木曽の最後・平家物語2

五騎がうちまで巴は討たれざりけり。
五騎のうちにまで巴は討たれなかった。
・五騎 … 名詞
・が … 格助詞
・うち … 名詞
・まで … 副助詞
・巴(ともえ) … 名詞
・は … 係助詞
・討た … タ行四段活用の動詞「討つ」の未然形
・れ … 受身の助動詞「る」の未然形
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

木曽殿、「おのれは疾う疾う、女なれば、いづちへも行け。
木曽殿は、「おまえは早く早く、女なので、どこへでも行け。
・木曽殿 … 名詞
・おのれ … 代名詞
・は … 係助詞
・疾う疾う … 副詞
・女 … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞
・いづち … 代名詞
○いづち … どこ
・へ … 格助詞
・も … 係助詞
・行け … カ行四段活用の動詞「行く」の命令形

われは討ち死にせむと思ふなり。
私は討ち死にしようと思うのだ。
・われ … 代名詞
・は … 係助詞
・討ち死に … 名詞
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・ん … 意志の助動詞「ん」の終止形
・と … 格助詞
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

もし人手にかからば自害をせむずれば、
もし人の手にかかるならば自害をしたいので、
・もし … 副詞
・人手 … 名詞
・に … 格助詞
・かから … ラ行四段活用の動詞「かかる」の未然形
・ば … 接続助詞
・自害 … 名詞
・を … 格助詞
・せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・んずれ … 意志の助動詞「んず」の已然形
・ば … 接続助詞

木曽殿の最後のいくさに、女を具せられたりけりなんど
木曽殿の最後の戦いに、女を伴っていらっしゃったなどと
・木曽殿 … 名詞
・の … 格助詞
・最後 … 名詞
・の … 格助詞
・いくさ … 名詞
・に … 格助詞
・女 … 名詞
・を … 格助詞
・具せ … サ行変格活用の動詞「具す」の未然形
具す … 引き連れる
られ … 尊敬の助動詞「らる」の連用形 ⇒ 木曽から木曽への敬意
・たり … 存続の助動詞「たり」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
・なんど … 副助詞

言はれむこともしかるべからず。」とのたまひけれども、
言われるようなこともあってはならない。」とおっしゃったけれども、
・言は … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の未然形
・れ … 受身の助動詞「る」の未然形
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・こと … 名詞
・も … 係助詞
・しかる … ラ行変格活用の動詞「しかり」の連体形
・べから … 当然の助動詞「べし」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
○しかるべからず … 適当ではない
・と … 格助詞
・のたまひ … ハ行四段活用の動詞「のたまふ」の連用形
のたまふ … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ 筆者から木曽への敬意
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ども … 接続助詞

なほ落ちも行かざりけるが、あまりに言はれ奉りて、
やはり落ちのびても行かなかったが、あまりに言われ申し上げて、
・なほ … 副詞
・落ち … タ行上二段活用の動詞「落つ」の連用形
・も … 係助詞
・行か … カ行四段活用の動詞「行く」の未然形
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・が … 接続助詞
・あまりに … 副詞
・言は … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の未然形
・れ … 受身の助動詞「る」の連用形
・奉つ … ラ行四段活用の動詞「奉る」の連用形(音便)
奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 筆者から木曽への敬意
・て … 接続助詞

「あつぱれ、よからう敵がな。
「ああ、よさそうな敵がほしいなあ。
・あつぱれ … 感動詞
・よから … ク活用の形容詞「よし」の未然形
よし … 適当である
・う … 婉曲の助動詞「う」の連体形
・敵(かたき) … 
・がな … 終助詞
がな … ~がほしいなあ(願望)

最後のいくさして見せ奉らむ。」とて、
最後の戦いをしてお見せ申し上げよう。」と言って、
・最後 … 名詞
・の … 格助詞
・いくさ … 名詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・見せ … サ行下二段活用の動詞「見す」の連用形
・奉ら … ラ行四段活用の動詞「奉る」の未然形
奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 巴から木曽への敬意
・ん … 意志の助動詞「ん」の終止形
・とて … 格助詞

