通ひ路の関守・伊勢

昔、男ありけり。
昔、男がいた。
・ 昔 … 名詞
・ 男 … 名詞
・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

東の五条わたりに、いと忍びて行きけり。
東の京の五条通りに面したあたりに、たいそう人目を忍んで行った。
・ 東 … 名詞
・ の … 格助詞
・ 五条 … 名詞
・ わたり … 名詞
・ に … 格助詞
・ いと … 副詞
・ 忍び … バ行上二段活用の動詞「忍ぶ」の連用形
・ て … 接続助詞
・ 行き … カ行四段活用の動詞「行く」の連用形
・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

みそかなる所なれば、門よりもえ入らで、
こっそり通う所なので、門からは入れなくて、
・ みそかなる … ナリ活用の形容動詞「みそかなり」の連体形
・ 所 … 名詞
・ なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ ば … 接続助詞
・ 門 … 名詞
・ より … 格助詞
・ も … 係助詞
・ え … 副詞
・ 入ら … ラ行四段活用の動詞「入る」の未然形
・ で … 接続助詞

童べの踏みあけたる築地のくづれより通ひけり。
子供たちが踏みあけた築地のくずれた所から通った。
・ 童べ … 名詞
・ の … 格助詞
・ 踏みあけ … カ行下二段活用の動詞「踏みあく」の連用形
・ たる … 完了の助動詞「たり」の終止形
・ 築地 … 名詞
・ の … 格助詞
・ 崩れ … 名詞
・ より … 格助詞
・ 通ひ … ハ行四段活用の動詞「通ふ」の連用形
・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

人しげくもあらねど、たび重なりければ、
人目が多い所ではないが、たび重なったので、
・ 人 … 名詞
・ しげく … ク活用の形容詞「しげし」の連用形
・ も … 係助詞
・ あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ ね … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ ど … 接続助詞
・ たび … 名詞
・ 重なり … ラ行四段活用の動詞「重なる」の連用形
・ けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ ば … 接続助詞

あるじ聞きつけて、その通ひ路に、
主人が聞きつけて、その通り道に、
・ あるじ … 名詞
・ 聞きつけ … カ行下二段活用の動詞「聞きつく」の連用形
・ て … 接続助詞
・ そ … 代名詞
・ の … 格助詞
・ 通ひ路 … 名詞
・ に … 格助詞

夜ごとに人を据ゑて守らせければ、
毎晩人を置いて見張らせたので、
・ 夜ごと … 名詞
・ に … 格助詞
・ 人 … 名詞
・ を … 格助詞
・ 据ゑ … ワ行下二段活用の動詞「据う」の連用形
・ て … 接続助詞
・ 守ら … ラ行四段活用の動詞「守る」の未然形
・ せ … 使役の助動詞「す」の連用形
・ けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ ば … 接続助詞

行けどもえあはで帰りけり。さてよめる。
行っても逢えないで帰った。それで詠んだ。
・ 行け … カ行四段活用の動詞「行く」の已然形
・ ども … 接続助詞
・ え … 副詞
・ あは … ハ行四段活用の動詞「あふ」の未然形
・ で … 接続助詞
・ 帰り … ラ行四段活用の動詞「帰る」の連用形
・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
・ さて … 接続詞
・ よめ … マ行四段活用の動詞「よむ」の命令形
・ る … 完了の助動詞「る」の終止形

  人知れぬわが通ひ路の関守は
  人に知られないように私が通っている道の見張り番は
  ・ 人 … 名詞
  ・ 知れ … ラ行下二段活用の動詞「知る」の未然形
  ・ ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
  ・ わ … 代名詞
  ・ が … 格助詞
  ・ 通ひ路 … 名詞
  ・ の … 格助詞
  ・ 関守 … 名詞
  ・ は … 係助詞

  宵々ごとにうちも寝ななむ
  毎夜毎夜ぐっすり寝込んでしまってほしいものだ。
  ・ 宵々ごと … 名詞
  ・ に … 格助詞
  ・ うちも寝 … 連語
  ・ うち ⇒ 接頭語
  ・ も ⇒ 係助詞
  ・ 寝 ⇒ ナ行下二段活用の動詞「寝」の連用形
  ・ な … 完了の助動詞「ぬ」の未然形
  ・ なむ … 終助詞

とよめりければ、いといたう心やみけり。
と詠んだので、女はとてもひどく心を痛めた。
・ と … 格助詞
・ よめ … マ行四段活用の動詞「よむ」の命令形
・ り … 完了の助動詞「る」の連用形
・ けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ ば … 接続助詞
・ いと … 副詞
・ いたう … ク活用の形容詞「いたし」の連用形(音便)
・ 心 … 名詞
・ やみ … マ行四段活用の動詞「やむ」の連用形
・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

あるじ許してけり。
主人は許してしまった。
・ あるじ … 名詞
・ 許し … サ行四段活用の動詞「許す」の連用形
・ て … 接続助詞
・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

二条の后に忍びて参りけるを、
二条の后のところに人目を忍んで参上していたのを、
・ 二条の后 … 名詞
・ に … 格助詞
・ 忍び … バ行上二段活用の動詞「忍ぶ」の連用形
・ て … 接続助詞
・ 参り … ラ行四段活用の動詞「参る」の連用形
・ 参る … 「来」の謙譲語 ⇒ 筆者から「二条の后」への敬意
・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・ を … 格助詞

世の聞こえありければ、せうとたちの守らせ給ひけるとぞ。
世の中の評判があったので、兄弟たちが守らせなさったということだ。
・ 世 … 名詞
・ の … 格助詞
・ 聞こえ … 名詞
・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・ けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ ば … 接続助詞
・ せうとたち … 名詞
・ の … 格助詞
・ 守ら … ラ行四段活用の動詞「守る」の未然形
・ せ … 使役の助動詞「す」の連用形
・ 給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
・ 給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から「せうとたち」への敬意
・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・ と … 格助詞
・ ぞ … 係助詞

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