夢よりもはかなき世の中を、嘆きわびつつ明かし暮らすほどに、
夢よりもはかない男女の仲を、嘆き悲しみながら日々を送るうちに、
・夢 … 名詞
・より … 格助詞
・も … 係助詞
・はかなき … ク活用の形容詞「はかなし」の連体形
○はかなし … 頼りにならない
・世の中 … 名詞
・を … 格助詞
・嘆きわび … バ行上二段活用の動詞「嘆きわぶ」の連用形
○わぶ … 悲観する
・つつ … 接続助詞
・明かし暮らす … サ行四段活用の動詞「明かし暮らす」の連体形
○明かし暮らす … 月日を送る
・ほど … 名詞
○ほど … うち
・に … 格助詞
四月十余日にもなりぬれば、木の下暗がりもてゆく。
四月十日過ぎにもなったので、(葉が茂って)木の下が次第に暗くなってゆく。
・四月十余日(うづきじゅうよか) … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・ぬれ … 完了の助動詞「ぬ」の已然形
・ば … 接続助詞
・木(こ)の下 … 名詞
・暗がり … ラ行四段活用の動詞「暗がる」の連用形
・もてゆく … カ行四段活用の動詞「もてゆく」の終止形
○もてゆく … 次第に〜してゆく
築地の上の草青やかなるも、人はことに目もとどめぬを、
土塀の上の草が青々としているのも、ほかの人は特に目もとめないが、
・築地(ついひぢ) … 名詞
・の … 格助詞
・上 … 名詞
・の … 格助詞
・草 … 名詞
・青やかなる … ナリ活用の形容動詞「青やかなり」の連体形
・も … 係助詞
・人 … 名詞
○人 … ほかの人
・は … 係助詞
・ことに … 副詞
○ことに … 特に
・目 … 名詞
・も … 係助詞
・とどめ … マ行下二段活用の動詞「とどむ」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・を … 接続助詞
あはれとながむるほどに、近き透垣のもとに人のけはひすれば、
しみじみとした思いで眺めている時に、近くの透垣のそばに人の気配がするので、
・あはれ … 活用の形容動詞「あはれなり」の語幹
○あはれなり … しみじみとした情趣がある
・と … 格助詞
・ながむる … マ行下二段活用の動詞「ながむ」の連体形
○ながむ … 物思いにふけりながら、ぼんやりと見つめる
・ほど … 名詞
・に … 格助詞
・近き … ク活用の形容詞「近し」の連体形
・透垣(すいがい) … 名詞
・の … 格助詞
・もと … 名詞
○もと … そば
・に … 格助詞
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・けはひ … 名詞
・すれ … サ行変格活用の動詞「す」の已然形
・ば … 接続助詞
誰ならむと思ふほどに、故宮に候ひし小舎人童なりけり。
誰だろうと思っていると、亡き宮様にお仕えしていた小舎人童であったよ。
・誰(たれ) … 代名詞
・なら … 断定の助動詞「なり」の未然形
・む … 推量の助動詞「む」の連体形
・と … 格助詞
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・ほど … 名詞
・に … 格助詞
・故宮(こみや) … 名詞
・に … 格助詞
・候(さぶら)ひ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の連用形
○候ふ … お側にお仕えする(謙譲語) ⇒ 作者から故宮への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・小舎人童(こどねりわらわ) … 名詞
○小舎人童 … 貴族に仕える雑用役の少年
・なり … 断定の助動詞「なり」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
あはれにもののおぼゆるほどに来たれば、「などか久しく見えざりつる。
しみじみと物思いされる時に来たので、「どうして長い間来なかったのか。
・あはれに … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形
・もの … 名詞
○もの … ものごと
・の … 格助詞
・おぼゆる … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連体形
○おぼゆ … (自然に)思われる
・ほど … 名詞
・に … 格助詞
・来(き) … カ行変格活用の動詞「来(く)」の連用形
・たれ … 完了の助動詞「たり」の已然形
・ば … 接続助詞
・などか … 連語(など … 副詞、か … 係助詞・疑問)
・久しく … シク活用の形容詞「久し」の連用形
○久し … 時間が長い
・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の未然形
○見ゆ … 姿を見せる
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・つる … 完了の助動詞「つ」の連体形(結び)
遠ざかる昔の名残にも
遠くなっていく(亡き宮様との)昔の思い出につながっている大切な人とも
・遠ざかる … ラ行四段活用の動詞「遠ざかる」の連体形
・昔 … 名詞
・の … 格助詞
・名残 … 名詞
○名残 … 人と別れた後、なお心の中に残っているもの
