今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。
今では昔のことだが、竹取の翁という者がいた。
今
は … 係助詞
昔
竹取の翁(おきな)
翁 … おじいさん
と … 格助詞
いふ … 四段活用の動詞「いふ」の連体形
者
あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。
野や山に分け入って竹を取っては、いろいろなことに使っていた。
野山
に … 格助詞
まじり … 四段活用の動詞「まじる」の連用形
まじる … 分け入る
て … 接続助詞
竹
を … 格助詞
取り … 四段活用の動詞「取る」の連用形
つつ … 接続助詞
よろづ … さまざま
の … 格助詞
こと
に … 格助詞
使ひ … 四段活用の動詞「使ふ」の連用形
けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
名をば、さかきの造となむいひける。
名をさかきの造といった。
名
を … 格助詞
ば … 係助詞
さかきの造(みやつこ)
と … 格助詞
なむ … 係助詞・強意
いひ … 四段活用の動詞「いふ」の連用形
ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)
その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。
その竹の中に、根元の光る竹が一本あった。
そ … 代名詞
の … 格助詞
竹
の … 格助詞
中
に … 格助詞
もと
光る … 四段活用の動詞「光る」の連体形
竹
なむ … 係助詞・強意
一筋
あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)
あやしがりて、寄りて見るに、筒の中光りたり。
不思議に思って近寄って見ると、筒の中が光っていた。
あやしがり … 四段活用の動詞「あやしがる」の連用形
あやしがる … 不思議に思う
て … 接続助詞
寄り … 四段活用の動詞「寄る」の連用形
て … 接続助詞
見る … 上一段活用の動詞「見る」の連体形
に … 接続助詞
筒
の … 格助詞
中
光り … 四段活用の動詞「光る」の連用形
たり … 存続の助動詞「たり」の終止形
それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。
それを見ると、三寸ぐらいの人が、たいそうかわいらしい様子で座っていた。
それ … 代名詞
を … 格助詞
見れ … 上一段活用の動詞「見る」の已然形
ば … 接続助詞
三寸
ばかり … 副助詞
なる … 断定の助動詞「なり」の連体形
人 … 名詞
いと … 副詞
いと … たいそう
うつくしう … シク活用の形容詞「うつくし」の連用形(音便)
うつくし … かわいらしい
て … 接続助詞
ゐ … 上一段活用の動詞「ゐる」の連用形
ゐる … 座る
たり … 存続の助動詞「たり」の終止形
翁言ふやう、「わが朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて知りぬ。
翁が言うには、「私が毎朝毎晩見る竹の中にいらっしゃったので見つけた。
翁
言ふ … 四段活用の動詞「言ふ」の連体形
やう
わ … 代名詞
が … 格助詞
朝ごと(「ごと」は接尾語)
夕ごと(「ごと」は接尾語)
に … 格助詞
見る … 上一段活用の動詞「見る」の連体形
竹
の … 格助詞
中
に … 格助詞
おはする … サ行変格活用の動詞「おはす」の連体形
おはす … 「居り」の尊敬語、いらっしゃる
⇒ 翁からかぐや姫への敬意
にて … 格助詞
知り … 四段活用の動詞「知る」の連用形
ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
子になり給ふべき人なめり。」とて、手にうち入れて、家へ持ちて来ぬ。
わが子になられるはずの人であるようだ。」と言って、手の中に入れて、家へ持って来た。
子
に … 格助詞
なり … 四段活用の動詞「なる」の連用形
給(たま)ふ … 四段活用の尊敬の補助動詞「給ふ」の終止形
⇒ 翁からかぐや姫への敬意
べき … 当然の助動詞「べし」の連体形
人
な … 断定の助動詞「なり」の連体形(音便)
めり … 推定の助動詞「めり」の終止形
とて … 格助詞
手
に … 格助詞
うち入れ … 下二段活用の動詞「うち入る」の連用形
て … 接続助詞
家
へ … 格助詞
持ち … 四段活用の動詞「持つ」の連用形
て … 接続助詞
来(き) … カ行変格活用の動詞「来(く)」の連用形
ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
妻の嫗に預けて養はす。
妻である嫗に預けて育てさせる。
妻(め)
の … 格助詞
嫗(おうな) … おばあさん
に … 格助詞
預け … 下二段活用の動詞「預く」の連用形
て … 接続助詞
