祭主三位輔親の侍・十訓抄

七条の南、室町の東一町は、祭主三位輔親が家なり。
七条大路の南、室町小路の東の一町は、祭主三位輔親の家である。
・七条 … 名詞
・の … 格助詞
・南 … 名詞
・室町 … 名詞
・の … 格助詞
・東一町 … 名詞
・は … 係助詞
・祭主三位輔親(さいしゆさんみすけちか) … 名詞
・が … 格助詞
・家 … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

丹後の天橋立をまねびて、池の中島をはるかにさし出だして、
丹後の天の橋立のまねをして、池の中島を遠くまで差し出して、
・丹後(たんご) … 名詞
・の … 格助詞
・天橋立(あまのはしだて) … 名詞
・を … 格助詞
・まねび … バ行四段活用の動詞「まねぶ」の連用形
まねぶ … まねをする
・て … 接続助詞
・池 … 名詞
・の … 格助詞
・中島(なかしま) … 名詞
・を … 格助詞
・はるかに … ナリ活用の形容動詞「はるかなり」の連用形
○はるかなり … 遠くまで続くさま
・さし出だし … サ行四段活用の動詞「さし出だす」の連用形
・て … 接続助詞

小松を長く植ゑなどしたりけり。
小さな松を長く植えたりなどしていた。
・小松 … 名詞
・を … 格助詞
・長く … ク活用の形容詞「長し」の連用形
・植ゑ … ワ行下二段活用の動詞「植う」の連用形
・など … 副助詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

寝殿の南の廂をば、月の光入れんとて、鎖さざりけり。
寝殿の南の廂の間を、月光を入れようと思って、閉ざさなかった。
・寝殿 … 名詞
・の … 格助詞
・南 … 名詞
・の … 格助詞
・廂(ひさし) … 名詞
○廂 … 母屋の外側の部分
・を … 格助詞
・ば … 係助詞
・月 … 名詞
・の … 格助詞
・光 … 名詞
・入れ … ラ行下二段活用の動詞「入る」の未然形
・ん … 意志の助動詞「ん」の終止形
・とて … 格助詞
・鎖(さ)さ … サ行四段活用の動詞「鎖す」の未然形
○鎖す … 開かないようにする
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

春の初め、軒近き梅が枝に、
春の初め、軒に近い梅の木の枝に、
・春 … 名詞
・の … 格助詞
・初め … 名詞
・軒(のき) … 名詞
・近き … ク活用の形容詞「近し」の連体形
・梅 … 名詞
・が … 格助詞
・枝(え) … 名詞
・に … 格助詞

鶯の、定まりて巳の時ばかり来て鳴きけるを、
鶯が、決まって午前十時頃にやって来て鳴いたのを、
・鶯(うぐいす) … 名詞
・の … 格助詞
・定まり … ラ行四段活用の動詞「定まる」の連用形
・て … 接続助詞
・巳(み)の時 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・来 … カ行変格活用の動詞「来」の連用形
・て … 接続助詞
・鳴き … カ行四段活用の動詞「鳴く」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・を … 格助詞

ありがたく思ひて、それを愛するほかのことなかりけり。
すばらしいことだと思って、それを楽しむ以外のことはなかった。
・ありがたく … ク活用の形容詞「ありがたし」の連用形
ありがたし … めったにないほど優れている
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・それ … 代名詞
・を … 格助詞
・愛する … サ行四段活用の動詞「愛す」の連体形
○愛す … 好む、大切にする
・ほか … 名詞
・の … 格助詞
・こと … 名詞
・なかり … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

時の歌よみどもに、「かかることこそはべれ。」と告げめぐらして、
当時の歌人たちに「こういうことがあります。」と告げ回って、
・時 … 名詞
・の … 格助詞
・歌よみども … 名詞
・に … 格助詞
・かかる … ラ行変格活用の動詞「かかり」の連体形
・こと … 名詞
・こそ … 係助詞・強調
・はべれ … ラ行変格活用の動詞「はべり」の已然形(結び)
はべり … 「あり」の丁寧語 ⇒ 輔親から歌よみどもへの敬意
・と … 格助詞
・告げめぐらし … サ行四段活用の動詞「告げめぐらす」の連用形
○めぐらす … 順ぐりに知らせる
・て … 接続助詞

