火鼠の皮衣・竹取物語

家の門に持て至りて立てり。
(右大臣は、皮衣を)屋敷の門に持って行って立っていた。
・家 … 名詞
・の … 格助詞
・門(かど) … 名詞
・に … 格助詞
・持て至り … ラ行四段活用の動詞「持て至る」の連用形
・て … 接続助詞
・立て … タ行四段活用の動詞「立つ」の命令形
・り … 存続の助動詞「り」の終止形

竹取出で来て、取り入れて、かぐや姫に見す。
竹取の翁が出て来て、受け取って、かぐや姫に見せる。
・竹取 … 名詞
・出(い)で来(き) … カ行変格活用の動詞「出で来(く)」の連用形
・て … 接続助詞
・取り入れ … ラ行下二段活用の動詞「取り入る」の連用形
○取り入る … 受け取る
・て … 接続助詞
・かぐや姫 … 名詞
・に … 格助詞
・見す … サ行下二段活用の動詞「見す」の終止形

かぐや姫の、皮衣を見ていはく、
かぐや姫が、皮衣を見て言うことには、
・かぐや姫 … 名詞
・の … 格助詞
・皮衣 … 名詞
・を … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・て … 接続助詞
・いは … ハ行四段活用の動詞「いふ」の未然形
・く … 接尾語

「うるはしき皮なめり。わきてまことの皮ならむとも知らず。」
「りっぱな皮のようですね。とくに本物の皮であるかは分かりません。」
・うるはしき … シク活用の形容詞「うるはし」の連体形
うるはし … 立派である
・皮 … 名詞
なるめり ⇒ なんめり ⇒ なめり
・な … 断定の助動詞「なり」の連体形(音便・無表記)
・めり … 推定の助動詞「めり」の終止形
・わきて … 副詞
○わきて … 格別に
・まこと … 名詞
・の … 格助詞
・皮 … 名詞
・なら … 断定の助動詞「なり」の未然形
・む … 推量の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・も … 係助詞
・知ら … ラ行四段活用の動詞「知る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

竹取答へていはく、
竹取の翁が答えて言うことには、
・竹取 … 名詞
・答へ … ハ行下二段活用の動詞「答ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・いは … ハ行四段活用の動詞「いふ」の未然形
・く … 接尾語

「とまれかくまれ、まづ請じ入れ奉らむ。
「ともかくも、まず家の中に招き入れ申し上げよう。
・とまれかくまれ … 連語
○と … 副詞
○も … 係助詞
○あれ … ラ行変格活用の動詞「あり」の命令形
○かく … 副詞
○も … 係助詞
○あれ … ラ行変格活用の動詞「あり」の命令形
○とまれかくまれ … ともかくも
・まづ … 副詞
・請(しよう)じ入れ … ラ行下二段活用の動詞「請じ入る」の連用形
○請じ入る … 招き入れる
・奉(たてまつ)ら … ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の連用形
奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 竹取から大臣への敬意
・む … 意志の助動詞「む」の終止形

世の中に見えぬ皮衣のさまなれば、これをと思ひ給ひね。
世の中で見かけない皮衣の様子なので、これを本物だとお思いください。
・世の中 … 名詞
・に … 格助詞
・見え … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・皮衣(かわぎぬ) … 名詞
・の … 格助詞
・さま … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞
・これ … 代名詞
・を … 格助詞
・と … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・給(たま)ひ … ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 竹取からかぐや姫への敬意
・ね … 強意の助動詞「ぬ」の命令形

人ないたくわびさせ奉らせ給ひそ。」と言ひて、
あの方をあまり困らせ申し上げないようになさってください。」と言って、
・人 … 名詞
・な … 副詞
・いたく … ク活用の形容詞「いたし」の連用形
いたし … 程度がはなはだしいさま
・わび … バ行上二段活用の動詞「わぶ」の連用形
わぶ … 困る
・させ … 使役の助動詞「さす」の連用形
・奉ら … ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の未然形
奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 竹取から大臣への敬意
・せ … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 竹取からかぐや姫への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 竹取からかぐや姫への敬意
・そ … 終助詞
な~そ … ~してくれるな(禁止)
・と … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・て … 接続助詞