養は … 四段活用の動詞「養ふ」の未然形
す … 使役の助動詞「す」の終止形
うつくしきこと限りなし。
かわいらしいことはこの上もない。
うつくしき … シク活用の形容詞「うつくし」の連体形
こと
限りなし … ク活用の形容詞「限りなし」の終止形
限りなし … この上ない
いとをさなければ、籠に入れて養ふ。
たいそう幼いので、籠に入れて育てる。
いと … 副詞
をさなけれ … ク活用の形容詞「をさなし」の已然形
ば … 接続助詞
籠(こ)
に … 格助詞
入れ … 下二段活用の動詞「入る」の連用形
て … 接続助詞
養ふ … 四段活用の動詞「養ふ」の終止形
竹取の翁、竹を取るに、この子を見つけてのちに竹取るに、
竹取の翁が、竹を取ると、この子を見つけた後に竹を取ると、
竹取の翁
竹
を … 格助詞
取る … 四段活用の動詞「取る」の連体形
に … 接続助詞
こ … 代名詞
の … 格助詞
子
を … 格助詞
見つけ … 下二段活用の動詞「見つく」の連用形
て … 接続助詞
のち
に … 格助詞
竹
取る … 四段活用の動詞「取る」の連体形
に … 接続助詞
節を隔ててよごとに、黄金ある竹を見つくること重なりぬ。
どの節と節の間にも黄金が入っている竹を見つけることが重なった。
節
を … 格助詞
隔て … 下二段活用の動詞「隔つ」の連用形
て … 接続助詞
よごと(「ごと」は接尾語)
よ … 竹の節と節の間
に … 格助詞
黄金(こがね)
ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
竹
を … 格助詞
見つくる … 下二段活用の動詞「見つく」の連体形
こと
重なり … 四段活用の動詞「重なる」の連用形
ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
かくて、翁やうやう豊かになりゆく。
こうして、翁はだんだん裕福になっていく。
かくて … 接続詞
翁
やうやう … 副詞
やうやう … だんだん
豊かに … ナリ活用の形容詞「豊かなり」の連用形
なりゆく … 四段活用の動詞「なりゆく」の終止形
この児、養ふほどに、すくすくと大きになりまさる。
この子は、養育するうちに、すくすくと大きく成長する。
こ … 代名詞
の … 格助詞
児(ちご)
養ふ … 四段活用の動詞「養ふ」の連体形
ほど
に … 格助詞
すくすくと … 副詞
大きに … ナリ活用の形容詞「大きなり」の連用形
なりまさる … 四段活用の動詞「なりまさる」の終止形
なりまさる … ますます~になる
三月ばかりになるほどに、よきほどなる人になりぬれば、
三か月ほどになる頃に、人並みの大きさの人になったので、
三月(みつき)
ばかり … 副助詞
に … 格助詞
なる … 四段活用の動詞「なる」の連体形
ほど
に … 格助詞
よき … ク活用の形容詞「よし」の連体形
よし … 適当である
ほど
なる … 断定の助動詞「なり」の連体形
人
に … 格助詞
なり … 四段活用の動詞「なる」の連用形
ぬれ … 完了の助動詞「ぬ」の已然形
ば … 接続助詞
髮上げなどさうして、髮上げさせ、裳着す。
髪上げの儀式などあれこれ手配して、髪を結い上げさせ、裳を着せる。
髮上げ
など … 副助詞
さうし … サ行変格活用の動詞「さうす」の連用形
さうす … あれこれ手配する
て … 接続助詞
髮 … 名詞
上げ … 下二段活用の動詞「上ぐ」の未然形
させ … 使役の助動詞「さす」の連用形
裳(も)
着す … 下二段活用の動詞「着す」の終止形
帳の内よりも出ださず、いつき養ふ。
帳の中からも出さないで、大切に養育する。
帳(ちょう)
の … 格助詞
内
より … 格助詞
も … 係助詞
出ださ … 四段活用の動詞「出だす」の未然形
ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
いつき … 四段活用の動詞「いつく」の連用形
いつく … 大切に育てる
養ふ … 四段活用の動詞「養ふ」の終止形
この児のかたち、けうらなること世になく、屋の内は暗き所なく光満ちたり。
この子の容貌は、清らかで美しいこと世にないほどであり、家の中は暗い所もなく光が満ちていた。
こ … 代名詞
の … 格助詞
児
の … 格助詞
かたち … 容貌
けうらなる … ナリ活用の形容動詞「けうらなり」の連体形
けうらなり … 清らかで美しい
きよらなる … ナリ活用の形容動詞「きよらなり」の連体形
きよらなり … 清らかで美しい
こと
世
に … 格助詞
なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
屋(や)
の … 格助詞
内
は … 係助詞
暗き … ク活用の形容詞「暗し」の連体形
所
なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
光
満ち … 上二段活用の動詞「満つ」の連用形
たり … 存続の助動詞「たり」の終止形
翁、心地悪しく苦しきときも、この子を見れば、苦しきこともやみぬ。