「明日の辰の時ばかりに渡りて、聞かせたまへ。」と触れ回して、
「明日の午前八時頃にやって来て、お聞き下さい。」と広く告げ回って、
・明日 … 名詞
・の … 格助詞
・辰(たつ)の時 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・に … 格助詞
・渡り … ラ行四段活用の動詞「渡る」の連用形
渡る … 来る
・て … 接続助詞
・聞か … カ行四段活用の動詞「聞く」の未然形
 … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 輔親から歌よみどもへの敬意
・たまへ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の命令形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 輔親から歌よみどもへの敬意
・と … 格助詞
・触れ回し … サ行四段活用の動詞「触れ回す」の連用形
・て … 接続助詞

伊勢武者の宿直してありけるに、「かかることのあるぞ。
伊勢の国出身の武士で宿直していた者に、「こういうことがあるのだ。
・伊勢武者 … 名詞
・の … 格助詞
・宿直(とのい)し … サ行変格活用の動詞「宿直す」の連用形
・て … 接続助詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・に … 格助詞
・かかる … ラ行変格活用の動詞「かかり」の連体形
・こと … 名詞
・の … 格助詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・ぞ … 終助詞

人々渡りて、聞かんずるに、あなかしこ、
人々がやって来て、聞こうとするだろうから、決して、
・人々 … 名詞
・渡り … ラ行四段活用の動詞「渡る」の連用形
・て … 接続助詞
・聞か … カ行四段活用の動詞「聞く」の未然形
・んずる … 意志の助動詞「んず」の連体形
・に … 接続助詞
・あな … 感動詞
・かしこ … ク活用の形容詞「かしこし」の語幹
○あなかしこ … 決して(~禁止)

鶯打ちなんどして、やるな。」と言ひければ、
鶯を、音をたてたりなどして、よそに行かせるな。」と言ったところ、
・鶯 … 名詞
・打ち … タ行四段活用の動詞「打つ」の連用形
○打つ … 打ち鳴らす
・なんど … 副助詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・やる … ラ行四段活用の動詞「やる」の終止形
○やる … 行かせる
・な … 終助詞・禁止
・と … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

この男、「なじかはつかはし候はん。」と言ふ。
この男は、「どうして行かせましょうか。」と言う。
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・男 … 名詞
・なじかは … 副詞
○なじかは … どうして~か、反語
・つかはし … サ行四段活用の動詞「つかはす」の連用形
○つかはす … 行かせる
・候(そうら)は … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の未然形
候ふ … 丁寧の補助動詞 ⇒ 伊勢武者から輔親への敬意
・ん … 意志の助動詞「ん」の連体形
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形

輔親、「とく夜の明けよかし。」と待ち明かして、
輔親は、「早く夜が明けてくれよ。」と待って夜を明かして、
・輔親 … 名詞
・とく … 副詞
・夜 … 名詞
・の … 格助詞
・明けよ … カ行下二段活用の動詞「明く」の命令形
・かし … 終助詞
・と … 格助詞
・待ち明かし … サ行四段活用の動詞「待ち明かす」の連用形
・て … 接続助詞

いつしか起きて、寝殿の南面を取りしつらひて、営みゐたり。
早くも起きて、寝殿の南の部屋を飾りつけて、準備していた。
・いつしか … 副詞
いつしか … 早くも
・起き … カ行上二段活用の動詞「起く」の連用形
・て … 接続助詞
・寝殿 … 名詞
・の … 格助詞
・南面(みなみおもて) … 名詞
・を … 格助詞
・取りしつらひ … ハ行四段活用の動詞「取りしつらふ」の連用形
○取りしつらふ … 飾りつける
・て … 接続助詞
・営みゐ … ワ行上一段活用の動詞「営みゐる」の連用形
○営みゐる … 用意している
・たり … 完了の助動詞「たり」の終止形