呼び据ゑ奉れり。かく呼び据ゑて、
呼んで座らせ申し上げた。このように呼んで座らせて、
・呼び … バ行四段活用の動詞「呼ぶ」の連用形
・据ゑ … ワ行下二段活用の動詞「据う」の連用形
据う … 一定の場所に位置させる
・奉れ … ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の命令形
奉る … 謙譲の補助動詞 ⇒ 筆者から大臣への敬意
・り … 完了の助動詞「り」の連用形
・かく … 副詞
・呼び … バ行四段活用の動詞「呼ぶ」の連用形
・据(す)ゑ … ワ行下二段活用の動詞「据う」の連用形
・て … 接続助詞

このたびは必ずあはむと、嫗の心にも思ひをり。
今度はきっと結婚するだろうと、嫗も心に思っていた。
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・たび … 名詞
・は … 係助詞
・必ず … 副詞
・あは … ハ行四段活用の動詞「あふ」の未然形
あふ … 結婚する
・む … 推量の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・嫗(おうな) … 名詞
・の … 格助詞
・心 … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・をり … ラ行変格活用の補助動詞「をり」の終止形

この翁は、かぐや姫のやもめなるを嘆かしければ、
この翁は、かぐや姫が独身であるのが嘆かわしいので、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・翁(おきな) … 名詞
・は … 係助詞
・かぐや姫 … 名詞
・の … 格助詞
・やもめ … 名詞
・なる … 断定の助動詞「なり」の連体形
・を … 格助詞
・嘆かしけれ … シク活用の形容詞「嘆かし」の已然形
○嘆かし … 嘆かわしい
・ば … 接続助詞

よき人にあはせむと思ひはかれど、せちに、
良い人と結婚させようと思いめぐらすのだが、いちずに、
・よき … ク活用の形容詞「よし」の連体形
よし … 身分・家柄・教養に優れる
・人 … 名詞
・に … 格助詞
・あはせ … サ行下二段活用の動詞「あはす」の未然形
○あはす … 結婚させる
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・思ひはかれ … ラ行四段活用の動詞「思ひはかる」の已然形
○思ひはかる … 思いめぐらす
・ど … 接続助詞
・せちに … ナリ活用の形容動詞「せちなり」の連用形
せちなり … 心にいちずに思うさま

「いな。」と言ふことなれば、え強ひねば、ことわりなり。
「いやだ。」と言うことで、無理じいもできないので、もっともである。
・いな … 感動詞
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・こと … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞
・え … 副詞
え(~打消) … ~できない
・強ひ … ハ行上二段活用の動詞「強ふ」の未然形
・ね … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ば … 接続助詞
・ことわりなり … ナリ活用の形容動詞「ことわりなり」の終止形
ことわりなり … 当然である

かぐや姫、翁にいはく、「この皮衣は、
かぐや姫が、翁に言うことには、「この皮衣は、
・かぐや姫 … 名詞
・翁 … 名詞
・に … 格助詞
・いは … ハ行四段活用の動詞「いふ」の未然形
・く … 接尾語
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・皮衣 … 名詞
・は … 係助詞

火に焼かむに、焼けずはこそ、まことならめと思ひて、
火で焼いたのに、焼けなかったなら、本物だろうと思って、
・火 … 名詞
・に … 格助詞
・焼か … カ行四段活用の動詞「焼く」の未然形
・む … 仮定の助動詞「む」の連体形
・に … 接続助詞
・焼け … カ行下二段活用の動詞「焼く」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・は … 係助詞・仮定
・こそ … 係助詞・強調
・まこと … 名詞
・なら … 断定の助動詞「なり」の未然形
・め … 推量の助動詞「む」の已然形(結び)
・と … 格助詞
・思ひ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の連用形
・て … 接続助詞