翁は気分が悪く、苦しいときも、この子を見ると、苦しいこともおさまってしまった。
翁
心地
悪(あ)しく … シク活用の形容詞「悪し」の連用形
悪し … すぐれない
苦しき … シク活用の形容詞「苦し」の連体形
とき
も … 係助詞
こ … 代名詞
の … 格助詞
子
を … 格助詞
見れ … 上一段活用の動詞「見る」の已然形
ば … 接続助詞
苦しき … シク活用の形容詞「苦し」の連体形
こと
も … 係助詞
やみ … 四段活用の動詞「やむ」の連用形
ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
腹立たしきことも慰みけり。
腹立たしいことも心が晴れた。
腹立たしき … シク活用の形容詞「腹立たし」の連体形
こと
も … 係助詞
慰み … 四段活用の動詞「慰む」の連用形
けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
翁、竹を取ること久しくなりぬ。
翁は、(黄金の入っている)竹を取ることが長く続いた。
翁
竹
を … 格助詞
取る … 四段活用の動詞「取る」の連体形
こと
久しく … シク活用の形容詞「久し」の連用形
なり … 四段活用の動詞「なる」の連用形
ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
勢ひ猛の者になりにけり。
勢力のある富豪になった。
勢(いきお)ひ
猛(もう)
の … 格助詞
者
に … 格助詞
なり … 四段活用の動詞「なる」の連用形
に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
この子いと大きになりぬれば、名を、三室戸斎部の秋田を呼びてつけさす。
この子がとても大きくなったので、名前を、三室戸の斎部の秋田を呼んでつけさせる。
こ … 代名詞
の … 格助詞
子
いと … 副詞
大きに … ナリ活用の形容動詞「大きなり」の連用形
なり … 四段活用の動詞「なる」の連用形
ぬれ … 完了の助動詞「ぬ」の已然形
ば … 接続助詞
名
を … 格助詞
三室戸(みむろど)
斎部(いむべ)
の … 格助詞
秋田
を … 格助詞
呼び … 四段活用の動詞「呼ぶ」の連用形
て … 接続助詞
つけ … 下二段活用の動詞「つく」の未然形
さす … 使役の助動詞「さす」の終止形
秋田、なよ竹のかぐや姫とつけつ。
秋田は、なよ竹のかぐや姫と名づけた。
秋田
なよ竹
の … 格助詞
かぐや姫
と … 格助詞
つけ … 下二段活用の動詞「つく」の連用形
つ … 完了の助動詞「つ」の終止形
このほど三日うちあげ遊ぶ。
このとき三日間盛大に歌舞の宴を開く。
こ … 代名詞
の … 格助詞
ほど
三日
うちあげ … 下二段活用の動詞「うちあぐ」の連用形
うちあぐ … 手や楽器を打って歌い騒ぐ
遊ぶ … 四段活用の動詞「遊ぶ」の終止形
遊ぶ … 詩歌や管弦を楽しむ
よろづの遊びをぞしける。
あらゆる歌舞を楽しんだ。
よろづ
の … 格助詞
遊び
を … 格助詞
ぞ … 係助詞・強意
し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)
男はうけきらはず呼び集へて、いとかしこく遊ぶ。
男は分け隔てせずに招き集めて、とても盛大に歌舞を楽しむ。
男(おのこ)
は … 係助詞
うけきらは … 四段活用の動詞「うけきらふ」の未然形
うけきらふ … 分け隔てする
ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
呼び集(つど)へ … 下二段活用の動詞「呼び集ふ」の連用形
て … 接続助詞
いと … 副詞
かしこく … ク活用の形容詞「かしこし」の連用形
かしこく … はなはだしく
遊ぶ … 四段活用の動詞「遊ぶ」の終止形
世界のをのこ、貴なるもいやしきも、いかでこのかぐや姫を得てしがな、
世間の男、身分の高い人も低い人も、なんとかしてこのかぐや姫を手に入れたいものだ、
世界
の … 格助詞
男
貴(あて)なる … ナリ活用の形容動詞「貴なり」の連体形
貴なり … 身分が高い
も … 係助詞
賤(いや)しき … シク活用の形容詞「賤し」の連体形
賤し … 身分が低い
も … 係助詞
いかで … 副詞
いかで … なんとかして
こ … 代名詞
の … 格助詞
かぐや姫
を … 格助詞
得(え) … 下二段活用の動詞「得(う)」の連用形
てしがな … 終助詞
てしがな … ~たいものだ
見てしがなと、音に聞き、めでて惑ふ。
妻にしたいものだと、うわさに聞き、恋しくて心を乱す。
見 … 上一段活用の動詞「見る」の連用形
見る … 結婚する
てしがな … 終助詞
と … 格助詞
音
に … 格助詞
聞き … 四段活用の動詞「聞く」の連用形
音に聞く … うわさに聞く
めで … 下二段活用の動詞「めづ」の連用形
めづ … 強く心を打たれる
て … 接続助詞
惑ふ … 四段活用の動詞「惑ふ」の終止形
惑ふ … 心が乱れる