続助詞
・下り … ラ行上二段活用の動詞「下る」の連用形
・まほしう … 願望の助動詞「まほし」の連用形
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・たら … 完了の助動詞「たり」の未然形
・む … 推量の助動詞「む」の終止形

さらば、はや。夜さりは疾く。」と仰せらる。
それでは、早く。夜になったら早く。」とおっしゃる。
・さらば … 接続詞
・はや … 副詞
○はや … 早く
・夜さり … 名詞
・は … 係助詞
・疾く … 副詞
・と … 格助詞
・仰せ … サ行下二段活用の動詞「仰す」の未然形
仰す … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・らる … 尊敬の助動詞「らる」の終止形 ⇒ 筆者から中宮定子への敬意

ゐざり隠るるや遅きと、
膝行して自分の局に入るやいなや、
・ゐざり … ラ行四段活用の動詞「ゐざる」の連用形
○ゐざる … 座ったまま膝で移動する(膝行する)
・隠るる … ラ行下二段活用の動詞「隠る」の連体形
○隠る … どこかに入って見えなくなる
・や … 係助詞・疑問
・遅き … ク活用の形容詞「遅し」の連体形(結び)
・と … 格助詞

上げちらしたるに、雪降りにけり。
格子をやたらに上げたところ、雪が降っていたことだよ。
・上げちらし … サ行四段活用の動詞「上げちらす」の連用形
○〜ちらす … やたらに〜する
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・に … 接続助詞
・雪 … 名詞
・降り … ラ行四段活用の動詞「降る」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・けり … 詠嘆の助動詞「けり」の終止形

登華殿の御前は、立蔀近くてせばし。雪いとをかし。
登華殿の御前は、立蔀が近くにあって狭い。雪はとても風情がある。
・登華殿・登花殿(とうかでん) … 名詞
・の … 格助詞
・御前(おまえ) … 名詞
・は … 係助詞
・立蔀(たてじとみ) … 名詞
○立蔀 … 細い木を縦横に組んで格子とし、それに板を張ったもの
・近く … ク活用の形容詞「近し」の連用形
・て … 接続助詞
・せばし … ク活用の形容詞「せばし」の終止形
・雪 … 名詞
・いと … 副詞
・をかし … シク活用の形容詞「をかし」の終止形

昼つかた、「今日は、なほ参れ。
お昼ごろ、「今日は、やはり参上せよ。
・昼つかた … 名詞
・今日 … 名詞
・は … 係助詞
・なほ … 副詞
・参れ … ラ行四段活用の動詞「参る」の命令形
参る … 貴人の所に参上する(謙譲語) ⇒ 中宮定子から中宮定子への敬意

雪に曇りてあらはにもあるまじ。」など、
雪空で曇ってはっきり見えもしないでしょう。」などと、
・雪 … 名詞
・に … 格助詞
・曇り … ラ行四段活用の動詞「曇る」の連用形
・て … 接続助詞
・あらはに … ナリ活用の形容動詞「あらはなり」の連用形
あらはなり … 隠れないで、はっきり見える
・も … 係助詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・まじ … 打消推量の助動詞「まじ」の終止形
・など … 副詞

たびたび召せば、この局の主も、
(中宮様が)たびたびお召しになるので、この局の主の女房も、
・たびたび … 副詞
・召せ … サ行四段活用の動詞「召す」の已然形
召す … お呼び寄せになる(尊敬語) ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・ば … 接続助詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・局(つぼね) … 名詞
・の … 格助詞
・主(あるじ) … 名詞
・も … 係助詞

「見苦し。さのみやは籠りたらむとする。
「見苦しい。なぜそうばかり引きこもっていようとするのか。
・見苦し … シク活用の形容詞「見苦し」の終止形
・さ … 副詞
・のみ … 副助詞
・やは … 係助詞・疑問
・籠(こも)り … ラ行四段活用の動詞「籠る」の連用形
○籠る … 引きこもる
・たら … 存続の助動詞「たり」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・する … サ行変格活用の動詞「す」の連体形(結び)

あへなきまで御前許されたるは、
あっけないほど簡単に御前伺候が許されているのは、
・あへなき … ク活用の形容詞「あへなし」の連体形
○あへなし … 簡単で物足りない
・まで … 副助詞
・御前 … 名詞
○御前 … 御前伺候(おそば近くでお仕えすること)
・許さ … サ行四段活用の動詞「許す」の未然形
・れ … 受身の助動詞「る」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・は … 係助詞

さおぼしめすやうこそあらめ。
そうお思いなさるわけがあるのでしょう。
・さ … 副詞
・おぼしめす … サ行四段活用の動詞「おぼしめす」の連体形
おぼしめす … 「思ふ」の尊敬語 ⇒ 局の主から中宮定子への敬意
・やう … 名詞
○やう … 理由
・こそ … 係助詞・強調
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・め … 推量の助動詞「む」の已然形(結び)

思ふにたがふはにくきものぞ。」と、
好意にそむくのはにくらしいものですよ。」と、
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
○思ふ … 愛する
・に … 格助詞
・たがふ … ハ行四段活用の動詞「たがふ」の連用形
○たがふ … そむく
・は … 係助詞
・にくき … ク活用の形容詞「にくし」の連体形
・もの … 名詞
・ぞ … 係助詞・強調
・と … 格助詞

ただいそがしに出だし立つれば、
ひたすら急がせて出仕させたので、
・ただ … 副詞
ただ … ひたすら
・いそがし … サ行四段活用の動詞「いそがす」の連用形
○いそがす … 急がせる
・に … 格助詞
・出だし立つれ … タ行下二段活用の動詞「出だし立つ」の已然形
○出だし立つ … 出仕させる
・ば … 接続助詞

あれにもあらぬ心地すれど参るぞ、いと苦しき。
我を忘れたような気持ちであるのに参上するのは、とてもつらい。
・あれ … 代名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・も … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
○あれにもあらず … 取り乱して自分の判断ができなくなった状態
・心地 … 名詞
・すれ … サ行変格活用の動詞「す」の已然形
・ど … 接続助詞
・参る … ラ行四段活用の動詞「参る」の連体形
参る … 貴人の所に参上する(謙譲語) ⇒ 筆者から中宮定子への敬意
・ぞ … 係助詞・強調
・いと … 副詞
・苦しき … シク活用の形容詞「苦し」の連体形(結び)
○苦し … つらい、苦しい

火焼屋の上に降り積みたるも、めづらしう、をかし。
火焼屋の上に雪が降り積もっているのも、新鮮な感じで、趣がある。
・火焼屋 … 名詞
・の … 格助詞
・上 … 名詞
・に … 格助詞
・降り積み … マ行四段活用の動詞「降り積む」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・も … 係助詞
・めづらしう … シク活用の形容詞「めづらし」の連用形
めづらし … 新鮮な感じである
・をかし … シク活用の形容詞「をかし」の終止形
をかし … 風情がある

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