人の言ふことにも負けめ。『世になき物なれば、
あの方が言うことにも従いましょう。『この世にまたとない物だから、
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
・こと … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・負け … カ行下二段活用の動詞「負く」の未然形
○負く … 相手の意見に従う
・め … 意志の助動詞「む」の已然形(結び)
・世 … 名詞
・に … 格助詞
・なき … ク活用の形容詞「なし」の連体形
・物 … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞

それをまことと疑ひなく思はむ。』とのたまふ。
それを本物と疑うことなく思おう。』とおっしゃる。
・それ … 代名詞
・を … 格助詞
・まこと … 名詞
・と … 格助詞
・疑ひ … 名詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・思は … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・のたまふ … ハ行四段活用の動詞「のたまふ」の終止形
のたまふ … 「言ふ」の尊敬語 ⇒ かぐや姫から竹取への敬意

なほこれを焼きてこころみむ。」と言ふ。
やはり、これを焼いて試してみましょう。」と言う。
・なほ … 副詞
・これ … 代名詞
・を … 格助詞
・焼き … カ行四段活用の動詞「焼く」の連用形
・て … 接続助詞
・こころみ … マ行上一段活用の動詞「こころみる」の未然形
○こころみる … 試してみる
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形

翁、「それ、さも言はれたり。」と言ひて、
翁は、「それは、いかにもおっしゃる通りだ。」と言って、
・翁 … 名詞
・それ … 代名詞
・さ … 副詞
・も … 係助詞
・言は … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の未然形
・れ … 尊敬の助動詞「る」の連用形 ⇒ 竹取からかぐや姫への敬意
・たり … 完了の助動詞「たり」の終止形
○さも言はれたり … いかにもおっしゃる通りだ
・と … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・て … 接続助詞

大臣に、「かくなむ申す。」と言ふ。
大臣に、「このように申し上げています。」と言う。
・大臣 … 名詞
・に … 格助詞
・かく … 副詞
・なむ … 係助詞
・申す … サ行四段活用の動詞「申す」の終止形
申す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 竹取から大臣への敬意
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形

大臣答へていはく、「この皮は、
大臣が答えて言うことには、「この皮は、
・大臣 … 名詞
・答へ … ハ行下二段活用の動詞「答ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・いは … ハ行四段活用の動詞「いふ」の未然形
・く … 接尾語
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・皮 … 名詞
・は … 係助詞

唐土にもなかりけるを、からうじて求め尋ね得たるなり。
唐土にもなかったのを、やっとのことで探し出し手に入れた物です。
・唐土(もろこし) … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・なかり … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・を … 格助詞
・からうじて … 副詞
○からうじて … やっとのことで
・求め尋ね … ナ行下二段活用の動詞「求め尋ぬ」の連用形
・得(え) … ア行下二段活用の動詞「得(う)」の連用形
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

何の疑ひあらむ。
何の疑いがありましょう。
・何 … 代名詞
・の … 格助詞
・疑ひ … 名詞
・あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・む … 推量の助動詞「む」の連体形

○○「さは申すとも、はや焼きて見給へ。」が大臣の言葉である場合○○

さは申すとも、はや焼きて見給へ。」と言へば、
そうは申しても、はやく焼いて御覧なさい。」と言うので、
・さ … 副詞
・は … 係助詞
・申す … サ行四段活用の動詞「申す」の終止形
申す … 「言ふ」の丁寧語 ⇒ 大臣から竹取への敬意
・とも … 接続助詞
・はや … 副詞
○はや … 急いで
・焼き … カ行四段活用の動詞「焼く」の連用形
・て … 接続助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・給へ … ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の命令形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 大臣から竹取への敬意
・と … 格助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・ば … 接続助詞

