那須野・奥の細道

那須の黒羽といふ所に知る人あれば、
那須の黒羽という所に知人がいるので、
・那須(なす) … 名詞
・の … 格助詞
・黒羽(くろばね) … 名詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・所 … 名詞
・に … 格助詞
・知る … ラ行四段活用の動詞「知る」の連体形
・人 … 名詞
・あれ … ラ行変格活用の動詞「あり」の已然形
・ば … 接続助詞

これより野越えにかかりて、直道を行かんとす。
ここから那須野越えにかかって、まっすぐな近道を行こうとする。
・これ … 代名詞
・より … 格助詞
・野越え … 名詞
・に … 格助詞
・かかり … ラ行四段活用の動詞「かかる」の連用形
・て … 接続助詞
・直道(すぐみち) … 名詞
○直道 … まっすぐな近道
・を … 格助詞
・行か … カ行四段活用の動詞「行く」の未然形
・ん … 意志の助動詞「ん」の終止形
・と … 格助詞
・す … サ行変格活用の動詞「す」の終止形

はるかに一村を見かけて行くに、雨降り日暮るる。
はるか遠くの一村を目当てにして行くうちに、雨が降り日も暮れた。
・はるかに … ナリ活用の形容動詞「はるかなり」の連用形
・一村 … 名詞
・を … 格助詞
・見かけ … カ行下二段活用の動詞「見かく」の連用形
○見かく … 目当てにする
・て … 接続助詞
・行く … カ行四段活用の動詞「行く」の連体形
・に … 格助詞
・雨 … 名詞
・降り … ラ行四段活用の動詞「降る」の連用形
・日 … 名詞
・暮るる … ラ行下二段活用の動詞「暮る」の連体形

農夫の家に一夜を借りて、明くればまた野中を行く。
農夫の家に一夜の宿を借りて、夜が明けるとまた野中を行く。
・農夫 … 名詞
・の … 格助詞
・家 … 名詞
・に … 格助詞
・一夜 … 名詞
・を … 格助詞
・借り … ラ行上二段活用の動詞「借る」の連用形
・て … 接続助詞
・明くれ … カ行下二段活用の動詞「明く」の已然形
・ば … 接続助詞
・また … 副詞
・野中 … 名詞
・を … 格助詞
・行く … カ行四段活用の動詞「行く」の終止形

そこに野飼ひの馬あり。草刈る男に嘆き寄れば、
そこに野原で飼われている馬がいた。草を刈る男に近寄って嘆願すると、
・そこ … 代名詞
・に … 格助詞
・野飼ひ … 名詞
・の … 格助詞
・馬 … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形
・草 … 名詞
・刈る … ラ行四段活用の動詞「刈る」の連体形
・男(おのこ) … 名詞
・に … 格助詞
・嘆き寄れ … ラ行四段活用の動詞「嘆き寄る」の已然形
・ば … 接続助詞

野夫といへどもさすがに情け知らぬにはあらず。
田舎の人とはいってもやはり人情を知らないわけではない。
・野夫(やぶ) … 名詞
○野夫 … 田舎の人
・と … 格助詞
・いへ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の已然形
・ども … 接続助詞
・さすがに … 副詞
・情け … 名詞
・知ら … ラ行四段活用の動詞「知る」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・は … 係助詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

「いかがすべきや。されどもこの野は縦横に分かれて、
「どうしたものかなあ。しかしこの野は縦横に分かれていて、
・いかが … 副詞
いかが … どのように~か
・す … サ行変格活用の動詞「す」の終止形
・べき … 適当の助動詞「べし」の連体形
・や … 係助詞・疑問
・されども … 接続詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・野 … 名詞
・は … 係助詞
・縦横 … 名詞
・に … 格助詞
・分かれ … ラ行下二段活用の動詞「分かる」の連用形
・て … 接続助詞

うひうひしき旅人の道踏み違へん。あやしう侍れば、
不慣れな旅人は道に迷うだろう。心配ですから、
・うひうひしき … シク活用の形容詞「うひうひし」の連体形
うひうひし … 慣れていない
・旅人 … 名詞
・の … 格助詞
・道 … 名詞
・踏み違(たが)へ … ハ行下二段活用の動詞「踏み違ふ」の未然形
・ん … 推量の助動詞「ん」の終止形
・あやしう … シク活用の形容詞「あやし」の連用形(音便)
あやし … 心配である
・侍(はべ)れ … ラ行変格活用の動詞「侍り」の已然形
侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ 草刈る男から芭蕉たちへの敬意
・ば … 接続助詞

この馬のとどまる所にて馬を返し給へ。」と、貸し侍りぬ。
この馬の停止する所で馬を追い返してください。」と、貸しました。
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・馬 … 名詞
・の … 格助詞
・とどまる … ラ行四段活用の動詞「とどまる」の連体形
○とどまる … 動きが止まる
・所 … 名詞
・にて … 格助詞
・馬 … 名詞
・を … 格助詞
・返し … サ行四段活用の動詞「返す」の連用形
・給(たま)へ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の命令形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 草刈る男から芭蕉たちへの敬意
・と … 格助詞
・貸し … サ行四段活用の動詞「貸す」の連用形
・侍り … ラ行変格活用の動詞「侍り」の連用形
侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ 筆者から読者への敬意
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

小さき者二人、馬の跡慕ひて走る。
小さな子どもが二人、馬のあとについて走る。
・小さき … ク活用の形容詞「小さし」の連体形
・者 … 名詞
・二人 … 名詞
・馬 … 名詞
・の … 格助詞
・跡 … 名詞
・慕ひ … ハ行四段活用の動詞「慕ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・走る … ラ行四段活用の動詞「走る」の終止形

一人は小姫にて、名を「かさね」といふ。
一人は小さな女の子で、名を「かさね」という。
・一人 … 名詞
・は … 係助詞
・小姫 … 名詞
○小姫 … 小さな女の子
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
・名 … 名詞
・を … 格助詞
・かさね … 名詞
・と … 格助詞
・いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の終止形

聞き慣れぬ名のやさしかりければ、
聞き慣れない名前で優雅に思われたので、
・聞き慣れ … ラ行下二段活用の動詞「聞き慣る」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・名 … 名詞
・の … 格助詞
・やさしかり … シク活用の形容詞「やさし」の連用形
やさし … 優美である
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

  かさねとは八重撫子の名なるべし
  「かさね」とは、花びらの重なっている八重撫子という名前なのだろう。
  ・かさね … 名詞
  ・と … 格助詞
  ・は … 係助詞
  ・八重撫子(やえなでしこ) … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・名 … 名詞
  ・なる … 断定の助動詞「なり」の連体形
  ・べし … 推量の助動詞「べし」の終止形
  ○季語「撫子」、季節「秋(夏)」

やがて人里に至れば、価を鞍壷に結びつけて馬を返しぬ。
まもなく人里に到着したので、謝礼の銭を鞍壺に結びつけて馬を追い返した。
・やがて … 副詞
・人里 … 名詞
・に … 格助詞
・至れ … ラ行四段活用の動詞「至る」の已然形
・ば … 接続助詞
・価(あたい) … 名詞
・を … 格助詞
・鞍壷(くらつぼ) … 名詞
・に … 格助詞
・結びつけ … カ行下二段活用の動詞「結びつく」の連用形
・て … 接続助詞
・馬 … 名詞
・を … 格助詞
・返し … サ行四段活用の動詞「返す」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

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