かぐや姫の昇天1

かかるほどに、宵うち過ぎて、子の時ばかりに、
こうしているうちに、宵も過ぎて、夜の十二時頃に、
・かかる … ラ行変格活用の動詞「かかり」の連体形
・ほど … 名詞
・に … 格助詞
・宵(よい) … 名詞
○宵 … 日暮から夜中までの間
・うち過ぎ … ガ行上二段活用の動詞「うち過ぐ」の連用形
・て … 接続助詞
・子(ね) … 名詞
・の … 格助詞
・時 … 名詞
○子の時 … 夜の十二時を中心にした約二時間
・ばかり … 副助詞
・に … 格助詞

家のあたり、昼の明かさにも過ぎて、光りたり。
家の付近が、昼の明るさにもまして、光り輝いた。
・家 … 名詞
・の … 格助詞
・あたり … 名詞
・昼 … 名詞
・の … 格助詞
・明かさ … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・過ぎ … ガ行上二段活用の動詞「過ぐ」の連用形
・て … 接続助詞
・光り … ラ行四段活用の動詞「光る」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の終止形

望月の明かさを十合はせたるばかりにて、
満月の明るさを十合わせたくらいで、
・望月(もちづき) … 名詞
・の … 格助詞
・明かさ … 名詞
・を … 格助詞
・十(とお) … 名詞
・合はせ … サ行下二段活用の動詞「合はす」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・ばかり … 副助詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞

在る人の毛の穴さへ見ゆるほどなり。
そこにいる人の毛の穴まで見えるほどである。
・在(あ)る … ラ行変格活用の動詞「在り」の連体形
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・毛 … 名詞
・の … 格助詞
・穴 … 名詞
・さへ … 副助詞
・見ゆる … ヤ行下二段活用の動詞「見ゆ」の連体形
・ほど … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

大空より、人、雲に乗りて下り来て、
大空から、人が、雲に乗って下りて来て、
・大空 … 名詞
・より … 格助詞
・人 … 名詞
・雲 … 名詞
・に … 格助詞
・乗り … ラ行四段活用の動詞「乗る」の連用形
・て … 接続助詞
・下り来 … カ行変格活用の動詞「下り来」の連用形
・て … 接続助詞

土より五尺ばかり上がりたるほどに立ち連ねたり。
地面から五尺くらい上がったあたりに立ち並んでいる。
・土 … 名詞
・より … 格助詞
・五尺 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・上がり … ラ行四段活用の動詞「上がる」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・ほど … 名詞
・に … 格助詞
・立ち連ね … ナ行下二段活用の動詞「立ち連ぬ」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の終止形

内外なる人の心ども、物におそはるるやうにて、
家の内外にいる人の心は、何か魔物に取りつかれたようになって、
・内外(うちと) … 名詞
・なる … 存在の助動詞「なり」の連体形
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・心ども … 名詞
・物 … 名詞
 … 超自然的なもの
・に … 格助詞
・おそは … ハ行四段活用の動詞「おそふ」の未然形
・るる … 受身の助動詞「る」の連体形
・やうに … 比況の助動詞「やうなり」の連用形
・て … 接続助詞

あひ戦はむ心もなかりけり。
戦い合おうという気持ちもなかった。
・あひ戦は … ハ行四段活用の動詞「あひ戦ふ」の未然形
○あひ~ … 互いに~
・む … 意志の助動詞「む」の連体形
・心 … 名詞
・も … 係助詞
・なかり … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

からうじて、思ひ起こして、弓矢を取り立てむとすれども、
やっとのことで、心を奮い立たせて、弓矢を取り上げようとしても、
・からうじて … 副詞
・思ひ起こし … サ行四段活用の動詞「思ひ起こす」の連用形
○思ひ起こす … 気持ちを奮い立たせる
・て … 接続助詞
・弓矢 … 名詞
・を … 格助詞
・取り立て … タ行下二段活用の動詞「取り立つ」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・すれ … サ行変格活用の動詞「す」の已然形
・ども … 接続助詞

手に力もなくなりて、萎えかかりたる中に、
手に力もなくなって、ぐったりとして物に寄りかかっている中で、
・手 … 名詞
・に … 格助詞
・力 … 名詞
・も … 係助詞
・なく … ク活用の形容詞「なし」の連用形
・なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形
・て … 接続助詞
・萎(な)えかかり … ラ行四段活用の動詞「萎えかかる」の連用形
○萎ゆ … ぐったりとする
○かかる … 寄りかかる
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・中 … 名詞
・に … 格助詞

心さかしき者、念じて射むとすれども、
心がしっかりしている者は、我慢して射ようとするが、
・心 … 名詞
・さかしき … シク活用の形容詞「さかし」の連体形
さかし … しっかりしている
・者 … 名詞
・念じ … サ行変格活用の動詞「念ず」の連用形
念ず … 我慢する
・て … 接続助詞
・射 … ヤ行上一段活用の動詞「射る」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・すれ … サ行変格活用の動詞「す」の已然形
・ども … 接続助詞

ほかざまへ行きければ、あひも戦はで、
よその方へ行ったので、戦い合いもしないで、
・ほかざま … 名詞
・へ … 格助詞
・行き … カ行四段活用の動詞「行く」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
・あひ … 接頭語
・も … 係助詞
・戦は … ハ行四段活用の動詞「戦ふ」の未然形
・で … 接続助詞

心地ただ痴れに痴れて、まもりあへり。
心持ちがすっかりぼうっとして、いっしょに見つめていた。
・心地 … 名詞
・ただ … 副詞
・痴(し)れ … ラ行下二段活用の動詞「痴る」の連用形
○痴る … 心の働きがにぶくなる
・に … 格助詞
・痴れ … ラ行下二段活用の動詞「痴る」の連用形
・て … 接続助詞
・まもりあへ … ハ行四段活用の動詞「まもりあふ」の命令形
まもる … じっと見つめる
○~あふ … いっしょに~する
・り … 存続の助動詞「り」の終止形

error: Content is protected !!