家居のつきづきしく・徒然草

家居のつきづきしく、あらまほしきこそ、
住まいが似つかわしく、望ましいのこそは、
・家居 … 名詞
・の … 格助詞
・つきづきしく … シク活用の形容詞「つきづきし」の連用形
つきづきし … よく調和している
・あらまほしき … シク活用の形容詞「あらまほし」の連体形
あらまほし … 理想的である
・こそ … 係助詞・強調

仮の宿りとは思へど、興あるものなれ。
はかない現世の一時的な住まいとは思うものの、興味深いものだ。
・仮 … 名詞
・の … 格助詞
・宿り … 名詞
○仮の宿り … はかない現世の一時的な住まい
・と … 格助詞
・は … 係助詞
・思へ … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の已然形
・ど … 接続助詞
・興 … 名詞
○興 … 興味
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・もの … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形(結び)

よき人の、のどやかに住みなしたる所は、
身分も教養もある人が、心静かに住んでいる所は、
・よき … ク活用の形容詞「よし」の連体形
よし … 身分・家柄・教養が優れている
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・のどやかに … ナリ活用の形容動詞「のどやかなり」の連用形
○のどやかなり … おだやかである
・住みなし … サ行四段活用の動詞「住みなす」の連用形
○~なす … 意識して~する
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・所 … 名詞
・は … 係助詞

さし入りたる月の色も、ひときはしみじみと見ゆるぞかし。
差し込んでいる月の光も、一段と深く心にしみて見えるものだよ。
・さし入り … ラ行四段活用の動詞「さし入る」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・月 … 名詞
・の … 格助詞
・色 … 名詞
・も … 係助詞
・ひときは … 副詞
○ひときは … いっそう
・しみじみと … 副詞
○しみじみと … 心に深くしみて
・見ゆる … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の連体形
見ゆ … 見える
・ぞ … 係助詞
・かし … 終助詞
○~ぞかし … ~なのだよ(念を押しながら断定)

今めかしく、きららかならねど、木立もの古りて、
現代風にきらびやかではないが、木立がどこか古びていて、
・今めかしく … シク活用の形容詞「今めかし」の連用形
今めかし … 現代風である
・きららかなら … ナリ活用の形容動詞「きららかなり」の未然形
○きららかなり … きらきら輝いて美しいさま
・ね … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ど … 接続助詞
・木立 … 名詞
・もの古(ふ)り … ラ行上二段活用の動詞「もの古る」の連用形
○もの古る … どことなく古びる
・て … 接続助詞

わざとならぬ庭の草も心あるさまに、
特に手を加えたとも見えない庭の草も趣のある様子で、
・わざと … 副詞
わざと … 特別に
・なら … 断定の助動詞「なり」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
・庭 … 名詞
・の … 格助詞
・草 … 名詞
・も … 係助詞
・心 … 名詞
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
○心あり … 風情がある
・さま … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形

簀子・透垣のたよりをかしく、うちある調度も
簀子や透垣の配置もおもしろく、何げなく置いてある道具類も
・簀子(すのこ) … 名詞
・透垣(すいがき) … 名詞
・の … 格助詞
・たより … 名詞
○たより … 配置
・をかしく … シク活用の形容詞「をかし」の連用形
をかし … おもしろい
・うちある … ラ行変格活用の動詞「うちあり」の連体形
○うちあり … ちょっと置いてある
・調度 … 名詞
・も … 係助詞

昔おぼえてやすらかなるこそ、心にくしと見ゆれ。
古風な感じで落ち着いているのは、奥ゆかしく見える。
・昔 … 名詞
・おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連用形
おぼゆ … 感じられる
・て … 接続助詞
・やすらかなる … ナリ活用の形容動詞「やすらかなり」の連体形
○やすらかなり … 落ち着きがある
・こそ … 係助詞・強調
・心にくし … ク活用の形容詞「心にくし」の終止形
心にくし … 奥ゆかしい
・と … 格助詞
・見ゆれ … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の已然形(結び)

多くの工の、心を尽くしてみがきたて、唐の、大和の、めづらしく、
多くの大工が、心を尽くして造り上げ、中国製の、日本製の、珍しく、
・多く … ク活用の形容詞「多し」の連用形
・の … 格助詞
・工(たくみ) … 名詞
・の … 格助詞
・心 … 名詞
・を … 格助詞
・尽くし … サ行四段活用の動詞「尽くす」の連用形
・て … 接続助詞
・みがきたて … タ行下二段活用の動詞「みがきたつ」の連用形
○みがく … 美しく飾る
○~たつ … 盛んに~する
・唐(から) … 名詞
・の … 格助詞
・大和 … 名詞
・の … 格助詞
・めづらしく … シク活用の形容詞「めづらし」の連用形

