建礼門院右京太夫集・なべて世の(かかる夢見ぬ人) 現代語訳・品詞分解

またの年の春ぞ、まことにこの世のほかに聞きはてにし。
翌年の春、本当に(資盛様が)あの世に(行った)と聞いてしまった。
・また … 副詞
・の … 格助詞
・年 … 名詞
・の … 格助詞
・春 … 名詞
・ぞ … 係助詞
・まことに … 副詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・世 … 名詞
・の … 格助詞
・ほか … 名詞
〇この世のほか … あの世
・に … 格助詞
・聞き … カ行四段活用の動詞「聞く」の連用形
・はて … タ行下二段活用の動詞「はつ」の連用形
〇はつ … 完全に~する
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の終止形

そのほどのことは、まして何とかは言はむ。
その時のことは、まして何と言いましょうか。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・ほど … 名詞
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・は … 係助詞
・まして … 副詞
・何 … 代名詞
・と … 格助詞
・かは … 係助詞・反語
・言は … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の連体形(結び)

皆かねて思ひしことなれど、ただほれぼれとのみおぼゆ。
みんな前もって予想していたことであるが、ただぼうぜんとだけしている感じだ。
・皆 … 名詞
・かねて … 副詞
〇かねて … 前もって
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
〇思ふ … 予想する
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・こと … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ど … 接続助詞
・ただ … 副詞
・ほれぼれと … 副詞
〇ほれぼれと … ぼうぜんとしたさま
・のみ … 副助詞
・おぼゆ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の終止形
おぼゆ … 感じられる

あまりにせきやらぬ涙も、かつは見る人もつつましければ、
あまりにもせきとめきれない涙も、一方では(そばで)見る人にも気が引けるので、
・あまりに … シク活用の形容動詞「あまりなり」の連用形
〇あまりなり … 度が過ぎているさま
・せきやら … ラ行四段活用の動詞「せきやる」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
〇せきやらず … せきとめきれない
・涙 … 名詞
・も … 係助詞
・かつは … 副詞
〇かつは … 一方では
・見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・人 … 名詞
・も … 係助詞
・つつましけれ … シク活用の形容詞「つつまし」の已然形
つつまし … 気が引ける
・ば … 接続助詞

何とか人も思ふらめど、「心地のわびしき。」とて、
どうしたのかと人も思っているだろうが、「気分が悪い。」と言って、
・何 … 代名詞
・と … 格助詞
・か … 係助詞
〇何とか … どうしたのかと
・人 … 名詞
・も … 係助詞
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の終止形
・らめ … 現在推量の助動詞「らむ」の已然形
・ど … 接続助詞
・心地 … 名詞
〇心地 … 気分
・の … 格助詞
・わびしき … シク活用の形容詞「わびし」の連体形
わびし … つらく苦しい
・とて … 格助詞

ひきかづき、寝暮らしてのみぞ、心のままに泣き過ぐす。
(夜具を)頭からかぶり、寝て暮らすばかりで、思いのままに泣き過ごす。
・ひきかづき … カ行四段活用の動詞「ひきかづく」の連用形
〇ひきかづく … (夜具を)頭からかぶる
・寝暮らし … サ行四段活用の動詞「寝暮らす」の連用形
・て … 接続助詞
・のみ … 副助詞
・ぞ … 係助詞・強意
・心 … 名詞
・の … 格助詞
・まま … 名詞
・に … 格助詞
・泣き過ぐす … サ行四段活用の動詞「泣き過ぐす」の連体形(結び)

いかでものをも忘れむと思へど、あやにくに面影は身に添ひ、
どうにかして資盛様の死を忘れようと思うけれど、意地悪く面影はわが身に寄り添い、
・いかで … 副詞
・もの … 名詞
〇もの … 思っていることの内容
・を … 格助詞
・も … 係助詞
・忘れ … ラ行下二段活用の動詞「忘る」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・思へ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の已然形
・ど … 接続助詞
・あやにくに … ナリ活用の形容動詞「あやにくなり」の連用形
あやにくなり … 意地が悪い
・面影 … 名詞
・は … 係助詞
・身 … 名詞
〇身 … その人自身
・に … 格助詞
・添ひ … ハ行四段活用の動詞「添ふ」の連用形
〇添ふ … 付き添う

言の葉ごとに聞く心地して、
言葉の一言一言を聞くような気持ちがして、
・言の葉 … 名詞
・ごと … 接尾語
・に … 格助詞
・聞く … カ行四段活用の動詞「聞く」の連体形
・心地 … 名詞
〇心地 … 気持ち
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞

