木曽の最後・平家物語4

今井四郎ただ一騎、五十騎ばかりが中へ駆け入り、
今井四郎はただ一騎で、五十騎ほどの中に馬を走らせて入り、
・今井四郎(いまいのしろう) … 
・ただ … 副詞
・一騎 … 名詞
・五十騎 … 名詞
・ばかり … 副助詞
・が … 格助詞
・中 … 名詞
・へ … 格助詞
・駆け入り … ラ行四段活用の動詞「駆け入る」の連用形

鐙ふんばり立ち上がり、大音声あげて名のりけるは、
鐙を踏ん張って立ち上がり、大声をあげて名乗ったことには、
・鐙(あぶみ) … 名詞
・ふんばり … ラ行四段活用の動詞「ふんばる」の連用形
・立ち上がり … ラ行四段活用の動詞「立ち上がる」の連用形
・大音声(だいおんじよう) … 名詞
・あげ … ガ行下二段活用の動詞「あぐ」の連用形
・て … 接続助詞
・名のり … ラ行四段活用の動詞「名のる」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・は … 係助詞

「日ごろは音にも聞きつらん、今は目にも見たまへ。
「ふだんはうわさにも聞いていたであろう、今は目でご覧なされ。
・日ごろ … 名詞
・は … 係助詞
・音 … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・聞き … カ行四段活用の動詞「聞く」の連用形
○音に聞く … うわさを耳にする
・つ … 強意の助動詞「つ」の終止形
・らん … 現在推量の助動詞「らん」の終止形
・今 … 名詞
・は … 係助詞
・目 … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・たまへ … ハ行四段活用の動詞「たまふ」の命令形
たまふ … 尊敬の補助動詞 ⇒ 今井から武者たちへの敬意

木曽殿の御乳母子、今井四郎兼平、生年三十三にまかりなる。
木曽殿の乳母子、今井四郎兼平、年齢は三十三になる。
・木曽殿 … 名詞
・の … 格助詞
・御乳母子(おんめのとご) … 名詞
・今井四郎兼平(かねひら) … 名詞
・生年(しようねん) … 名詞
・三十三 … 名詞
・に … 格助詞
・まかりなる … ラ行四段活用の動詞「まかりなる」の終止形
まかりなる … 「なる」の謙譲語 ⇒ 今井から武者たちへの敬意

さる者ありとは、鎌倉殿までも知ろしめされたるらんぞ。
そういう者がいるとは、鎌倉殿までもご存じでいらっしゃるだろうよ。
・さる … ラ行変格活用の動詞「さり」の連体形
・者 … 名詞
・あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形
・と … 格助詞
・は … 係助詞
・鎌倉殿 … 名詞
・まで … 副助詞
・も … 係助詞
・知ろしめさ … サ行四段活用の動詞「知ろしめす」の未然形
知ろしめす … 「知る」の尊敬語 ⇒ 今井から鎌倉殿への敬意
 … 尊敬の助動詞「る」の連用形 ⇒ 今井から鎌倉殿への敬意
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・らん … 現在推量の助動詞「らん」の連体形
・ぞ … 終助詞

兼平討つて見参に入れよ。」とて、
兼平を討ち取ってご覧に入れよ。」と言って、
・兼平 … 名詞
・討つ … タ行四段活用の動詞「討つ」の連用形(音便)
・て … 接続助詞
・見参(げんざん) … 名詞
・に … 格助詞
・入れよ … ラ行下二段活用の動詞「入る」の命令形
○見参に入る … 高貴な人のお目にかける
・とて … 格助詞

残したる八筋の矢を、差しつめ引きつめ、さんざんに射る。
射残していた八本の矢を、つがえては引きつがえては引き、激しく射る。
・射残し … サ行四段活用の動詞「射残す」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・八筋(やすじ) … 名詞
・の … 格助詞
・矢 … 名詞
・を … 格助詞
・差しつめ … マ行下二段活用の動詞「差しつむ」の連用形
・引きつめ … マ行下二段活用の動詞「引きつむ」の連用形
・さんざんに … ナリ活用の形容動詞「さんざんなり」の連用形
・射る … ヤ行上一段活用の動詞「射る」の終止形

死生は知らず、やにはに敵八騎射落とす。
生死のほどはわからないが、たちまち敵八騎を射落とす。
・死生(ししよう) … 名詞
・は … 係助詞
・知ら … ラ行四段活用の動詞「知る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・やにはに … 副詞
・敵(かたき) … 名詞
・八騎 … 名詞
・射落とす … サ行四段活用の動詞「射落とす」の終止形

そののち打ち物抜いて、あれに馳せ合ひ、
その後、太刀を抜いて、あちらに馬を走らせて戦い、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・のち … 名詞
・打ち物 … 名詞
・抜い … カ行四段活用の動詞「抜く」の連用形(音便)
・て … 接続助詞
・あれ … 代名詞
・に … 格助詞
・馳(は)せ合(あ)ひ … ハ行四段活用の動詞「馳せ合ふ」の連用形

これに馳せ合ひ、切つて回るに、面を合はする者ぞなき。()
こちらに馬を走らせて戦い、切って回るが、正面から立ち向かう者はいない。
・これ … 代名詞
・に … 格助詞
・馳せ合ひ … ハ行四段活用の動詞「馳せ合ふ」の連用形
・切つ … ラ行四段活用の動詞「切る」の連用形(音便)
・て … 接続助詞
・回る … ラ行四段活用の動詞「回る」の連体形
・に … 接続助詞
・面(おもて) … 名詞
・を … 格助詞
・合はする … サ行下二段活用の動詞「合はす」の連体形
○面を合はす … 正面から立ち向かう
・者 … 名詞
・ぞ … 係助詞・強調
・なき … ク活用の形容詞「なし」の連体形(結び)

分捕りあまたしたりけり。
敵の命をたくさん奪ったのであった。
・分捕(ぶんど)り … 名詞
・あまた … 副詞
○あまた … たくさん
・し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

ただ、「射取れや。」とて、
ただ、「射殺せよ。」と言って、
・ただ … 副詞
・射取れ … ラ行四段活用の動詞「射取る」の命令形
・や … 間投助詞
・とて … 格助詞

中に取りこめ、雨の降るやうに射けれども、
中に取り囲んで、雨が降るように射たけれども、
・中 … 名詞
・に … 格助詞
・取りこめ … マ行下二段活用の動詞「取りこむ」の連用形
・雨 … 名詞
・の … 格助詞
・降る … ラ行四段活用の動詞「降る」の連体形
・やうに … 比況の助動詞「やうなり」の連用形
・射 … ヤ行上一段活用の動詞「射る」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ども … 接続助詞

鎧よければ裏かかず、あき間を射ねば手も負はず。
鎧がよいので裏まで通らず、隙間を射ないので傷も負わない。
・鎧 … 名詞
・よけれ … ク活用の形容詞「よし」の已然形
・ば … 接続助詞
・裏 … 名詞
・かか … カ行四段活用の動詞「かく」の未然形
○裏かく … 裏まで貫通する
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・あき間 … 名詞
・を … 格助詞
・射 … ヤ行上一段活用の動詞「射る」の未然形
・ね … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ば … 接続助詞
・手 … 名詞
・も … 係助詞
・負は … ハ行四段活用の動詞「負ふ」の未然形
○手を負う … 傷を負う
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形