竹取物語「かぐや姫の嘆き」の現代語訳・原文です。また、動詞・形容詞・形容動詞・助動詞について活用形・活用の種類・意味を掲載しています。
八月十五日ばかりの月に出でゐて、かぐや姫いといたく泣きたまふ。
八月十五日ごろの月に縁側に出て座って、かぐや姫はとてもひどくお泣きになる。
・ 出でゐ … 上一段活用の動詞「出でゐる」の連用形
・ いたく … ク活用の形容詞「いたし」の連用形
・ 泣き … 四段活用の動詞「泣く」の連用形
・ たまふ … 四段活用の尊敬の補助動詞「たまふ」の終止形
人目も今はつつみたまはず泣きたまふ。
人の目からも今ではお隠しにならずお泣きになる。
・ つつみ … 四段活用の動詞「つつむ」の連用形
・ たまは … 四段活用の尊敬の補助動詞「たまふ」の未然形
・ ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・ 泣き … 四段活用の動詞「泣く」の連用形
・ たまふ … 四段活用の尊敬の補助動詞「たまふ」の終止形
これを見て、親どもも、「何事ぞ。」と問ひさわぐ。
これを見て、親たちも、「何事ですか。」と尋ね動揺する。
・ 見 … 上一段活用の動詞「見る」の連用形
・ 問ひ … 四段活用の動詞「問ふ」の連用形
・ さわぐ … 四段活用の動詞「さわぐ」の終止形
かぐや姫泣く泣く言ふ、「先々も申さむと思ひしかども、
かぐや姫が泣きながら言う、「以前も申し上げようと思ったのですが、
・ 言ふ … 四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・ 申さ … 四段活用の動詞「申す」の未然形
・ む … 意志の助動詞「む」の終止形
・ 思ひ … 四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・ しか … 過去の助動詞「き」の已然形
必ず心惑はしたまはむものぞと思ひて、今まで過ごしはべりつるなり。
きっと心を乱されるに違いないと思って、今までそのままにしていたのです。
・ 惑はし … 四段活用の動詞「惑はす」の連用形
・ たまは … 四段活用の尊敬の補助動詞「たまふ」の未然形
・ む … 推量の助動詞「む」の連体形
・ 思ひ … 四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・ 過ごし … 四段活用の動詞「過ごす」の連用形
・ はべり … ラ行変格活用の丁寧の補助動詞「はべり」の連用形
・ つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
・ なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
さのみやはとて、うち出ではべりぬるぞ。
そんなに黙ってばかりいられようかと思って、うち明けるのです。
・ うち出で … 下二段活用の動詞「うち出づ」の連用形
・ はべり … ラ行変格活用の丁寧の補助動詞「はべり」の連用形
・ ぬる … 完了の助動詞「ぬ」の連体形
おのが身は、この国の人にもあらず。月の都の人なり。
わたしは、この国の人ではありません。月の都の人です。
・ に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・ あら … ラ行変格活用の補助動詞「あり」の未然形
・ ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・ なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
それを、昔の契りありけるによりなむ、この世界にはまうで来たりける。
ところが、前世からの宿命があったことによって、この世界にはやって参りました。
・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・ より … 四段活用の動詞「よる」の連用形
○ なむ(係助詞・強調) … 結び:ける(連体形)
・ まうで来 … カ行変格活用の動詞「まうで来」の連用形
・ たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
今は帰るべきになりにければ、この月の十五日に、
今は帰らなければならない時になりましたので、今月の十五日に、
・ 帰る … 四段活用の動詞「帰る」の終止形
・ べき … 当然の助動詞「べし」の連体形
・ なり … 四段活用の動詞「なる」の連用形