・に … 格助詞
・も … 係助詞
思ふを。」など言はすれば、
(あなたのことを)思っているのに。」などと(侍女に)言わせると、
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・を … 接続助詞
・など … 副助詞
・言は … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・すれ … 使役の助動詞「す」の已然形
・ば … 接続助詞
「そのことと候はでは、なれなれしきさまにやと、
「これといった用事がございませんことには、なれなれしいようではないかと、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・と … 格助詞
・候は … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の未然形
○候ふ … 「あり」の丁寧語 ⇒ 小舎人童から作者への敬意
・で … 接続助詞
・は … 係助詞
・なれなれしき … シク活用の形容詞「なれなれし」の連体形
・さま … 名詞
○さま … 様子
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・や … 係助詞・疑問
・と … 格助詞
つつましう候ふうちに、日ごろは山寺にまかり歩きてなむ。
遠慮しておりますうちに、近頃は山寺詣でに歩き回っておりました。
・つつましう … シク活用の形容詞「つつまし」の連用形(音便)
○つつまし … 遠慮される
・候ふ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の連体形
○候ふ … 丁寧の補助動詞 ⇒ 小舎人童から作者への敬意
・うち … 名詞
・に … 格助詞
・日ごろ … 名詞
○日ごろ … この数日
・は … 係助詞
・山寺 … 名詞
・に … 格助詞
・まかり歩(あり)き … カ行四段活用の動詞「まかり歩く」の連用形
○まかり歩く … 歩き回る(丁寧語) ⇒ 小舎人童から作者への敬意
・て … 接続助詞
・なむ … 係助詞・強意
いと頼りなく、つれづれに思ひ給うらるれば、御代はりにも
たいそう頼る所がなく、所在なく思われますので、(亡き宮様の)御代わりにも
・いと … 副詞
・頼りなく … ク活用の形容詞「頼りなし」の連用形
○頼り … 頼るところ
・つれづれに … ナリ活用の形容動詞「つれづれなり」の連用形
○つれづれなり … することがなくて退屈なさま
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・給う … ハ行下二段活用の動詞「給ふ」の未然形(音便)
○給ふ … 謙譲の補助動詞 ⇒ 小舎人童から作者への敬意
・らるれ … 自発の助動詞「らる」の已然形
・ば … 接続助詞
・御(おおん)代はり … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
見奉らむとてなむ、帥宮に参りて候ふ。」と語る。
お世話申し上げようと思って、帥宮様にお仕えしております。」と語る。
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
○見る … 世話をする
・奉ら … ラ行四段活用の動詞「奉る」の未然形
○奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 小舎人童から帥宮への敬意
・む … 意思の助動詞「む」の終止形
・とて … 格助詞
・なむ … 係助詞・強意
・帥宮(そちのみや) … 名詞
・に … 格助詞
・参り … ラ行四段活用の動詞「参る」の連用形
○参る … 奉仕する(謙譲語) ⇒ 小舎人童から帥宮への敬意
・て … 接続助詞
・候ふ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の連体形(結び)
○候ふ … 丁寧の補助動詞 ⇒ 小舎人童から作者への敬意
・と … 格助詞
・語る … ラ行四段活用の動詞「語る」の終止形
「いとよきことにこそあなれ。
「たいそうよいことでしょうね。
・いと … 副詞
・よき … ク活用の形容詞「よし」の連体形
・こと … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・こそ … 係助詞・強意
○あるなれ ⇒ あんなれ(撥音便) ⇒ あなれ(無表記)
・あ … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形(結び)
その宮は、いとあてにけけしうおはしますなるは。
その宮様は、とても上品でよそよそしくていらっしゃるそうですね。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・宮 … 名詞
・は … 係助詞
・いと … 副詞
・あてに … ナリ活用の形容動詞「あてなり」の連用形
○あてなり … 上品である
・けけしう … シク活用の形容詞「けけし」の連用形(音便)
○けけし … よそよそしい
・おはします … サ行四段活用の動詞「おはします」の終止形
○おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 作者から帥宮への敬意