身を責めて悲しきこと、言ひ尽くすべきかたなし。
わが身を責めて悲しいことを、言い尽くせる方法がない。
・身 … 名詞
・を … 格助詞
・責め … マ行下二段活用の動詞「責む」の連用形
・て … 接続助詞
・悲しき … シク活用の形容詞「悲し」の連体形
・こと … 名詞
・言ひ尽くす … サ行四段活用の動詞「言ひ尽くす」の終止形
・べき … 可能の助動詞「べし」の連体形
・かた … 名詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形

ただ「限りある命にて、はかなく。」など聞きしことをだにこそ
ただ「限りある寿命によって、亡くなった。」などと聞いたことをさえ
・ただ … 副詞
・限り … 名詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・命 … 名詞
・に … 
・て … 接続助詞
〇にて … ~によって
・はかなく … ク活用の形容詞「はかなし」の連用形
はかなし … 死んだ状態を婉曲にいう
・など … 副助詞
・聞き … カ行四段活用の動詞「聞く」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・こと … 名詞
・を … 格助詞
・だに … 副助詞
・こそ … 係助詞・強意

悲しきことに言ひ思へ、
悲しいことに言い思うが、
・悲しき … シク活用の形容詞「悲し」の連体形
・こと … 名詞
・に … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・思へ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の已然形(結び)

これは何をかためしにせむと返す返すおぼえて、
資盛様の死の場合は何を先例にしようかと繰り返し思われて、
・これ … 代名詞
・は … 係助詞
・何 … 代名詞
・を … 格助詞
・か … 係助詞・疑問
・ためし … 名詞
〇ためし … 先例
・に … 格助詞
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の連体形(結び)
・と … 格助詞
・返す返す … 副詞
〇返す返す … 繰り返し
・おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連用形
おぼゆ … (自然に)思われる
・て … 接続助詞

  なべて世のはかなきことを悲しとは
  一般に世の中で人が亡くなることを悲しいと言うのは
  ・なべて … 副詞
  〇なべて … 一般に
  ・世 … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・はかなき … ク活用の形容詞「はかなし」の連体形
  ・こと … 名詞
  ・を … 格助詞
  ・悲し … シク活用の形容詞「悲し」の終止形
  ・と … 格助詞
  ・は … 係助詞

  かかる夢見ぬ人や言ひけむ
  このような夢を見ない人が言ったのだろうか。
  ・かかる … 連体詞
  ・夢 … 名詞
  ・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の未然形
  ・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
  ・人 … 名詞
  ・や … 係助詞・疑問
  ・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
  ・けむ … 過去推量の助動詞「けむ」の連体形(結び)

ほど経て、人のもとより「さても、
日がたって、ある人のところから「それにしても、
・ほど … 名詞
ほど … ある期間
・経(へ) … ハ行下二段活用の動詞「経(ふ)」の連用形
・て … 接続助詞
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・もと … 名詞
・より … 格助詞
・さても … 接続詞
〇さても … それにしても

このあはれ、いかばかりか。」と言ひたれば、
この悲しさ、どれほどか。」と言ってきたので、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・あはれ … 名詞
あはれ … 悲しさ
・いかばかり … 副詞
〇いかばかり … どれほど
・か … 係助詞
・と … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・たれ … 完了の助動詞「たり」の已然形
・ば … 接続助詞

なべてのことのやうにおぼえて、
並一通りのことのように思われて、
・なべて … 副詞
なべて … 並一通り
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・の … 格助詞
・やうに … 比況の助動詞「やうなり」の連用形
・おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連用形
・て … 接続助詞

  悲しともまたあはれとも世の常に言ふべきことにあらばこそあらめ
  悲しいともまた寂しいとも普通に言えることであるならばよいのだろうが。
  ・悲し … シク活用の形容詞「悲し」の終止形
  ・と … 格助詞
  ・も … 係助詞
  ・また … 副詞
  ・あはれ … ナリ活用の形容動詞「あはれ」の語幹
  ・と … 格助詞
  ・も … 係助詞
  ・世の常 … 名詞
  〇世の常 … 普通
  ・に … 格助詞
  ・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形
  ・べき … 可能の助動詞「べし」の連体形
  ・こと … 名詞
  ・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
  ・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
  ・ば … 接続助詞
  ・こそ … 係助詞・強意
  ・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
  ・め … 推量の助動詞「む」の已然形(結び)
  〇あらばこそあらめ … ~であるならばよいのだろうが

error: Content is protected !!