辰の時ばかりに、時の歌よみども集り来て、今や鶯鳴くと、
午前八時頃に、当時の歌人たちが集まって来て、もう鶯が鳴くかと、
・辰の時 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・に … 格助詞
・時 … 名詞
・の … 格助詞
・歌よみども … 名詞
・集り来 … カ行変格活用の動詞「集り来」の連用形
・て … 接続助詞
・今 … 名詞
・や … 係助詞・疑問
・鶯 … 名詞
・鳴く … カ行四段活用の動詞「鳴く」の連体形(結び)
・と … 格助詞

うめきすめきし合ひたるに、先々は巳の時ばかり必ず鳴くが、
歌を作るために苦吟し合っていたが、以前は午前十時頃に必ず鳴いたが、
・うめきすめきし … サ行変格活用の動詞「うめきすめきす」の連用形
○うめきすめきす … 歌を作るために苦吟する
・合ひ … ハ行四段活用の動詞「合ふ」の連用形
~合ふ … 皆で~する
・たる … 存続の助動詞「たり」の連用形
・に … 
・先々 … 名詞
・は … 
・巳の時 … 名詞
・ばかり … 
・必ず … 
・鳴く … カ行四段活用の動詞「鳴く」の連体形
・が … 

午の時の下がりまで見えねば、いかならんと思ひて、
正午過ぎまで姿を見せないので、どういうことなのかと思って、
・午(うま)の時 … 名詞
・の … 格助詞
・下がり … 名詞
・まで … 副助詞
・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の未然形
・ね … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ば … 接続助詞
・いかなら … ナリ活用の形容動詞「いかなり」の未然形
・ん … 推量の助動詞「ん」の終止形
○いかならん … どういうことなのだろう
・と … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・て … 接続助詞

この男を呼びて、「いかに、鶯のまだ見えぬは。
この男を呼んで、「どういうわけか、鶯がまだ姿を見せないのは。
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・男 … 名詞
・を … 格助詞
・呼び … バ行四段活用の動詞「呼ぶ」の連用形
・て … 接続助詞
・いかに … 副詞
いかに … どんなわけで
・鶯 … 名詞
・の … 格助詞
・まだ … 副詞
・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・は … 係助詞

今朝はいまだ来ざりつるか。」と問へば、
今朝はまだやって来なかったのか。」と尋ねると、
・今朝 … 名詞
・は … 係助詞
・いまだ … 副詞
・来 … カ行変格活用の動詞「来」の未然形
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
・か … 係助詞・疑問
・と … 格助詞
・問へ … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の已然形
・ば … 接続助詞

「鶯のやつは、先々よりもとく参りてはべりつるを、
「鶯のやつは、以前よりも早く参っておりましたが、
・鶯 … 名詞
・の … 格助詞
・やつ … 名詞
・は … 係助詞
・先々 … 名詞
・より … 格助詞
・も … 係助詞
・とく … 副詞
・参り … ラ行四段活用の動詞「参る」の連用形
参る … 「来」の謙譲語 ⇒ 伊勢武者から輔親への敬意
・て … 接続助詞
・はべり … ラ行変格活用の動詞「はべり」の連用形
はべり … 丁寧の補助動詞 ⇒ 伊勢武者から輔親への敬意
・つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
・を … 接続助詞

帰りげに候ひつる間、召しとどめて。」と言ふ。
帰りそうな様子でございましたので、呼び止めて。」と言う。
・帰りげに … ナリ活用の形容動詞「帰りげなり」の連用形
○~げなり … ~の様子である
・候ひ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の連用形
候ふ … 丁寧の補助動詞 ⇒ 伊勢武者から輔親への敬意
・つる … 完了の助動詞「つ」の連体形
・間 … 名詞
・召しとどめ … マ行下二段活用の動詞「召しとどむ」の連用形
○召しとどむ … 呼び止める
・て … 接続助詞
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形