・なる … 伝聞の助動詞「なり」の連体形
○なり ⇒ 断定の助動詞「なり」は連体形、伝聞の助動詞「なり」は終止形に接続する。
・は … 終助詞・詠嘆
昔のやうにはえしもあらじ。」など言へば、
昔の(亡き宮様の)ようでは、とてもありえないでしょう。」などと言うと、
・昔 … 名詞
・の … 格助詞
・やうに … 比況の助動詞「やうなり」の連用形
・は … 係助詞
・え … 副詞
・しも … 副助詞
○えしも(〜打消) … とても〜できない
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・じ … 打消推量の助動詞「じ」の終止形
・など … 副助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・ば … 接続助詞
「しかおはしませど、いとけ近くおはしまして、
「そうではいらっしゃいますが、とても親しみやすくいらっしゃって、
・しか … 副詞
○しか … そういうふうに
・おはしませ … サ行四段活用の動詞「おはします」の已然形
○おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 小舎人童から帥宮への敬意
・ど … 接続助詞
・いと … 副詞
・気近(けぢか)く … ク活用の形容詞「気近し」の連用形
・おはしまし … サ行四段活用の動詞「おはします」の連用形
○おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 小舎人童から帥宮への敬意
・て … 接続助詞
『常に参るや。』と問はせおはしまして、
『(和泉式部のところへ)いつも参上するのか。』とお尋ねになって、
・常に … 副詞
・参る … ラ行四段活用の動詞「参る」の連体形
○参る … 参上する(謙譲語) ⇒ 小舎人童から作者への敬意
・や … 係助詞・疑問
・と … 格助詞
・問は … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の未然形
・せ … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 小舎人童から帥宮への敬意
・おはしまし … サ行四段活用の動詞「おはします」の連用形
○おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 小舎人童から帥宮への敬意
・て … 接続助詞
『参り侍り。』と申し候ひつれば、『これ持て参りて、
『参上しています。』と申し上げましたところ、『これを持って参上して、
・参り … ラ行四段活用の動詞「参る」の連用形
○参る … 参上する(謙譲語) ⇒ 小舎人童から作者への敬意
・侍(はべ)り … ラ行変格活用の動詞「侍り」の終止形
○侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ 小舎人童から帥宮への敬意
・と … 格助詞
・申し … サ行四段活用の動詞「申す」の連用形
○申す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 小舎人童から帥宮への敬意
・候ひ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の連用形
○候ふ … 丁寧の補助動詞 ⇒ 小舎人童から作者への敬意
・つれ … 完了の助動詞「つ」の已然形
・ば … 接続助詞
・これ … 代名詞
・持て参り … ラ行四段活用の動詞「持て参る」の連用形
○持て参る … 持って参上する(謙譲語) ⇒ 小舎人童から作者への敬意
・て … 接続助詞
いかが見給ふとて奉らせよ。』と
どのようにご覧になりますかと申し上げて差し上げよ。』と
・いかが … 副詞
○いかが … どのように〜か
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連体形
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 小舎人童から作者への敬意
・とて … 格助詞
・奉らせよ … サ行下二段活用の動詞「奉らす」の命令形
○奉らす … 「与ふ」の謙譲語 ⇒ 小舎人童から作者への敬意
・と … 格助詞
のたまはせつる。」とて、橘の花を取り出でたれば、
おっしゃいました。」と言って、橘の花を取り出したので、
・のたまはせ … サ行下二段活用の動詞「のたまはす」の連用形
○のたまはす … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ 小舎人童から帥宮への敬意
・つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
・とて … 格助詞
・橘(たちばな) … 名詞
・の … 格助詞
・花 … 名詞
・を … 格助詞
・取り出で … ダ行下二段活用の動詞「取り出づ」の連用形
・たれ … 完了の助動詞「たり」の已然形
・ば … 接続助詞
「昔の人の」と言はれて、「さらば参りなむ。
(私は)「昔の人の」と自然に口ずさまれて、「それでは参りましょう。
・昔 … 名詞
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・と … 格助詞