○○「さは申すとも、はや焼きて見給へ。」が竹取の翁の言葉である場合○○

「さは申すとも、はや焼きて見給へ。」と言へば、
「(かぐや姫に)そうは申したのですが、はやく焼いて御覧ください。」と言うので、
・さ … 副詞
・は … 係助詞
・申す … サ行四段活用の動詞「申す」の終止形
申す … 「言ふ」の謙譲語 ⇒ 竹取からかぐや姫への敬意
・とも … 接続助詞
・はや … 副詞
○はや … 急いで
・焼き … カ行四段活用の動詞「焼く」の連用形
・て … 接続助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・給へ … ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の命令形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 竹取から大臣への敬意
・と … 格助詞
・言へ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の已然形
・ば … 接続助詞

火の中にうちくべて焼かせ給ふに、めらめらと焼けぬ。
火の中に入れて焼かせなさると、めらめらと焼けてしまった。
・火 … 名詞
・の … 格助詞
・中 … 名詞
・に … 格助詞
・うちくべ … バ行下二段活用の動詞「うちくぶ」の連用形
○うち … 接頭語・強調
○くぶ … 火の中に入れる
・て … 接続助詞
・焼か … カ行四段活用の動詞「焼く」の未然形
・せ … 使役の助動詞「す」の連用形
・給ふ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連体形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から大臣への敬意
・に … 接続助詞
・めらめらと … 副詞
・焼け … カ行下二段活用の動詞「焼く」の連用形
・ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

「さればこそ。異物の皮なりけり。」と言ふ。
「やっぱりそうだ。別の物の皮なんだなあ。」と言う。
・されば … 接続詞
・こそ … 係助詞
○さればこそ … やっぱりそうだ
・異物(こともの) … 名詞
・の … 格助詞
・皮 … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の連用形
・けり … 詠嘆の助動詞「けり」の終止形
・と … 格助詞
・言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の終止形

大臣、これを見給ひて、顔は草の葉の色にてゐ給へり。
大臣は、これをご覧になって、顔は草の葉の色になって座っていらっしゃった。
・大臣 … 名詞
・これ … 代名詞
・を … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・給ひ … ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から大臣への敬意
・て … 接続助詞
・顔 … 名詞
・は … 係助詞
・草 … 名詞
・の … 格助詞
・葉 … 名詞
・の … 格助詞
・色 … 名詞
○草の葉の色 … 青ざめた色
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
・ゐ … ワ行上一段活用の動詞「ゐる」の連用形
・給へ … ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の命令形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から大臣への敬意
・り … 完了の助動詞「り」の終止形

かぐや姫は、「あなうれし。」と、喜びてゐたり。
かぐや姫は、「ああうれしい。」と、喜んでいた。
・かぐや姫 … 名詞
・は … 係助詞
・あな … 感動詞
・うれし … シク活用の形容詞「うれし」の終止形
・と … 格助詞
・喜び … バ行四段活用の動詞「喜ぶ」の連用形
・て … 接続助詞
・ゐ … ワ行上一段活用の補助動詞「ゐる」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の終止形

かのよみ給ひける歌の返し、箱に入れて返す。
例のお詠みになった歌の返事を、箱に入れて返す。
・か … 代名詞
・の … 格助詞
○かの … 例の、前述の
・よみ … マ行四段活用の動詞「よむ」の連用形
・給ひ … ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連用形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から大臣への敬意
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・歌 … 名詞
・の … 格助詞
・返し … 名詞
・箱 … 名詞
・に … 格助詞
・入れ … ラ行下二段活用の動詞「入る」の連用形
・て … 接続助詞
・返す … サ行四段活用の動詞「返す」の終止形

名残なく燃ゆと知りせば皮衣
跡形もなく燃えると知っていたならば、この皮衣を、
・名残なく … ク活用の形容詞「名残なし」の連用形
○名残なし … あとの残るものがない
・燃ゆ … ヤ行下二段活用の動詞「燃ゆ」の終止形
・と … 格助詞
・知り … ラ行四段活用の動詞「知る」の連用形
・せ … 過去の助動詞「き」の未然形
・ば … 接続助詞
・皮衣(かわごろも) … 名詞