・ に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・ けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
かのもとの国より、迎へに人々まうで来むず。
あのもともとの国から、迎えに人々がやって参るでしょう。
・ まうで来 … カ行変格活用の動詞「まうで来」の未然形
・ むず … 推量の助動詞「むず」の終止形
さらずまかりぬべければ、おぼし嘆かむが悲しきことを、
やむをえずお暇しなければなりませんので、嘆き悲しまれるだろうことが悲しくて、
・ さら … 四段活用の動詞「さる」の未然形
・ ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・ まかり … 四段活用の動詞「まかる」の連用形
・ ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形
・ べけれ … 当然の助動詞「べし」の已然形
・ おぼし嘆か … 四段活用の動詞「おぼし嘆く」の未然形
・ む … 推量の助動詞「む」の連体形
・ 悲しき … シク活用の形容詞「悲し」の連体形
この春より思ひ嘆きはべるなり。」と言ひて、いみじく泣くを、
この春から嘆いているのです。」と言って、ひどく泣くので、
・ 思ひ嘆き … 四段活用の動詞「思ひ嘆く」の連用形
・ はべる … ラ行変格活用の丁寧の補助動詞「はべり」の連体形
・ なり … 断定の助動詞「なり」の終止形
・ 言ひ … 四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・ いみじく … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形
・ 泣く … 四段活用の動詞「泣く」の連体形
翁、「こは、なでふことのたまふぞ。
翁は、「これは、何ということをおっしゃるのか。
・ のたまふ … 四段活用の動詞「のたまふ」の連体形
竹の中より見つけきこえたりしかど、菜種の大きさおはせしを、
竹の中から見つけ申し上げたが、菜種の大きさでいらっしゃったのを、
・ 見つけ … 下二段活用の動詞「見つく」の連用形
・ きこえ … 下二段活用の謙譲の補助動詞「きこゆ」の連用形
・ たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・ しか … 過去の助動詞「き」の已然形
・ おはせ … サ行変格活用の動詞「おはす」の未然形
・ し … 過去の助動詞「き」の連体形
わが丈立ち並ぶまで養ひたてまつりたるわが子を、何人か迎へきこえむ。
私の背丈に並ぶまで養い申し上げたわが子を、誰が迎へ申し上げようか。
・ 立ち並ぶ … 四段活用の動詞「立ち並ぶ」の連体形
・ 養ひ … 四段活用の動詞「養ふ」の連用形
・ たてまつり … 四段活用の謙譲の補助動詞「たてまつる」の連用形
・ たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
○ か(係助詞・反語) … 結び:む(連体形)
・ 迎へ … 下二段活用の動詞「迎ふ」の連用形
・ きこえ … 下二段活用の謙譲の補助動詞「きこゆ」の未然形
・ む … 推量の助動詞「む」の連体形
まさに許さむや。」と言ひて、「我こそ死なめ。」とて、
どうして許しましょうか。」と言って、「私のほうこそ死んでしまいたい。」と、
・ 許さ … 四段活用の動詞「許す」の未然形
・ む … 意志の助動詞「む」の終止形
・ 言ひ … 四段活用の動詞「言ふ」の連用形
○ こそ(係助詞・強調) … 結び:め(已然形)
・ 死な … ナ行変格活用の動詞「死ぬ」の未然形
・ め … 意志の助動詞「む」の已然形
泣きののしること、いと堪へがたげなり。
泣き騒ぐのは、とても堪えがたい様子である。
・ 泣きののしる … 四段活用の動詞「泣きののしる」の連体形
・ 堪へがたげなり … ナリ活用の形容動詞「堪へがたげなり」の終止形
かぐや姫のいはく、「月の都の人にて、父母あり。
かぐや姫が言うには、「私は月の都の人であって、父母がいます。
・ いは … 四段活用の動詞「いふ」の未然形
・ く(準体助詞、または、接尾語)
・ に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形
片時の間とて、かの国よりまうで来しかども、
ほんの少しの間ということで、あの国からやって参りましたが、
