亀山殿の御池に、大井川の水をまかせられんとて、
亀山離宮のお池に、大井川の水を引き入れなさろうとして、
・亀山殿(かめやまどの) … 名詞
○亀山殿 … 後嵯峨上皇が運営した御所
・の … 格助詞
・御池(みいけ) … 名詞
・に … 格助詞
・大井川(おおいがわ) … 名詞
・の … 格助詞
・水 … 名詞
・を … 格助詞
・まかせ … サ行下二段活用の動詞「まかす」の未然形
○まかす … 引き入れる
・られ … 尊敬の助動詞「らる」の未然形 ⇒ 筆者から上皇への敬意
・ん … 意志の助動詞「ん」の終止形
・とて … 格助詞
大井の土民に仰せて、水車を造らせられけり。
大井川沿いの住民に言いつけられて、水車を造らせなさった。
・大井 … 名詞
・の … 格助詞
・土民 … 名詞
○土民 … 土地の住民
・に … 格助詞
・仰せ … サ行下二段活用の動詞「仰す」の連用形
○仰す … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から上皇への敬意
・て … 接続助詞
・水車(みずぐるま) … 名詞
・を … 格助詞
・造ら … ラ行四段活用の動詞「造る」の未然形
・せ … 使役の助動詞「す」の未然形
・られ … 尊敬の助動詞「らる」の連用形 ⇒ 筆者から上皇への敬意
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
多くの銭を賜ひて、数日に営み出だして、掛けたりけるに、
多くの金銭を与えられて、何日も努力して造り出して、川にかけ渡したが、
・多く … 副詞
・の … 格助詞
・銭(あし) … 名詞
・を … 格助詞
・賜(たま)ひ … ハ行四段活用の動詞「賜ふ」の連用形
○賜ふ … 「与ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から上皇への敬意
・て … 接続助詞
・数日(すじつ) … 名詞
・に … 格助詞
・営み出(い)だし … サ行四段活用の動詞「営み出だす」の連用形
○営み出だす … 努力して造り出す
・て … 接続助詞
・掛け … カ行下二段活用の動詞「掛く」の連用形
○掛く … 川にかけ渡す
・たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・に … 接続助詞
おほかた廻らざりければ、とかく直しけれども、
全く回らなかったので、あれこれと修理したけれども、
・おほかた … 副詞
○おほかた(~打消) … 全く(~ない)
・廻(めぐ)ら … 行四段活用の動詞「廻る」の未然形
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
・とかく … 副詞
○とかく … あれこれと
・直し … サ行四段活用の動詞「直す」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ども … 接続助詞
つひに回らで、いたづらに立てりけり。
とうとう回らないで、むだに立っていた。
・つひに … 副詞
・回ら … ラ行四段活用の動詞「回る」の未然形
・で … 接続助詞
・いたづらに … ナリ活用の形容動詞「いたづらなり」の連用形
○いたづらなり … 役に立たないさま
・立て … タ行四段活用の動詞「立つ」の命令形
・り … 存続の助動詞「り」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
さて、宇治の里人を召して、こしらへさせられければ、
そこで、宇治の里の者をお呼び寄せになって、造らせなさったところ、
・さて … 接続詞
・宇治(うじ) … 名詞
・の … 格助詞
・里人 … 名詞
・を … 格助詞
・召し … サ行四段活用の動詞「召す」の連用形
○召す … お呼び寄せになる(尊敬語) ⇒ 筆者から上皇への敬意
・て … 接続助詞
・こしらへ … ハ行下二段活用の動詞「こしらふ」の未然形
○こしらふ … 工夫して造りあげる
・させ … 使役の助動詞「さす」の未然形
・られ … 尊敬の助動詞「らる」の連用形 ⇒ 筆者から上皇への敬意
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
やすらかに結ひて参らせたりけるが、思ふやうに廻りて、
やすやすと組み立ててさし上げた水車が、思いどおりに回って、
・やすらかに … ナリ活用の形容動詞「やすらかなり」の連用形
○やすらかなり … やすやすと行うさま
・結(ゆ)ひ … ハ行四段活用の動詞「結ふ」の連用形
○結ふ … 組み立てる
・て … 接続助詞
・参らせ … サ行下二段活用の動詞「参らす」の連用形
○参らす … ~してさしあげる(謙譲語) ⇒ 筆者から上皇への敬意
・たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・が … 格助詞
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・やうに … 比況の助動詞「やうなり」の連用形
・廻り … ラ行四段活用の動詞「廻る」の連用形
・て … 接続助詞
水を汲み入るること、めでたかりけり。
水を汲み入れることが、すばらしかった。
・水 … 名詞
・を … 格助詞
・汲(く)み入るる … ラ行下二段活用の動詞「汲み入る」の連体形
・こと … 名詞
・めでたかり … ク活用の形容詞「めでたし」の連用形
○めでたし … すばらしい
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
よろづに、その道を知れる者は、やんごとなきものなり。
何事につけても、その方法を会得している者は、たいしたものである。
・よろづに … 副詞
○よろづに … 万事において
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・道 … 名詞
○道 … 方法
・を … 格助詞
・知れ … ラ行四段活用の動詞「知る」の命令形
○知る … 理解する
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・者 … 名詞
・は … 係助詞
・やんごとなき … ク活用の形容詞「やんごとなし」の連体形
○やんごとなし … 尊ぶべきである
・もの … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形