思ひのほかにおきて見ましを
心配しないで、火に入れずにそばに置いて見るのでしたのに。
・思ひ … 名詞
思ひ ⇒ 「ひ」は「火」との掛詞
・の … 格助詞
・ほか … 名詞
○ほか … ある範囲のそと
・に … 格助詞
・おき … カ行四段活用の動詞「おく」の連用形
・て … 接続助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の未然形
・まし … 反実仮想の助動詞「まし」の連体形
・を … 間投助詞・詠嘆

とぞありける。されば、帰りいましにけり。
と書いてあった。それで、帰ってお行きになった。
・と … 格助詞
・ぞ … 係助詞・強調
・あり … ラ行変格活用の動詞「」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)
・されば … 接続詞
・帰り … ラ行四段活用の動詞「帰る」の連用形
・いまし … サ行四段活用の補助動詞「います」の連用形
います … 尊敬の補助動詞 ⇒ 筆者から大臣への敬意
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

世の人々、「阿部の大臣、火鼠の皮衣持ていまして、
世間の人々は、「阿部の大臣は、火鼠の皮衣を持っていらっしゃって、
・世 … 名詞
・の … 格助詞
・人々 … 名詞
・阿部 … 名詞
・の … 格助詞
・大臣 … 名詞
・火鼠 … 名詞
・の … 格助詞
・皮衣 … 名詞
・持ていまし … サ行四段活用の動詞「持ています」の連用形
持ています … 「持て来(く)」の尊敬語 ⇒ 人々から大臣への敬意
・て … 接続助詞

かぐや姫に住み給ふとな。ここにやいます。」など問ふ。
かぐや姫と結婚なさるということだな。ここにいらっしゃるのか。」などと問う。
・かぐや姫 … 名詞
・に … 格助詞
・住み … マ行四段活用の動詞「住む」の連用形
○住む … 妻のもとに通い住む
・給ふ … ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の終止形
給ふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 人々から大臣への敬意
・と … 格助詞
・な … 終助詞・確認
・ここ … 代名詞
・に … 格助詞
・や … 係助詞・疑問
・います … サ行四段活用の動詞「います」の連体形(結び)
います … 「あり」の尊敬語 ⇒ 人々から大臣への敬意
・など … 副助詞
・問ふ … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の終止形

ある人のいはく、「皮は火にくべて焼きたりしかば、
そこにいる人が言うことには、「皮は火にくべて焼いてみたところ、
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・いは … ハ行四段活用の動詞「いふ」の未然形
・く … 接尾語
・皮 … 名詞
・は … 係助詞
・火 … 名詞
・に … 格助詞
・くべ … バ行下二段活用の動詞「くぶ」の連用形
・て … 接続助詞
・焼き … カ行四段活用の動詞「焼く」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・しか … 過去の助動詞「き」の已然形
・ば … 接続助詞

めらめらと焼けにしかば、かぐや姫あひ給はず。」と言ひければ、
めらめらと焼けてしまったので、かぐや姫はご結婚なさいません。」と言ったので、
・めらめらと … 副詞
・焼け … カ行四段活用の動詞「焼く」の連用形
・に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形
・しか … 過去の助動詞「き」の已然形
・ば … 接続助詞
・かぐや姫 … 名詞
・あひ … ハ行四段活用の動詞「あふ」の連用形
・給は … 行四段活用の動詞「給ふ」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形
・と … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

これを聞きてぞ、とげなきものをば「あへなし」と言ひける。
これを聞いて、物事を成し遂げられないものを「あへなし」と言ったのである。
・これ … 代名詞
・を … 格助詞
・聞き … カ行四段活用の動詞「聞く」の連用形
・て … 接続助詞
・ぞ … 係助詞・強調
・とげなき … ク活用の形容詞「とげなし」の連体形
○とげなし … 物事を成し遂げられないで、がっかりする
・もの … 名詞
・を … 格助詞
・ば … 係助詞
・あへなし … ク活用の形容詞「あへなし」の終止形
○あへなし … 期待はずれで、あっけない
・と … 格助詞
・言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)

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