九月ばかり、夜一夜降り明かしつる雨の、今朝はやみて、朝日いとけざやかに
九月ごろ、一晩中降り明かした雨が、今朝はやんで、朝日がたいそう鮮やかに
九月 … 名詞
ばかり … 副助詞
夜一夜 … 名詞
降り明かし … 四段活用の動詞「降り明かす」の連用形
つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
雨 … 名詞
の … 格助詞
今朝 … 名詞
は … 係助詞
やみ … 四段活用の動詞「やむ」の連用形
て … 接続助詞
朝日 … 名詞
いと … 副詞
けざやかに … ナリ活用の形容動詞「けざやかなり」の連用形
さし出でたるに、前栽の露はこぼるばかりぬれかかりたるも、いとをかし。
さし出てきたころに、庭の植え込みの露がこぼれるほどに濡れてかかっているのも、とても情趣がある。
さし出で … 下二段活用の動詞「さし出づ」の連用形
たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
に … 格助詞
前栽 … 名詞
の … 格助詞
露 … 名詞
は … 係助詞
こぼる … 下二段活用の動詞「こぼる」の終止形
ばかり … 副助詞
濡れかかり … ラ行四段活用の動詞「濡れかかる」の連用形
たる … 存続の助動詞「つ」の連体形
も … 係助詞
いと … 副詞
をかし … シク活用の形容詞「をかし」の終止形
透垣の羅文、軒の上などは、かいたる蜘蛛の巣のこぼれ殘りたるに、
透垣の羅文、軒の上などは、かけてあった蜘蛛の巣の破れ残っているところに、
透垣 … 名詞
の … 格助詞
羅文 … 名詞
軒 … 名詞
の … 格助詞
上 … 名詞
など … 副助詞
は … 係助詞
かい … 四段活用の動詞「かく」の連用形(音便)
たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
蜘蛛 … 名詞
の … 格助詞
巣 … 名詞
の … 格助詞
こぼれ残り … 四段活用の動詞「こぼれ残る」の連用形
たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
に … 格助詞
雨のかかりたるが、白き玉を貫きたるやうなるこそ、いみじうあはれにをかしけれ。
雨のかかっているのが、真珠を貫いているように見えるのは、たいへん風情があっておもしろい。
雨 … 名詞
の … 格助詞
かかり … 四段活用の動詞「かかる」の連用形
たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
が … 格助詞
白き … ク活用の形容詞「白し」の連体形
玉 … 名詞
を … 格助詞
貫き … 四段活用の動詞「貫く」の連用形
たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
やうなる … 比況の助動詞「やうなり」の連体形
こそ … 係助詞
いみじう … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形(音便)
あはれに … ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形
をかしけれ … シク活用の形容詞「をかし」の已然形
少し日たけぬれば、萩などのいと重げなるに、露の落つるに、枝うち動きて、
少し日が高くなると、萩などがたいそう重そうであるのに、露が落ちると、枝がちょっと動いて、
少し … 副詞
日 … 名詞
たけ … 下二段活用の動詞「たく」の連用形
ぬれ … 完了の助動詞「ぬ」の已然形
ば … 接続助詞
萩 … 名詞
など … 副助詞
の … 格助詞
いと … 副詞
重げなる … ナリ活用の形容動詞「重げなり」の連体形
に … 接続助詞
露 … 名詞
の … 格助詞
落つる … 上二段活用の動詞「落つ」の連体形
に … 接続助詞
枝 … 名詞
うち動き … 四段活用の動詞「うち動く」の連用形
て … 接続助詞
人も手触れぬに、ふと上ざまへ上がりたるも、いみじうをかし、
人も手を触れないのに、さっと上の方にはね上がったのも、とてもおもしろい、
人 … 名詞
も … 係助詞
手 … 名詞
触れ … 下二段活用の動詞「触る」の未然形
ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
に … 接続助詞
ふと … 副詞
上ざま … 名詞
へ … 格助詞
上がり … 四段活用の動詞「上がる」の連用形
たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
も … 係助詞
いみじう … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形(音便)
をかし … シク活用の形容詞「をかし」の終止形
と言ひたることどもの、人の心には、つゆをかしからじと思ふこそ、またをかしけれ。
と言ったことなどが、他の人の心には、少しもおもしろくないのだろうと思うのが、またおもしろい。
と … 格助詞
言ひ … 四段活用の動詞「言ふ」の連用形
たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
ことども … 名詞
の … 格助詞
人 … 名詞
の … 格助詞
心 … 名詞
に … 格助詞
は … 係助詞
つゆ … 副詞
をかしから … シク活用の形容詞「をかし」の未然形
じ … 打消推量の助動詞「じ」の終止形
と … 格助詞
思ふ … 四段活用の動詞「思ふ」の連体形
こそ … 係助詞
また … 副詞
をかしけれ … シク活用の形容詞「をかし」の已然形