えならぬ調度ども並べ置き、
何とも言えないほど立派な調度類を並べて置き、
・え … 副詞
・なら … ラ行四段活用の動詞「なる」の未然形
・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
○えならず … 何とも言えないほど優れている
・調度ども … 名詞
・並べ置き … 行四段活用の動詞「並べ置く」の連用形

前栽の草木まで心のままならず作りなせるは、
庭先の植え込みの草木まで自然のままではなく作り上げてあるのは、
・前栽(せんざい) … 名詞
○前栽 … 庭の植え込み
・の … 格助詞
・草木 … 名詞
・まで … 副助詞
・心 … 名詞
○心 … 本質、草木の自然
・の … 格助詞
・まま … 名詞
・なら … 断定の助動詞「なり」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・作りなせ … サ行四段活用の動詞「作りなす」の命令形
○~なす … 意識して~する
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・は … 係助詞

見る目も苦しく、いとわびし。
見た目もいやな感じで、とても興ざめだ。
・見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・目 … 名詞
・も … 係助詞
・苦しく … シク活用の形容詞「苦し」の連用形
○苦し … 見苦しい
・いと … 副詞
・わびし … シク活用の形容詞「わびし」の終止形
わびし … 興ざめである

さてもやは長らへ住むべき。
そういう状態でいつまで生き長らえ住むことができようか。
・さても … 副詞
○さても … そういう状態でも
・やは … 係助詞・反語
・長らへ … ハ行下二段活用の動詞「長らふ」の連用形
○長らふ … 長生きする
・住む … マ行四段活用の動詞「住む」の終止形
・べき … 可能の助動詞「べし」の連体形(結び)

また、時の間の煙ともなりなんとぞ、うち見るより思はるる。
また、わずかな間の煙ともなってしまうだろうと、ちょっと見るやいなや思われる。
・また … 副詞
・時 … 名詞
・の … 格助詞
・間(ま) … 名詞
○時の間 … ほんのわずかな間
・の … 格助詞
・煙(けぶり) … 名詞
・と … 格助詞
・も … 係助詞
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・な … 強意の助動詞「ぬ」の未然形
・ん … 推量の助動詞「ん」の終止形
・と … 格助詞
・ぞ … 係助詞・強調
・うち見る … マ行上一段活用の動詞「うち見る」の連体形
・より … 格助詞
・思は … ハ行四段活用の動詞「思ふ」の未然形
・るる … 自発の助動詞「る」の連体形(結び)

おほかたは、家居にこそ、ことざまは推し量らるれ。
だいたいは、住まいによって、その家の主の人柄は推察できるものだ。
・おほかた … 副詞
おほかた … 一般に
・は … 係助詞
・家居 … 名詞
・に … 格助詞
・こそ … 係助詞・強調
・ことざま … 名詞
○ことざま … 人物の様子、人柄
・は … 係助詞
・推し量ら … ラ行四段活用の動詞「推し量る」の連用形
・るれ … 可能の助動詞「る」の已然形(結び)

後徳大寺大臣の、寝殿に、鳶ゐさせじとて
後徳大寺の大臣が、寝殿に鳶をとまらせまいとして
・後徳大寺大臣(ごとくだいじのおとど) … 名詞
・の … 格助詞
・寝殿 … 名詞
・に … 格助詞
・鳶(とび) … 名詞
・ゐ … ワ行上一段活用の動詞「ゐる」の未然形
ゐる … とまる
・させ … 使役の助動詞「さす」の未然形
・じ … 打消意志の助動詞「じ」の終止形
・とて … 格助詞

縄を張られたりけるを、西行が見て、
縄をお張りになっていたのを、西行法師が見て、
・縄 … 名詞
・を … 格助詞
・張ら … ラ行四段活用の動詞「張る」の連用形
 … 尊敬の助動詞「る」の連用形 ⇒ 筆者から後徳大寺大臣への敬意
・たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・を … 格助詞
・西行(さいぎよう) … 名詞
・が … 格助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・て … 接続助詞

「鳶のゐたらんは、何かは苦しかるべき。
「鳶がとまっていたとしても、何か都合が悪いだろうか。
・鳶 … 名詞
・の … 格助詞
・ゐ … ワ行上一段活用の動詞「ゐる」の連用形
・たら … 存続の助動詞「たり」の連用形
・ん … 仮定の助動詞「ん」の連体形
・は … 係助詞
・何 … 代名詞
・かは … 係助詞・反語
・苦しかる … シク活用の形容詞「苦し」の連体形
○苦し … 都合が悪い
・べき … 推量の助動詞「べし」の連体形(結び)