ひかへたるところに、武蔵の国に聞こえたる大力、
待機していたところに、武蔵の国で評判の高い大力の、
・ひかへ … ハ行下二段活用の動詞「ひかふ」の連用形
○ひかふ … 待機する
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・ところ … 名詞
・に … 格助詞
・武蔵(むさし)の国 … 名詞
・に … 格助詞
・聞こえ … ヤ行下二段活用の動詞「聞こゆ」の連用形
聞こゆ … 評判になる
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・大力(だいぢから) … 名詞

御田八郎師重、三十騎ばかりで出で来たり。
御田八郎師重が、三十騎ほどで出て来た。
・御田八郎師重(おんだのはちろうもろしげ) … 
・三十騎 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・で … 格助詞
・出で来 … カ行変格活用の動詞「出で来」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の終止形

巴、その中へ駆け入り、御田八郎に押し並べて、
巴御前は、その中に駆け入り、御田八郎に強引に馬を並べ、
・巴(ともえ) … 名詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・中 … 名詞
・へ … 格助詞
・駆け入り … ラ行四段活用の動詞「駆け入る」の連用形
○駆け~ … 馬を走らせて~する
・御田八郎 … 名詞
・に … 格助詞
・押し並べ … バ行下二段活用の動詞「押し並ぶ」の連用形
○押し~ … 無理に~する
・て … 接続助詞

むずと取つてひき落とし、わが乗つたる鞍の前輪に押しつけて、
むんずとつかんで引き落とし、自分が乗っている鞍の前輪に押しつけて、
・むずと … 副詞
・取つ … ラ行四段活用の動詞「取る」の連用形(音便)
・て … 接続助詞
・ひき落とし … サ行四段活用の動詞「ひき落とす」の連用形
・わ … 代名詞
・が … 格助詞
・乗つ … ラ行四段活用の動詞「乗る」の連用形(音便)
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・鞍 … 名詞
・の … 格助詞
・前輪(まえわ) … 名詞
・に … 格助詞
・押しつけ … カ行下二段活用の動詞「押しつく」の連用形
・て … 接続助詞

ちつとも働かさず、首ねぢ切つて捨ててんげり。
少しも身動きさせず、首をねじ切って捨ててしまった。
・ちつとも … 副詞
・働かさ … サ行四段活用の動詞「働かす」の未然形
○働かす … 身動きさせる
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・首 … 名詞
・ねぢ切つ … ラ行四段活用の動詞「ねぢ切る」の連用形(音便)
・て … 接続助詞
・捨て … タ行下二段活用の動詞「捨つ」の連用形
○てんげり ⇒ 「てけり」の変化した形
・て … 完了の助動詞「つ」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

そののち、物の具脱ぎ捨て、東国の方へ落ちぞ行く。
そののち武具を脱ぎ捨て、東国の方へ落ちのびて行く。
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・のち … 名詞
・物の具 … 名詞
○物の具 … 武具・武器の総称
・脱ぎ捨て … タ行下二段活用の動詞「脱ぎ捨つ」の連用形
・東国(とうごく) … 名詞
・の … 格助詞
・方(かた) … 名詞
・へ … 格助詞
・落ち … タ行上二段活用の動詞「落つ」の連用形
・ぞ … 係助詞・強調
・行く … カ行四段活用の動詞「行く」の連体形(結び)

手塚太郎討ち死にす。手塚別当落ちにけり。
手塚太郎は討ち死にする。手塚の別当は落ちのびた。
・手塚太郎(てづかのたろう) … 名詞
・討ち死に … 名詞
・す … サ行変格活用の動詞「す」の終止形
・手塚別当(てづかのべつとう) … 名詞
・落ち … タ行上二段活用の動詞「落つ」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形