・言は … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の未然形
・れ … 自発の助動詞「る」の連用形
・て … 接続助詞
・さらば … 接続詞
・参り … ラ行四段活用の動詞「参る」の連用形
○参る … 参上する(謙譲語) ⇒ 小舎人童から帥宮への敬意
・な … 強意の助動詞「ぬ」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
いかが聞こえさすべき。」と言へば、
(帥宮様に)どのように申し上げればよいでしょうか。」と(童が)言うので、
・いかが … 副詞
・聞こえさす … サ行下二段活用の動詞「聞こえさす」の終止形
○聞こえさす … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 小舎人童から帥宮への敬意
・べき … 適当の助動詞「べし」の連体形
・と … 格助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・ば … 接続助詞
言葉にて聞こえさせむもかたはらいたくて、何かは、
文章で申し上げるのもきまりが悪くて、いや、なあに、
・言葉 … 名詞
○言葉 … 文章
・にて … 格助詞
・聞こえさせ … サ行下二段活用の動詞「聞こえさす」の未然形
○聞こえさす … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 作者から帥宮への敬意
・む … 婉曲の助動詞「む」の連体形
・も … 係助詞
・かたはらいたく … ク活用の形容詞「かたはらいたし」の連用形
○かたはらいたし … きまりが悪い
・て … 接続助詞
・何かは … 感動詞
○何かは … いや、なあに
あだあだしくもまだ聞こえ給はぬを、
(帥宮様は)浮ついているともまだ評判になっていらっしゃらないので、
・あだあだしく … シク活用の形容詞「あだあだし」の連用形
○あだあだし … 浮気である
・も … 係助詞
・まだ … 副詞
・聞こえ … ヤ行四段活用の動詞「聞こゆ」の連用形
○聞こゆ … 世間で評判になる
・給は … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・を … 接続助詞
はかなきことをも、と思ひて、
とりとめのない和歌でも(差し上げよう)、と思って、
・はかなき … ク活用の形容詞「はかなし」の連用形
○はかなし … ほんのちょっとである
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・も … 係助詞
・と … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・て … 接続助詞
薫る香によそふるよりはほととぎす
(橘の)薫る香りに(亡き宮様を)かこつけるよりは、ほととぎす(あなた)の声を
・薫る … ラ行四段活用の動詞「薫る」の連体形
・香 … 名詞
・に … 格助詞
・よそふる … ハ行下二段活用の動詞「よそふ」の連体形
○よそふ … かこつける(直接には関係しない他の事と無理に結びつける)
・より … 格助詞
・は … 係助詞
・ほととぎす … 名詞
聞かばや同じ声やしたると
聞きたいものです。(亡き宮様と)同じ声をしているかと。
・聞か … カ行四段活用の動詞「聞く」の未然形
・ばや … 終助詞
・同じ … シク活用の形容詞「同じ」の連体形
・声 … 名詞
・や … 係助詞・疑問
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形(結び)
・と … 格助詞
と聞こえさせたり。まだ端におはしましけるに、この童、
と申し上げさせた。(帥宮様が)まだ縁側にいらっしゃった時に、この童が、
・と … 格助詞
・聞こえ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の未然形
○聞こゆ … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 作者から帥宮への敬意
・させ … 使役の助動詞「さす」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の終止形
・まだ … 副詞
・端(はし) … 名詞
○端 … 家の中の外側に近い所、縁側
・に … 格助詞
・おはしまし … サ行四段活用の動詞「おはします」の連用形
○おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 作者から帥宮への敬意
・ける …
・に … 格助詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・童 … 名詞
隠れの方に気色ばみけるけはひを、
物陰で(帰ってきたと)それとなく知らせる様子を(しているのを)、
・隠れ … 名詞
・の … 格助詞
・方(かた) … 名詞
○隠れの方 … 人の目につかない所、物陰
・に … 格助詞
・気色(けしき)ばみ … マ行四段活用の動詞「気色ばむ」の連用形
○気色ばむ … いわくありげに振る舞う
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・けはひ … 名詞