「召しとどむとは、いかん。」と問へば、
「呼び止めるとは、どのようにしたのか。」と尋ねると、
・召しとどむ … マ行下二段活用の動詞「召しとどむ」の終止形
・と … 格助詞
・は … 係助詞
・いかん … 副詞
○いかん … どのように
・と … 格助詞
・問へ … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の已然形
・ば … 接続助詞

「取りて参らん。」とて立ちぬ。
「取って参りましょう。」と言って立った。
・取り … ラ行四段活用の動詞「取る」の連用形
・て … 接続助詞
・参ら … ラ行四段活用の動詞「参る」の連用形
参る … 「来」の謙譲語 ⇒ 伊勢武者から輔親への敬意
・ん … 意志の助動詞「ん」の終止形
・とて … 格助詞
・立ち … タ行四段活用の動詞「立つ」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

心も得ぬことかなと思ふほどに、
わけのわからないことだなあと思っていると、
・心 … 名詞
・も … 係助詞
・得 … ア行下二段活用の動詞「得」の未然形
○心得 … わけがわかる
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・こと … 名詞
・かな … 終助詞
・と … 格助詞
・思ふ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連体形
・ほど … 名詞
・に … 格助詞

木の枝に鶯を結ひつけて持て来れり。
木の枝に鶯を結びつけて持って来た。
・木 … 名詞
・の … 格助詞
・枝 … 名詞
・に … 格助詞
・鶯 … 名詞
・を … 格助詞
・結(ゆ)ひつけ … カ行下二段活用の動詞「結ひつく」の連用形
・て … 接続助詞
・持て来たれ … ラ行四段活用の動詞「持て来たり」の命令形
・り … 完了の助動詞「り」の終止形

おほかたあさましとも言ふばかりなし。
まったくあきれたと言っても言いつくせない。
・おほかた … 副詞
おほかた(~打消) … まったく(~ない)
・あさまし … シク活用の形容詞「あさまし」の終止形
あさまし … あきれて興ざめだ
・と … 格助詞
・も … 係助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・ばかり … 副助詞
・なし … ク活用の形容詞「なし」の終止形
○言ふばかりなし … いくら言っても言いつくせない

「こは、いかにかくはしたるぞ。」と問へば、
「これは、どうしてこのようにしたのだ。」と尋ねると、
・こ … 代名詞
・は … 係助詞
・いかに … 副詞
いかに … どうして
・かく … 副詞
・は … 係助詞
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・ぞ … 終助詞
・と … 格助詞
・問へ … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の已然形
・ば … 接続助詞

「昨日の仰せに、鶯やるなと候ひしかば、
「昨日のご命令に、鶯を行かせるなとございましたので、
・昨日 … 名詞
・の … 格助詞
・仰(おお)せ … 名詞
○仰せ … ご命令
・に … 格助詞
・鶯 … 名詞
・やる … ラ行四段活用の動詞「やる」の終止形
・な … 終助詞
・と … 格助詞
・候ひ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の連用形
候ふ … 「あり」の丁寧語 ⇒ 伊勢武者から輔親への敬意
・しか … 過去の助動詞「き」の已然形
・ば … 接続助詞

言ふかひなく逃がし候ひなば、
みっともなく逃がしてしまいましたならば、
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・かひなく … ク活用の形容詞「かひなし」の連用形
・逃がし … サ行四段活用の動詞「逃がす」の連用形
・候ひ … ハ行四段活用の動詞「候ふ」の連用形
候ふ … 丁寧の補助動詞 ⇒ 伊勢武者から輔親への敬意
・な … 完了の助動詞「ぬ」の未然形
・ば … 接続助詞