この殿の御心、さばかりにこそ。」とて、
この殿のお心は、この程度でいらっしゃるのだ。」と言って、
・こ … 代名詞
・の … 格助詞
・殿 … 名詞
・の … 格助詞
・御心(みこころ) … 名詞
・さばかり … 副詞
○さばかり … その程度
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・こそ … 係助詞
・とて … 格助詞

その後は参らざりけると聞き侍るに、
その後は参上しなかったと聞いておりますが、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・後 … 名詞
・は … 係助詞
・参ら … ラ行四段活用の動詞「参る」の未然形
参る … 「来」の謙譲語 ⇒ 筆者から後徳大寺大臣への敬意
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・と … 格助詞
・聞き … カ行四段活用の動詞「聞く」の連用形
・侍(はべ)る … ラ行変格活用の動詞「侍り」の連体形
侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ 筆者から読者への敬意
・に … 接続助詞

綾小路宮の、おはします小坂殿の棟に、
綾小路の宮が、お住いになっている小坂殿の棟に、
・綾小路宮(あやのこうじのみや) … 名詞
・の … 格助詞
・おはします … サ行四段活用の動詞「おはします」の連体形
おはします … 「あり」の尊敬語 ⇒ 筆者から綾小路宮への敬意
・小坂殿(こさかどの) … 名詞
・の … 格助詞
・棟(むね) … 名詞
・に … 格助詞

いつぞや縄を引かれたりしかば、かの例思ひ出でられ侍りしに、
いつだったか縄をお引きになっていたので、あの例が思い出されましたが、
・いつ … 代名詞
・ぞ … 係助詞
・や … 係助詞
・縄 … 名詞
・を … 格助詞
・引か … カ行四段活用の動詞「引く」の未然形
 … 尊敬の助動詞「る」の連用形 ⇒ 筆者から綾小路宮への敬意
・たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・しか … 過去の助動詞「き」の已然形
・ば … 接続助詞
・か … 代名詞
・の … 格助詞
・例(ためし) … 名詞
○例 … 先例
・思ひ出で … ダ行下二段活用の動詞「思ひ出づ」の未然形
・られ … 自発の助動詞「らる」の連用形
・侍り … ラ行変格活用の動詞「侍り」の連用形
侍り … 丁寧の補助動詞 ⇒ 筆者から読者への敬意
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・に … 接続助詞

まことや、「烏の群れゐて池の蛙を取りければ、
そういえば、「烏が群がりとまって池の蛙を取ったので、
・まことや … 感動詞
○まことや … そういえば
・烏(からす) … 名詞
・の … 格助詞
・郡れゐ … ワ行上一段活用の動詞「郡れゐる」の連用形
・て … 接続助詞
・池 … 名詞
・の … 格助詞
・蛙(かえる) … 名詞
・を … 格助詞
・取り … ラ行四段活用の動詞「取る」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

御覧じ悲しませ給ひてなん。」と人の語りしこそ、
御覧になってかわいそうにお思いになって。」と、ある人が語ったのは、
・御覧じ … サ行変格活用の動詞「御覧ず」の連用形
御覧ず … 「見る」の尊敬語 ⇒ 話者から綾小路宮への敬意
・悲しま … マ行四段活用の動詞「悲しむ」の未然形
 … 尊敬の助動詞「す」の連用形 ⇒ 話者から綾小路宮への敬意
・給ひ … ハ行四段活用の動詞「給ふ」の連用形
侍り … 尊敬の補助動詞 ⇒ 話者から綾小路宮への敬意
・て … 接続助詞
・なん … 係助詞
・と … 格助詞
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・語り … ラ行四段活用の動詞「語る」の連用形
・し … 過去の助動詞「き」の連体形
・こそ … 係助詞

さてはいみじくこそとおぼえしか。
それなら非常に立派なことだと思われた。
・さては … 接続詞
○さては … それならば
・いみじく … シク活用の形容詞「いみじ」の連用形
いみじ … 立派である
・こそ … 係助詞・強調
・と … 格助詞
・おぼえ … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連用形
おぼゆ … 思われる
・しか … 過去の助動詞「き」の已然形(結び)

徳大寺にも、いかなるゆゑか侍りけん。
後徳大寺の大臣にも、何かわけがございましたのでしょうか。
・徳大寺 … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・いかなる … ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連用形
○いかなる~ … どのような~
・ゆゑ … 名詞
・か … 係助詞・疑問
・侍り … ラ行変格活用の動詞「侍り」の連用形
侍り … 「あり」の丁寧語 ⇒ 筆者から読者への敬意
・けん … 過去推量の助動詞「けん」の連体形(結び)

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