○けはひ … 様子
・を … 格助詞
御覧じつけて、「いかに。」と問はせ給ふに、
見つけなさって、「どうであった。」とお尋ねになるので、
・御覧じつけ … カ行下二段活用の動詞「御覧じつく」の連用形
○御覧じつく … 「見つく」の尊敬語 ⇒ 作者から帥宮への敬意
・て … 接続助詞
・いかに … 副詞
・と … 格助詞
・問は … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の未然形
・せ … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 作者から帥宮への敬意
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連体形
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から帥宮への敬意
・に … 接続助詞
御文をさし出でたれば、御覧じて、
(童が和泉式部の)お手紙を差し出したところ、ご覧になって、
・御文(おおんふみ) … 名詞
・を … 格助詞
・さし出で … ダ行下二段活用の動詞「さし出づ」の連用形
・たれ … 完了の助動詞「たり」の已然形
・ば … 接続助詞
・御覧じ … サ行変格活用の動詞「御覧ず」の連用形
○御覧ず … 「見る」の尊敬語 ⇒ 作者から帥宮への敬意
・て … 接続助詞
同じ枝に鳴きつつをりしほととぎす
(亡き兄と私は)同じ枝に鳴いていたほととぎすのようなものだ。
・同じ … シク活用の形容詞「同じ」の連体形
・枝(え) … 名詞
・に … 格助詞
・鳴き … カ行四段活用の動詞「鳴く」の連用形
・つつ … 接続助詞
・をり … ラ行変格活用の動詞「をり」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・ほととぎす … 名詞
声は変はらぬものと知らずや
(私の)声は(亡き兄の声と)変わらないものと知らないのだろうか。
・声 … 名詞
・は … 係助詞
・変はら … ラ行四段活用の動詞「変はる」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・もの … 名詞
・と … 格助詞
・知ら … ラ行四段活用の動詞「知る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・や … 係助詞・疑問
と書かせ給ひて、賜ふとて、
とお書きになって、(童に)お与えになろうとして、
・と … 格助詞
・書か … カ行四段活用の動詞「書く」の未然形
・せ … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 作者から帥宮への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から帥宮への敬意
・て … 接続助詞
・賜(たま)ふ … ハ行四段活用の動詞「賜ふ」の終止形
○賜ふ … 「与ふ」の尊敬語 ⇒ 作者から帥宮への敬意
・とて … 格助詞
○とて … 〜として
「かかること、ゆめ人に言ふな。
「このようなことを、決して人に言うな。
・かかる … ラ行変格活用の動詞「かかり」の連体形
・こと … 名詞
・ゆめ … 副詞
○ゆめ(〜打消) … 決して(〜な)
・人 … 名詞
・に … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形
・な … 終助詞・禁止
すきがましきやうなり。」とて、入らせ給ひぬ。
好色らしいように見える。」と言って、(奥に)お入りになった。
・すきがましき … 活用の形容詞「すきがまし」の連体形
○すきがまし … 好色らしい
・やうなり … 比況の助動詞「やうなり」の終止形
・とて … 格助詞
・入ら … ラ行四段活用の動詞「入る」の未然形
・せ … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 作者から帥宮への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
○給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 作者から帥宮への敬意
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
持て来たれば、をかしと見れど、
(童がその歌を)持って来たので、おもしろいと見て思ったが、
・持て来(き) … カ行変格活用の動詞「持て来(く)」の連用形
・たれ … 完了の助動詞「たり」の已然形
・ば … 接続助詞
・をかし … シク活用の形容詞「をかし」の終止形
・と … 格助詞
・見れ … マ行上一段活用の動詞「見る」の已然形
○見る … 見て思う
・ど … 接続助詞
常はとて御返り聞こえさせず。
いつも(返事するの)はどうかと思って、ご返事は申し上げない。
・常 … 名詞
・は … 係助詞
・とて … 格助詞
・御返り … 名詞
・聞こえさせ … サ行下二段活用の動詞「聞こえさす」の未然形
○聞こえさす … 申し上げる(謙譲語) ⇒ 作者から帥宮への敬意
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形