弓矢取る身に心憂くて、神頭をはげて、
武士として情けなくて、神頭の矢を弓につがえて、
・弓矢 … 名詞
・取る … ラ行四段活用の動詞「取る」の連体形
・身 … 名詞
・に … 格助詞
・心憂く … ク活用の形容詞「心憂し」の連用形
心憂し … なげかわしい
・て … 接続助詞
・神頭(じんどう) … 名詞
・を … 格助詞
・はげ … ガ行下二段活用の動詞「はぐ」の連用形
○はぐ … 矢を弓につがえる
・て … 接続助詞

射落としてはべり。」と申しければ、
射落としてございます。」と申し上げたので、
・射落とし … サ行四段活用の動詞「射落とす」の連用形
・て … 接続助詞
・はべり … ラ行変格活用の動詞「はべり」の終止形
はべり … 丁寧の補助動詞 ⇒ 伊勢武者から輔親への敬意
・と … 格助詞
・申し … サ行四段活用の動詞「申す」の連用形
申す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 筆者から輔親への敬意
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

輔親も居集まれる人々も、あさましと思ひて、
輔親も集まり座っていた人々も、あきれたと思って、
・輔親 … 名詞
・も … 係助詞
・居集まれ … ラ行四段活用の動詞「居集まる」の命令形
○居集まる … 集まって座る
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・人々 … 名詞
・も … 係助詞
・あさまし … シク活用の形容詞「あさまし」の終止形
・と … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・て … 接続助詞

この男の顔を見れば、脇かいとりて、息まへ、ひざまづきたり。
この男の顔を見ると、気負って、勢い込み、ひざまずいていた。
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・男 … 名詞
・の … 格助詞
・顔 … 名詞
・を … 格助詞
・見れ … マ行上一段活用の動詞「見る」の已然形
・ば … 接続助詞
・脇 … 名詞
・かいとり … ラ行四段活用の動詞「かきとる」の連用形(音便)
○かきとる … 着物の袂(たもと)を取って裾(すそ)をからげる
・て … 接続助詞
・息まへ … ハ行下二段活用の動詞「息まふ」の連用形
○息まふ … 息をつめて腹に力をこめる
・ひざまづき … カ行四段活用の動詞「ひざまづく」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の終止形

祭主、「とく立ちね。」と言ひけり。
祭主は、「すぐ立ち去りなさい。」と言った。
・祭主 … 名詞
・とく … 副詞
・立ち … タ行四段活用の動詞「立つ」の連用形
・ね … 完了の助動詞「ぬ」の命令形
・と … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

人々をかしかりけれども、この男のけしきに恐れて、え笑はず。
人々はおかしかったが、この男の様子を恐れて、笑えない。
・人々 … 名詞
・をかしかり … シク活用の形容詞「をかし」の連用形
をかし … おかしい
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ども … 接続助詞
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・男 … 名詞
・の … 格助詞
・けしき … 名詞
けしき … 様子
・に … 格助詞
・恐れ … ラ行下二段活用の動詞「恐る」の連用形
・て … 接続助詞
・え … 副詞
え(~打消) … ~できない
・笑は … ハ行四段活用の動詞「笑ふ」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

一人立ち、二人立ちて、みな帰りにけり。
一人立ち、二人立ちして、みんな帰ってしまった。
・一人 … 名詞
・立ち … タ行四段活用の動詞「立つ」の連用形
・二人 … 名詞
・立ち … タ行四段活用の動詞「立つ」の連用形
・て … 接続助詞
・みな … 名詞
・帰り … ラ行四段活用の動詞「帰る」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

興さむるなどは、こともおろかなり。
興がさめるなどとは、いまさら言うまでもない。
・興 … 名詞
・さむる … マ行下二段活用の動詞「さむ」の連体形
・など … 副助詞
・は … 係助詞
・こと … 名詞
・も … 係助詞
・おろかなり … ナリ活用の形容動詞「おろかなり」の終止形
○こともおろかなり … いまさら言うまでもない

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