・ まうで来 … カ行変格活用の動詞「まうで来」の連用形
・ しか … 過去の助動詞「き」の已然形
かくこの国にはあまたの年を経ぬるになむありける。
このようにこの国で多くの年を過ごしてしまったのです。
・ 経 … 下二段活用の動詞「経(ふ)」の連用形
・ ぬる … 完了の助動詞「ぬ」の連体形
・ に … 断定の助動詞「なり」の連用形
○ なむ(係助詞・強調) … 結び:ける(連体形)
・ あり … ラ行変格活用の補助動詞「あり」の連用形
・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
かの国の父母のこともおぼえず、ここには、
あの国の父母のことも思い出さず、ここには、
・ おぼえ … 下二段活用の動詞「おぼゆ」の未然形
・ ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
かく久しく遊びきこえて、ならひたてまつれり。
このように長い間楽しく過ごさせていただいて、慣れ親しみ申し上げています。
・ 久しく … シク活用の形容詞「久し」の連用形
・ 遊び … 四段活用の動詞「遊ぶ」の連用形
・ きこえ … 下二段活用の謙譲の補助動詞「きこゆ」の連用形
・ ならひ … 四段活用の動詞「ならふ」の連用形
・ たてまつれ … 四段活用の謙譲の補助動詞「たてまつる」の命令形
・ り … 存続の助動詞「り」の終止形
いみじからむ心地もせず。悲しくのみある。
うれしい気持ちもせず、悲しいだけです。
・ いみじから … シク活用の形容詞「いみじ」の未然形
・ む … 婉曲の助動詞「む」の連体形
・ せ … サ行変格活用の動詞「す」の未然形
・ ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・ 悲しく … シク活用の形容詞「悲し」の連用形
・ あり … ラ行変格活用の補助動詞「あり」の連体形
されど、おのが心ならず、まかりなむとする。」と言ひて、
しかし、自分の意志からではなく、お暇しようとしています。」と言って、
・ なら … 断定の助動詞「なり」の未然形
・ ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・ まかり … 四段活用の動詞「まかる」の連用形
・ な … 強意の助動詞「ぬ」の未然形
・ む … 意志の助動詞「む」の終止形
・ する … サ行変格活用の動詞「す」の連体形
・ 言ひ … 四段活用の動詞「言ふ」の連用形
もろともにいみじう泣く。
いっしょに激しく泣く。
・ いみじう … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形(音便)
・ 泣く … 四段活用の動詞「泣く」の終止形
使はるる人々も、年ごろならひて、立ち別れなむことを、
召し使われている人々も、長い間慣れ親しんで、きっと別れるであろうことを、
・ 使は … 四段活用の動詞「使ふ」の未然形
・ るる … 受身の助動詞「る」の連体形
・ ならひ … 四段活用の動詞「ならふ」の連用形
・ 立ち別れ … 下二段活用の動詞「立ち別る」の連用形
・ な … 強意の助動詞「ぬ」の未然形
・ む … 推量の助動詞「む」の連体形
心ばへなどあてやかにうつくしかりつることを見ならひて、
気立てなど優雅で愛らしかったことを見慣れていて、
・ あてやかに … ナリ活用の形容動詞「あてやかなり」の連用形
・ うつくしかり … シク活用の形容詞「うつくし」の連用形
・ つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
・ 見ならひ … 四段活用の動詞「見ならふ」の連用形
恋しからむことの堪へがたく、
恋しいだろうことが堪えがたく、
・ 恋しから … シク活用の形容詞「恋し」の未然形
・ む … 婉曲の助動詞「む」の連体形
・ 堪えがたく … ク活用の形容詞「堪えがたし」の連用形
湯水飮まれず、同じ心に嘆かしがりけり。
湯水を飲むこともできず、同じ気持ちで悲しいと思った。
・ 飮ま … 四段活用の動詞「飮む」の未然形
・ れ … 可能の助動詞「る」の未然形
・ ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・ 同じ … シク活用の形容詞「同じ」の連体形
・ 嘆かしがり … 四段活用の動詞「嘆かしがる」の連用形
・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形